「可変NDって何使ってます?」
「お久しぶり、元気でしたか?」の挨拶と同じレベルと言ったら言い過ぎかもしれないが同業者、若い世代問わずよく尋ねられる言葉が冒頭の「可変ND何がいいか?」だ。NDフィルターは定期的に話題になる。
ND Filter~Neutral density filter~。NDとは「中立な濃度」を意味し、色には影響を与えず、一定の波長に対して一定の光量を落とす事ができるフィルターだ。低感度にして絞り込んでも明るすぎる被写体に対し、減光することで適正露出にすることができる。写真だとスローシャッターを得るために使う方も多い。
今でこそ「シネマカメラ」と称されるカメラの大半にはNDフィルターが内蔵されているが、ミラーレス一眼をはじめとする、スチルカメラでの映像撮影が当たり前になったことでビデオカメラにはあって当たり前だったNDフィルターが映像制作においてのミッシングピースになったのは間違いない。
映画やCFなど大人数で行う、従来からの撮影システムであればレンズ前にはマットボックスがあり、角形のフィルターをマットボックスにスロットインすることで解決するが、濃度別に入れ替える手間、重量化してしまう事を考えると現在、広義となった「動画・映像制作」においてそれを踏襲するのはコスト面、少人数でのワークフロー的にハードルが高い。(もちろんフィルターワークという意味ではマットボックスは一番便利なのだが)
新型のカメラが出るたびに「ND内蔵かどうか」に一喜一憂する人も少なくない。ミラーレス一眼などのスチルカメラや内蔵NDフィルターを搭載しないシネマカメラどのNDフィルターが最適なのか、が長年の課題だ。
振り返ってみると一眼動画黎明期にはまだ可変型のNDフィルターは存在せず、濃度別のフィルターを減感したい絞りを算出して付け替えていた。そうした中、2枚のPLフィルターを重ね、それを回転させる形でNDの濃度を変更できる可変式のNDフィルターの登場は革新的で、海外発表された際、即時購入した記憶がある。レンズに装着しておけば前玉のフィルターを回すだけで「欲しい絞りのまま」と露出を変更できるようになった時のあの感動は忘れられない。
話は変わるが、動画・映像制作においてNDフィルターが必須なのは既知の事実だ。映像撮影においてのシャッタースピードは意図がない限り、自然なモーションブラーを得るために1/50、1/60、1/100など、ほぼ固定となる。さらにLogガンマでの撮影が定番化したことで「ベース感度(ISO)」での撮影を行うことが増え、屋外での撮影などを行う際、NDフィルターがますます重要なアイテムになったことは映像撮影者であれば身に覚えがあるだろう。
「ベース感度、シャッターが固定、欲しい絞り」に対し、ベースの照度が足りなければライティングにてバランスを取り、NDフィルターで調整を行うのが映像撮影における露出だ。
そうした背景もあり、動画・映像制作人口が増え続ける今、マストアイテムであるNDフィルターを求め彷徨うNDフィルター Drifters(漂流者)が今もなお増え続けている。
本コラムの副題は「未来に備える映像制作」としているがこれからは、この「未来」を「次の世代」と捉え、悩める若い世代やビギナーの方に色々お伝えしていければいいと考え今後はコラムを展開していきたいと思っている(不定期だが)。
「可変NDフィルターに求めるもの」
最初に発売された可変型のNDフィルターが世に生まれ落ちて10年以上。さまざまなメーカーから可変型のNDフィルターが発売されてきたが正直な話、どうも今ひとつ「これだ!」というものに出会えないのが現状だったりする。
可変NDフィルターに求めるものは、
- 画質の低下が無い
- フィルターの回転が始点と終点できっちり止まるもの
- 色変化が少ないもの(黄色被りするものが多い)
- 四隅がケラれない(特に広角側)
- Xの形にムラが出ない
(2枚のフィルター(偏向膜)を重ねている作りのため、 回転角によってはムラが出て使えない範囲のものがある)
の5点であろうか。もう一つの問題は可変NDをレンズにつけるとフタができない(レンズキャップ)ものが多い事であろうか。カメラバッグにしまうたびに着脱するのが面倒だったりする。
とにかくNDに求めるものをざっくりまとめると内蔵NDのように「クリア」であることだ。
筆者も定期的にNDフィルターはチェックしていて見つけては購入して試し、入れ替え、絶えずアップデートをしている。その中で、最近筆者が優先的選択をしているNDフィルターを紹介したいと思う。
定期NDフィルター研究からの NiSiとTILTA という現在の選択
筆者が内蔵NDフィルターが無いカメラ(FX3など)で撮影を行う際に使用しているのは昨年末くらいまで筆者が愛用していたのがKenkoのVARIABLE NDXIIだったが、2022年初頭あたりからNiSiの「TRUE COLOR ND VARIO」とTILTAの「MIRAGE」を使用している。
NiSiの「TRUE COLOR ND VARIO」は従来からある、レンズの先玉に装着するタイプのもの。
現在この2つを優先的選択してもちろんオススメなのだが、これはあくまで自分のスタイルと好みに合っているからである。機材選びをする際は「盲目的に誰かが使用しているから自分も使おう」ではなく「ピンとくるかどうか」。大切なのは可変NDフィルターによって何が違うか理解した上で選ぶことだ。
まずは、撮影用途などは一度置いておき、可変NDフィルターで一番大事な「色変化」という面を見てみよう。その変化を自分が許容できるかどうかがNDフィルター選びのポイントだからだ。筆者の手元にある可変NDフィルターを大集合させて同じ条件下で比較してみた。
暗転した春の曇天下、カメラはソニーのFX3と単焦点のGM50mmを使用し、ホワイトバランスは5000ケルビン固定。シャッター速度は1/100 S-Log3/S-Gamut.cineでNDフィルター無しの状態でF16にて適正露出となる状態から、各種NDフィルターを装着して、絞りを開けてフィルター装着前とほぼ同じ露出にした。まずは昨年まで愛用していたKenko VARIAVLE NDXIIから。
このNDは回転枠の稼働範囲が90°で始点から終点できっちりとフィルターリングが止まり、操作しやすいように着脱可能なレバーが付いている優れものだ。若干彩度が下がるものの、従来の可変NDフィルターのようなイエロー被りが非常に少なく、筆者的には1番のお気に入りであった。減光範囲もND2.5-450相当と広範囲だが、可変NDの特性上、濃度をMAXに近づけるとXムラが出やすかったりする。
続いてNiSiのTRUE COLOR VARIO ND。
筆者が使用していたKenko VARIABLE NDXIIと同じか、それ以上に色の変化が少ない。前者だと落ちてしまっていた彩度も維持していて、好感触。同じく調節用のレバーが付いていて操作性が良い。濃度調整範囲は5stopと他のNDに比べると狭く感じるかもしれないが、無理のない範囲なので使う側からするとちょうど良い。さらに個人的にポイントが高かったのは前蓋が付いていること。大抵の可変NDフィルターは装着すると前蓋ができないものが多いので、これはとても助かる。カバンにしまう際に、いちいちフィルターを外さなくていいのだ。
続いては結構前に購入したMARUMIのCREATION VARI ND2.5-500だ。広範囲の濃度調整が出来るが、イエロー・グリーン側へ色がシフトし、Xムラが出来る部分が多く、濃度調整の範囲にストッパーが無いため、撮影中に濃度が動いてしまったりするので今ひとつという判断でタンスの肥やしになっていた。久々に引っ張り出して使用してみたが、やはり印象は変わらず。改めて結構な色変化を感じる。動き回って撮る映像では使い勝手が悪い。
続いては、Amazonでも安価に買えるため、結構使用している人も多いK&F CONCEPTのNANO-X ND32だ。値段相応というか、結構な勢いでイエロー被りをする。ただ前述通り安価に揃えられるので色補正をあらかじめカメラ側で行うか、ポストで行う、という判断さえしてしまえば。レンズの口径ごとに全部揃えやすいというメリットもある。筆者もオープンロケの際、全てのレンズにこのフィルターを付けていたこともあった。この価格でなら悪くはないが、優先的選択はしたくないな、という印象を改めて受ける。Xムラも結構目立つ。
最後にTILTAのMIRAGEだ。そのデザインや見た目から惚れて購入した人も多いと思う。VNDの調整範囲は9stop(0.3-2.7)その調整範囲の中にXムラは無い(使用する焦点距離に合わせて使用する濃度を変える)。使ってみて思うのはやはり色がイエロー・グリーン側へ転ぶということだろうか。
こうして比較してみると、色変化が無いように見えて赤みが入っていたり、PLの効果で反射部分の色が濃くなったり、少し彩度が落ちていたりするのが分かるだろう。そしてイエローに転んでいるものもただの「黄色被り」だけでなく全体が黄色になるもの青の部分は維持したまま少し黄色くなるもの色々とある。 撮影時の色温度設定やポストで直すこともできるが不要な色補正作業は減らしたいもの。
そうした意味合いから筆者はこの中でNiSiのTRUE COLOR VARIO NDを選択した。修正が不要に近い、ということは撮って出し案件などを行う際に有利だからである。
そしてNiSiのフィルターで驚くべくは「思ったより安価」ということ。もちろん決して安いものではないが、そこは時は金なり。お財布との相談もあるが、どのあたりで折り合いをつけるかよく考えて選ぶと良いだろう。
余談だが、なぜこんなにもNiSiのNDに色変化が無いのか気になっていたところ、知人を介してNiSiの方に伺う機会を頂いたので、その秘密を聞いてみた。
なんでも、NDフィルターに使用される従来の偏光膜は、波長域が400~800nm付近の紫色や青色の光が吸収されるため青の成分がカットされ、黄緑色の色被りとして画像に影響が出てしまうことが多かったが、NiSiの新開発の偏光膜は可視光全域における透過・吸収を均一化するように開発され、平行位と直行位における各波長の透過・吸収率の差を最小限にとどめることでニュートラルな色再現に成功した、とのことだった。青の成分がカットされないよう、最大のチューニングをしただと認識して使用すると、「TRUE COLOR ND」という名前に頷ける。
この「色変化」の検証結果だけを見るとTILTAのMIRAGEのVNDはヒキが弱く感じる人もいると思う。ではなぜ筆者はNiSiだけでなく、このTILTAのMIRAGEも選択しているのか。それは「色変化」のことなど気にならなくなる(補正作業はするのだけれど)ほどの拡張性がMIRAGEにはあるからなのだ。筆者は「テイク」ではNiSiのTRUE COLORを「メイク」の現場ではTILTA のMIRAGEを選択して使用している。
次回はTILTAのMIRAGEについて掘り下げてお伝えしたいと思います(つづく)。