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複数の写真からAIの合成技術によって偽物の画像を作り出す「ディープフェイク」と呼ばれる技術。その技術は今や画像だけではなく、映像や音声、音楽や文章等のコンテンツにも活用されています。YouTuberのような個人のクリエイターが、自分ですべての作業を行う代わりにAIの力を借りるという使用方法も増えているようです。今回はそんなAIの合成技術を紹介しながら、クリエイションの未来がどう変化するのか予報してみたいと思います。

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予報1.画像素材はストックフォトから探すよりもAIに作らせた方が早い

文章からリアルな画像を生成する「DALL・E 2

人工知能を研究する非営利団体OpenAIが開発した最新のツール「DALL・E 2」では、任意の文章に応じた画像をAIが即時に生成してくれます。例えば「馬に乗った宇宙飛行士の絵をアンディ・ウォーホル風のタッチで」といったような指示をするだけで、その通りの画像を作り出してくれます。生成された画像は複数のパターンから選ぶことができ、特定の対象物の位置を動かしたり、絵のタッチを変えたりすることも可能です。現在はまだベータ版のテスト公開の段階ですが、実際に使用したレビュー等を見ると、かなりの精度で文章の指示通りの画像が生成されているようです。

仕事上の資料作成等で、ストックフォトやインターネット上のフリー素材を探していて、中々イメージに合致するものが見つからない経験をされた方は多いと思います。この技術が一般に公開されれば、検索ワードからAIが新たな画像を作り出してくれます。画像の細かい編集も指示するだけで簡単に行えるので、Adobe PhotoshopやAdobe Illustratorのスキルを習得する必要もありません。ただし、クリエイターにとってはAIに仕事を奪われることを意味するので、自動生成される画像と人間のクリエイティブの差別化が必要になってくるでしょう。あわせて、著作権を始めとする知的財産の扱いについても迅速な議論や法整備が求められます。

ちなみに、「DALL・E 2」では暴力的、差別的、または成人向けのコンテンツは予めAIの学習データから削除されていて、そのような画像は生成できないようになっています。また、著名人のディープフェイク画像が生成されないように、実在する人物の顔はリアルに表現しない等の制限があるようです。

予報2.あの時の思い出と感情を表現する自分だけのオリジナルカラー

言葉で指示して色を作り上げる「Speaking in Color

人々の思い出に残る印象的な風景や場面の「色」を探し当てることができるサービスが「Speaking in Color」です。アメリカの塗料やコーティング材メーカーSherwin-Williamsのプロジェクトとして開発されました。具体的に色の名前は分からなくても、その思い出の場所や時間帯、さらにはその時のシチュエーションや自分の感情を言葉にして話しかけることで、AIがインターネット上の画像検索情報等を頼りに、候補となりそうな色をいくつか探し出します。その中から選んだ色に、「もっと明るく/暗く」「もっとムーディーに」といったように指示を加えていって、最終的に自分の理想の色を作り上げます。例えば「10年前に恋人と見たハワイの夕日」といった抽象的な思い出を、記憶の残る色を頼りに具体化することができます。

この技術はファッションやデザイン業界において、無限に考えられるカラーイメージを伝えるときに、抽象的な表現を具体化する上で非常に役立ちそうです。また、個人の思い出に残る色を特定できれば、その色を衣料品やアクセサリーに応用するなどして、自分だけの記念品を作ることもできます。同じ景色を見た人同士でも、個人の感じ方によって表現される色が異なってくるというのも面白そうです。

予報3.楽器が弾けなくても映画のシーンに合わせたBGMが作れる

日本発のAIによる楽曲生成サービス「SOUNDRAW

AIが自動で楽曲を生成してくれる日本発の月額制のサブスクリプションサービスが「SOUNDRAW」です。楽曲ごとの購入は必要なく、著作権フリーで商用利用が可能になります。テーマ/ムード/ジャンルの3つを選択するだけで、15通りのサンプル音楽が自動で生成され、その中から気に入ったものを選び、さらに自分好みに調整していくこともできます。使用方法は非常に簡単で、楽曲制作の知識がなくても、特定の楽器の音量を大きくしたり、効果音を追加したりすることができます。

多くのクリエイターがYouTube等に自主制作の映像をアップしている昨今の状況では、既存のストックサイトで販売されている人気のBGM楽曲は他人と被ることが多く、オリジナリティを出すことは難しくなっています。このサービスを活用すれば、他人と被る心配のない自分だけの楽曲を手に入れることができ、自分好みにアレンジすることも可能です。いずれは映画やドラマのBGMは、脚本のストーリーや映像の背景に映りこむ情報を基に、AIによって自動生成されたものが主流になるのかもしれません。個人のクリエイターにとっては非常にありがたいサービスかもしれないですが、音楽家にとっては機械に負けない作品をどのように作り上げるかが勝負になってきそうです。

予報4.シナリオの筋書きだけ入力すれば完全な脚本にしてくれる

メールやブログを執筆してくれるAIアシスタント「Rytr

人間の代わりに文章を書いてくれるAIアシスタントサービスが「Rytr(ライター)」です。OpenAIによって開発された「GPT-3」と呼ばれる自然言語処理モデルが使用されていて、まるで人間が書いたような文章をAIが生み出すことができると言われています。メールやブログの文章を始めから書く代わりに、伝えたい趣旨と文章のトーン(カジュアルかフォーマルか等)を指定するだけで、自動で文章が生成されます。後は生成された文章に手直しを加えるだけなので、イチから自分で書くよりも素早く、悩まずに文章を書くことができます。

ゆくゆくはAIと人間の共著による小説がベストセラーになったり、映画やドラマの脚本が自動生成されたりといった未来もあり得るのかもしれません。物語の要点となるアイデアやプロットの部分だけを思いつけば、難しい単語や物書きのノウハウを知らない素人でも、AIの力を借りて魅力的な小説を書き上げることができるようになるでしょう。

ちなみにRytrは日本語にも対応しているようですが、生成される文章のクオリティは英語よりも低いようです。今後このようなサービスが日本語でも普及していくことによって、AIの学習が進めばクオリティも向上していくことが期待されます。

まとめ:AIのクリエイションを身近なモノとして当たり前に受け入れる若者世代の「共創力」

最近では、自分の顔を海外の俳優と入れ替えるスマホアプリの動画をSNS上で見かけることも増えました。このようにAIの画像認識と合成技術は、若者世代にとっては遊びとして楽しめる程に、すでに生活に身近なモノとして活用され始めています。今後は、さらに驚異的なスピードで進化・浸透していくでしょう。この技術をうまく活用すること、いわば「AIとの共創力」は、これからのクリエイターが身に着けるべき必須のスキルとなるでしょう。

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VISIONGRAPH Inc. / 未来予報株式会社

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イノベーションリサーチとコンセプトデザインが強みの未来像をつくる専門会社。SXSW Japan Officeとしても活動中。