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私達VISIONGRAPHは、SXSW Japan Officeとして活動すると同時に、SXSWで見つけた新しいサービスやプロダクトのアイデアから未来をつくる人々のビジョンを読み取り、未来を予報する活動のヒントにしています。

SXSWの中でも、特に先進的でイノベーティブなアイデアが集まるのがInnovation Awardです。このアワードでは、開発中のプロトタイプからスペキュラティブなアート作品、プロモーション目的の企業プロジェクトまで、実に幅広い13のカテゴリーでファイナリストに選ばれた作品が表彰されます。今年も未来のヒントになりそうなアイデアをたくさん見つけてきましたので、未来の予報と一緒にこちらでご紹介したいと思います。

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SXSWで一番大きなカンファレンスルームにて行われたInnovation Award授賞式の様子

感動体験の未来|脳波測定がオークションに使われるように

オーディエンスを感動させた分だけ作品の価値が上がるアート

Bombay Sapphire presents The Sensory Auction

アート作品を見て、どれだけ感動したかが入札額となるオークション。脳波計を装着した状態のオーディエンスが美術品を鑑賞し、どれだけ感情を動かされたかを測定し、その数値が一番大きい人がその作品を競り落とせるシステムです。ジンのメーカーであるBombay Sapphireがプロモーションとして実施した企画で、ジンを使ったカクテル等にインスパイアされたアート作品が競売にかけられました。アートとは一部の金持ちだけが所有するものではなく、誰にでも開かれたものであるべきだというメッセージが込められています。

脳波計測が今よりも手軽なデバイスで可能になり、このような仕組みが美術館の展示にも取り入れられれば、来場者の感情数値の統計から展示してある美術品の価値が決められる未来が考えられます。一部の評論家や従来のオークション制度に代わり、アートの価値を決める非常に民意的な評価基準として定着するかもしれません。他にも映画館に導入すれば、視聴したオーディエンスの感情数値を、自動的に作品のレビューに反映させることも可能でしょう。さらには、今話題のNFTアートとの掛け合わせも考えられます。多くの未来の可能性を秘めているプロジェクトといえそうです。

リモートワークの未来|遠隔地からテレポートでの出演が可能に

まるでその場にいるかのような等身大の4K3Dディスプレイ

PROTO

人間がすっぽり入る箱形の巨大ディスプレイで、まるでその場にテレポートしたかのような4K3D映像を表示できることを売りにしています。撮影用のスタジオキットを自宅に設置すれば、例えば職場に設置してある箱形ディスプレイを使って会議への出席等が可能です。プレゼンテーションを行う場合など、Zoom等の画面上の映像よりも、現場にいる臨場感が伝わりそうだと感じました。

SXSWの展示会では現物のデモ展示がされていて、非常に注目を集めていました。精細でリアルな映像は、本人が本当にその場にいるのかと錯覚してしまうほど。コロナ禍のテレビ番組では、ソーシャルディスタンスの確保という名目上、出演者のうち数名はスタジオに設置されたモニター越しに出演するといった、奇妙な光景が当たり前になりました。もしモニターの代わりにこの箱形ディスプレイを活用すれば、身振り手振りを交えた全身でのコミュニケーションが可能になります。上述のプレゼンテーションと同様に、現場にいる周囲の人間が抱く感覚も、従来のリモート出演とは変わってくるかもしれません。

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PROTOのデモ展示では、ディスプレイ内でパフォーマンスを行うアーティスト本人がその場に登場した

クリエイターの未来|AIと協業することで新たな才能が開花

未知のクリエイティブ能力を引き出してくれる自分専用のAI

Personal AI

作品を生み出す過程をサポートしてくれる、クリエイター向けの自分専用AIを作成できるサービス。自分の過去の思い出や、これまでのインプット/アウトプットの全てを記憶し、一見関係なさそうな情報を繋ぎ合わせることで、新たなインスピレーションを得る手助けをしてくれるそうです。アイデアが枯渇し行き詰まってしまう時にも、ヒントを与えてくれる相棒のような存在になるかもしれません。AIが得意とする記憶や計算といった能力を手放すことで、人間はさらにクリエイティブに集中できるようになるでしょう。もしかすると、人間だけでは作り出せない領域へと作品を進化させてくれるかもしれません。

これまでのAI開発は、SNSの使用におけるアルゴリズム解析など、主にプラットホームである企業側に利益を与えるために活用されてきました。しかし、これから訪れる分散型インターネット"Web3"の時代においては、個人がデータを所有し、利益を得るためにAIを活用するべきだという意思の元に開発されています。自分の苦手な部分をフォローしながら、自分でも知らなかった才能を引き出してくれる相棒ができれば、きっと力強い味方になってくれることでしょう。

映画の未来|海外映画の日本語吹き替え版が必要なくなる!?

言語や性別を自由に変えられるボイスクローン技術

Veritone Voice

音声合成技術によって自分のボイスクローンを作り出す技術。ただ単に同じ声で喋らせるだけではなく、異なる言語への変換やアクセントの使い分け、さらには性別まで自由に変更することが可能だそう。誰もが自分のボイスクローンを作り出すことができ、その音声が使用されると収益が得られるというビジネスモデルを構想しています。

もしこの技術によって、海外映画の出演者が本人の声のまま日本語で話すようになり、口調や感情表現も自然に再現できるようになれば、日本人声優による吹き替え版は必要なくなってしまうのでしょうか。他にも、自分の声のまま異言語で話せる自動翻訳サービスとしての利用価値もありそうです。様々な活用方法がありそうですが、ディープフェイクとして悪用されそうな技術なだけに、使用に関する新たな規制や法整備も必要になるでしょう。

住宅の未来|各部屋によって音の聞こえ方が異なる"没入型"住宅

場所と目的に応じた聞こえ方のサウンドデザイン

SPATIAL

その場所に最適な音の聞こえ方をデザインし、人々の没入感を高め、音響効果を最大化するソフトウェア。特別なオーディオ機器を必要とせず、住宅や病院、町の施設や公園など、場所の特性に応じて音の聞こえ方をデザインして音楽を再生できます。例えば病院であれば、入院中の患者やナースにとってストレスを感じにくいような病室を、家具や内装と同じように音響効果によってデザインしています。

この技術を使って家を設計するとなると、オーディオルームのようなこだわりの空間ではなくても、部屋それぞれの音の聞こえ方が異なる住宅が出てきそうです。例えば、勉強に集中できるようにデザインされた子供部屋、リラックス気分を高める効果のある浴室など、各部屋の目的ごとにサウンドデザインされた住宅が人気になるかもしれません。料理中にキッチンで流すための音楽、寝室で寝る前に聞く音楽など、再生されるコンテンツ側も場所と目的を伴って変化してくるでしょう。その人のいる場所によって、全く聞こえ方が違う部屋というのも面白そうです。

まとめ:業界を超えた「コンバージェンス」から生まれる未来の予報

感動が脳波によって定量化されたり、本人の居場所が関係なくなったり、創作活動をAIがサポートしてくれたり、音環境で感情へのアプローチをしたり…と、既存の業界や領域を超えてエンターテインメントの可能性が拡大していく未来の予報をお届けしました。SXSWではこれを「コンバージェンス」と呼び、自身の専門領域外に出ることから新たなイノベーションが生まれるといわれています。

SXSW Japan Office/VISIONGRAPHではSXSW2022に関する2つのレポートを無料公開しています。下記のリンクからそれぞれダウンロードが可能ですので、ぜひコンバージェンスのヒントを探してみてください。

WRITER PROFILE

VISIONGRAPH Inc. / 未来予報株式会社

VISIONGRAPH Inc. / 未来予報株式会社

イノベーションリサーチとコンセプトデザインが強みの未来像をつくる専門会社。SXSW Japan Officeとしても活動中。