3月に開催されたSXSW2022(サウス・バイ・サウスウエスト)では、メタバースについてのセッションが頻繁に行われました。会期中にはMeta(旧Facebook)のCEO/Mark Zuckerbergのセッション登壇が急遽発表されたり、1992年発表の小説「Snow Crash」で「メタバース」という言葉を生み出したSF作家のNeal StephensonがKeynoteとして登場したのも非常に象徴的だったと言えます。
現在、実に多くの企業が次のプラットフォームとなるべくサービス開発を進めているメタバースですが、今後はどのように進化していくのでしょうか?メタバース開発を進める各企業の代表者達が集まり、それぞれのビジョンや課題感を語ったSXSW2022でのセッションをいくつか紹介しながら解説していきます。
メタバース経済圏の行動原理のひとつ「Play to Earn」-Sandboxの構想から読み解く
メタバースに近いゲームプラットフォームと言われているSandboxのCOOによるプレゼンテーション「Featured Session:Bridging into the Metaverse: 5 Top Considerations for Brands」では、メタバース内での経済活動の仕組みが語られました。ユーザー自身がクリエイターとしてアバターや建造物を作り出し、それらをNFTとして所有・販売する事でゲームの中で経済活動が可能になる「Play to Earn」と呼ばれる仕組みが、メタバースを構成する重要な要素の一つと言われています。
一方で、多くのブランドやセレブリティがSandbox内の土地を購入し、その価値が非常に高騰しているという現状があります。果たして、メタバース内の経済活動ではクリエイター自身がその恩恵を受ける事ができるのか、それとも既存のブランドや企業によるプロモーションや広告活動の場所になるのか、今後のプラットフォームの開発方針次第でまだまだ大きく変わるでしょう。
「Interoperability(相互運用性)」がメタバースの鍵に!規制やルールは誰が作るべきなのか?
FortniteやSecond Lifeといった複数のプラットフォームの代表者が登壇したセッション「Featured Session: What’s in a Metaverse?」では、メタバースの可能性と共にいま議論すべき課題点についても語られました。いくつものプラットフォームが乱立し、それぞれがユーザーを囲い込むための開発を進めている現在は、まさにメタバース戦国時代の様相を示しています。
しかし、本来の意味で「もう一つの世界=メタバース」を作り出すのであれば、統一された唯一の世界、もしくは複数のプラットフォーム間を自由に行き来できるべきでしょう。そのためには、共通のアバターや通貨が使用できる「Interoperability(相互運用性)」を作り出す必要があります。その世界では誰が規制やルールを作り、誰がコントロールすべきか。これから作り出される新しい世界に、現実の搾取や差別の問題を持ち込まない為に、プラットフォーマー間での議論が起こり始めています。
メタバースがあらゆる生活の中心になるためには?Metaが見据えるメタバースから読み解く
2021年に社名をFacebookからMetaに変更したことで、世間のメタバースに対する認知を急激に広めた張本人とも言えるMark Zuckerbergが、急遽SXSWのセッション「Featured Session: Into the Metaverse: Creators, Commerce and Connection」にリモートで登壇しました。彼は、メタバースとは単なるゲームをプレイする為のプラットフォームではなく、仕事の打ち合わせやSNSを通じた友人とのコミュニケーションなど、私達の生活におけるあらゆる行動の場所になるだろうと語りました。
SXSWではMetaを初めとするビックテック企業に対する批判的な意見も多く議論されているため、彼がどのようなビジョンからメタバースに関わっていくのか非常に注目されています。前述のInteroperability(相互運用性)に関しては、オーディエンスからの質問で各プラットフォーム間の互換性の開発について言及しましたが、具体的にどのように実現していくのかはこれからの大きな課題となりそうです。これから数年でメタバースのイメージはゲームから生活基盤の一つに変化するかもしれません。
コロナ禍以降のオンラインライブはどうなる?デジタルツインが繋ぐライブエンターテインメントの未来
ゲームエンジン大手Unityの代表によるセッション「Featured Session: Next Gen Tech & The Live Entertainment Revolution」では、世界的なEDMフェスティバルを主催するInsomniac社との提携を発表し、ライブエンターテインメントの未来の可能性が語られました。
ゲームエンジンはゲームだけでなく、現実のあらゆる空間のデジタルツインを作り出すためにも使用されています。これを応用することで、現実のライブ会場をメタバース空間上に再現し、オンライン参加でもその場にいるようなインタラクティブなライブ体験を開発していくビジョンが語られました。
メタバースの実現は、身体的や金銭的な理由でイベントへ参加できない人々にとって、公平な参加の機会(アクセシビリティ)を与えるという意義もあります。コロナ禍でオンライン配信という選択肢が増えたことにより、実際にライブ会場に足を運ぶ価値については多様な捉え方が生まれました。リアルイベントが戻ってきたとしても、同時にオンライン参加の価値を高めていくという両方の体験設計が必要になるでしょう。
まとめ:メタバースへの期待と疑念が入り混じる2022年
コロナ禍の不可抗力として起きた生活のオンライン化の試行錯誤を経て、メタバースという構想がSF小説の空想ではなく、近い将来に実現可能な未来として、非常に現実味を持って議論されていた点が今年のSXSWの特徴と言えるでしょう。
しかし、単に期待感を煽るだけではなく、現在インターネット上で頻発しているフェイクニュースや差別・偏見等の問題を、メタバースではどのように規制・対処していくべきかといった課題感についても共有されていた事に注目したいと思います。様々な企業がメタバースのプラットフォーマーとなるべく開発を進めていますが、開発者には社会的責任や倫理観が求められており、その危機感と監視の目線が一層厳しくなっていると感じました。
メタバースが理想的な形で私達の生活に浸透するためには、まだまだこれから多くの技術的革新が必要でしょう。黎明期にある今だからこそ、メタバースに関する議論の変化や未発見の課題に注目し、未来を予報していきたいと思います。
SXSW Japan Office/VISIONGRAPHではSXSW2022に関する2つのレポートを無料公開しています。下記のリンクからそれぞれダウンロードが可能ですので、ご興味のある方はぜひご覧ください。