Vol.135 アカデミー映画博物館視察レポート[鍋潤太郎のハリウッドVFX最前線]

はじめに

9月30日、ロサンゼルスにアカデミー映画博物館がオープンした。筆者はこの程、ようやく実際に訪問する事が叶ったので、今回はアカデミー映画博物館の視察レポートをご紹介してみたいと思う。

アカデミー映画博物館がオープンしたニュース自体は、既に日本のメディアでも報道されているので、ご存知の方も多い事だろう。既出の情報を再度レポートしても面白くないので、ここは1つ、例によって、普通の切り口とは少々ズレた、VFX目線、制作現場目線、そしてポスプロ目線という視点から、本欄ならではのマニアックなレポートをお届けしてみよう。

アクセス

最初に、アクセス情報である。

アカデミー映画博物館は、LACMA(ロサンゼルス・カウンティ美術館)の敷地内にある。 
"映画の博物館"だが、観光地ハリウッドのチャイニーズ・シアター界隈にある訳ではなく、エリア的にはハリウッドとビバリーヒルズの中間点に位置する。

フェアファックス(Fairfax Ave)とウィルシャー(Wilshire Blvd)の交差点にあり、ここは映画「ボルケーノ」(1997)の舞台にもなった場所だ。この映画の中で、大きな交差点で俳優トミー・リー・ジョーンズと消防隊がコンクリートブロックを並べ、溶岩をせき止めるハイライト・シーンが、まさにココである。なので、訪問前には是非「ボルケーノ」を鑑賞してから来ると、「おおおおお~ここが、あの場所か!」と興味深い体験が出来るので、おすすめと言えばおすすめである。←何とマニアックな情報だろうか。

この交差点には地下鉄の駅が2023年に開通予定なのだが、現時点での公共機関はMTAバスしかない。LAに不慣れな方は、レンタカー、タクシーかUberを利用されるのが無難であろう。

付近の治安は悪くないが、たまにホームレスさんがバス停付近で休憩していたり、筆者が訪問した際には天に向かって叫んでいらっしゃる方もおられた。しかし、人に危害を加える皆様ではないので、最低限の警戒心を持っていれば大丈夫である。日中は付近を歩いても安全だが、日没後は念のために単独での徒歩移動は避けられた方が無難であろう(地元に住んでいる筆者は、夜も普通に歩いたりしているが、慣れないと怖いかもしれない)。

ハリウッドのチャイニーズ・シアター周辺からだと車で10~15分、ビバリーヒルズ周辺からも車で15~20分、ダウンタウンLAからだと20~30分、ロサンゼルス国際空港周辺からは道路の混雑状況によって30~45分くらいである。

入場チケットはオンラインでの予約制

2021年12月現在、コロナの影響および混雑を緩和する目的もあるのか、アカデミー映画博物館の入場チケットはオンラインによる完全事前予約制である。入場チケットはコチラから予約可能だ。

入場料は大人25ドル、学生15ドル、17歳以下は無料という、良心的な価格設定である。

オープンしてまだ間がない事もあり、週末は大変混雑しているが、平日は比較的チケットが取り易いようだ。

実は筆者ももう少し早いタイミングで訪問したかったのだが、週末のチケットが取れたのが、最も早い日程で11月27日(土)であったため、今回12月号でのご紹介となった。

コロナ収束後にご旅行で訪問される方は、少し早めにチケットを抑える事をおすすめしたい。

マニア垂涎の品がズラリと

アカデミー映画博物館は4階建てで、各フロアに様々な展示が行われている。基本的には、下のフロアから上に順番に見ていけば、すべてが網羅出来るようになっている。所要時間は2時間ほどだろうか。

ここでは、筆者のVFX目線から見て興味深かった展示物を、フォトレポートの形でご紹介する。

初期のキネトスコープ
© Academy Museum Foundation
キネトスコープ
© Academy Museum Foundation
35mm映画フィルムの編集機
© Academy Museum Foundation
テクニカラーの3本フィルム方式のカメラ(1932)。R/G/Bの3本の35mmネガを同時に撮影する、大掛かりな構造のカメラである。そのためマガジンも分厚い
© Academy Museum Foundation
ヒッチコック監督の「サイコ」(1960)の脚本作業で、実際に使用されたタイプライター
© Academy Museum Foundation
メイクアップ及び特殊メイクのコーナーも
© Academy Museum Foundation
メイクアップの七つ道具
© Academy Museum Foundation
「E.T.」(1982)がアカデミー音響編集賞を受賞した時のオスカー像
© Academy Museum Foundation
「オズの魔法使い」(1939)で使用された、マットペイント
© Academy Museum Foundation
数々の映画の、コスチューム・デザイン
© Academy Museum Foundation
「影武者」(1980)より、コスチューム・デザイン。黒澤明監督の直筆サインも見える
© Academy Museum Foundation
ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオで実際に使用されていた、アニメーター用の特注デスク。中央の回転テーブルがポイントだ
© Academy Museum Foundation
「白雪姫」(1937)のクリーンナップより
© Academy Museum Foundation
「バンビ」(1942)のクリーンナップより。アメリカの作画用紙は、タップが下にあるのがポイントである
© Academy Museum Foundation
「シュレック」(2001)より、プリンセス・フィオナのコンセプト・アート
© Academy Museum Foundation
「ウォレスとグルミット」(1989)より
© Academy Museum Foundation
「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」(2016)より
© Academy Museum Foundation
「トイ・ストーリー」(1995)より、ウッディーの初期デザイン画
© Academy Museum Foundation
「トイ・ストーリー」(1995)より、バズのデザイン画
© Academy Museum Foundation
大友克洋監督の「アキラ」(1988)から。「16,000枚以上のセル(日本のアニメで通常使用される8~12コマ/秒ではなく、24コマ/秒)を使用し、アキラを見事に際立たせる滑らかな動きを実現。また、この街並みに代表されるいくつかのレイヤーの細部に渡る描き込みは、映画の中でリッチなディテールと躍動感ある動きを与えている」と紹介されていた。
© Academy Museum Foundation
パフォーマンス・キャプチャーの解説と、「アバター」(2009)での使用事例の紹介
© Academy Museum Foundation

…このレポートでご紹介させて頂いている展示物は、ごくごく一部である。その全容は、ぜひとも実際にアカデミー映画博物館を訪問してご鑑賞頂ければと思う。

期間限定の「宮崎駿展」

さて、アカデミー映画博物館の4階では、開館記念特別展として「宮崎駿展」(An unprecedented retrospective of legendary filmmaker Hayao Miyazaki)が2021年9月30日~2022年6月5日までの期間限定で開催されており、大勢のアメリカ人ファンで賑わっていた。

筆者はまだ日本のジブリ美術館を訪問する機会に恵まれず、比較が出来ないのだが、もしかしたら、ここでの展示物はジブリ美術館でも既に公開されているアイテムと同じなのだろうか?などと思いながら鑑賞していた。この点については、ぜひ両方を訪問された方のご意見を伺ってみたいものである♪

今回の特別展の会場内は撮影禁止のため、アカデミー映画博物館がプレス向けに提供してくれた展示物の画像の一部をご紹介させて頂く。

開館記念特別展「宮崎 駿展」入り口付近にて(筆者撮影)
© Academy Museum Foundation
開館記念特別展「宮崎 駿展」入り口付近にて(筆者撮影)
© Academy Museum Foundation
「風の谷のナウシカ」より、イメージボード(画像提供:アカデミー映画博物館)
Imageboard, Nausicaä of the Valley of the Wind(1984)
Hayao Miyazaki, © 1984 Studio Ghibli
© Academy Museum Foundation
「天空の城ラピュタ」より、イメージボード(画像提供:アカデミー映画博物館)
Imageboard, Castle in the Sky(1986)
Hayao Miyazaki, © 1986 Studio Ghibli
© Academy Museum Foundation
    テキスト
「魔女の宅急便」より、レイアウト(画像提供:アカデミー映画博物館)
Layout, Kiki’s Delivery Service(1989)
© 1989 Eiko Kadono – Studio Ghibli
© Academy Museum Foundation
※画像をクリックして拡大
1Fのギフトショップにて。ここでも、ジブリ・グッズが人気♪
© Academy Museum Foundation
1Fのギフトショップにて。オスカー像のエコ・バック
© Academy Museum Foundation

展示物以外にも、シアターや、学校向けの社会科見学なども

アカデミー映画博物館には展示物のみならず、座席数1,000席の大きなシアター「David Geffen Theater」での35mm・70mm・デジタルプロジェクターによる往年の映画作品の上映(別売りチケット)や、学校向けの社会科見学などのエデュケーション・プランも用意されている。

また、アカデミー賞を受賞する瞬間をバーチャル体験出来る「The Oscars Experience」 というコーナーもある。ドルビーシアターにおけるアカデミー賞授賞式で、あなたの名前が呼ばれ、ステージ上でオスカー像を実際に手にするという疑似体験が、Dolby Atmosの音響の中で味わえる。

おわりに

さて、駆け足でご紹介したアカデミー映画博物館の視察レポートだが、その素晴らしさや雰囲気はご理解頂けたのではないだろうか。

今回のレポートが、皆様が実際に訪問される際の良きご参考となれば幸いである。

WRITER PROFILE

鍋潤太郎

鍋潤太郎

ロサンゼルス在住の映像ジャーナリスト。著書に「ハリウッドVFX業界就職の手引き」、「海外で働く日本人クリエイター」等がある。