Insta360(Arashi Vision)の360°カメラの最新モデル「Insta360 X4」が、8K30fpsのスペックを引っ提げて、2024年4月16日に発売された。
撮影性能はもとより、AI搭載のアプリから各種アクセサリーまで、総合的にシステムのアップグレードを図り、360°撮影とアクションカムの可能性をさらに突き進めたX4。本記事では、新たに追加された特徴に着目すると共に、前機種や競合機との比較を交えて実機の検証を試みた。
概要
このところのInsta360の新製品のラインナップを振り返ると、Insta360 GO 2やInsta360 Flow、Insta360 Ace、Insta360 Ace Pro等、ウェラブルカメラやスマホ用ジンバル、アクションカム等のリリースが相次いでいたが、Insta360 X4は、2022年6月のInsta360 ONE RS 1インチ360°版、そして、同年9月に発売されたInsta360 X3以来の360°カメラの登場ということになる。Insta360 X4の販売価格は、税込79,800円。
これまで同社のコンシューマー系360°カメラにおける動画スペックは、6Kまでが最大のサイズであったが、X4ではついに8K30fpsを達成して、コンシューマー機における、Insta360のフラッグシップ機と位置付けられている。
X4の主な特徴
まずは、Insta360 X4の開発によって、アップグレードされた特徴を、列挙してみよう。
- 360°動画において、最大8K30fpsを実現
- 5.7K60fps、4K100fp(360°動画)など、フレームレートが向上
- ミー(自撮り)モードが、4K30fps、2.7K120fpsに対応
- シングルレンズモードが、4K60fpsに対応
- バレットタイム撮影が、最大5.7K120fpsに対応
- 11Kタイムラプス撮影、8Kタイムシフトなど、タイムラプス系の最大解像度も向上
- AIジェスチャー&音声制御(日本語初対応)などのリモート操作面が充実
- 着脱が簡単なレンズガードを同梱
- バッテリー寿命の延長(公称、約67%向上)
X4のサイズ、スペック、外観、アクセサリーについて
X4のボディのサイズは、46×123.6×37.6mm。重量は、203gである。 X3よりは大きさと厚み、重さは増しているが、その分、撮影スペックや性能が向上している。レンズはF1.9。焦点距離は、6.7mm(35mm換算)。イメージセンサーのサイズは、1/2インチである。マイクは、4つ搭載されている。
筐体の表面は、X3と差別化を図るため、またグリップ力を高めるために、凹凸加工のデザインとして仕上げられている。
タッチスクリーンは材質が見直され、耐久性が高められた。サイズはX3の2.29インチから、2.5インチへ拡大しており、スマホのアプリに依存することなく、カメラコントロールやプレビュー、プレイバックが、ますます快適に操作できるようになった。
リムーバブルバッテリーは、X3の1800mAh(最大駆動時間81分/5.7K30fps)に対して、2290mAhと容量が増加され、公称135分の撮影(ラボ環境で、5.7K30fpsでテスト)、8K30fpsの場合は、75分の撮影が可能とされている。高解像度における長時間撮影時には、X4の表面温度を若干下げて使用できるサーモグリップカバーが標準アクセサリーとして同梱されているので、カメラを保持する上でも有用である。筆者のテストでは、8K30fpsの場合、室温25℃以下の環境で、サーモグリップカバーなしで撮影していると、68分ほどでサーマルシャットダウンした。筐体の最も高温な部位の表面温度は61.3℃。その時点でのバッテリー残量は14%であった。サーモグリップカバーを装着した状態では、1時間近い8K撮影で、カバーの表面温度は55℃になった。
着脱がスムーズな標準レンズガードも同梱されており、360°カメラの形状面のウィークポイントである剥き出しの魚眼レンズを保護することができる。同じく付属される保護ポーチには、レンズガードを収納できるポケットが内包されており、その辺りのメーカーの配慮も行き届いていると感じる。
カメラ本体単独では、X3同様、10mの防水性能を保持している。そのため、バッテリーやマイクロSDカードのスロットカバーやUSB Type-Cのカバーは、密閉される仕様になっている(水中撮影時にはしっかりと閉じていることを、要確認)。専用ハウジングを用いた場合は、50mまでの水中撮影が可能である。
Wi-Fi速度の向上、Type-C USB 3.0への変更に伴って、データの転送時間も短縮されている。
動画性能について
X4の登場における最大のトピックとしては、360°動画撮影時に、8K30fpsの高解像度に対応したことである。VR撮影においても、リフレームして2D動画に落とし込む場合においても、この高解像度は有用だ。中間の解像度を選択した際には、5.7K60fps、4K100fpsの高速のフレームレートを利用することができるので、スポーツ撮影やアクションカムとして活用したい場面でも心強い。スローモーションに利用する場合も効果的だ。また、5.7K+という選択肢が用意されており、ファイルサイズをコンパクトに保ちつつ、8Kに近い画質が得られる。ただし、暗所の撮影には向かない点は注意が必要である。基本的な動画性能についてのテストは、以下の作例を参考にされたい。本記事では、8K30fps、5.7K+30fps、5.7K60fps、4K100fpsで撮影している。また、Xシリーズの前機種Insta360 X3、1インチのイメージセンサーを搭載したInsta360 ONE RS 1インチ 360度版、競合のKandao QooCam 8K、QooCam 3との比較動画をつくってみた。検証では、色再現性、シャープ感等、X4の総合的なバランスの良さが確認できた。
Insta360 X4 360° 8K30fps
Insta360 X4 360° 5.7K+30fps
Insta360 X4 360° 5.7K60fps
Insta360 X4 360° 4K100fps
Insta360 X4と他機種の360°動画撮影の比較
ミーモードは、「見えない自撮り棒効果」や「三人称視点」といった360°カメラならではのメリットを活かして、自撮り撮影の場面に最適化させた独自の機能である。X4では、X3の1080p60fpsから解像度が向上して、4K30fpsや2.7K120fpsにおいて、170°の画角のフラット動画に仕上げることができるようになった。通常は.insvとして録画され、アプリによるスティッチ処理が必要となるが、2.7K30fpsを選択した場合は、カメラ内スティッチによりMP4として記録されるから、そのままSNSでシェアする場合などに向いている。
Insta360 X4 ミーモード(Max View) 3K30fps
Insta360 X4 ミーモード(Max View) 2.7K120fpsで撮影して、アプリでタイムシフトを適用
シングルレンズモードは、片側のレンズのみで撮影をおこなえるモードだ。VR撮影や後編集時にリフレームをする目的がなく、360°撮影自体が不要なシチュエーションでは、あらかじめ広角アクションカメラとして撮影できるから便利である。 X4のシングルレンズモードでは、最大4K60fpsの撮影が可能であり、FreeFrame動画のMax Viewを指定することで、170°の画角を選択することができる。
Insta360 X4 シングルレンズモード〜アングルの比較
Insta360 X4 シングルレンズモード 4K60fps
Insta360 X4 シングルレンズモード (FreeFrame動画でMaxViewを選択) 4K30fps
X4では、Insta360の「専売特許」であるバレットタイムについても、より性能がアップしている。5.7K120fps、3K240fpsのハイフレームレートのスローモーションを適用させることにより、シネマティックな表現を、手軽に実現することができるのだ。アプリのバレットタイムミックスを利用すれば、複数のバレットタイムを繋げて、一つのコンテンツとして見せることも可能だ。
Insta360 X4 バレットタイム 5.7K120fpsで撮影、HDで書き出しをおこなった(純正アクセサリーのバレットタイムハンドルを用いて撮影)
Insta360 X4 バレットタイム 3K240fpsで撮影、HDで書き出しをおこなった(純正アクセサリーのバレットタイムハンドルを用いて撮影)
360°タイムラプス動画は、X3では8Kまでの解像度であったところ、X4では最大11Kを達成した。ハイパーラプスを手軽に撮影できるタイムシフト撮影においては、X3の5.7Kより向上して、8Kの解像度が選択できるようになっている。
Insta360 X4 360°タイムラプス動画 11Kで撮影、8Kで書き出しをおこなった
Insta360 X4 360°8Kタイムシフト動画
アクティブHDRは、手ぶれ補正を利用しながら、幅広いダイナミックレンジが活用できる動画モードだ。サイズは、5.7Kを選択することになる。X4では、従前と比較すると自然な画作りに落ち着いてきたと感じられた。今回の検証における標準モードとアクティブHDRの比較動画をつくったので、以下、参照されたい。
Insta360 X4 360°5.7K30fps 動画(標準)と Insta360 X4 360°5.7K30fps (アクティブHDR動画)の比較
次に、夕暮れや夜間など、低照度下の場面における撮影を検証したところ、X4は色表現や解像感において、X3と比較して、かなり向上した印象を受けた。8Kを選択した場合、タッチディスプレイに「現在の照明は暗すぎるので、5.7Kモードを推奨します」というアラートが表示され、変更を促される。本記事では、違いを確認できるように、あえて、5.7K30fps、5.7K+30fps、8K30fpsで撮影してみたので、ご覧いただきたい。5.7Kモードと比較すると、やはり、その他のオプションではノイズが目立つことがわかる。他機種との比較撮影では、X4はコントラスト、デティールの再現、発色など、全体的なバランスにおいて良好な結果がみられた。
Insta360 X4 360° 5.7K30fps(低照度撮影)
Insta360 X4 360° 5.7K+30fps(低照度撮影)
Insta360 X4 360° 8K30fps(低照度撮影)
Insta360 X4と他機種の360°動画撮影の比較(低照度下:ISO1600 1/50 *X4は、5.7K 30fpsで撮影)
また、念のため、同梱されている標準レンズガードの装着の有無をテストしてみた。標準レンズガードを使用したまま撮影すると、太陽光の入射角度の影響等により、フレアが発生する可能性があるので、実際に撮影する際には、なるべく外して撮影する方が良いだろう。プレミアムレンズガードが別途発売されており、そちらは、装着したままの撮影に耐えうる品質のようである。好評につき、現在、品切れの状況になっている模様なので、入手でき次第、そちらも試してみたい。PCアプリのInsta360 Studioの最新版では、各種レンズガードやサーモグリップカバーの使用を反映させたスティッチ処理ができるように、装着の有無の選択肢が用意されている。
Insta360 X4 360° 8K30fps(標準レンズガードなし)
Insta360 X4 360° 8K30fps(標準レンズガードあり)
ちなみに、360°動画撮影においては、これまで2つのファイルに分割されて保存されていた.insvファイルが、X4では、1つにまとめて記録される仕様になった。静止画はスティッチ前の魚眼の状態が確認できるが、スティッチ前の動画のファイルの画像は、基本的には、パソコンのファイルマネージャーには表示されない。動画コーデックは、H.265がデフォルトになった。
静止画性能について
X4の静止画の解像度は、72MP12K(11904×5952)。フォーマットは、insp、DNGが使用できる。
これまでは、ノイズの低減とあざやかな画像が生成されるPureShotを利用するためには、アプリで効果を付与する必要があったが、X4ではあらかじめ適用されているので、運用がスムーズだ。
輝度差の激しい場面が多い360°撮影において、重要な役割を果たすHDR撮影の結果は、ともすると、やり過ぎな画づくりになってしまう傾向になるが、X4の場合は、自然な仕上がりになる印象だ。
Insta360 StudioのAnimateの画角の選択肢の項目に「MegaView」が追加され、アスペクト比は、1:1、9:16、16:9、4:3、3:4、2.35:1などがある。今回の検証では、Insta360の前機種や他社の競合機を並べて、比較撮影を試みた。X4はSNS映えするビビッドな画づくりだが、個人的には、X3の肌のトーンなどは好ましく思えた。Instaに比べると、THETA Xは、かなり抑えたナチュラルな色調設計だということがわかる。
まとめ
Insta360は、高度な映像テクニックや難易度の高い撮影を、ユーザーが簡単におこなえるための様々な技術を開発し、それをカメラやアプリに実装してきた。また、新製品の発売や、アップグレードを実施するたびに、ユーザーからの要望やフィードバックを反映させながら、ウィークポイントを改善し続けている。貪欲なまでに性能と新機能を追求する姿勢には脱帽すべきものがあり、各製品には、今や遊びきれないほどの多機能が搭載されている。
そして、X4では、360°撮影において、ついに8K30fpsの動画性能を達成した。
これまで高品質な実写VRコンテンツを制作する場合には、高額なプロ向けのVRカメラの使用を求める場合があったが、実際に、X4のフッテージをPICO4等のスタンドアローンのVRヘッドセットで視聴してみると、コンシューマー機も、標準的なVR視聴のレベルに到達しつつあることを感じる。小型VRカメラが高性能になることで、実写VR撮影の可能性も、ますます拡張されることだろう。
今回の動画撮影の検証では、主にカラープロファイルを「標準」に、シャープネスを「中」に設定しているが、カラーグレーディングを見据えれば、「Flat」や「低」の選択も賢明な判断かと思われる。撮影サイズの高解像度化やタッチスクリーンの大型化の影響により、従前より筐体の厚みが増しており、その分、360°撮影のステッチの精度が気になるところだが、アプリのスティッチの項目には、「ダイナミックスティッチング」、「オプティカルフロースティッチング」に加えて、「AIスティッチ」が加わった。近点と遠点のステッチにおいて、微妙な影響と変化が見られるので、ケースバイケースで試してみたい。
360°動画やタイムラプスの高解像度化は、リフレームに応用する場合にも有用である。また、フレームレートの向上は、スポーツ撮影の場面等、アクションカムとしての利用やスローモーション効果に有用であることはいうまでもない。
操作面では、2.5インチタッチスクリーンの実装により、視認性や操作性が改善された他、AI活用により、ハンドジェスチャーを利用した録画開始や停止、写真撮影も可能になった。日本語の音声制御に対応しており、スポーツ撮影やその他のアプリ以外によるリモートコントロールが必要な場面や環境において、使い勝手が向上した。Insta360アプリには、360°撮影に不慣れなビギナーでも、簡単に映像編集をおこなうことが可能なAI自動編集や、被写体を長押しするだけで自動追尾を開始するディープトラック3.0等の機能が搭載されていたが、最新のv1.61.1では、リフレームを直感的に実行できるスナップウィザードの名称がクイック編集へ変更され、新たに仮想ジョイステックを追加することで、視点の変更がやりやすく改善されている。また、X4から Insta360アプリに撮影済みファイルを送信、自動的にダウンロードをおこなえるようになった。
強力なFlowState手ブレ補正や360°水平維持などの特色を継承しつつ、コンパクトな筐体の中に、高度な機能が盛り沢山に詰め込まれたX4。
多様な撮影のニーズに対応するために開発された、Insta360のコンシューマー向け360°アクションカムの新フラッグシップ機X4を、どのように使いこなすか、クリエイターのイマジネーションが問われるところだ。
3mの自撮り棒を利用して擬似ドローン撮影、360°8Kで撮影の後、4Kにリフレームして書き出しをおこなった