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「XREAL Beam Pro」は、Android 14をベースとしたNebulaOSを搭載したスマホのような形状の空間コンピューティングデバイスだ。3D撮影用の50MPのデュアルカメラを実装しており、ARグラスのXREALシリーズ向けに最適化された空間ビデオ/写真を撮影することができる。

当記事では、XREAL Beam Proの最大の特徴である3D撮影機能にフォーカスして、レビューをお届けしたい。

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概要

XREALは2017年に設立された中国のテック系スタートアップ企業である。当初はNreal(エンリアル)と称してAR(拡張現実)グラスを開発していた。

ARグラスはスマートフォンやパソコン等と接続して顔面に装着して使用すると、眼前にそれらの画面が投影、表示されるデバイスだ。嵩張らず携帯性が良いので、移動中でも動画コンテンツを迫力ある仮想の大スクリーンに再生して楽しんだり、外出先で仕事をする際にも外部ディスプレイとして利用できる。

日本では2022年3月にサングラス型のARグラス「Nreal Air」が最初に発売された。2023年には社名をXREAL(エックスリアル)に変更。XREALの「X」は、デジタルと現実、過去と未来、そして現在と未来をつなぐ架け橋を意味している。

IT市場における調査期間IDCのレポートによると、XREALはコンシューマー向けARグラスの領域において、2023年には業界出荷台数1位を達成、2024年の上半期はグローバルのAR業界で47.3%の市場シェアを獲得している。2025年1月17日には、最新機種の「XREAL One」が発売される予定だ。

製品が空間コンピューティングデバイスとして機能するべく、XREALは既存のデバイスとの連携にも注力している。

2023年発売の「XREAL Beam」は、他のデバイスからのビデオ入力をXREAL AirシリーズのARグラス(以下、XREALグラス)の空間ディスプレイに出力できるリモコン型のデバイスだ。スマホやゲーム機、パソコンへの無線および有線接続に対応することで、外部ディスプレイとして利用できる。スマホがなくても、ユーザーはXREALグラスとBeamのみで、任意のストリーミングサービスにアクセスすることが可能となる。

今回紹介するXREAL Beam Proに先駆けて、2023年に発売されたXREAL Beam
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1月17日に発売の最新XREALグラス「XREAL One」を体験する筆者。XREAL Oneは、空間コンピューティングチップ「XREAL X1」を搭載、高精細かつ低遅延の表示を可能とし、音質にもこだわりを持って開発されている

今回、紹介するのは、その次世代機であり上位機種のXREAL Beam Proである。当初、日本国内ではWi-Fiモデルのみが発売されていたが、昨年の東京ゲームショーでSIMカードスロット搭載とGPS対応の5Gモデルが初出展され、10月には世界三大デザイン賞の1つであるドイツのレッド・ドット・デザイン賞を受賞している。

XREAL Beam Proについて

XREAL Beam Proは、XREAL Beamの次世代機として登場したスマートデバイスである。基本的にXREALグラスと接続して使用する。OSはAndroid 14をベースにしたNebulaOSを搭載、プロセッサーには、「Snapdragon空間コンパニオンプロセッサー」が採用されている。

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XREAL Beam Pro
XREAL Beam ProとXREALグラスを接続した状態

Beam ProをXREALグラスと組み合わせると、nebulaOSがAndroidアプリを空間スクリーンに立体的に表示し、Beam Proがコントローラーとして機能する。

XREALグラス使用時、空間スクリーンは使用場面に応じて、以下のモードに切り替えることが可能だ。

  • ブレ補正(視線追従)モード:移動中に使用
  • 空間固定(3DoF)モード:静止状態で使用

Beam ProにXRREALグラスを接続した場合、映画やアニメなどのコンテンツやゲームを1,920×1,080、リフレッシュレート90Hzで表示することが可能となる。

NebulaOSは、Google Playの利用が可能なので、アプリをインストールすることで、YouTube他、任意の動画配信サービスの映像コンテンツを楽しむことができる。また、ダウンロードした映像コンテンツをローカルのストレージに保存しておけば、いつでもどこでも、それらを鑑賞することができる。

XREAL Beam Proは、3D空間内においてアプリを2画面表示させて、マルチタスクを実行することが可能だから、エンタメ以外に仕事に用いる場合も作業が捗る。

XREALグラスとBeam Proを接続した状態で、Beam Pro本体を充電しながら使用することもできるので、その場合、バッテリー切れの心配はない。バッテリー容量は4300mAh、最大充電速度は27W。Beam Proは、モバイルバッテリーとしても機能する。

本体の右側面の赤いボタンは、カメラアプリの起動と、シャッターボタンの機能を持つと同時に、接続したXREALグラスの画面の表示モードを切り替える役割がある。赤いボタンの下にはボリュームと電源ボタンが配置されている。

本体下部には電源とパソコンの接続用、そしてXREALグラス接続用の2つのUSB Type-C端子を搭載。左側面に、microSDカードスロットが用意されている。

XREALグラスの接続時は、アプリ「マイグラス」により、表示の切り替えをおこなう。

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XREAL Beam ProをXREALグラスに接続して、仮想の大スクリーンで映画館のように映像コンテンツを楽しむ
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XREAL Beam Proのホーム画面
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XREAL Beam Proでは、Google Playのアプリが利用可能だ(Xreal Air2 Proの画面をキャプチャーした状態)
本体右側面の赤いボタンで、カメラアプリの起動、シャッターボタン、XREALグラスの画面の表示モードの切り替えをおこなう
本体下部にあるXREALのARグラス接続用と電源/パソコンの接続用の2つのUSB Type-C端子

XREAL Beam Proのスペックは、以下の通りである。

  • OS:Android 14ベースのNebulaOS
  • チップセット:Snapdragon spatial companion processor「空間コンパニオン オクタコア CPU」
  • メモリ:6GB/8GB
  • ディスプレイ:6.5型LCD
  • 解像度:1080×2400ピクセル
  • 画面リフレッシュレート:90Hz
  • 容量:128GB/256GB(SDカードスロットを備え最大1TBまで拡張可能)
  • カメラ:50MPリアカメラ×2、8MPフロントカメラ×1
  • バッテリー:4300mAh
  • サイズ:162.84mm×75.55mm×10mm
  • 重量:約208g(バッテリー含む)
  • その他:Wi-Fi 6、Bluetooth 5.2、USB-Cポート×2

カメラ機能について

XREAL Beam Proのカメラ機能は「ビデオ」、「写真」、「空間ビデオ」、「空間写真」の4種だ。フロント側に8MPのカメラ(静止画 2448×3264ドット、動画 1080×1920ドット 30fps)、リア側にデュアル50MPの3Dカメラ(14mm、絞りF2.2、電子式手ブレ補正、広角歪み補正、LEDフラッシュ)を搭載している。リア側の2つのレンズを用いることで、空間ビデオ/写真を撮影することが可能となる。

この2つのカメラは全く同じスペックで、IPD(レンズ間距離)は50mmである。本体内部ストレージの他、側面にはmicroSDカードのスロットを実装しているので、撮影した写真や動画を最大1TBまで外部メディアに記録、保存することができる。

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IPD(レンズ間距離)は50mm
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本体側面のmicroSDカードのスロット

空間ビデオ/写真

空間写真の解像度は7,680×2,880。アスペクト比4:3、3,840×2,880のサイドバイサイド(以下:SBS)のレイアウトである。写真フォーマットはJPGとHEIC。

空間ビデオの場合は1,920×1,080のSBS、フレームレートは60fps。動画フォーマットはH.264とH.265である。

空間撮影の場合は、2眼の視差を使用することと、このデバイスの構造上、横位置に構えて撮影することが必須だ。空間写真/ビデオモードの状態で縦位置にホールドした場合は、「Beam Proを横にしてください」とのアラートが表示される。

プレビュー画面は通常、左側のレンズが表示されているが、両眼によるSBS表示に切り替えることもできる。グリッドや水準器も表示できるから、水平垂直を合わせ込むことも容易だ。セルフタイマーも利用できるので、通常のスマホによる写真や動画の撮影同様、自撮りや友人、家族の思い出の撮影などにも適している。被写体との撮影距離が近すぎる場合は、アラートが表示される。

なるべく明るい環境の中、デバイスを水平に維持して、立体感を表現したい被写体との撮影距離を1~2.5mに調整することが撮影のポイントとなる。遠距離の被写体は、立体感が弱まる。

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Beam Proのプレビュー画面(グリッドと水準器を表示させた状態)
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セルフタイマーのカウント表示中
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被写体に近づきすぎると「離れてください」というアラートが表示される
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「Beam Proを横にしてください」というアラート表示

AppleのiPhone 16モデル、iPhone 15 Pro、およびiPhone 15 Pro Maxなどでも空間撮影は可能であるが、Beam Proに比べてIPDが近い。つまり、近距離の被写体の立体視に向いていると云える。Beam Proの場合は人間の瞳孔間距離に近いので、自然な視差をつくり出すことに向いているのが特徴だ。

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Beam ProとiPhone16 ProのIPDを比較

Beam ProはiPhoneの空間ビデオの30fpsに対して、フレームレートが60fpsと高いので、動体の撮影にはアドバンテージがある。手ブレ補正機能も搭載されているが、空間ビデオモードで移動撮影をする際には、視聴時の酔いを防ぐために、ゆっくりと慎重におこない、なるべくなら据え置きの撮影が好ましい。

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Beam Proを三脚に設置して撮影
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Beam Proで撮影した空間写真
※画像をクリックして拡大
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Beam Proで撮影した空間写真
※画像をクリックして拡大
    テキスト
Beam Proで撮影した空間写真(低照度下)
※画像をクリックして拡大

Beam Proで撮影した空間ビデオ

Beam Proで撮影した空間ビデオ

鑑賞について

撮影後はXREALグラスを接続することで、「写真」アプリからスムーズに空間ビデオ/写真を再生、視聴することが可能になる。

今回は、XREAL Beam Proと「XREAL Air 2 Pro」を組み合わせて試用してみた。

XREAL Air 2 Proは、重量は75g。0.55インチのMicro OLEDパネルを採用、解像度1920×1080ピクセル、明るさ500cd/m2、視野角46°、PPD(Pixel per degree)49°、リフレッシュレート120Hzで、201インチ(XREaL Beam Pro併用時は最大222インチ)相当の映像が表示できるARグラスである。

エレクトロクロミック調光機能により、遮光度を0%、35%、100%の3段階へスムーズに変更することが可能だ。

ところで、「XREAL Beam Pro」の3D映像は「空間」と謳われているが、iPhoneのMV-HEVC(Multiview High Efficiency Video Coding)等のファイル構造とは異なり、ファイル自体はオーソドックスなSBSのレイアウトになっている。公式には、他のブランドのグラスやデバイスには対応していないが、SBSの状態なのでMeta QuestやPico等のVRヘッドセットのローカルストレージに保存、再生しても立体視の表示が可能である。

Apple Vision Proで利用したい場合は、他社ではあるがKandaoが無償で提供している「QooCam EGO 空間ビデオおよび画像コンバーター」というツールを利用すると、最適化されたファイルとして変換され、それを利用することで空間映像として再生・視聴することができた。

YouTubeにアップする場合、同じくKandaoの「QooCam EGO アナグリフ動画変換ソフトウェア」というツールを利用すると、3Dとして認識するためのメタデータが付加されたファイルとなる。それをYouTubeにアップロードすると、赤青3DメガネやVRヘッドセットで立体視の視聴ができるアナグリフ形式としてコンテンツを共有することが可能となる。

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Beam Proの写真アプリの画面。空間ビデオ/写真には、サムネイル上に「3D」のアイコンが表示される
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今回は、Beam ProをXreal Air2 Proに接続して、撮影済みのコンテンツを視聴してみた
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空間写真を視聴中のXreal Air2 Proのディスプレイの表示
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Kandaoのツールを用いて変換したファイルをApple Vision Proに読み込み、再生してみた

まとめ

写真や映画の歴史を振り返れば、ステレオ写真や3D映画の表現は、絶えることなく挑戦が繰り返されてきた映像技法であることがわかる。

昨今では、iPhoneやApple Vision Pro、キヤノンのEOS VR SYSTEM(RF-S 7.8mm F4 STM DUAL + EOS R7)等の登場により、3D空間撮影が実現されたことで、再び実写の3Dが注目を集めている。

XREAL Beam ProとXREALグラスを組み合わせれば、ARコンピューティングはもとより、比較的廉価に空間ビデオ/写真の撮影や鑑賞が楽しめる。家族や友人など身近な思い出をスマートに立体記録して、素早く大画面の3D空間内に映し出したり、負担なく動画コンテンツやゲームを堪能できるメリットは大きいと言える。

価格

  • BeamPro Wifi 128GB + 6GB(RAM):税込32,980円
  • BeamPro Wifi 256GB + 8GB(RAM):税込39,980円
  • BeamPro 5G 256GB+8GB(RAM):税込47,980円

WRITER PROFILE

染瀬直人

染瀬直人

映像作家、写真家、VRコンテンツ・クリエイター、YouTube Space Tokyo 360ビデオインストラクター。GoogleのプロジェクトVR Creator Labメンター。VRの勉強会「VR未来塾」主宰。