2023年の1月に米国・ラスベガスで開催されたCES 2023において、Kandaoより公開・展示されていた360°アクションカメラ「Kandao QooCam 3」が、2023年9月7日の21時(日本時間)の正式発表と同時に発売が開始された。1/1.55型のイメージセンサーと明るいF1.6の大口径レンズのコンビネーションで、解像感や画質が向上。QooCamシリーズにおいては、初のアクションカメラへのアプローチとなった本機を、いち早く入手、テスト撮影を行ったので、早速レビュー記事としてお届けしたい。
概要
QooCamシリーズは、2018年の初代QooCamの発売以来、QooCam Lite、QooCam 8K、QooCam 8K Enterprise、QooCam FUN、QooCam EGOと、続々と新機種が登場してきた。今回のQooCam 3で、実際には7機種目となるはずだが、同社がこだわり続けてきたメインストリームである「パノラマ(360°)カメラ」としての3世代目という意味を込めて、今回は「3」という名が冠されている。前述したように、QooCam 3は、シリーズ初のアクションカメラとして商品企画されており、ハウジングなしで、IP68の防塵・防水性能(水深10mまで)を保持している。
動画性能は、5.7K 30fps、4K 60/30fps。静止画は、最大11Kの360°撮影が可能である。イメージセンサーは1/1.55型。レンズは絞りF1.6で、入射光の集光効率を高めることにより、低照度下の撮影性能はもとより、高画質を実現する光学系を有している。
キャビネットの4面には、計4つのマイクが配置され、360°全方位のパノラマサウンド(空間音声)をサポートした。これはシリーズ初搭載の機能であり、「Audio SuperSteady」と名付けられている。
2019年に発売されたQooCam 8Kでは他機種に先駆けて、液晶タッチスクリーンが採用されたが、QooCam 3でも1.9インチのLCDタッチスクリーンを配備。画像のプレビューとカメラ情報/撮影設定表示、並びに直感的な操作が可能になっている。
リモートで撮影したい場合は、アプリ「QooCam 3」を使用することで、スマートフォンからカメラコントロールができる。アプリでは、従来通り、スマホ上で、映像編集やSmartClipのテンプレートを充ててエフェクトを施すことも可能だ。当面、旧機種はアプリ「QooCam」を利用することになるが、今後は、アプリ「QooCam 3」を共用する形に統合される見込みだ。記事公開時点では、iOS版は、App Storeの承認待ちで、android OS版のみが、ローンチされている。PCアプリとしては、「QooCam Studio 2.0」最新版(v2.5.1.16)が、QooCam 3に対応する。
外観について
筐体の大きさは71.5mm×82.7mm×26.6mm。重さは201gである。
F1.6の魚眼レンズ(35mm相当で、9.36mm)2つをオフセットのレイアウトで配置、360°の画角を撮影する。イメージセンサーは、QooCam 8Kの1/1.7型より大きな1/1.55型が採用された。上面には、電源と撮影モード切り替え用の物理ボタンがあり、正面の下部には、1.9インチの液晶タッチスクリーンを配備。アクションカメラとしてのデザインが優先されたため、QooCam 8Kの2.4インチよりは、小型になっているものの、撮影前後の映像をプレビューして確認ができる安心感と、直接タッチしてカメラをコントロールできるシンプルな操作性は維持されている。
カメラを起動後、画面を上から下にスワイプすることで、コントロールセンターが開く。左から右にスワイプすると再生画面に入る。下部左側の撮影モードのアイコンをタップすると、モードの選択画面となり、下から上へスワイプすると、解像度やフレームレートの設定を行うことができる。
右から左にスワイプして、下部のパラメーターの領域をタップすると、撮影パラメーター設定が表示される。タッチスクリーンの右上には、Qカスタムボタンがあり、お気に入りの機能を割り当てられ。右下には、レンズ切り替えボタンが表示され、前後のレンズを切り替えて、プレビュー表示することができる。
オーディオ出力は、AAC(16bit/4チャンネルステレオ/48KHz/192kbps)。マイクは4つ、スピーカーは1つ搭載。内部にストレージはなく、記録するためには、microSDカードが必要となる。microSDカードの要件は、UHS-Iスピードクラス30以上(UHS-I V30)、最大容量256GB、フォーマットはexFAT。
バッテリー収納部のカバーを開けると、microSDカードとリムーバブルバッテリーの収納スロットがある。バッテリーは、QooCam 3用に新たに開発されており、容量は1600mAh、電圧/電流が5V/2A。充電ケーブルを使用して、USB-Cポートにより充電を行う。
満充電までには90分ほどかかる。防水仕様のため、充電するにはバッテリーカバーを開けながら行う必要があるが、充電中に邪魔な場合は、カバーを取り外すこともできる。
6軸ジャイロセンサー(IMU)が搭載されており、アプリの後処理で、「SuperSteady」という手ブレ補正処理を施すことができる。
通常盤には、レンズ保護カバー、バッテリー、ケーブル、レンズクリーニングクロスが、同梱されている。その他、自撮り棒キットには、予備バッテリーや自撮り棒、 microSDカード(64GB)が追加され、自転車撮影キットには、さらにユニバーサルマウント、強力クリップ、固定用ネジ、マウントアダプター×4、クイックリリースバックル×4、延長ロッド、スタビライザーリング×4、ベースマウント(平面)×2、3Mテープ×2、ベースマウント(曲面)×2、3Mテープ×2、レンチ等が追加されている。
動画性能について
動画の解像度は、5.7K 30fps、4K 30/60fps。動画フォーマットはMP4。明るい大口径のF1.6の魚眼レンズと1/1.55型のイメージセンサーの採用に加えて、内部にプリズムを使用していないから、ストレートに効率良く入射光を利用できることも画質的に優位に作用している。ピクセルサイズ(カメラに搭載されたイメージセンサーの1画素の大きさ)は、2μm(マイクロメートル)。QooCam 3の光を取り込む量を100とすると、QooCam 8K(F2.0、1/1.7型イメージセンサー)は、およそ61%の計算になる。
また、QooCam 8Kでは、タイムラプスを撮影した場合、別途、Premiere Pro等の動画ソフトを利用しないと、動画化の処理が完結しなかったのだが、QooCam 3では、専用のアプリで最後まで仕上げることが可能になった。また、撮影と同時に、Proxyファイルも生成されるようになっている。
ちなみに、QooCam 8Kの場合は、ユーザーがオプションを指定すると、転送中にプロキシファイルが生成される仕様であった。
同社の強力な手ブレ補正機能「SuperSteady」も健在である。「SuperSteady」には、2種類の方式があり、「View Lock Steady」では、映像のヨー、ピッチ、ロールの3軸をロックして、安定化させる(カメラが動いている場合は、画面も一緒に動く)。「Horizon Steady」は、3軸のうち、ピッチとロールをロックして、撮影者のヨーの動きに追従する(カメラが動いても、画面は動かずに方向も固定される)。
4つ搭載されたマイクにより、360°全方位の音を再現するAmbisonicsの技術「Audio SuperSteady」で処理されたサウンドは、撮影時にカメラがどの方向を向いていても、常に正しい方向で音が伝わる設計になっている。PCアプリQooCam Studioで、「パノラマサウンドを適用」のチェックを外した場合は、左右のチャンネルのステレオサウンドがエクスポートされる。
QooCam 3 5.7K 30fps作例動画
QooCam 3 5.7K 30fps(ユニバーサルマウント+強力クリップを使用)作例動画
QooCam 3 4K 60fps作例動画
手ブレ補正機能「SuperSteady(オフ)」作例動画
手ブレ補正機能「SuperSteady(Horizon Steady)」作例動画
水飛沫の飛び交う海沿いで作例動画を撮影
QooCam 3 5.7K タイムラプス作例動画。タイムラプスの撮影~仕上げが、Kandaoの従来機より、容易になった
QooCam 3 5.7K 30fps(ISO800の低照度下撮影)作例動画
静止画性能について
静止画の最大解像度は62MP(11136×5568)。加えて、16MP(5568×2784)も選択可能である。保存形式はJPG/DNG。また、同社独自の機能である「DNG8」を利用することもできる。「DNG8」とは、同じシーンで8枚のDNG形式の360°写真を連写する機能。このDNG8かAEB(同じシーンで露出を変えて異なる明るさの複数のパノラマ写真を連続撮影する機能)で撮影した写真を、同社のPCソフト「Raw+」でマージ(合成処理)することで、光量不足の場面などでも、ダイナミックレンジを広げてディテールの再現域を向上させ、ノイズを軽減することができる。さらに、Raw+は、このようなマルチイメージのマージから、例えば、被写体が移動した際に生じるゴーストを、演算処理により削除することができる。したがって、ユーザーは、低照度下でも、シャッタースピードを低速にすることなく、ノイズやブレのない撮影を行うことができるのだ。「Raw+」は、この2023年8月24日にアップデートが実施され、現在はWindows版 v1.3.0.5がQooCam 3をサポートしている(Mac版は開発中)。
QooCam 8K等で採用されていたSuper HDRは、現状は実装されておらず、今後のアプリのアップデートにより、将来的には、QooCam 3も対応する模様だ。
まとめ
これまでKandaoは、QooCamやObsidian向けに、デプスマップを生成する機能を実装したり、フラグシップ機のObsidian Proにいたっては、APS-Cのイメージセンサーを8基搭載して、最大12Kの超高解像度360°3D撮影を実現するなど、常にチャレンジングな製品やソリューションを世に送り出してきた。
一方、今回のQooCam 3においては、解像度も競合機と同等の5.7Kに抑えるなど、スペックや先進的な機能を追求するよりは、高画質の実現と基本的な性能の改善や充実を優先して、コスパの良いコンシューマー機にまとめ上げたという印象だ。
同社としては、初の試みであるアクションカメラの方向性や、空間音声の対応(同社の会議カメラMeetingシリーズでは、搭載済み)も特色となっている。個人的には、色温度や露出補正のパラメーターが、ケルビンの表示になったり、小刻みな目盛りに改善されたことなども好ましく感じている。バッテリーについては、QooCam 8Kの内蔵型から交換用に変更された。容量が不足して撮影チャンスを逃す心配は減るが、一日、持ち歩いて、たっぷり撮影するなら、予備バッテリーを1~2個、用意することをお勧めする。検証中に利用した自転車用のマウントは、ハンドルバーにも、しっかりと固定されて、使いやすかった。当面は、「吸盤マウント」や、収納や充電ができる「バッテリーケース」等の発売も、予定されているようだ。アクションカメラとしては、今後のアクセサリーの充実にも期待したい。オーディオについては、音声処理上で、風切り音低減などの対策ができると、よりコンテンツの品質が向上するであろう。
QooCam 3は、アクションカメラのユースシーンにおいても、画質にこだわり、シンプルに操作して、使いこなしたいというユーザー層向けの逸品だと感じる。より高解像度のVRコンテンツを機動的に撮影したいという志向のクリエイターにとっては、QooCam 8Kの後継機と目され、現在開発中の「QooCam 3 Ultra」の登場に期待したい。
QooCam 3は、本日(2023年9月7日)から公式ストアで購入が可能。その後、Amazon等でも販売が開始される予定。
- QooCam 3(通常盤):税込54,780円
- 自撮り棒キット:税込59,950円
- 自転車撮影キット:税込65,560円