テイクの「NiSi/TRUE COLOR ND VARIO」、メイクの「TILTA/MIRAGE」と現代における可変NDフィルターの最適解の提案を以前の記事Vol.18Vol.19でご紹介したところ、私の助手陣をはじめ記事を読んでくれた方から「購入しました」とか「使っています」とかかなりの反響を頂いた。筆者ももちろんずっと使い続けていて、表題とおりNDフィルター探しの旅が終わったものと安心していたのだが、「最適な可変NDフィルター探しの旅」にはまだ続きがあった。

2022年終盤、なにやら辺りを見回してみると、NDフィルターの新しいカタチ「追いND」できるタイプのフィルターが登場してきたのだ。

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「追いND」スタイルはトレンドとなるか?

「追いND」とは何か?それは以前ご紹介したNiSiのTRUE COLOR ND VARIOをはじめとしたレンズ前玉のスクリューにねじ込んで取り付けるタイプの従来型の可変NDの上に被せる形で、NDフィルターをさらに追加したり、ブラックミストなどのエフェクトフィルターを併用することができるものだ。

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もちろん、過去にもねじ込み式でフィルターの重ねがけは可能なものもあったが、スクリュータイプの重ねがけは重なる部分が大きく、レンズとフィルターの距離が生じる。そのため、ケラレが生じたり、強くねじ込んでしまった結果フィルターの取り外しが困難になったり、とあまり勧められたものではなかった。だが、専用に作られた「押し込む」スタイルであればケラレることも少なく、フィルターの重ねがけが有効になるのだ。

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少し話が逸れるが、NiSiのTRUE COLORは色変化がほぼなく、使用している人がとても増えている反面、「1-5 stop」という濃度変化幅では満足できない、というシーンが多いというのは正直なところではないだろうか。かくいう筆者も「落としきれない」時が結構あって困ることがあった。

特に、最近Cine E.Iモードを搭載したソニーFX3などでは、S-log3での撮影が実質ISO800かISO12800固定となる。そんな中、屋外の撮影において欲しい露出のコントロールをする時に減光できるのが1-5stopでは難しいことが多い(なのでFX6の内蔵可変NDの利便性が際立つ、というのがあるが)。

でもNDの濃度変化幅が広いNDだと色変化がひどいものが多く、可能であれば色変化の少ないまま濃度を増やしたい、と思うのが人の性であろう。

そんなことを思っていた矢先、彗星のごとくNiSiから現れたのが「SWIFT」システムだ。筆者をはじめとする、NiSi TRUE COLOR ND VARIOユーザーの「足りない濃度問題」を解決すべく、「押し込む」タイプのフィルターワークのソリューションが発表されたのだ。

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SWIFT その名の通り「迅速」な交換システム

簡単に説明するとTRUE COLOR ND VARIOを装着した前提で、追加のフィルターを「押し込んで」追加していくシステムだ。ねじ込むことがないので、とにかく脱着が速い。SWIFTの名の通り「迅速」なのだ。

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NiSiのTRUE COLOR ND VARIOを装着している前提でSWIFTフィルターを被せていく

また押し込み式だと、外れやすいと思われるが、これまた不思議なくらい外れない。なんでもフィルター枠自体が気密性を保つことができる設計のようで、リアルに走り回って撮影を行っても、外れにくい(というか外れなかった)。つまりドキュメンタリーなどRUN&GUNスタイルの現場において、迅速にフィルターワークをしたい時に圧倒的に便利ということだ。

「FSND4(ND16)」と「ブラックミスト1/4」は、TRUE COLOR ND VARIOの上にスポっとハメるだけで装着できる構造で「追いND」が簡単にできる。TRUE COLOR ND VARIOにSND4を装着すると4stop分の濃度が追加され、回転させることで「1-5 stop」から「5-9stop」の可変NDに変化する。

同じようにTRUE COLOR ND VARIOにブラックミスト1/4を追加すれば、「1-5 stop」もしくは「5-9stop」の可変濃度を維持したまま、ブラックミストの効果を得ることができる。TILTA MIRAGEのような簡易マットボックスのように複数枚のNDやエフェクトフィルターの使用が、ミラーレス一眼での撮影システムでも簡単に使えるようになるのだ。

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屋外で使用感のテストをしてみた

前述の「落としきれない明るさ」問題を「+4stop」のSWIFT NDが解決してくれる。よほどの環境とカメラの設定でなければ9段分のNDコントロールができれば大枠問題ない。

SWIFTの有用性を試すべく、屋外にてノーライト環境下にて、ソニーFX3をCine E.I.モードのISO 800にてS-Log3の適正露出を取ってみた。

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Base ISOが800シャッター速度1/100だと適正を取るには絞りが16あたりとなる
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開放絞りで撮りたいという設定でF1.2まで絞りを開くと白飛びする
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NiSiのTRUE COLOR ND VARIOを装着。5stopでは落としきれない(F16からだとおよそ6-7stopダウンが適正)
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NiSiのTRUE COLOR ND VARIOの上に+4stopのSWIFT NDを被せる。9stopダウンなので少し暗くなりすぎてしまう
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2-3stop明るくして調整。被せて、回す、でクイックに調整ができる

そこにSWIFT Black Mist 1/4を「重ねがけ」してみる。NDの濃度を保ったまま、ブラックミスト効果を得ることができる。

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1/4のBlackMistはポストで加えるよりも自然に高輝度側にミスト効果がかかるので、私的には常用しても良いかな、という印象
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NiSiのTrue Color ND VARIOにSWIFT NDを被せて、さらにSWIFT Black Mist1/4を被せた状態

他社比較でわかる「色変化しないこと」の重要性

他社からも同じようなシステムのNDフィルターが登場しているので比較してみた。FREEWELLのVERSATILE MAGNETIC VNDはSWIFTと違い磁石でくっつけるタイプの「追いND」だ。

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FREEWELLのマグネット式「追いND」
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レンズ側に装着するフィルターベースにベースのNDを設置
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NDの代わりにMISTフィルターをつけることもできる
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フィルターベースにベースのNDを付けた状態
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その上に可変NDを装着(マグネット式)
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フィルターが追加可能
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Base ISOが800シャッター速度1/100だと適正を取るには絞りが16
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開放絞りで撮りたいという設定でF1.2まで絞りを開くと白飛びする
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Base NDを装着(1stop)
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Variable NDを装着(2-5stop)
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4stop分の追いNDを装着(6-9stopの調整ができる)。2-3stop明るくして調整
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Base NDの代わりにMistを入れた状態

NiSiのSWIFTと異なるのはレンズ側に装着するフィルターベースに1stop分のベースNDをつけた上で重ねがけしていく仕様ということだ。その上に回転式のVariable ND(C-PL)を装着し、必要であれば4stop分のNDを追加で装着できる。また、ベースNDをMistにすることでミスト効果を加えることができる。途中でMistを加えたくなった時にNDを外してベースを変更することになるので、このあたりのクイックさはSWIFTに軍配が上がる。

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Mist有り
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Mistなし

FREEWELLの「追いフィルター」はマグネット式なので装着感は実感しやすいが、過去にマグネット式で脱着するタイプのものを使用したことがある筆者の体験談としては、砂浜の現場とかで落とすと砂鉄が付くなどの淡い思い出があるので、マグネット不使用のSWIFTに好感を持っている。

それよりも大切なのは「色変化のなさ」だ。同じ状態でNiSiとFREEWELLで比較してみた。NiSiの色変化のなさに感動する。FREEWELLは見た目で黄色と緑方向へ色がシフトしているのがわかる。モデルの肌色と地面の色を見れば一目瞭然だろう。

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NiSi
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FREEWELL

使用感は悪くなく、メーカーごとに工夫がされている感を感じるが、やはり問題は色変化であろう。

NiSiのTrue Color Varioの色変化のなさを知っているとわずかでも黄色に転ぶフィルターには戻れない。

SWIFTシステムで提供される「追いND」も色変化がほぼなく「True Color」を保つ。それはSWIFTの追加NDがプロフェッショナル領域の最上級であるフルスペクトラムND(紫外線から赤外線まで全波長で均等に光を吸収して色被りや減光ムラがない)であるからこそ、NiSiのTrue Color Varioの色変化のなさを担保している。重ねがけをしても色変化しないのは嬉しいポイントだ。

ちなみにこのSWIFTシステムのフィルターはアダプターを使うことでベースのTrue Color VARIOがない状態でも使用することができる。単独で4stopのND・1/4のBlackMistフィルターとしても使用できるので安心である。こういう細かいところも嬉しい。

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SWIFT用アダプターリング
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単独でSWIFTフィルターが使用できる

フィルターワークの可能性を広げる「追いND」スタイルはマットボックスを使用しないスタイルの撮影において、これからのメインストリームになるのではないかと感じた。これでやっとNDフィルター探しの旅が終着点にたどり着いたと思いたいところだが、この先の追いフィルターの充実だったり、進化も楽しみであったりする。店頭展示などあれば是非触ってもらいたい。

WRITER PROFILE

鈴木佑介

鈴木佑介

日本大学芸術学部 映画学科"演技"コース卒のおしゃべり得意な映像作家。専門分野は「人を描く」事。広告の仕事がメイン。セミナー講師・映像コンサルタントとしても活動中。