コンシューマー向けVRカメラの領域で、いち早く8Kの高解像度を達成していたKandaoから、次世代の8K 360°VRカメラである「QooCam 3 Ultra」が、いよいよ発売。正式発売を前にして、先行予約特典としての早期割引販売が開始された。この記事では、評価機とベータ版のアプリの試用を踏まえて、徹底して高画質にこだわって開発された本製品を紹介していく。

概要

これまでKandaoからは、2020年2月に、QooCamシリーズで初めて8K解像度を実現した「QooCam 8K」が発売。続いて同年9月には、ライブ配信機能を強化した「QooCam 8K Enterprise」が登場している。その後、コロナ禍を経て、2023年のCESにおいては、シリーズ第3世代という意味が込められた「QooCam 3」と「QooCam 3 Ultra」の2機種が参考出展された。

同年9月には、最大5.7Kの動画性能を持つQooCam 3が先行して発売。今年の4月には、同じく中国・深圳のInsta360より、8Kを達成したInsta360 X4が発売された。このような経緯を経る中、様々な改善が施されて再設計されたQooCam 3 Ultraが、ついに登場することとなった。

QooCam 3 Ultraは、VRビデオのコンテンツ撮影はもとより、防水性能や手ブレ補正などを活かしたアクションカムとしての利用、静止画としての360°パノラマ撮影、その延長として、GPS内蔵によるGoogleストリートビュー等マップへの利用、4つのマイクを内蔵した空間音声への対応など、多彩な機能を搭載することで、ユーザーの様々なニーズや用途に応じた仕上がりになっている。

VRヘッドセットの解像度や表示性能の向上により、VRカメラにおいても、画質や広域なダイナミックレンジへの要求が高まる中、QooCam 3 Ultraは、Kandaoの並々ならぬ画質へのこだわりが感じられる製品である。

「QooCam 3 Ultra」満を持して登場説明写真
QooCam 8K(左)、QooCam 3 Ultra(中央)、QooCam 3(右)

QooCam 3 Ultraの外観と主な特徴について

QooCam 3 Ultraの主なポイントをピックアップすると、以下の通りである。

  • 最大8K 360°の動画性能
  • 最大96MP(14K) 360°の静止画性能
  • 最大4K180°シングルレンズモード
  • 絞りF1.6の大口径レンズ
  • ソニー製のデュアル1/1.7 イメージセンサー
  • 10ビット HLGの色域をカバー
  • 明るい場面のハイライト領域を、鮮明に捉えるDR(ダイナミックレンジ)ブースト
  • SuperSteady安定化(手ブレ補正)
  • 4つのマイクによる空間音声
  • IP68防水性能
  • GPS機能内蔵

QooCam 3 Ultraの本体の大きさは、71.5mm×103.2mm×26.6mm。重さは、バッテリーなしの状態で296g。バッテリーを含めた場合は336gとなっている。タッチスクリーンのサイズは、2.19インチである。

QooCam 3 Ultraの製品写真
    テキスト
QooCam 3 Ultraのセット一式を開封した状態
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QooCam 3 Ultraでは、レンズの大口径化と結像性能の向上のために、屈曲光学系ではなく、ストレートな光学系が選択されている。そのため、内部のパーツの構成の兼ね合いもあり、バックトゥバックではなく、QooCam 3やGoPro MAXのように、オフセットのレイアウトに配置されている。

イメージセンサーの処理には、Quad Bayer配列を採用。配置に関しては、4つのピクセルを、1つのユニットに組み合わせて、2×2のパターンでカラーフィルターを共有することで、高感度と高解像度の両立を実現している。QooCam 3 Ultraの8Kの映像は、Quad Bayer(ネイティブ 8K)に基づいて、大きなピクセルを使用してキャプチャされる。競合機やスマートフォンの多くは、Quad Bayerビニング(1/4解像度)の仕様でレンズが設計されているが、QooCam 3 Ultraのレンズは、14K解像度の仕様に即して設計されている。

また、バックトゥバックではない、非整合なレンズのレイアウトにより発生する近距離ステッチの課題を改善するために、専用PCアプリのQooCam Studioには、「ダイナミック スティッチ」のオプションが実装されている。ダイナミックステッチは、オプティカルフローがオンの場合にのみ、有効になる。

オプティカルフローだけを使用した場合は、その効果は、ステッチで重なり合う領域内の画像のみに作用するが、ダイナミックステッチは、オーバーラップの領域外を調整し、レンズからレンズへの滑らかな移行を確保する。この改善は、近接の被写体に最も顕著である。現在、ステッチはアプリの処理に依存しておこなわれているが、Kandaoによると、9月下旬頃を目処に、オフラインのカメラ内ステッチを実装する予定とのことだ。ライブストリーミングとリアルタイムステッチングはその後、対応する模様である。

ストレートな光学系を優先。そのトレードオフとして、レンズの配置はオフセットとなっている
Quad Bayerのイメージセンサーの原理
専用PCアプリのQooCam Studioには、「ダイナミックステッチ」のオプションが実装された
オプティカルフローをオフ
オプティカルフローをオン
ダイナミックステッチをオン

オプティカルフローがオフになっている場合、2つのレンズの画像には、ステッチエラーが発生している。オプティカルフローをオンにすると、重なる領域が変化して、物体の線がつながるものの、まだ、曲がっている状態である。ダイナミックステッチを利用することで、オーバーラップ領域の内外を補正して、この曲線を補正することができる
オプティカルフローOFF
オプティカルフローON
ダイナミックステッチON

筐体のレンズ間の側面の方向に立ち、カメラから、およそ50cmの距離で、ステッチの精度を試してみた

筐体の4面には、マイクの穴が設置されている(因みに、側面のモードボタンのすぐ下の穴は、カメラが水中に浸っているときの空気圧バランス孔だ)。

オーディオに関しては、上記の4つのマイクにより、空間音声に対応。さらに、Bluetoothオーディオ接続、そして、多用途なUSB Type-C端子は、デジタルオーディオ入力をサポートしている。

また、ネットワーク接続に関しては、カメラからWi-Fi経由で、ファームウェアをダウンロードして、直接、アップデートを実行することができる。スマホのアプリを使用したい場合は、「設定」の「ネットワーク接続」から、「カメラホットスポット」を「オン」にすることで可能となる。

内蔵ストレージの128GBの他、外部マイクロSDカードもサポートしている。

QooCam 3 Ultraには、排熱孔や冷却用のファンが内蔵されており、発熱対策が施されている。「ファン設定」は、「サイレント」、「パフォーマンス」、「常にオン」の3種類である。交換式外部バッテリーの容量は、2280mAh。筆者が録画可能時間を検証したところ、45分程度で発熱によりサーマルシャットダウンした。その際の、筐体の最も高温の箇所は53.2℃であった。

ファン設定には、3つのオプションが用意されている

因みに、排気システム(排気管を含む)と本体は隔離されており、防水仕様を可能にしている。ファンブレードは、通気システム内にあるが、それらの部品も防水仕様になっている。

GPS機能が内蔵されており、Googleストリートビュー他、マップの利用に対応している。位置情報は写真と動画の両方に保存される。写真の場合は、Lightroomのマップモジュール等で、直接位置を確認することができる。

カメラの「設定」から「位置情報」をオンにすることで、GPS機能が有効となる
動画の場合、Qoocam Studioから、GPXファイルをエクスポートすることができる
QooCam 3 Ultraの位置情報をオンにして撮影した写真は、Adobe Lightroom Classicのマップモジュールで、直接、位置を表示、確認することができる

QooCam 3 Ultraの詳しいスペックは、以下の通り。

    テキスト
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QooCam 3 Ultraの機能及び性能について

10-bit BT.2020とHLG

QooCam 3 Ultraでは、HLGビデオ録画とHDRパノラマ(静止画)をサポートしている。最大10億色の色深度と高精細なディテールを保持すると共に、色表現の向上が図られている。HLG10bit映像は、HDRディスプレイで表示することが推奨されている。Apple Vision ProやMeta Quest 3対応のVR再生アプリKandao XRは、イマーシブビデオ(HDR)再生/表示をサポートしている。

8K 30fps 10bit、Rec 2020、HLGで撮影、Premiere Proで、Rec 709に変更して、トーンマップ(輝度変換)処理を施した

DR(ダイナミックレンジ)ブースト

DR(ダイナミックレンジ)ブーストは、晴天時の日中の屋外など、明るい場面の映像のハイライトを鮮明に捉えることができる機能だ。

その原理は、Quad Bayer配列の4つのピクセルを、長時間、中時間、短時間のそれぞれの露出に使用し、1つのピクセルに統合することにある。その結果、A/D変換は、10bitから14bitに増加する。この機能は、8K 24/25/30fps、5.7K 24/25/30fps、24MPの写真において利用できる。ただし、ノイズ発生の観点から、暗いシーンには向かない。

ダイナミックレンジブースト

8K 30fps(DRブースト)10bit、Rec 2020、HLGで撮影、Premiere Proで、Rec 709に変更して、トーンマップ(輝度変換)処理を施した

F1.6の絞り

F1.6の明るい高速絞りにより、レンズを通過する光量が増えることで、シャッター速度が速くなり、低いISO値での撮影が可能となる。すなわち、ブレやノイズが軽減され、画像品質が向上する。

8K 30fps ISO800 1/50(低照度下撮影)10bit、Rec 2020、HLGで撮影、Premiere Proで、Rec 709に変更して、トーンマップ(輝度変換)処理を施した

8Kオーバーサンプリング

5.7Kビデオモードでは、24fps、25fps、30fps、50fps、60fpsの全てのフレームレートにおいて、8Kからオーバーサンプリングされる。その結果、画質向上、ノイズ低減のメリットが得られる。

5.7K 60fps 10bit、Rec 2020、HLGで撮影、Premiere Proで、Rec 709に変更して、トーンマップ(輝度変換)処理を施した

180°シングルレンズモード

360°動画撮影に加えて、Vlog向けに、最大4K60fpsの180°シングルレンズの動画記録モードが実装されている。フロントとリアのレンズは、切り替えて、使用することが可能だ。

180°シングルレンズモードの画角

SuperSteady 手ブレ補正

6軸ジャイロスコープとKandao自慢の手ブレ補正アルゴリズムによるSuperSteadyを搭載。安定した滑らかな移動撮影を実現する。

歩行しながら360°撮影したクリップに、QooCam Studioで手ブレ補正SuperSteady(ホライズンステディ)を適用

96MPの高解像度360°パノラマ写真

QooCam 3 Ultraは、競合機を圧倒的に上回る最大96MP(14K 13888×6944)の超高解像度360°パノラマ写真撮影をサポートしている。高解像度撮影が不要な場合は、24MPを選択できる。また、前述の通り、ダイナミックレンジブーストは、静止画の場合、24MPのみで使用可能である。

    テキスト
撮りっぱなしの96MP JPG画像
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DNG8とRAW+

DNG8モードでは、1回のシャッターを押すことで、8枚のDNG 写真を異なるISOで撮影。これらの写真を、QooCam StudioのRaw+アルゴリズムを使用して、1枚のDNGファイルにマージ、画像のディテールを強化し、画像処理耐性の高いファイルに変換する。DNG8のマージは、これまでRAW+という別アプリで実行する仕様であったが、今年の3月より、QooCam Studio内での処理が可能となり、スムーズなフローに改善された。

    テキスト
DNG8をQooCam StudioでRAW+処理、8枚のDNGファイルを一枚のDNGに統合した後、Adobe Lightroom Classicにて、画像処理を施した
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まとめ

QooCam 3 Ultraの発売は、コンパクトなVRカメラによる8K動画や14K静止画などの高解像度、且つ高画質の撮影を望むクリエイターにとっては、朗報であろう。

QooCam 8Kの登場から、4年以上を経て、さらに携帯性と高品質の両立を目指した仕上がりとなっている。

絵造りも、従来のシリーズのそれより、過度な彩度が抑えられ、比較的、自然な発色に落ち着いた印象だ。10bit BT2020(HLG)撮影では、ハイライトのデティールが豊かに表現され、ダイナミックレンジブーストを用いた場合は、発色も鮮やかになる。VRヘッドセットで視聴した場合でも、コンシューマー機で撮影したとは思えぬクオリティーを実感した。フレームレートのフレーム数による、画質の変化はない。ただし、筆者が検証した段階では、動画において、雲の周辺の描写で、若干のフリッカーの発生が見られることがあったので、メーカーに改善を要望し、先方でもアップデートに向けて、対応中とのことだ。筆者としても、引き続き、検証をつづけたいと思う。静止画においては、最大96MP(14K )の高解像度360°パノラマ写真撮影のスペックと、DNG8による画像処理の自由度のアドバンテージは高い。

操作性のフィーリングも良好である。QooCam 3 Ultraでは、Android OSが搭載されているにも関わらず、非常に起動が早くて、驚いた。Kandaoは、今回、高速起動のための特別な機能を開発した。カメラの電源を入れる際には、高速起動とスロー起動の2つの起動状態がある。

スロー起動の場合、スタートには約20秒かかり、高速起動には約1秒かかる。カメラのバッテリーを交換したり、8時間以上オフにしていた場合は、高速起動を使用する前に、カメラのスロー起動を経る必要がある。Androidシステムは、すでにメモリにロードされているので、これによって、高速ブートが可能になる。この状態で8時間経過すると、カメラは完全にオフになる。バッテリーを交換すると、DRAMも消える。

QooCam 3 Ultraには、排熱孔や冷却用のファンが内蔵されており、発熱対策は、充実している。ただし、ユーザーが任意にファンを完全停止させることはできないため、集音に影響する場合があると考えられる。短時間でもオフにできると良いと思うので、それについても、メーカーに進言している。

当面の回避策としては、必要に応じて、外部マイクを使用して、ファン干渉を避けることになるだろう。

QooCam 3 Ultraは、DJI Mic 2などのBluetoothマイク、またはRODEのWireless GOシリーズなどのUSBマイクをサポートしている。

なお、オーディオに関しては、正式リリース前に、QooCam Studioのノイズ低減機能を、より最適化して、アップデートする予定とのことだ。

また、提供された実機は、大量生産前の評価機であり、防水仕様に未対応の筐体であったため、防水性能については、評価ができなかった。製品版は、防水対応が整った形で、出荷されるとのことだ。尚、製品版が市中に出回る際には、仕様やUIが変更になっている可能性があるので、その点については、ご了承いただきたい。

アクセサリーとしては、充電ケース付き交換可能バッテリー、レンズプロテクター、サイクリング マウント等が用意されている。

QooCam 3 Ultraは、その他の競合機と比較して、筐体は些か重く、職人気質なもの造りを感じさせる佇まいだ。同じ8KのVRカメラのInsta360 X4などと比べても、目指す方向性やターゲットユーザーも若干異なる。コンシューマー向けといえども、業務の使用を想定したプロ仕様として設計されており、画質等にこだわる玄人肌のクリエイター向けの製品と言えるだろう。8Kの高解像度が不要であるというユーザーには、シリーズ内でQooCam 3が用意されており、二段構えな展開も、マーケティングとしては、正しいと思える。QooCam 3 Ultraは、通常価格が、96,800円。

早期割引価格は、81,300円で8月10日まで、同社サイトで、先行予約を受け付ける。出荷は、8月10日頃から開始される見込みとのこと。正式発売については、現在、未定である。

別売りのアクセサリーのレンズプロテクター
交換可能バッテリー(2280mAh)(左)と別売りの充電ケース(右)

WRITER PROFILE

染瀬直人

染瀬直人

映像作家、写真家、VRコンテンツ・クリエイター、YouTube Space Tokyo 360ビデオインストラクター。GoogleのプロジェクトVR Creator Labメンター。VRの勉強会「VR未来塾」主宰。