痒いところに手が届くTILTA
痒いところにTILTAといっても過言でないくらい各メーカーからカメラが発売するたびにその「最適化」の仕事をTILTAが担っている感がある。振り返ればポケシネ4Kから始まり、各DSLR、REDのKOMODOをはじめ最近のシネマカメラ類、はたまたDJI RS 2を従来のステディカム的な運用にしたり、カーマウントしたり、とあらゆる撮影機材を「本当に求めらている現場のニーズ」に合わせてソリューションを打ち出してくれているのがTILTAだ。
そんなTILTAのギアで筆者が2022年初頭から愛用してやまないのがMIRAGE(ミラージュ)だ。前回のコラムでも少し触れたが、レンズの先にアダプターリングを装着する形でマットボックスを付け、そこに円形タイプの可変NDフィルターをスロットインする。
筆者が2022年初頭から愛用してやまないのがTILTAのMIRAGE。前回のコラムでも少し触れたが、レンズの先にアダプターリングを装着する形でマットボックスをレンズに直接取り付け、そこに円形タイプの可変NDフィルターをスロットインする(ちなみに従来のマットボックスのようにロッドに装着する仕様にもできる)。VND(バリアブルND)の濃度は0.3-2.7の範囲で調整が可能。およそ9stopの露出をコントロールできる。
MIRAGEの可変ND(0.3-2.7)はおよそ9stopの露出をコントロールできる
ただ前号でもお伝えしたが、MIRAGEは可変ND特有のXムラは無いものの、黄緑への色変化が起こる。
少し手間にはなるがポスト作業でシアン、ブルーの方向へオフセットすれば、フィルターを入れる前に近い状態に簡単に戻すことができる(または撮影時にカメラ側の色温度のカスタム設定で青系に寄せておく)。
TILTAとNiSiの使い分け
前号でもお伝えしたが、この可変NDにおける「色変化」だけを見るとMIRAGE以外にも選択肢がある。しかし、筆者はこのMIRAGEとNiSiのTRUE COLOR、2種を使い分けて使用している。
使い分けは、ドキュメンタリー撮影などのクイックな「テイク」の現場やビデオガンマなどでの撮って出しで使用する場合はズームレンズにNiSiのTRUE COLORを。PVやイメージ系のカラー作業ありきの1カットづつ丁寧に撮影できる「メイク」の現場では単焦点レンズにMIRAGEという感じだ(前述の色変化に関してもポストでしっかり直すことができる)。
イメージしていただけると分かると思うが、前玉に回して装着する従来型の可変NDを使用する場合、複数の単焦点レンズを使う現場だと、いちいち付け替えが発生して手間になる。さらにシネレンズでないとレンズごとに口径が変わり、ステップアップリングなどの類を付けなくてはならない。
その手間を避けるためには、レンズの数だけNDフィルターを購入して付けておく必要がある。またNDの濃度は維持したいのに、取り外しの際にうっかり回してしまって濃度が変わってしまうことがある。
しかしMIRAGEならば使用する単焦点レンズすべてにアダプターリングを付けておくことでMIRAGEが装着できる口径に揃えることができるので、レンズを交換してもマットボックスごと付け替えるだけで瞬時にスイッチができ、濃度調整ダイヤルも取り扱い時に触れにくい場所にあるので、濃度を動かしてしまうこともほぼないのだ。
逆にテイクの現場ではレンズ交換の時間がなかったり、カメラ自体をブンブン振り回すことがあり、マットボックスなどを付けるよりも、ズームレンズの先に色変化の少ないNiSiのTRUE COLORを付けて機動性とポストでの手間を減らすことを優先している。
MIRAGEの拡張性がすごい
TILTAのMIRAGEを好んで使っているのは、それだけではない。TILTA製品の特徴が、別売りオプションを組み合わせることで無限大(は言い過ぎだが)にカスタムができることだ。そのカスタムも驚くほど幅が広くて、筆者も全貌を把握できないくらいだ。
このMIRAGEは取り外し可能なモジュラーデザインになっていて、専用の円形フィルタースロットの他、4×5.65のスタッキング可能な角型のフィルタートレイとホルダーが使用できる仕様なのだ。
つまりNDだけでなく、PLやブラックミストなどを複数使用したフィルターワークが可能になる、ということ。ちなみにデフォルトのままだと円形のフィルタースロットが一つだけだが、実はスロットを二つにできる。
MIRAGEが採用しているインサート型の円形フィルターは従来の4×5.65の角型フィルターに比べて100g程軽量になる。このことからリグの小型・軽量化が可能になり、コンパクトシネマカメラ運用の大きな助けになるであろう。
また、前号でも紹介したNiSiやVAXIS(ヴァクシス)といったフィルターメーカーが、この新しいフィルターサイズでのフィルター開発を始めている。VAXISからは既にブラックミストを始め、アナモフィックライクなフレアフィルター、スタークロスフィルターなど既に発売されている。このおかげで多様なフィルターワークがDSLRをはじめ、コンパクトシネマカメラで実現できる。
なので、FX6のような可変NDが内蔵しているタイプのカメラにもレンズ前にマットボックスとフィルタートレイを簡単にインストールできるので、大変便利だ。
さらにMIRAGEは角型フィルターも使用できるようなカスタムが可能だ。
ちなみに、MIRAGEのVNDはマットボックスを使わずに別売りのアダプタリングを使用するとVND単体でレンズに装着することができる。マットボックスを付けるとどうしても仰々しくなる、という方は直接取り付けも一つの選択だ。専用のキャップも付いているので、カメラバッグにしまう際にいちいち取り外ししなくて済むのもポイントだ。
いかがであろうか?このMIRAGEの汎用性を知ってしまうと「テイクのNiSi」「メイクのMIRAGE」という筆者の使い分けの理由が分かっていただけたと思う。今回は例が筆者が使用しているソニーのカメラであったが、TILTAのソリューションは専用ケージ以外はカメラメーカー問わずだ。
このMIRAGEを加えることで、皆様の所持しているカメラでの撮影環境が向上するはずだ。ぜひ一度、これは現物を見て触って、その良さを実感してもらいたい。