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動画の視聴や情報検索、SNSの利用などで私達の生活には欠かせないインターネットですが、非常に便利な反面で、検索履歴等の個人情報を活用した広告ビジネスモデルを問題視する声も上がっています。このようにプラットフォーム側が大きな力を持つ現行のウェブサービスに対して、ユーザー自身に利益が還元される仕組みとして注目されているのが、分散型インターネットと呼ばれる「Web3.0」です。

SXSW2022ではこのWeb3.0に関するセッションが数多く行われ、その期待度の高まりが感じられました。このWeb3.0が登場することで、ウェブサービスの仕組みやクリエイターの立場はどのように変化するのでしょうか。すでに生まれ始めている先進サービスから、その未来を予報してみたいと思います。

予報1:ブラウジングもエコな時代へ|広告を閲覧した時間に応じて報酬がもらえるウェブブラウザ

Brave

ユーザーのプライバシーを重視し、検索履歴等のトラッキングを一切許さないように設計された無料のウェブブラウザ「Brave」。セキュリティに強いだけでなく、あらゆる広告を自動的にブロックするため、Google Chromeに比べて3倍の読み込みの速さを謳っています。

デフォルトでは全ての広告をブロックするようになっていますが、ユーザーはあえて広告をブラウザ上に表示させることも選択できます。そして、その閲覧時間に応じて独自の暗号通貨"BAT"を獲得できる、「Brave Rewards」という独自の広告の仕組みを取り入れています。BATは特定のウェブサイト運営者や、コンテンツクリエイターへのチップとして投げ銭のように使用したり、ブラウザに搭載の「Braveウォレット」に保管してその他の暗号通貨と交換をすることも可能です。

現行の検索サービスやSNSプラットフォームを運営するビッグテック企業の多くは、ユーザーの個人情報を活用した広告ビジネスによって莫大な利益を生み出していますが、Braveでは反対に、ユーザー自身の費やす時間に対して報酬が還元される仕組みを取り入れています。まさに分散型インターネットと呼ばれるWeb3.0の理想が体現されたウェブブラウザと言えそうです。

例えばユーザーは動画広告をすぐにスキップするのではなく、あえて時間をかけて視聴するようになるかもしれません。実際にBraveが採用する広告は、独自の基準によってキュレーションされたもので、本来のウェブコンテンツの邪魔にならないようなデザインがされています。そんな時には今とは違った動画制作のトレンドが生まれてくるでしょう。

予報2:個人が独自極小経済圏を持つ時代へ|クリエイターが自分だけの暗号通貨をリリースして運用する

Rally

「Rally」ではクリエイターそれぞれが自分だけの暗号通貨を発行することができます。動画やPodcast、サイン入りグッズやリアルイベント等の様々なコンテンツをクリエイターがRallyを通して提供し、ファンがそれらを視聴・参加するために暗号通貨を購入します。クリエイター毎に通貨の相場は異なり、売買や交換が行われる度に変動していく仕組みが特徴です。

YouTubeやOnlyFans等、現行のクリエイター向けの収益化サービスでは、収益に対して数十パーセントの手数料をプラットフォーム側に支払う仕組みが多いですが、Rallyではそれらの手数料が一切発生せず、自分の暗号通貨の売り上げがそのまま利益となります。

さらに暗号通貨の価値は常に変動するので、戦略的に自身のクリエイターとしての価値を向上させていくことも可能です。規模の大小や有名無名に関わらず、自分だけの暗号通貨を発行して、誰もがデジタル上のファンコミュニティを持つことができるサービスと言えるでしょう。このコミュニティをどう運営していくかが、今後クリエイターにとって重要なスキルになりそうです。

ファンの側からしても、若手のクリエイターの暗号通貨を所有しておくことで、将来有名になったときに大きく値上がりする可能性があります。このような投資の意味合いを含めた応援の形が、今後は主流になって行くのかもしれません。

予報3:直接繋がる時代へ|サブスクの次はクリエイターに直接課金できる音楽ストリーミングサービス

Audius

ブロックチェーンを用いた分散型の音楽ストリーミングプラットフォーム「Audius」では、アーティストが自分の曲を自らアップロードし、その再生数に応じて独自の暗号通貨"AUDIO"を受け取ることができます。リスナー側も暗号通貨を所有して、チップとして直接送ることで特定のアーティストへの支援が可能です。

Spotifyや‎Apple Music等の現行のサブスク型音楽配信サービスでは、アーティストへの収益の還元率が非常に低いことが度々問題視されています。対してこのAudiusはあくまでもアーティストを中心に考えられたサービスで、アーティストの権利が正しく管理され、楽曲が生む利益が還元される分散型のプラットフォームを目指しています。

例えばTikTokとの業務提携を発表しており、音源が利用される様々な機会がブロックチェーンによって自動的に管理されることで、アーティストの収益向上に繋がると期待されています。

さらに、アーティストが自身の音源をNFTとして販売できる機能を、Audiusのプラットフォーム内で開発しているそうです。サブスクサービスのような多くの利用者を抱える中央集権型の巨大化したプラットフォームに頼らなくても、クリエイターが自分の作品を自分で管理しながら、様々な形でファンから直接的な収益を得られる方法を模索しています。

リスナー側からも、より直接的に自分の好きなアーティストを支援できるサービスに乗り換える動きが生まれるかもしれません。

まとめ

Web3.0やメタバース、NFTといった単語は、その仕組みを理解しようとすると難しいことのように聞こえてしまうかもしれません。しかし、実際に開発されているサービスでは難しいところまで理解せずとも、「クリエイターエコノミー」とも呼ばれていることからも明白ですが、クリエイターが気軽に始められるサービス設計が今後の鍵となりそうです。

これらの動きはまだまだ始まったばかりですが、うまく活用することで従来よりもクリエイターが恩恵を受けやすい環境整備がされていくことを願います。普段何気なく使っているサービスからも、徐々にWeb3.0への移行が始まっていきそうです。

WRITER PROFILE

VISIONGRAPH Inc. / 未来予報株式会社

VISIONGRAPH Inc. / 未来予報株式会社

イノベーションリサーチとコンセプトデザインが強みの未来像をつくる専門会社。SXSW Japan Officeとしても活動中。