txt:ふるいちやすし 構成:編集部
悪質な手口のワークショップとは
コロナがまたまた不穏な雰囲気になってきたが、映画制作や音楽ライブは恐る恐る動き始めている感じがする。我が映画レーベル「フィルム・ジャパネスク」も我慢していたワークショップの開催を開始しようと動き出した。
その矢先、あてにしていた会場から「ワークショップお断り!」との通達が。へ?どういうこと??と思い、聞いてみると、色々トラブルが絶えないからだという。大きな声やずさんな後始末など、会場に迷惑をかけるトラブルは言語道断だが、直接会場に迷惑がかからない金銭トラブルや内容に関する事などで、非常にイメージが悪いというのだ。
そんなのと一緒にされちゃ堪らない!という気持ちもあるが、私の知る限りでもそういうトラブルになりそうなワークショップが多々あることは残念だが分かっている。中には詐欺で摘発されても名前を変えて繰り返している悪質業者もいる。そういう奴らのイメージでワークショップというものを全部禁止してしまうのもどうかと思うが、その善し悪しをハッキリさせるためにも、知りうる限りでどういうトラブルがあるのかを語ろうと思う。
まずはオーディション商法と呼ばれるもので、映画出演をちらつかせ、オーディションを行う。オーディション応募料金は無料から5000円くらいの、比較的少額なものだが、次に「おめでとうございます!オーディションに合格しました!!」といったメールにより、面接へと繋がる。ここまでは普通の流れなので、行ってみるまでそれが悪質なものなのかどうかはわからない。
実際、つい最近この面接のために地方から親同伴でわざわざ上京した例もある。ここからは悪質な手口のみをお話しするが、面接に行くと個別に「合格なんだけど、実際に映画に出演するための基礎的な教育が必要だ」てな具合にワークショップの料金を提示される。その額、50~100万円!
お気付きの方もおられると思うが、こういった場合、応募者のほぼ全員が合格しているのだ。私も昔、何も知らずに講師を頼まれて、行ってみると、さすがにこの人は俳優にはなれないだろうと思えるような人がたくさん集まっていて、そういう人に限って「監督!私はどんな役なんでしょう?」なんて言ってくる。
は?という思いで、あなたはどう言われてここへ来てるんですか?と聞いてみると、必ずセリフのある大きな役になると約束されていたりする。中には主役級と言われたからお金を払った人もいる。思い余ってその会社に怒鳴り込み…あ、いや、確認しに行くと、逆にとんでもない安い制作費で映画を作ってくれないか?と頼まれ、そして、受講生全員をセリフのある役付で使って欲しいと頼まれる始末。
もちろん、ハッキリお断りして帰ってきたし、その後の講師も断った。残念な事だがこういった話は今もいくらでもある。私もそう言う話には関わらないように、細心の注意をはらっているが、それでも時々そういうお誘いを向けられる事は確かだ。
一つハッキリさせておくが、ろくに演技もできない人がワークショップ前に役をもらえるなんて事はほとんどあり得ない。監督である私ですらそんな約束はできないのに、オーディションの事務をやっているような人にルックスを褒められたり才能があるとか言われても、それはただのセールストークでしかない。
そしてその末路は、自分で勝手に挫折するように仕向けたり、とんでもなく低俗な映画(そりゃそうだ、何もできない人を役に付けてまともな映画ができるはずがない!)に出演させてお茶を濁したり、ギャラがわりにそのDVDを渡されたりして終わりだ。もちろんその低俗な映画の制作費は受講生から巻き上げたお金で賄われている。その上、そういう映画を作り続けて、何本もの映画を作った映画プロデューサーを気取っているやからもいるから始末が悪い。
一方、逆の立場からみると、例えば地方にいる何もできない人が、50~100万円払えば映画に出演できて、渋谷や六本木の住所を持つ芸能プロダクションらしきものに所属できるとすれば、何となくギブアンドテイクが成り立ってしまうのも否定できない。
だから今も続いているんだろうし、それで満足してしまう人を責めることもできない。ただ、「思っていたのと違う!!」というクレームが吹き出すのも当然だし、それが大きなトラブルに発展するケースが後を絶たない。
ではどういうワークショップが正しいかというと、そこもまた曖昧で、最近ではワークショップオーディションとかオーディションワークショップとかどっちなんだかよくわからないものも増えていて、ちゃんとした作品を作る事は決まっているのだが、その配役を決めるオーディションを一発勝負ではなく、ワークショップの中で決めていくというもの。
これは理にかなっている事だと思うが、そのおかげで、俳優達の中にはワークショップは自分をアピールする場だと思っている人が多い。もちろん、そのチャンスはあるので、その姿勢を単純に否定する事はできないが、まずは学びの場である事を忘れないでいただきたい。
学びやトレーニングはまず自分の弱点と向き合うところから始まるもので、アピールする姿勢とは根本的に違うものなのだ。少なくとも私のフィルム・ジャパネスクがやろうとしている事は教育とトレーニングの場である。もちろんそこでの成長がフィルム・ジャパネスクの作る作品への出演に繋がる可能性もあるし、このワークショップでは制作者(監督、カメラマン)も共に学んでゆくので、そこから新しい作品が生まれる可能性も非常に高い。
ただし、それは約束していないし、まずは能力向上のためのものだ。さて、それをどう伝えればいいものか。大いに悩ましい。とりあえず、悪い評判や誤解のつきまとうワークショップという名前をマスタークラスに変えてみたり、初回のガイダンスをオンラインで無料で丁寧にやった上で、受講を決めてもらうという事も考えているが、どうしてもある種の怪しさは拭い去れない。
今までは"一部の"悪徳業者と思っていて、うちは違うからと、心配もしていなかったのだが、いざ広告文を書いてみるとなかなか難しい。以下、フィルム・ジャパネスクのワークショップ運営のプロスタッフに書いてもらった募集広告だが、いかがなもんだろうか?
「7月開講(予定)!!一般社団法⼈人フィルム·ジャパネスク~俳優と監督の為のマスタークラス」
ロンドン、モナコ、多数の海外の映画祭受賞のふるいちやすし監督による新しいワークショップの形、「マスタークラス」開講!参加者募集
※フィルム·ジャパネスクではワークショップをマスタークラスと名付け、
・役者、クリエーターの意識改革
・日本発の世界に向けたクリエーター、演者を発掘育成
・受講生が肩書きの垣根を超え、共に学び、成長することを目的としています。
7、8、9月(月2回計数6回)に行われるマスターズクラスの受講者を決めるオンラインオーディション。説明会と面接を兼ねてオンラインで行います(オンライン参加費無料)。オンライン日程日は選考後にメールでご連絡致します。
希望者は1.氏名、2.演技経験または監督経験の有無(無しなら無し、ある場合は作品名)、3.自己PR&意気込みをメールしてください。
- 宛先:info@filmjapanesque.tokyo
- 主催:一般社団法⼈人フィルム·ジャパネスク