はじめに
3月8日(火)夜、ロサンゼルスのビバリー・ヒルトンにおいて、第20回VESアワード授賞式が開催された。
昨年の授賞式はコロナの影響によりバーチャルで開催された事もあり、なんと2年ぶりのビバリー・ヒルトンでの開催となった。バーチャル開催か、現地開催かが慎重に検討された結果、「当日は全員マスクをご着用ください」という指定付きで現地開催がアナウンスされたのだが、ここに来てコロナ感染者数の減少により規制が緩和されたため、マスク無しでの授賞式が実現した。
会場のエントランス付近にはレッドカーペットが敷かれ、タキシードやドレスに身を包んだVFX業界関係者が続々と到着。そして、何と言っても「マスク無し」である。ようやく平穏な日々が戻ってきたような気持ちであった。
ハリウッドの映画賞にふさわしい華やかな雰囲気の中、授賞式が開催された。今回は、その模様をご紹介させて頂く事にしよう。
VESとは
新しい読者の方や、VESそのものをよくご存知でない方のために、VESとは?を簡単にご説明しておく事にしよう。
VESは、アルファベット3文字を「ヴィ・イー・エス」と呼ぶのが正式な呼び名である。これは「Visual Effects Society」(米視覚効果協会)の略で、米監督協会、脚本家協会、俳優協会等と並ぶ、ハリウッドの映画ギルドの1つである。設立は1997年で、会員はハリウッドを中心とする映画、テレビ、アニメーション、ゲーム等のVFX制作に従事する世界中のプロフェッショナル達で構成される。
現在、米国および40ケ国に約4,000人以上(VES発表)という会員数を誇る。もちろん、日本からでも加入が可能である。会員は年々増え続けており、文字通り世界最大規模のVFX業界のギルドである。会員になるには、5年以上の現場経験を有する事が条件とされる他、現役会員2名からの推薦状が必要とされる。そして、年2回行われる理事会の承認を経て、晴れてメンバーになる事が出来る。
このようにVESは、「VFX業界の、プロの、プロによる、プロのための協会」なのである。
VESアワード授賞式とは
VESアワードは、「VFX業界のアカデミー賞」のような位置づけである。その授賞式では、全世界から応募されたVFX作品の中から、映画、TV(ドラマ、コマーシャル)、アニメーション、ゲームなど、全25カテゴリーに及ぶ最優秀作品が、VESの会員投票によって選出される。そして授賞式では、各部門の受賞作品の発表及び表彰が行われる。受賞者には、VESアワード名物の「月顔トロフィー」が贈られる。
VESアワード授賞式は、ハリウッドのアワード・シーズンである毎年1月末~2月頃に開催される事が多い。この時期には、米脚本家協会や米俳優協会等の各映画ギルドの受賞式がこぞって開催され、その開催日は、「アカデミー賞が『最後の締め括り』となるよう」に各アワードの開催スケージュールが組まれている。
今年は第94回アカデミー賞の開催が3月27日に決まったため、VESアワードは3月8日という日程になったようだ。昨年のコロナの影響による4月開催という例外を除けば、今年は例年よりは遅めの開催である。
さて、今年で記念すべき第20回を数えるVESアワード授賞式。この歴史を振り返ってみると、記念すべき第1回授賞式は2003年2月にロサンゼルスのスカーボール・カルチュラル・センターで開催され、それ以降はハリウッドのパラディアム・シアター(2004 第2回~2006 第4回)、ハリウッド&ハイランドのグランドボールルーム(2007 第5回~2008 第6回)、ハイアット・リージェンシー・センチュリープラザ・ホテル(2009 第7回~2011 第9回)と会場を移しながら開催され、2012年の第10回以降は、ここビバリー・ヒルトンでの開催に落ち着いている。
ビバリー・ヒルトンはビバリーヒルズのサンタモニカ&ウィルシャーの交差点に鎮座する由緒正しきホテルである。ここは毎年ゴールデン・グローブ賞授賞式の会場としても使用されており、1,000人以上が出席する、大規模な授賞式である。
ちなみに、この授賞式は事前にチケットを購入すれば、「誰でも」入場する事が出来る。ただし、チケット代は1人500ドル(VES会員は会員価格300ドルで購入可能)と高額だ。しかし、ハリウッドの映画賞の華やかな授賞式に参加出来て、ディナーもついて、VFX業界の著名人のみならず、映画監督や俳優などのハリウッドのセレブリティを間近で拝む事が出来るのだから、そのメリットは非常に大きいと言える。
VESアワード授賞式のチケットは、ノミネーションの発表からたった3日で完売してしまった年もあり、その人気ぶりが伺える。今年は開催直前の3月3日に、チケットが完売した事がVESから発表され、同時に今年初めての試みとして、授賞式をライブで鑑賞出来るライブ・ストリームのチケットが100ドルで販売された。
※次回、VESアワード受賞式への参加を検討しておられる方は、ノミネーションの発表と同時にチケットを購入されるのが賢明だろう。
名司会者パットン・オズワルトがケガで欠席
授賞式セレモニーの司会は、2011年以降、ハリウッド映画でもおなじみの人気コメディ俳優のパットン・オズワルトが13年連続で司会を務める…はずだったのが、なんと2月前半に足を骨折してしまい、残念ながら今年はご欠席。お大事にどうぞ。また来年、お目に掛かれるのが楽しみである。
今年の著名ゲスト
VESアワード受賞式は毎回、VFX作品にゆかりのあるハリウッドのセレブが、賞のプレゼンターとして登場する事でも話題だ。
今年は、VFX業界のレジェンドであるフィル・ティペットを筆頭に、ピクサー社長のジム・モリス、アカデミー賞のノミネート歴を持つデニス・ヴィルヌーヴ監督、スパイダーマンのドクター・オクトパス役で有名な俳優のアルフレッド・モリーナ、アニメ「スター・トレック:ローワー・デッキ」で声の出演を務める女優タウニー・ニューサムなど、VFXにゆかりのある俳優陣の他、歌手デボラ・コックスが登場。
今年のハイライト
今年は「デューン」が圧倒的な強さを見せ、最優秀視覚効果賞[実写映画部門]を始め4部門で月顔トロフィーを獲得した。
長編アニメーション関連部門ではウォルト・ディズニー・アニメーションスタジオの作品が強く、「ミラベルと魔法だらけの家」が最優秀視覚効果賞[アニメーション映画部門]を含む4部門で受賞した他、「ラーヤと龍の王国」も最優秀エフェクト&シミュレーション賞[アニメーション映画部門]を受賞。
またドラマ部門では、Apple TV+のドラマ「Foundation;The Emperor’s Peace」が、最優秀視覚効果賞[実写番組テレビドラマ部門]に輝いた。
CM関連部門では、SHEBAによる世界最大のサンゴ礁回復プログラム「Hope Reef」が、最優秀視覚効果賞[コマーシャル部門]と最優秀背景賞[テレビ番組/コマーシャル/リアルタイム部門]の2部門を連覇した。
日本人アーティストの受賞
今年のハイライトの1つとして、日本人アーティストの受賞がある。
DNEGバンクーバーにてシニア・エフェクト・アーティストとして活躍する岡野秀樹氏が、最優秀エフェクト&シミュレーション賞[実写映画部門]でDNEGの3名と共に連名でノミネートされ、見事受賞を果たした。
同部門で日本人が受賞したのは初めての事で、まさに快挙と言えるだろう。
また、VESアワードにおける日本人アーティストの受賞は2016年の第14回VESアワードにおいて、最優秀背景賞[実写映画作品部門]を受賞した行弘進氏以来、まさに6年ぶりである。
特別賞
VESは毎年、VFX業界で優れた功績を残した人物に特別賞を贈っており、その受賞セレモニーもハイライト・イベントとして行われた。
今年は、生涯功労賞(Lifetime Achievement)がILM社長のリンウェン・ブレナンに贈られた。
また、VESクリエイティブ・エクセレンス賞(VES Creative Excellence)がギレルモ・デル・トロ監督に贈られた。
残念ながらギレルモ・デル・トロ監督は体調不良によりご欠席。監督と長年パートナーシップを組むプロデューサーのJ・マイルズ・デイルが代理人として賞と楯を受け取った。
ぜひ、日本からもノミネートを!
今年も日本からのノミネートがなかったのが残念である。過去のVESアワードでは、日本の作品がノミネートを果たした事があり、ノミネートのみならず、受賞を果たせる可能性も充分に期待出来るだろう。来年のVESアワードでも、是非とも日本からの奮っての応募を期待したいものである。
第20回VESアワードの受賞作品一覧は下記のとおり(受賞作品名およびタイトルは原題のまま)。
■最優秀視覚効果賞[実写映画部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A PHOTOREAL FEATURE
「Dune」
■最優秀助演視覚効果賞[実写映画部門]
OUTSTANDING SUPPORTING VISUAL EFFECTS IN A PHOTOREAL FEATURE
「Last Night in Soho」
■最優秀視覚効果賞[アニメーション映画部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN AN ANIMATED FEATURE
「Encanto」
■最優秀視覚効果賞[ドラマ部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A PHOTOREAL EPISODE
「Foundation;The Emperor’s Peace」
■最優秀助演視覚効果賞[ドラマ部門]
OUTSTANDING SUPPORTING VISUAL EFFECTS IN A PHOTOREAL EPISODE
「See; Rock-A-Bye」
■最優秀視覚効果賞[リアルタイム部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A REAL-TIME PROJECT
「Call of Duty: Vanguard」
■最優秀視覚効果賞[コマーシャル部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A COMMERCIAL
「Sheba; Hope Reef」
■最優秀視覚効果賞[博展映像部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A SPECIAL VENUE PROJECT
「Jurassic World Adventure」
■最優秀キャラクター・アニメーション賞[実写映画部門]
OUTSTANDING ANIMATED CHARACTER IN A PHOTOREAL FEATURE
「Finch;Jeff」
■最優秀キャラクター・アニメーション賞[アニメーション映画部門]
OUTSTANDING ANIMATED CHARACTER IN AN ANIMATED FEATURE
「Encanto;Mirabel Madrigal」
■最優秀キャラクター・アニメーション賞[ドラマ部門/リアルタイム部門]
OUTSTANDING ANIMATED CHARACTER IN AN EPISODE OR REAL-TIME PROJECT
「The Witcher;Nivellen the Cursed Man」
■最優秀キャラクター・アニメーション賞[コマーシャル部門]
OUTSTANDING ANIMATED CHARACTER IN A COMMERCIAL
「Smart Energy;Einstein Knows Best; Einstein」
■最優秀背景賞[実写映画部門]
OUTSTANDING CREATED ENVIRONMENT IN A PHOTOREAL FEATURE
「Spider-Man:No Way Home; The Mirror Dimension」
■最優秀背景賞[アニメーション映画部門]
OUTSTANDING CREATED ENVIRONMENT IN AN ANIMATED FEATURE
「Encanto;Antonio’s Room」
■最優秀背景賞[ドラマ/コマーシャル/リアルタイム部門]
OUTSTANDING CREATED ENVIRONMENT IN AN EPISODE, COMMERCIAL, OR REAL-TIME PROJECT
「Sheba;Hope Reef」
■最優秀デジタル撮影賞[全部門]
OUTSTANDING VIRTUAL CINEMATOGRAPHY IN A CG PROJECT
「Encanto;We Don’t Talk about Bruno」
■最優秀モデリング賞[実写/アニメーション部門]
OUTSTANDING MODEL IN A PHOTOREAL OR ANIMATED PROJECT
「Dune;Royal Ornithopter」
■最優秀エフェクト&シミュレーション賞[実写映画部門]
OUTSTANDING EFFECTS SIMULATIONS IN A PHOTOREAL FEATURE
「Dune;Dunes of Arrakis」
■最優秀エフェクト&シミュレーション賞[アニメーション映画部門]
OUTSTANDING EFFECTS SIMULATIONS IN AN ANIMATED FEATURE
「Raya and the Last Dragon」
■最優秀エフェクト&シミュレーション賞[ドラマ/コマーシャル/リアルタイム部門]
OUTSTANDING EFFECTS SIMULATIONS IN AN EPISODE, COMMERCIAL, OR REAL-TIME PROJECT
「Foundation;Collapse of the Galactic Empire」
■最優秀コンポジット&ライティング賞[実写映画部門]
OUTSTANDING COMPOSITING & LIGHTING IN A FEATURE
「Dune;Attack on Arrakeen」
■最優秀コンポジット&ライティング賞[ドラマ部門]
OUTSTANDING COMPOSITING & LIGHTING IN AN EPISODE
「Loki;Lamentis; Shuroo City Destruction」
■最優秀コンポジット&ライティング賞[実写コマーシャル部門]
OUTSTANDING COMPOSITING & LIGHTING IN A COMMERCIAL
「Verizon;The Reset」
■最優秀SFX部門[実写部門]
OUTSTANDING SPECIAL(PRACTICAL) EFFECTS IN A PHOTOREAL PROJECT
「Jungle Cruise」
※撮影時のプラクティカルなエフェクト(特撮)を対象とした新カテゴリー
■最優秀視覚効果賞[学生作品部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A STUDENT PROJECT
「Green」