世界初の8K 360°全景ドローン「Antigravity A1」が、業界の常識を塗り替える。発表以来、「TIME誌ベスト・インベンション2025」、「グッドデザイン賞2025」など数々のアワードを受賞して評価を受けてきたA1。日本における発売を機に、249gの軽量な機体に込められた技術革新と飛行の民主化への情熱について、Antigravity社CEOのMichael Shabun(マイケル・シャブン)氏と同社の開発責任者 Newey 纽维(ニューウェイ)氏に話を伺った。本記事は、Antigravity A1の全容と核心に迫る単独ロングインタビューである。
Antigravity社とそのビジョンについて
――会社設立の背景とAntigravity社のミッションや未来のビジョンを教えてください。
Michael氏:
ドローン業界は、いま壁にぶつかっています。スペックは年々向上する一方、ユーザー体験は変わっていません。多くのドローンがより高く、より長く飛べるようになりましたが、一般ユーザーが実際に感じている課題には対応できていないのです。情熱的なエンジニアと飛行愛好家たちがAntigravityに集まり、伝統を打ち破り、飛行方法を再定義することを望んでいます。この自由な飛行に対する願望が、われわれのチームのイノベーションにインスピレーションを引き起こし、A1を開発するきっかけとなりました。Antigravityが最終的に実現したいビジョンは、ドローンのオペレーションを少数者の特権から、誰もが簡単に体験できる新しい方法へと変えることにより、飛行の可能性を再定義することです。
――社名の由来を教えてください。
Michael氏:
Antigravity(アンチグラビティ)は直訳すると「反重力」の意味で、平凡の対極にある無限の可能性を意味します。360°全景ドローン自体が伝統を打ち破って業界を変える象徴です。
製品は反重力状態で空を舞う飛行体験を提供します。「反逆」というブランド精神の共通認識を確立した先に、この名称は必然的に生まれました。
――会社の業務体系について、教えてください。
Michael氏:
AntigravityはInsta360と第三者との共同開発によって誕生した新ドローンブランドです。当社は専門的な研究開発、マーケティング、サービスチームなどを擁しており、同時にInsta360も多方面からAntigravityをサポートしています。
――今後の数年間で、Antigravityはどのようなポジション・役割を果たすと考えていますか?
Michael氏:
360°全景ドローンは全く新しい市場カテゴリーを切り開きました。従来のドローンと360°全景ドローンの関係は、電気自動車と従来の自動車の関係に例えることができます。これは、人間の直感に最も合致したコンシューマー向けドローンです。パノラマレンズとコントローラーの体感操作により、手が方向を示し、視線が焦点となるため、複雑なカメラワークは不要です。ゴーグルと組み合わせることで、鳥が空を飛ぶように空間全体、世界全体を感じ取ることができます。従来のドローンは「撮影愛好家のツール」に過ぎませんでしたが、全景ドローンはより多くの人々にドローンを身近なものにします。撮影のためだけでなく、飛行そのものの楽しさや、空から風景を探索する喜びのためにも魅力的です。これは多くの人々の旅行スタイルを変える製品になるでしょう。ドローン業界の発展における新たな方向性とトレンドに違いありません。
――グローバル展開という観点で、日本市場、アジア市場、欧米市場のそれぞれに対してどのようなアプローチを想定していますか?
Michael氏:
Antigravityの理念はオープンで協力を重視しています。この8月から世界中のユーザーと共に製品体験を磨き上げてきました。今後も各地域の市場特性に基づき、現地の販売代理店やマーケティングパートナーと連携し、360°全景ドローンのさらなる可能性を共に探求していきます。同時に、主要市場にオフィスを設立し、現地雇用を促進するとともに、地域文化を主軸とした市場戦略を展開していきたいと考えています。
――社内の製品開発チーム・技術チームの体制やカルチャーを教えてください。どんな専門スキルや価値観が大切にされていますか?
Newey氏:
当社の研究開発チームは、能力と経験の蓄積があると共に、活力とモチベーションを備えたチームです。問題に対して「有責無界」であり、問題解決の能力と責任感を持つことが重要視されています。
*「有責無界(ゆうせきむかい)」とは、中国の主にIT企業などで、組織文化や人材育成の理念として用いられる行動規範であり、責任の主体を明確にしつつ、部署や地位などの従来の組織の境界をなくし、共同で問題を解決するという意味。

Antigravity A1における技術・設計・開発のストーリー
――「Antigravity A1」を開発した最も大きな動機と、実現したかったビジョンは何でしょうか?「世界初のオールインワン8K 360°ドローン」というコンセプトは、どのような課題を解決するために生まれたのでしょうか?
Newey氏:
Antigravityの誕生のインスピレーションは、弊社内のドローン愛好家、クリエイター、エンジニアたちの実際のニーズから来ています。彼らは、コンシューマー向けドローンがすでに成熟し、ここ数年もパラメーターはアップグレードされてはいるものの、実際の多くのシーンでユーザーの問題が解決されていないことに気づきました。それらはすべて、シンプルで本能的な人類が自由に空を飛びたいという原始的な願望につながります。この希求が、チームに飛行の意味を考え直させ、飛行方法を再定義する製品を作り出し、天空の探索と映像の物語を本当に手に入れられるところまで持っていきました。
「世界初の8K 360°全景ドローン」というコンセプトが生まれたのは、主にドローンに関する不安を解決したかったからです。操作面の困難や撮影の構図と編集の難しさ、飛行中は完全に没入することができないなどの問題です。「360°」の利点は主に2つあります。体験面では、ユーザーは鳥のように飛行中に自由に周囲を見回すことができます。制作面では、360°カメラが一度に全角度を撮影できるため、ユーザーは飛行中に正確な構図を考える必要がなく、撮影後に自由に視点を調整でき、複数のアングルやアスペクト比の選択が可能な後編集を実現します。これは創作プロセスを大幅に簡素化し、撮影効率と創作の自由度を向上させます。8Kは創作の品質を守るためです。

――市場に存在する他の360°カメラやFPVドローンと比較して、「AntiGravity A1」の最大の競争優位性はどこにあるとお考えですか?
Newey氏:
A1は伝統的なFPVドローンではありません。主な違いは視線の自由度、操作体験、ターゲットユーザー、機能特性にあります。
A1は視線と飛行方向を完全に分離することができ、右に飛んでいる時に左を見たり、上昇しながら下を見たりできます。まるで自分が空中にいるかのように自由に見回すことができるので、それは車を運転するときに自由に周囲を見回せるのと同じです。しかし、FPVドローンの視野は通常、飛行経路とジンバルの視点内に限定されており、他の方向を見るには、飛行経路とジンバルの角度を調整する必要があり、視点は飛行方向に制限されます。「操作体験」の面から見て、A1はフリーモーションを採用しており、どこで飛ぶかを指し示すことで、すぐに飛行を開始して、その方法を学ぶことができます。
ターゲットユーザーと製品の特性も違います。A1は、新しい体験を試みるすべてのユーザー向けに制作されており、初心者でもすぐに始めることができます。より多くの人が飛行の楽しさとパノラマ撮影体験を簡単に楽しめるように設計されているのです。そもそも、FPVドローンのターゲットユーザーは、「没入感のある高速の飛行体験」を求める人、「ダイナミックな映像撮影」をしたいクリエイター、「レースやアクロバティックな飛行」に挑戦したいホビー層、そして「ドローンの操縦技術そのもの」を楽しみたいガチ勢(パイロット)など、主に「体験」と「技術」に重点を置く層です。FPVドローンは、極限のスポーツの撮影(自転車、スケートボード、サーフィンなど)や競技飛行、クロスファイターレースなどによく使われ、動きとスピード感を強調し、観客に臨場感あふれる一人称視点の飛行体験をもたらします。
一方、A1は旅行、アウトドア、日常記録などのシーンに適しており、ユーザーに新しい方法で世界を感じさせます。
総じて言えば、A1は全く新しいカテゴリーに含まれるもので、FPVドローンの没入感ある飛行体験、伝統的な空撮ドローンの撮影体験、そして全景ドローンの「まずは飛ばして、構図はあとから決める」という利点を兼ね備えているのです。
――8K 360°カメラの採用の中で、ステッチや「A1におけるInvisible Drone技術(ドローン本体やプロペラの消去)」について、特に工夫した点や、Insta360との連携について詳しくお聞かせください。
Newey氏:
ドローン本体やプロペラ消去の技術は、Insta360のアルゴリズムチーム、Antigravityの構造・組み込みシステム開発・ソフトウェアチームが共同で協力して完成したものです。
「A1におけるInvisible Drone」技術(ドローン本体やプロペラの消去)は、実はInsta360のXシリーズの「見えない自撮り棒」技術と同じ源流にあり、Arashi Visionのアルゴリズムチームが初期の段階にそのノウハウを提供しました。
次にA1の構造についてですが、通常のパノラマカメラでは、魚眼レンズと本体の位置関係は固定されています。しかし、A1はより複雑です。
(1)雲台は防振ボールを介して機体と柔軟に接続されています。
(2)ブレードは飛行中に揺れます。
(3)異なる地域(熱帯、高原、夏季、冬季)においては、上記の2点に差異があります。
このため、魚眼レンズと機体の位置関係は、飛行姿勢、地点、気候の違いによって動的に変化します。Antigravityの構造エンジニアは、多数の実証実験を実施し、見えない自撮り棒アルゴリズムをベースに、この部分の適応を行いました。
同時に、A1の設計チームとゴーグル設計チームは共同で開発を行う必要がありました。例えば、リアルタイムプレビュー時やゴーグルで素材を再生する際には、先に言及した動的なアルゴリズムに適合する必要があるからです。
――249gという軽量化の達成にあたって、設計・素材・バッテリーなどで特に工夫したポイントを教えてください。
Newey氏:
まず、構造設計とプロセスの最適化が挙げられます。本体の50以上の構造部品をそれぞれ重量分析し、個別に軽量化案を評価、検証しました。積層設計の改善と放熱構造の最適化により、熱持続時間が前世代比で約2倍向上する一方、放熱構造の金属部品を約8g軽量化しました。オーディオ関連構造を簡素化し、金型部品を5点削減し、コスト削減を達成すると同時に約3gの軽量化を実現。バッテリー設計を最適化し、バッテリーケースを薄型化するとともに金属ロック機構を廃止し、3g以上の軽量化を達成しました。
次に、最小限の実行可能システム設計については、「全景ドローンの最小システム」を中核コンセプトとし、クアッドコプター、ステルス処理が必要な2つのパノラマレンズ、バッテリー、メインボードの基本構成を確定し、冗長設計を回避。魚眼レンズ保護のため自動着陸装置を採用し、複雑な回転・昇降機構を代替します。レンズの安全性を確保しつつ構造の複雑さと重量を低減しました。
また、249gの軽量で折りたたみ可能なデザインを採用し、フラグシップ性能を手のひらサイズに凝縮し、携帯性を向上させると同時に軽量化の要求を満たしました。
バッテリーの最適化については、標準バッテリーを設計することにより、ドローンの使用時の重量を249g以内に維持し、欧州のC0カテゴリー(登録不要要件)に適合させました。また、バッテリーケースを薄型化し、金属製のロックを廃止することで、バッテリーケースの設計を最適化して、さらなる軽量化を実現しました。

――A1の耐風性について、考慮した点はどこでしょうか?
Newey氏:
A1は10.7m/sの風に対する耐久性を備えており、「疾風」(風速8.0~10.8m/s未満)の条件下でも安定した飛行が可能です。例えば、海岸における中強度の風の環境下でも、撮影した映像は安定かつ滑らかです。FlowState手ブレ補正により、風の強い状況でも滑らかで安定した映像を実現しますから、ほとんどのユーザーの撮影ニーズに対応することができます。
――「Vision Goggles(Visionゴーグル)」と「Gripコントローラー」によるヘッドセット・ファーストの直感的な操作体験は、従来のドローンの操作と比べてどのような点が革新的ですか?「Point-to-Fly(指差し飛行)」や「FreeMotion Mode」は、初心者パイロットの習熟度をどのように変えるものと期待していますか?
Newey氏:
従来のドローンやFPVドローンとは異なり、全景ドローンのA1は「見るロジック」を覆します。従来はドローンの飛行方向しか見ることができませんでしたが、A1では前方に飛びながらも、鳥のように他の方向も見ることができます。グリップコントローラーとFreeMotion Modeにより、誰でも1分以内に飛行を習得することができます。グリップコントローラーを活用し、任意の方向を指してトリガーを引けば、ドローンがそこに向かって飛びます。人間の本能に合った動作により、習得が必要な操作桿の指令を代用する訳です。実際に「指し示したところに飛ぶ」ことで、ユーザーは自然にコントロール感を身につけ飛行の自信を得ることができます。一切の学習コストがありません。ユーザーの意識を「どうやって飛ぶか」から「どこへ探索に向かうか」にシフトさせ、完全に「今」に没頭させることで、景色を見たり好奇心を満たすことに集中させます。

――A1の本体やVisionゴーグル、Gripコントローラーのデザインは、どのような哲学に基づいて設計されていますか? 機能性と操作性・デザインのバランスについてお聞かせください。
Newey氏:
A1本体、Visionゴーグル、Gripコントローラーの設計の中核の理念はすべて「ユーザー体験」です。あなたのご指摘の通り、機能、操作、デザインにおいては多くのトレードオフがあります。例えば、あるモジュールを追加すると、重量が249gを超える可能性があり、重量を制限すればバッテリー容量が足りなくなるなどです。ここ数年、私たちは多くのトレードオフが必要な瞬間に直面し、核心となる機能に焦点を当てる術を理解するようになりました。
Visionゴーグルは確かに特別です。従来のドローンでは、ユーザーはリモコンの小さな画面を見なければならず、視野がとても狭かった訳です。しかし、Visionゴーグルを使うと、ユーザーは現場にいるように感じ、受動的な存在から能動的な探索者に変わります。A1のゴーグルでは、ドローンが前方にしか進めない場合でも、ユーザーは360°を自由に見まわすことができます。飛行体験がもっと直感的で自然な体験になります。われわれの多くの同僚は飛行するときに「本当に自分が鳥になったような気がする」と言っています。
この効果を達成するために、R&Dチームは多大な努力を傾けました。例えば、業界をリードするパンケーキ光学構造とデュアル1インチMicro – OLED(2560×2560)ディスプレイを採用し、200インチの(仮想の)巨大スクリーンをフライトゴーグルに組み込むことで、HDR10+の衝撃的な視覚効果を実現することを可能にしました。この組み合わせは、広い視野を提供するだけでなく、画面の鮮明度と没入感を著しく向上させます。同時に、ユーザーの装着感も重視し、分割式バッテリー設計を採用しています。本体重量はわずか340gで、競合製品よりも大幅に軽量です。一部の競合製品のゴーグルは内蔵バッテリーを搭載しており、重量が500g近くあり、長時間の装着によりユーザーに不快感を与える可能性があります。
開発の際、チームはVR酔いという技術的な難関に直面しました。ユーザーがゴーグルを装着すると、ドローンの映像伝送に40〜150ミリ秒の遅延があるため、酔いを引き起こす可能性があったのです。この問題を解決するため、開発チームは業界をリードする革新的なRTW(Remote TimeWarp)フレーム挿入技術を搭載しました。AIアルゴリズムを使って、ユーザーの頭部動作を事前に予測し、画面フレームをスマートに補完することで、画面の流れをスムーズにします。また、低遅延映像伝送と組み合わせることで、酔いやバランス感覚の喪失を大幅に減らします。さらに、Visionゴーグルは、イマーシブモードやComfort viewモード(VR酔いを低減する)など2種類の視聴モードを提供しています。ユーザーは自身の適応度に合わせて、最も快適な視聴方法を選べます。
A1ではさらにVisionゴーグルに革新的なディスプレイを搭載しました。ドローンが撮影した映像を表面にリアルタイム表示でき、皆でドローンを飛ばす際に周囲の人が退屈してしまう問題を解決します。誰もが飛行の視点と楽しさを直感的に体感できるのです。A1と未接続時にはサブスクリーンにプリセットのアニメーション効果を表示することで、楽しさと独創性を高めます。


――レンズ保護、格納式着陸装置などについても、説明していただけますか?
Newey氏:
A1は交換可能なレンズを搭載しており、パノラマレンズが衝突により傷が付いた場合、レンズを自分で交換することができ、面倒な修理を待つ必要はありません。飛行後、カメラレンズとビジュアルシステムのセンサーが汚損されていないかを確認し、必要に応じて、公式のガイドに従ってレンズまたはセンサーを清掃し、湿布やアルコール含有のクリーナーを使用しないようにして、液体の浸入によりショートするのを防いでください。収納式の着陸装置は起動時に自動的に展開するため、展開するスペースを予め確保する必要があります。起動中は手動操作を行わないでください。構造が損傷する恐れがあります。
――「Sky Path」や「Deep Track」といったAI機能は、映像制作のワークフローを、どのように効率化しますか?
Newey氏:
スカイパスではドローン操作という元々孤独な作業を、意味のある共有体験へと変えます。飛行経路を構築し、A1が自律的にナビゲートできるようにします。 Visionゴーグルを友人や家族に渡して、飛行のスリルを体験させてあげることが可能です。 一人の情熱を、皆で分かち合う喜びに変えます。友人や家族は、パイロットがドローンを飛ばしている間、待っている必要はありません。今や彼らも体験に参加できるのです。また、正確な飛行ルートを計画・保存し、ドローンが事前に設定された地点間をスムーズに移動できるため、高度なコンテンツ制作に最適です。
Deep Track(深度追跡)は、対象を選択することにより、A1が自動的に追跡して撮影する技術です。パノラマ撮影を採用しているため、撮影中に主体がずれても、後で欠損なく構図を調整することができ、主体が常に画面の中心に位置することを保証し、主体の位置変化による再撮影を減らし、撮影効率を向上させます。
――このように多くの技術が集中する中で、どのようにUX(ユーザー体験)を最優先に据えて、設計・仕様決定をしましたか?
Newey氏:
技術が複雑に絡み合う環境において、ユーザー体験を最優先に置くことは、本質的にユーザー中心のデザイン哲学を貫くことになります。仕様はユーザー体験の数値的表現に過ぎず、様々な技術もより優れた体験を実現するためのツールに過ぎないと考えます。デザインプロセスにおいてユーザー体験は目標であると同時に私たちの基準であり、実際にそれはあらゆる工程に貫かれています。そうして初めて、真にユーザーにとっての価値を創造する製品を最終的に提供できるものと考えています。
開発上の課題と安全性について
――最も技術的に困難だった点、または予期せぬ課題は何でしたか?
Newey氏:
ドローンのような非常に複雑な電子製品では、ほとんどすべての部分が技術的な難しさになっています。その中でも、画像伝送、バッテリー、飛行制御、障害物回避などの項目は、ドローンにとって特に重要です。これらの項目は飛行の安全と深く関係しており、性能や信頼性の要求水準は非常に高いものです。各部分を改良して、最終的にA1を完成させたことこそ、最大の挑戦だったと言えるでしょう。
――機体重量を249g未満に抑えた背景には、世界的な規制(EU C0クラスなど)への対応があると思いますが、その上で設計時に最も重視した安全対策は何でしょうか?障害物回避、ペイロード検知、帰還機能などの安全機能をどのように設計して、盛り込みましたか?
Newey氏:
多くの国や地域では、250g未満のドローンには、より緩やかな飛行要件が適用されるため、重量を249gに抑えることを選択しました。安全対策はドローン設計の最優先事項であり、障害物回避、帰還機能、飛行制御はいずれも重要な要素です。しかし、これは最も困難な課題でした。従来の249gドローンよりもレンズを1つ追加していることを考慮すると尚更です。軽量化設計は複雑なシステムエンジニアリングであり、性能を一切損なわずに249gを実現するために、エンジニア陣は多大な努力を払いました。
――A1をより多くのユーザーに普及させる上で、現在の技術的または市場的な課題は何ですか。特に、製品化にあたって、日本も含めた世界各国で異なるドローン法規制、安全基準、重量クラス、認証空域アクセス、ライセンス・飛行制限といった外部環境の変化をどう見ていますか?
Newey氏:
当社はドローンの規制への対応を非常に重視しており、専門チームが各国のドローン関連法規を研究し、法規に基づいて設計の制約を策定して製品開発を指導しています。各国の法規の違いに対しては、当社はドローンが所在する地域に応じて現地の国・地域の法規要件に適合させます。同時に、当社には飛行安全データベースがあり、その中の飛行禁止・制限区域に基づいてドローンの飛行を制約しています。また、各地の無人機を規制する行政部門の業務に積極的に協力し、最新の政策情報を把握します。各国の法規は絶えず更新・発展しており、最新の法規要件をいち早く満たす必要があり、作業量は非常に大きく、率直に言ってこれは当社にとって挑戦となっています。
――サステナビリティ・素材調達、リペアやメンテナンス体制など、製品のライフサイクル全体では、どのように社会的責任を捉えていますか?
Michael氏:
A1はレンズの交換が可能な新構造を採用しています。ユーザー自身でレンズを交換することができ、これにより修理の往復による余分な炭素排出と資源の浪費を大幅に削減しています。さらに、当社は積極的にCSR(企業の社会的責任)プロジェクトを進めており、全景ドローンの技術を平和利用に向けることを企業発展の根幹としています。具体的には、A1には過荷重を検知して誤用を防ぐペイロード検知システムを搭載し、戦争用途の改造に利用されることを避け、飛行を楽しさと創造性の源として維持することに努めています。
ターゲットユーザー・市場戦略・活用シーンについて
――主なターゲットユーザーはプロの映像クリエイターでしょうか、それとも一般のドローン愛好家、アクションスポーツのアスリートなどでしょうか?
Michael氏:
Antigravity A1は、新しい体験をしたいすべてのユーザーのために作られました。映像クリエイターやアウトドア冒険家、従来のドローンに飽きたテクノロジー愛好家など、新しい方法で世界を探索したり、飛行体験をしたり、撮影時に美しい瞬間を逃さないことを望む人には、A1が最適です。
――現在、異なる3つのバンドル(Standard、Explorer、Infinity)が用意されている理由と、それぞれのパイロット層への推奨ポイントをお聞かせください。
Michael氏:
3つのSKU(ストック・キーピング・ユニット/在庫管理の最小単位)の違いは、主にバッテリーと一部のアクセサリーにあります。ユーザーは自身のバッテリー持続時間に対する要求に応じて選択できます。
――「こういうシーンには特にA1が強い、逆に注意が必要だ」という具体例はありますか?ユーザーに向けた"ベストプラクティス"があればぜひ教えてください。
Newey氏:
飛行条件を満たす場合、A1は旅行やアウトドアなどのシーンに最適です。ユーザーはA1を使って新しい方法で世界を楽しみ、美しい瞬間を記録できます。例えば、旅行中にA1でパノラマ撮影をすると、後で様々なカメラワーク効果を自由に編集できて、360°を一度に楽しめますから、あらゆるプラットフォームでの共有ニーズを満たすことができます。ただし、暗い場所や細い枝の間を高速で通過するなどの複雑な環境では、安全を考慮して慎重に飛行してください。
――「Antigravity Care」のような周辺サービスの位置づけについてもお聞かせください。
Michael氏:
ドローンにとって、ユーザーに安心を提供するためにもアフターサービスは極めて重要です。弊社は「Antigravity Care」として、落下や衝突、水濡れなどの事故の解決策を提供し、製品の偶発的な損傷をカバーするための交換サービスを用意しています。Antigravity Careを利用して製品を交換に出す際は、発送・返送にかかる送料を当社が全額負担します。
今後の展開〜次世代製品やロードマップは?
――他社製品との差別化を維持・強化していくために、今後どのような技術的ロードマップや戦略がありますか?
Newey氏:
より具体的な技術路線や戦略については公開できませんが、「イノベーション」というキーワードが当社の長期的な差別化における優位性となるでしょう。また、ファームウェアを更新して、A1ユーザーの使い心地を常に良くしていきます。引き続き期待していただけると嬉しいです。
――A1は海外の一部では日本より先行して発売されましたが、ユーザーからのフィードバックや市場の反応をどのように捉えていますか?それは次期製品の開発にどのように影響するでしょうか?
Michael氏:
われわれはユーザーからのフィードバックや市場反応を非常に重視しており、様々なチャネルを通じて情報を収集します。それはユーザーがオンラインおよびオフラインで自発的に当社に連絡することや、KOL(Key Opinion Leader/専門知識や経験に基づき強い影響力を持つ者)の動画下のコメント、オフラインイベントにおけるメディア・パートナーとの交流なども含まれ、これらすべてが当社の意見収集の情報源となります。当社は意見を集約し、次世代製品を前進させるための参考基盤として活用します。
――従来型リモコンモードの追加なども、具体的に検討されていますか?
Newey氏:
実はリモコンモードに関する計画はすでに準備中で、まもなく皆さんに披露できる予定です。
――今後、映像制作会社、メディア企業、監視用途などB to B向けの展開も視野に入れていますか?その際の課題は何でしょう?
Michael氏:
現段階でのAntigravityの目標は、ユーザーに対する洞察と技術革新を通じて、コンシューマー向けドローンにおけるユーザーのペインを解消し続け、より快適で安全で没入感のあるドローンの飛行体験の創出に専念することです。また、染瀬さんが言及した映画制作会社やメディア企業なども、すでにA1をコンテンツ制作の重要なツールとして利用しています。例えば、アメリカのプロ野球のメジャーリーグベースボールでも、A1を撮影に利用しています。世界のメディア環境の変化と転換に伴い、ショートビデオのアプリに投稿したり、クールでクリエイティブなショットの撮影や没入型VRニュースや非定型のビジュアル表現まで、A1はすべてのメディア向けに活用できるものと考えています。To Bの挑戦は、企業顧客と一般ユーザーのニーズの重点がしばしば異なりますが、これも私たちが自身の向上を続けるための原動力の一つとなるでしょう。

購入検討者や市場へのメッセージ
――日本のユーザーに向けて、Antigravity A1を選ぶ際にぜひ知っておいてほしいポイントをひとことで語るとしたら、いかがでしょうか?
Michael氏:
世界初の360° 8Kカメラを搭載したドローンで、臨場感あふれる直感的なドローン飛行を体験してください。まずは飛行し、フレーミングは後で決める。それは、すべての瞬間をキャプチャします。
――もしこれからドローン・空撮を始めたいという個人やクリエイターにアドバイスをするとしたら、どんな言葉をかけますか?
Michael氏:
ぜひ「飛行」がもたらす喜びを満喫してください。空撮によってあなたの創作にもたらされる驚きが得られることを願っています。A1は、そのためのパートナーとして、「体験」と「創作」の両面をサポートします。
――今後、Antigravity社の製品やサービスを通じて「こんなことができるようになります」など、ユーザーにとってワクワクするような未来のビジョンを教えてください。
Michael氏:
私たちは、引き続き良質な製品を磨き上げることで、より多くの人が「飛行」を愛し、生活の記録とシェアを愛するようになることを願っています。
――最後に、ユーザーコミュニティに何を期待しているか、メッセージをお願いします。
Michael氏:
最後に、私が深く印象に残った事例をご紹介したいと思います。あるパートナーが、A1のリリース前に家族と一緒に自宅近くの丘でテストフライトを行いました。彼は自分が飛行し終えた後、これまで一度も無人機を操縦したことのない弟にも飛行方法を教えたところ、弟は「超かっこいいね!」と言って、とても興奮していたそうです。
彼の母親もそばにいて、 Visionゴーグルのユニークな外部ディスプレイを通じて飛行の様子を見ながら、何十年も暮らしてきた町の別の一面を見ることができたそうです。最後に、彼は私たちに対して、この体験は「とてもハッピーだった」と語りました。
このフィードバックを得て、私の頭の中にもそのシーンが浮かぶと同時に、幸せを感じることができました。私たちは常に、テクノロジーを通じて人々がより良く生活を記録し、共有できるように支援することを目指しており、それは世代間のギャップを埋めたり、時空を超えた素敵な思い出を作り出すことができます。もし私が最も見たいものを尋ねられたら、おそらくこのような無数の幸せな瞬間だと答えるでしょう。日本のユーザーの皆さんと一緒に、A1を使って多くの素敵な思い出を創造し、記録し、共有できることを楽しみにしています。
――この度は貴重なインタビューの機会を、ありがとうございました。

まとめ
「Antigravity A1は空飛ぶカメラか、それとも自身の翼か」。インタビューを終えて抱いたのは、そんな感想だ。Antigravity A1が追求したのは、単なるスペックではない。直感的な操作と360°の視界により、操縦のストレスから解放され、誰もが「鳥の視点」を本能的に楽しめる未来である。技術の粋を集めながら、CEOや開発者から語られるビジョンは驚くほど人間中心だ。空を飛ぶ喜びが、一部の専門家や愛好家だけのものでなくなる日は、もうすぐそこまで来ているのかも知れない。
Antigravity A1は、Antigravity公式ストア、Eコマースプラットフォーム(アマゾン、楽天)、家電量販店(ヨドバシカメラ、ビックカメラ、ヤマダデンキ、 ジョーシン、 ケーズデンキ)、写真機材専門店、小売店チャネル(コストコ)などで発売される予定。
- スタンダードキット:209,000円(税込)
- エクスプローラーキット:249,000円(税込)
- インフィニティキット:263,900円(税込)
日本において指定期間(2025年12月18日20時~2026年1月3日24時)中に、オンラインストア及び店舗で対象バンドルを購入されたユーザーには、対象購入ごとに、25,000円相当の1年間の「Antigravity Care」サブスクリプションが無料で付与される。
*日本国内では、100g以上のドローン(無人航空機)の場合、国土交通省に機体登録する必要がある。また、特定飛行に該当する際には、飛行許可・承認などが必要になる。
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