対応カメラのEOS R7に装着することで、EOS画質の3D/VR映像が撮影できるEOS VR SYSTEMシリーズ第3のレンズ「RF-S 7.8mm F4 STM DUAL」が登場。撮影した映像や画像は、専用アプリのEOS VR Utilityを用いて3D/VR形式に簡単に出力できるから、臨場感と立体感を併せ持った映像表現も手軽に楽しむことができる。本記事では、いち早くRF-S 7.8mm F4 STM DUALを入手、検証をおこなったレポートをお届けする。

RF-S 7.8mm F4 STM DUAL

概要

EOS VR SYSTEMは、2021年12月に登場したRF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE を皮切りに、EOS RシステムのカメラをベースとしたVR映像撮影用の交換レンズとVR変換用のアプリやプラグインから構成されるシステムである。

当初はフルサイズのカメラが対象で、最大8Kの高解像度と視野角180°の没入感溢れるVR映像が撮影できる仕様からスタートしている。その後、対応カメラの拡大やアプリのアップデートを重ねる中、今年の6月には、APS-Cカメラ対応のRF-S3.9mm F3.5 STM DUAL FISHEYEが登場。こちらはEOS R7との組み合わせにより最大4K対応、撮影画角を144°とするかわりに、取り回しが容易になり、VR初心者でも導入しやすい仕様になっている。

今回、発表されたEOS VR SYSTEMの3番目レンズであるRF-S 7.8mm F4 STM DUALは、小型・軽量で携帯性を備えながらも、高画質な3D/VR映像を撮影できるレンズとして開発されてた。これまでと同様に一つの鏡筒に2つのレンズが並列に配置されており、この視差を利用して立体的な映像の撮影を可能にしている。

現状、対応カメラは最新のファームウェアのEOS R7(Ver.1.6)である。左右のレンズを連動して制御し、1台のカメラの1つのイメージセンサーで記録することで、通常の映像と同様な感覚で3D/VRの映像を撮影することができる。

専用アプリのEOS VR Utilityからは複数の出力形式が選択できるので、VRヘッドセットで臨場感と迫力のある3D映像を体験したり、簡易的なスマホ対応の折りたたみ式VRグラス、カードボードや赤青メガネ等の視聴ツールを用いて、手軽に立体視を楽しむことができる。また、MV-HEVCに書き出して、Apple Vision Pro対応の空間ビデオとして生成、高品質な3D/VR映像を鑑賞することも可能である。

EOS VR SYSTEMシリーズのレンズ群。手前がRF-S 7.8mm F4 STM DUAL。左奥がRF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE 、右奥がRF-S3.9mm F3.5 STM DUAL FISHEYE

特徴

RF-S 7.8mm F4 STM DUALは、画面全体において高画質な3D映像を実現するレンズとして開発されており、3D 180° 8K映像を超える画素密度(記録画素数/画角)で記録することが可能である。

これまでの2Dの映像表現では、被写界深度による遠近感、すなわち、ボケなどで立体感を表現していた訳だが、RF-S 7.8mm F4 STM DUALは、視差によって得られるリアルな立体表現をつくりだせる3Dレンズである。

IPD(レンズ間距離)が11.8mmと狭く設計されているので、近距離の被写体でも立体視が破綻せずに、迫力あるクローズアップの撮影が可能になっている。

一般的にVR撮影では、独特の撮影の作法が必要とされるが、RF-S 7.8mm F4 STM DUALは、AF機能の利用をはじめとして、従来の映像撮影に近い感覚で操作ができる。

専用アプリのEOS VR Utilityが用意されており、レンズやカメラのパラメーター、撮影のメタデータを活用することで、撮影した映像を最適化された3D/VR画像へと容易に生成できる。

EOS VR Utilityからは、「3D 180°」、「3D Theater」、「3D Spatial(Mac版のみ)」と、公開方法や視聴の用途に合わせて、書き出し形式を選択できる。RF-S 7.8mm F4 STM DUAL+R7によるEOS VR SYSTEMは、Apple Vision Proフォーマットに公式に対応している。

RF-S 7.8mm F4 STM DUALを各アングルから見る

RF-S 7.8mm F4 STM DUAL+EOS R7で撮影した写真を、各出力形式で書き出した。

3D 180° 静止画
3D Theater(8:9) 静止画
3D Theater(16:9) 静止画

レンズ性能とR7とのコンビネーションについて

RF-S 7.8mm F4 STM DUALは、レンズ単体で約131gと大変軽量に設計されている。EOS R7と組み合わせた場合でも約743gなので、かなり機動性が高いシステムと言えるだろう。

光学系の特徴としては、プリズムを用いないストレート方式が採用されており、小型の筐体の実現にも貢献している。EOS Rシリーズのメリットであるショートバックフォーカスと、さらにはUDレンズ2枚を効果的に配置することで、高画質な3D映像を達成。広角画面の隅々にまで、高い描写性能を保持する光学的設計が施されている。
EOS R7との組み合わせによる4K映像は、3D 180°の8K映像を上回る画素密度で記録される。

2眼が連動する仕組みの光彩絞りは、 従来のレンズ同様に被写界深度の調整も可能であるから、左右の視差に加えて、背景の自然なボケによる立体感も表現できる。最短撮影距離は15cm、画角は64°である。RF-S3.9mm F3.5 STM DUAL FISHEYE同様に、ギアタイプSTMが搭載され、左右のレンズが連動するオートフォーカス機構になっている(ワンショットAF/サーボAF)。また、ピント左右差調整モードスイッチが搭載されており、フォーカスリングの操作によって左右のレンズのピント調整も容易だ。

レンズの前面には、58mmのスクリュータイプフィルターを装着できるので、R7で日中にCanon Log3(10bit)で撮影をおこなう場合など、NDフィルターを使った露出のコントロールがスムーズにおこなえる。

記録された映像、画像は構造上、左右の配置が逆に記録されるが、アプリによる変換で、自動的に正常な配置に戻る。

RF-S 7.8mm F4 STM DUALの重さを計測
レンズの側面に左右差調整モードスイッチが設置されている
58mmのスクリュータイプフィルターが装着できる
RF-S 7.8mm F4 STM DUALをEOS R7に装着した状態

撮影のポイント

カメラコントロールや設定は、EOS UtilityやCamera Connectを用いたリモート撮影が可能である。ライブビューをパソコンやスマートフォンの画面に表示させ、遠隔からAF箇所の位置設定はもとより、左右画像の入れ替え表示、クロップガイドライン表示等がおこなえる。

撮影のポイントとしては、被写体にもよるが、真正面よりも少し上から、また真上よりも少し斜め方向から撮影すると、より立体感を出しやすい。最も立体感を出せる撮影距離は、カメラから15~50cmの位置である。接近して撮影することで、小動物など小さい被写体も、立体視の視聴で飛び出すような3D効果が得られるだろう。基本的に、被写体との距離が遠い場合、立体感は薄れてしまう。その際は、前景や背景に、何か比較対象となるオブジェクトを配置することで、立体感を演出することができるだろう。

立体感を狙うためには、自ずと近距離撮影が多くなるので、カメラの安定性の確保が重要になる。今のところ、アプリの手ブレ補正機能は未対応となっているから、三脚による据え置きの撮影が好ましい。手持ち撮影は、手ブレが目立つので、なるべく避けること。移動撮影も立体視の破綻や視聴時の酔いにつながる恐れがあり、難易度が高いと言える。

    テキスト
EOS R7の背面液晶でプレビューする様子
※画像をクリックして拡大
    テキスト
EOS Utilityからカメラコントロールしている様子
※画像をクリックして拡大
    テキスト
Camera Connectからカメラコントロールしている様子
※画像をクリックして拡大

編集のワークフロー

対応しているアプリケーションは、専用のEOS VR Utility Ver.1.5とEOS VR Plugin for Adobe Premiere Pro Ver.1.5だ。これまでのEOS VR SYSTEMと比較すると、魚眼形式からの変換がない分、幾分、ポストプロダクションの時短が図れる。EOS VR Utility でおこなうことは、左右の画像の入れ替え、レンズ補正(視差補正、水平補正)、プレビュー表示と出力範囲の指定、書き出し等である。RF-S 7.8mm F4 STM DUALは、画角的に他のEOS VR SYSTEMのレンズのような隣のレンズの映り込みはないが、周辺のフェードやイメージサークル外の光もれ対策として、EOS VR Utility 側でマスクが自動的に付与され、任意のレンズマスク機能は、非アクティブ扱いになっている。

EOS VR Utilityは、3D 180°の形式や3D Theater形式、さらには、Appleの空間ビデオのためのSpatial Video形式など、様々なフォーマットへの出力に対応している。ただし、プラグインは、3D 180°の形式のみの対応となる。

  • 3D 180°
    撮影したままのノンクロップの状態の広角のアングルを活かして、没入感と立体感を併せ持った映像を生成することができる。また、NLE編集時に、好きな画角に切り出して利用するなどの活用法が考えられる。
  • 3D Theater(8:9)
    スマートフォンの再生アプリ上で左右2分割に表示し、主に簡易視聴型VRグラスやカードボードを利用して、立体視を気軽に楽しむことを想定したフォーマットである。
  • 3D Theater(16:9)
    HMDで視聴した場合、フラット→サイドバイサイドで表示させることで、劇場で3D映画を観るような立体感を楽しめる。
  • Spatial Video(1:1)
    Apple Vision Proフォーマット対応。各フレームにおいて圧縮された左右(片目の映像+差分)のデータを含む。3D映像を効率的に圧縮するフォーマットである(EOS VR Utility Ver.1.5のMac版のみ。Apple Silicon搭載のMac OS14.4以上であることが要件。現在、空間写真は未対応)。
専用のアプリケーション EOS VR UtilityのVer.1.5で対応
EOS VR Utility Ver.1.5のRF-S 7.8mm F4 STM DUALで撮影した動画ファイルの出力形式の選択肢
EOS VR Utility Ver.1.5のインターフェース

再生・視聴について

RF-S 7.8mm F4 STM DUAL+R7で記録した3D/VR映像の視聴は、できればVRヘッドセットによる体験が理想的である。

筆者の検証では、ローカル再生の場合、DeoVRのプレイヤーを利用することで、動画、静止画共に立体視が良好に表示される。

コンテンツを共有する場合は、YouTubeが3D表示に対応しているため、最も一般的なプラットフォームと言えるだろう。

撮影したファイルをアプリに読み込み、3D Theaterとして書き出してYouTubeにアップすれば、3Dのファイルとして認識されアナグリフ表示となるので、それを赤青メガネで視聴すると、気軽に立体感が楽しめる。

3D Theater(8:9)でアップした動画作品は、スマホのYouTubeアプリ(android)のVRゴーグルのボタンをタップすることで、左右に分割表示され、それを簡易的なVRグラスやカードボード等で視聴すると、手軽な立体視が可能となる。

3D Theater(16:9)をアップした動画の場合、HMD内のYouTube VRアプリではなく、WebアプリのYouTubeの方で再生すると、良好な立体視が可能になるようだ。

3D 180°で出力してYouTubeにアップしたコンテンツなら、VRヘッドセットのYouTube VRアプリを利用することで、没入感と立体感を併せ持った体験ができる。

また、VR向けプラットフォームのDeoVR上に投稿することで、上記のいずれのフォーマットも、動画/静止画共に良好に3D表示されるので、お勧めである。

3D Spatial Video(1:1)で書き出したファイルは、Apple Vision Proで空間ビデオとして再生できる。EOS VR Utility Ver.1.5のMac版には、まだ空間写真の出力が実装されていないが、早期の対応に期待したい。

3D 180°

3D Theater(8:9)

3D Theater(16:9)

DeoVRの筆者のチャンネルに、コンテンツを投稿した様子
3D/VRコンテンツを視聴するためのツール

まとめ

RF-S 7.8mm F4 STM DUALは、IPDが11.8mmと狭く設定されているので、他のVRレンズでは立体感が破綻してしまうような15~50cm以内の至近距離の被写体でも3D撮影が可能である(RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYE やRF-S3.9mm F3.5 STM DUAL FISHEYEのIPDは60mm)。また、クリエイティビティの高い撮影設定が可能なEOS R7を利用できるメリットも大きい。被写体の魅力を立体的な映像表現で伝えたい、そして、画質へのこだわりの意識が高いクリエイターに向いていると言えるだろう

R7との組み合わせを考えても、機材のコストは比較的抑えられ、コスパも良いので、3DやVRのクリエイターのみならず、従来のビデオグラファーをはじめとする、幅広いターゲットユーザーが3D/VRの世界に参入することが期待される。

Apple Vision Proの登場をきっかけに、空間ビデオや空間写真に興味を持つクリエイターも増えており、今後、アプリの開発と共に3D映像を活用した広告や学習コンテンツ等の制作が活発となることも予想できる。

個人的には、RF-S 7.8mm F4 STM DUAL+R7で撮影したクリップを、Apple Vision Proで空間ビデオとして再生、視聴した時、その美しい画像と自然かつ良好な立体感に、非常に感動した。 3D/VRの豊かな映像表現や体験は、ペットの記録や家族の思い出など、個人的な利用にも向いていると感じられる。

将来的には、裸眼立体視のディスプレイの普及や共有プラットフォームの整備も含め、視聴方法もさらに充実していくことを期待している。

Apple VisionProを装着、視聴している筆者
Apple Vision ProでRF-S 7.8mm F4 STM DUAL+R7で撮影したコンテンツを、空間ビデオとして再生中のスクリーンショット

WRITER PROFILE

染瀬直人

染瀬直人

映像作家、写真家、VRコンテンツ・クリエイター、YouTube Space Tokyo 360ビデオインストラクター。GoogleのプロジェクトVR Creator Labメンター。VRの勉強会「VR未来塾」主宰。