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建設現場のDXを加速するべく、新たな360°カメラ RICOH360 THETA A1が登場した。コンシューマーからビジネス向けへと大きく舵を切ったTHETAの新しい挑戦だ。

なぜBtoBに特化したのか?従来の機種から何が変わったのか?

筆者によるTHETA A1とRICOH 360の検証を交えつつ、企画と開発にあたったプロジェクトメンバーが語る新製品に込められた想いと、その技術の全容に迫るロングインタビューをお届けする。

左から、
角田 陽一氏:Smart Vision事業センター プラットフォームセールス室 プロダクト開発室 ファームウェア開発グループ(画質設計担当)
川邉 浩平氏:Smart Vision事業センター プラットフォームセールス室 セールスエンジニアリンググループ(ハードウェア担当)
田中美帆氏:Smart Vision事業センター プラットフォームセールス室 販売企画グループ(ビジネスパッケージ事業面担当)*オンライン参加
清水祐輔氏:Smart Vision事業センター 事業推進室 プランニンググループ(企画・事業面 担当)*オンライン参加
鳥越 慎氏:Smart Vision事業センター プラットフォームセールス室 プロダクト開発室 ファームウェア開発グループ(クラウド担当)
廣瀬 光彦氏:Smart Vision事業センター プロダクト開発室 クラウド開発グループ(アプリ担当)

ビジネス用途に特化したモデル、RICOH360 THETA A1の誕生

――最初に、今回、発売された
RICOH360 THETA A1及びRICOH360ビジネスパッケージの概要について、お話しいただけますか?

清水氏:

2013年に初代RICOH THETAを発売、直近ではRICOH THETA Xを2022年7月に発売して3年ほど経過したところです。創業時からのコンシューマー事業は今も継続して行っていますが、近年は特にTHETA X発売以降、ビジネス用途向けのサービスに注力し、RICOH360というハードウェアとソフトウェアを連携させた統合型のクラウドサービスの開発に取り組んでいます。
我々はハードとソフトの両方を自社で保有しているため、多様な業界の現場の課題に寄り添った提案をおこなうことができる点に強みがあると考えています。
特に今回のTHETA A1に関しては、ビジネスの現場が抱えている課題に柔軟かつ適確に対応していきたいという思いから、ビジネス用途に特化したモデルとしてリリースさせていただきました。

THETA Z1では高画質を。THETA Xでは高解像度やプラグイン、大型液晶パネルを加えた多様な使い方に対応したモデルとしてリリースしてきましたが、THETA A1はビジネスの中でも建設市場のニーズに合わせ、防塵防滴性能や長時間安定動作などロバスト(堅牢)性を高めたモデルとして開発しています。
ラインナップとしては、THETA Z1とTHETA Xはコンシューマーも含めたこれまで通りの販売を継続し、THETA A1はビジネスに特化したパッケージ専用モデルとしてリリースします。

A1のコンセプトは"RICOH360システムの魅力を高めるTHETA"ということで、われわれの持っているクラウドとハードがシームレスにつながるところを一番の特長として開発を進めてきました。これまではブランド名を「RICOH THETA〜」としていたのですが、RICOH360の一部としてハードとソフトを組み合わせた形でユーザー体験を深めたいと考え、今回からRICOH360 THETA A1のように頭にRICOH360を付ける名称変更をおこなっています。

従来、THETAは単体で販売してきたのですが、これまでにない新しいデバイスでもありましたから、お客さまがいろいろ工夫をしたり、新しい使い方の発見をしたり、360°の可能性をユーザーの人たちと一緒に育てていこうということで展開してきました。一方で、ビジネスとなると、創造的な使い方というよりは、現場における課題や困りごとをどのように解決するかという視点が必要になりますので、われわれが具体的なソリューションを一つのパッケージとして提供することが重要だと考えています。

RICOH360 THETA A1外形:幅約52.8mm×高さ142.0mm×奥行き29.0mm(22.6mm レンズ部を除く)、質量:約225g(バッテリー含む)、約190g(本体のみ)。外装カバーの材質は、マグネシウム合金である
現行のTHETAシリーズの主力ラインナップ。左から、RICOH THETA X、RICOH360 THETA A1、RICOH THETA Z1

不動産市場での成功と、建設市場から広がるTHETAの可能性

清水氏:

主なターゲット業種としては建設業を考えています。
まずはニーズが明らかになっている建設業から入っていき、製造業や小売業、プラント開発のような大規模なところなどにも徐々に広げていきたいと考えます。
建設業の中でも管理や点検、遠隔臨場(離れたところから現場の各ポイントを検査する)、定点の記録・監視、このようなところにA1の特長を活かして販売していきたいと思っています。

――今回、BtoBにかなり振りきっているものと思いますが、その判断にいたる経緯を伺えますか?これまでもTHETA XやTHETA SC2 for Businessなど業務向けに意識されたモデルがありましたが、その辺りの機種の市場における手応えはいかがでしたか?

清水氏:

THETA SC2 for Businessは、実は非常に好評でして、当時のメイン市場は不動産市場でした。

――ビジネスと言っても不動産向けということでしたよね。

清水氏:

不動産の社員の方であったり、あるいは委託を受けたフォトグラファーの方などに、多く使っていただけたということが成功体験としてありました。
ここでポイントになるのは、不動産という分野での使われ方が、基本的にはプロモーションと呼ばれるもので、撮影した画像自体は販促の目的で利用され、ある意味ではカメラとそれを表示するための簡単なサービスがあれば完結してしまいます。
われわれとしてはハードの提供に加えて、当時からTHETA 360 Bizや海外ではRICOH360 Toursというサービスの提供をして非常にご好評をいただきました。
一方、不動産のニーズも変わらずあるのですが、段々と建設市場の中で需要が高まってきている背景には業界の人手不足という問題があります。例えば、遠い現場の調査にできるだけ少ない人数で行きたいとか、あるいは人が少なくなってくると経験者が減ってきてしまうので技術を伝承していきたいといったニーズが非常に高まっています。
そういった建設業界の課題に対しては、THETAで撮影した360°画像だけでは解決することが難しく、その画像をどう活用していくかが重要になります。そこで、ハードとソフトを両方持っているわれわれだからこそ、これらを組み合わせたソリューションを提供することで、人手不足という大きな社会課題に対してお役に立てることがあるのではないかと考え、THETA A1ではビジネス現場の課題解決を目的にBtoBに振り切ることにしました。

――THETA Xの私の所感としては、高機能のコンシューマー向け360°カメラという印象もありました。実際、ユーザーの反応はいかがでしたか?

清水氏:

360°カメラの初期から活用していただいているようなユーザーの方は、アプリレスでカメラ単体で利用されたり、HDR-DNGプラグインを楽しまれたり、さらにはプラグインを自ら作って活用されたりするなど進んだ使い方をしていらっしゃいます。
一方で、ビジネス用途のお客様は、いろいろやりたいというよりは、今ある課題、困りごとを解決したいというところに重きを置かれていますので、例えばそれぞれの現場や業務に最適化したようなプラグインを我々の方で開発して、それをインストールしたものをお届けするサービスなども検討しています。

――THETA Xを買われた方は、趣味で使われる目的の一般のユーザーの方と業務向けのユーザーとどちらが多いのですか?

清水氏:

THETA Xについても、業務向けで買っていただいている方の方が多いと考えています。

THETA A1は、建設現場における活用が想定されている

耐久性と熱対策を強化したTHETA A1の開発思想

――それでは、THETA A1のハード面についてお話を伺いたいと思います。スペック的にはTHETA Xとほとんど近い印象ですが、耐久性や排熱対策の面など、いろいろと改善点も見受けられます。光学系はTHETA Xを踏襲しているようですね。どのような理由から既存の仕様を維持して、どの辺りを改善しているのかなど、詳しくお聞かせいただけますか?

川邉氏:

仰る通り、基本的にはTHETA Xと同じ鏡筒(レンズユニット)を採用しています。差異としては、防塵・防滴モデルということで、水が入らないといった構造上の部分は設計が変わっています。使っているレンズやイメージセンサーに関しては、THETA Xを踏襲しています。

――特に光学系を刷新しなかった理由は、なぜでしょう?

清水氏:

THETAは光学技術に強みを持っていますので、良い光学系を開発して長く使用することで、高画質を安定した品質で提供したいと考えています。これまでのTHETAは屈曲光学系をメインにし、THETA Z1ではセンサーを1型サイズに変え3回屈曲の光学系を採用しましたが、THETA Xでは屈曲光学系を止めてストレートの鏡筒に変えたという変遷があります。
THETA Xで作った新しいストレートの光学系とセンサーの画質が非常に良かったので、そこはTHETA A1でも踏襲していきたいなと考えました。
今回のターゲットはコンシューマーではなくて、ビジネスに特化しようと考えましたので、高画質や高解像度というところに開発コストをかけるよりは、ロバスト性能や熱対策などの現場での使いやすさに注力した方が良いだろうとも考えました。
今回、光学系は変えていませんが、画像処理用のチップは新しいものを採用して差別化をしています。

――先ほどTHETA Xが良い光学系だと仰っていましたけれど、具体的にはどのような評価になるのでしょうか?

清水氏:

従来のTHETAでは、できるだけ視差を少なくするために薄さを追求してきましたが、光学系を曲げているため、メリットもあると同時に、多少のデメリットもあったかなと思います。

その代表的なものが、今では懐かしい「赤玉」といわれるゴーストが発生したことなどです。THETA Xでストレートの鏡筒をそれほど厚くせずに実現できましたし、画質面では非常に有利になったので、今後の方向性としてもそこは継続していった方が良いのではないかと思っています。

角田氏:

THETA XはTHETA Z1に比べるとセンサーは小さいのですが、静止画は11Kの高解像度です。THETA Z1は1型のセンサーで暗所性能に優れており、それぞれ良いところがあります。

THETA Xは画質面でも、市場から比較的良い評価が得られていると認識しています。

川邉氏:

画質を追求していくのであれば、センサーが大きい方が有利な点も多い訳ですが、THETA Z1の場合、絞りのユニットが複雑というところなど、システム全体のバランスを考えた場合、THETA Xのセンサーが良かろうという判断になりました。

THETA Xを踏襲したTHETA A1の光学系。レンズはF2.4、 イメージセンサーは1/2.0型(×2)有効画素数:約4,800万画素(×2)

THETA A1の画質へのこだわり

――実際に撮り比べてみると、THETA A1は画質が向上していると感じました。もちろんRICOH360のクラウド処理による画像補正のお陰もあると思うのですが、撮りっ放しの素の状態で比べても画作りがちょっと違うと感じます。

角田氏:

静止画については、基本的には光学系、センサーが一緒のため、THETA Xと同等レベルの画質になります。
ただ、チップが違うこともあり、処理や画の味付けが違います。
今回、特に力を入れたのがNR(ノイズリダクション)処理の機能です。従来からあるNRモードを、より実用的にしたいと考えました。
従来のNRモードは三脚で固定して使う前提でしたが、それを手持ちでもより使いやすいように改良しました。
また、THETA A1では何も設定しなくても三脚に固定して撮影すれば、自動的にNRが適用されるため、カメラ初心者でもノイズを抑えた撮影を行うことができます。

動画については、時間方向のNR機能に対応しています。
Xでは動画撮影したときに、時系列にチリチリしたノイズが発生して気になるといったご意見もいただきましたが、A1ではかなり改善されています。
さらに、A1ではH.265のエンコードを搭載したことで、より高圧縮な形で動画のファイル容量を抑えながら、低ノイズ処理による動画の画質向上が期待できます。

――静止画のNRは据え置きの場合、三脚に設置していることを検知して処理がかかるとおっしゃいましたね。どのような仕組みになっているのですか?

角田氏:

据え置きで撮る場合は、使われる方がより高画質で撮りたいという意図があるから三脚に設置していると想定しています。
NRは複数枚の画像を撮影して合成処理するので、固定して撮影したときの方が、ブレが少なく、より安定した良い結果が得られます。
暗い環境でノイズが発生しやすいほどNRの効果が強くかかるようなチューニングをしています。

――それはどのように検知しますか?

角田氏:

据え置きかどうかは、静止状態でIMUセンサーの閾値が下回った際に検知します。ノイズの量は、露出の測光により判断します。

――動画の時間方向のNRについて、どのようなアルゴリズムかもう少し詳しく教えていただけますか?

角田氏:

時間方向のNR機能自体は一般的な技術です。前後のフレームを比較して、時系列で継続的に処理を行います。
動いている被写体に違和感が出ないように注意しながら、差分の大きいところをノイズと判定して処理をかけます。

――THETA Xでは、それができなかったのですね?

角田氏:

THETA Xは消費電力の関係で対応できなかったのですが、今回のTHETA A1では開発初期段階からシステムの最適化を行うことで、消費電力の制約を受けることなく動画撮影時の画像処理を実現できています。

――THETA A1では色彩設計などもTHETA Xとは少し異なる感じがします。例えば、Insta360などはかなり色味がビビッドな画づくりという印象です。それがTHETAの場合は元々自然な発色でした。THETA A1の場合、THETA Xより少しだけ鮮やかな発色という印象を受けました。

角田氏:

色彩設計について、基本的には大きく変えてはいません。
例えば車のプロモーション撮影では、青空を綺麗に見せたいという要望があり、HDRモードの時は自然さを保ちながら、少し鮮やかに見栄えがするように色味のチューニングをしています。

――一見、派手めにした方がウケが良いような気もするのですが、自然な発色を志向しているのは、どのような理由からでしょうか?

角田氏:

色味は好みに影響される部分もありますが、ビジネス用途では、現物の本来の色味から外れてしまうと困るケースもあります。そのため、自然で忠実な色味を心がけています。

川邉氏:

これまでのリコーの歴史の中で、そのような画作りが期待されているという理由もあります。
もう一つは、ユーザーの業種によって、それぞれ異なる撮影モードを利用することが想定されます。例えば建築業で現場をキャプチャーする場合、そのまま共有したいので忠実さが大事になります。 一方、中古車や不動産の業界におけるプロモーション用途で利用する場合、もう少しきれいに仕上げたいというニーズがあるので味付けを加えます。つまり、オートやHDRなど撮影モード毎に、ターゲットユーザーを想定して、それぞれに対する色のチューニングをしているという訳です。

――動画についても、同様の志向でしょうか?

角田氏:

動画についても同様です。

THETA A1 360°写真(11008×5504)「HDR合成」で撮影(2:1エクレイクタングラー形式)

THETA A1 360°写真(11008×5504)「HDR合成」で撮影、RICOH360アプリのAI編集→AI画像補正で処理RICOH360のクラウド上で、全方位インタラクティブに閲覧表示

低照度の環境で、ノイズやシャープ感を比較してみた。左からTHETA A1、THETA X、THETA Z1。THETA A1は、ノイズ低減とシャープネスのバランスが取れていることがわかる(撮りっぱなしの画像の暗所の部分を切り出して比較)。
因みに、THETA Xでは-2.0〜だった露出補正が、THETA A1では-4.0 ~ +4.0 EV、1/3 EV ステップとなっている
THETA A1 HDR(左)とAuto(右)の画作りの違い(RICOH360で「左右に並べて表示」)

*三脚に設置した場合、NR(ノイズ低減)をオフにしていても、NRが自動的にかかる。すなわち、「ノイズ低減」を選択する必要があるのは、手持ち撮影の時となる。

新たなチップを採用して処理スピードを改善

――それでは、次に処理スピードについてお話しいただけますか?

川邉氏:

今回、開発の初期段階において、チップとOSの選定、プラットフォームをどうするかということが一番大きな判断でした。特にチップは新しいチップに変更していますが、これらは処理速度に関わる要因となります。
速度にもいろいろありますが、まず起動時間が短くなっています。

THETA A1の立て付けとしては、THETA SC2とTHETA Xがベースとなっているのですが、
THETA Xの機能や性能を保ちつつ、昔のTHETAのようなシンプルな使いやすさを目指しています。AndroidベースのTHETA Xは起動時間が10数秒かかりますが、THETA A1では、電源ボタンを押して撮影開始できるまで3-5秒程度となっています。
ストレージの空き容量にもよりますが、速ければ3秒程度で立ち上がります。
ですから、サッと現場で撮りたいときにすぐ対応することができます。
また、シャッタータイムラグも少なく、押したらサクッと撮ることができます。これまでの進化を受け継ぎながら、昔のTHETAのシンプルな使いやすさを復活させるハイブリッドモデルを目指しました。

また、THETA Xと同じくカメラ内で動的スティッチ処理やリアルタイム天頂補正処理が可能となっています。これらをカメラ内で処理することは非常に負荷がかかりますが、画像処理全体をCPUによるソフトウェア処理とDSP(Digital Signal Processor/音声や映像などのデータを高速処理する半導体チップ)によるハードウェア処理とで分担し、それらのバランスが取れた設計になっているので、起動が早く、シャッタータイムラグも少なく、尚かつ、THETA Xと同様の補正処理なども実現できています。

4K30fps H.265で収録。柔らかい色調の画造りである。THETA A1のカメラ内で、天頂補正やリアルタイムの動的スティッチを処理する。手ブレ補正の性能は、THETA Xを踏襲している。撮影時間は、デフォルトで5分、アプリの設定で最大120分に変更可能に。



製品の安全性と堅牢性を追求したTHETA A1

――熱対策についても、お聞かせください。

川邉氏:

まず放熱ですが、今回はそれをコンセプトの柱として、かなり強く意識して設計しています。
保証動作環境の上限値について、スペック上は40℃ということで従来機種から変わりないのですが、
実力としては大きく向上しています。

具体的には、動画やライブストリーミングはやはり消費電力が大きいので、弊社の製品に限らず、高温環境の時にサーマルシャットダウンしてしまうことがあり、ここをなんとかしたいと考えました。
実現手段としては、メカ筐体の基本設計の早い時期から消費電力の試算をして、かなりの回数の放熱シミュレーションを行い、試作毎に都度実測評価をして設計にフィードバックしていきました。 結果的に当初の企画の要求を上回る性能を実現することができました。

動画、ライブストリーミングを含めて、30℃の環境は問題ありません。保証対象範囲外ですが40℃の環境温度でも、大方の撮影モードがサーマルシャットダウンに耐えうるくらいの性能です。 この辺りをしっかり作りこんだことで、THETA Xでは消費電力の制約から一部諦めた機能である時間方向のNR処理も実現できるようになったのです。

清水氏:

製品安全の部分では、手に持って使うというユースケースも多く存在しますので、長時間安心して確実に使えるように、低温やけどなどの安全性に配慮し、しっかりと法令に準拠した設計にする点に苦労しました。

川邉氏:

まず熱源はSoCやCMOSセンサーなど様々な箇所となりますが、その熱源で発生する熱をいかに外に逃すかが基本となります。要求スペックが低ければ、蓄熱(中に溜め込んでしまう)など、やりようがあるのですが、今回は高いレベルを目指し、放熱の経路を設計して外装に伝えて逃しています。
外装が樹脂だと熱がなかなか逃げないため、マグネシウムボディを採用しています。
内部では熱源から熱を均等に広げられるよう熱的な接続を工夫しています。ただ単に外に伝えるだけだと外装の一部だけが熱くなって安全規格に抵触するので、まんべんなく外装全体に伝わっていくようにしています。

四方八方に熱を散らすのですが、その散らす熱の伝導経路のひとつに、三脚穴があります。大きめな金属の部品となっており、こちらに熱が逃げるのですが、企画段階では、そこにヒートシンクオプションを接続可能とする予定でした。
ただし、専用品でなくても、金属のそれなりに大きい三脚やエクステンションアダプターなどでも熱が逃げる効果があります。

――ヒートシンクが別売される可能性はないのですか?

清水氏:

実はかなり作りこんでいて試作品ではデザイン性にも優れた素晴らしいものができたのですが、放熱性能が本体だけで企画の要求を軽々と超えてきてしまったので、とても悩みましたが総合的に判断して発売は断念しました。今後、さらに厳しい環境での用途が出てくれば検討したいと思います。

川邉氏:

設計の目線からいうと、開発当初は30℃まではカメラ単体でいけるだろう、ただし、40℃の環境の場合、流石にヒートシンクをつけないと厳しいんじゃないかという感触でした。初期のシミュレーションでも同様でしたが、実機では40℃でもいけてしまうという結果となり、実力として想定を上回りました。40℃を超える環境は中々ないと思いますが、シャットダウンしないまでも、温度警告のアラートが出るのも精神衛生上良くないので、ヒートシンクによりマージンが増えることで、より安心してお使いいただけるものと考えています。

――その辺りの安全基準は何に準拠されているのですか?

川邉氏:

IEC62368という製品安全の規格に準拠しています。
材質によりますが、手持ちで触る可能性のあるカメラの表面温度に関しては2段階の基準があり、Xは当初、TS1の48℃でした。それに対して、ある段階のXのファームウェアのアップデートで、TS2の58℃に制限対応を変更しています。さらに消費電力を改善していますので、実はTHETA Xも発売当初よりも相当熱に対して強くなっています。それに加えて、THETA A1は放熱設計で、さらに安全性が向上しているのです。

――THETA A1には防水性が加わったことで、屋外での利用の幅が広がると思います。防水性と熱対策については機能の天秤になるかと思いますが、どのように技術的に克服されたのでしょうか?

川邉氏:

実は防水と高温対応という観点では、かなり関連性があります。少し細かい話になるのですが、防水などの気密性を高める設計をした場合、温度変化の試験をすると、中の気圧が変わって防水性が破綻してしまいます。
それを両立するために、温度を上げた時、どこから漏水したかを突き止め、それに対して追加で通気孔を開けています。
そもそも、スピーカーやマイクの穴は空いていますが、これらに対しても空気は通すけれども水は通さないという防水フィルムを施して、中の空気を逃がして気圧変化に耐える仕組みになっています。
また、隠れたところに通気孔が空いていたりします。
常温で試験すれば、比較的簡単にパスできますが、温度管理下の環境試験にも、ちゃんと対応するような機構になっています。

――THETA Xと比較して、その辺りはかなり工夫されている訳ですね?

川邉氏:

メカ周りは、かなり大きく変わっています。
また、ロバスト性にも様々な観点があり、

防塵・防滴、耐熱などの耐環境性能に加え、耐落下衝撃性能なども含まれますが、THETA A1ではメカ的な強さも向上しています。

清水氏:

弊社の堅牢性が売りであるデジタルカメラRICOH G900の評価基準を参考にして、落下試験などではより厳しい基準に引き上げています。

防塵/防水性能はIP64準拠、使用温度範囲は-10~40℃(THETA Xは0〜40℃)
熱の伝導経路でもある金属製の三脚ネジ穴(THETA Xは、プラスチック製だった)
開閉がしっかりと確実におこなえるように改善されたバッテリーカバーとロックレバー
角に丸みをつけることで、触れた際にも、手に優しい造りになっている。細部まで配慮して設計されたストラップ取り付け部

容量以上の性能の向上を実現した新型バッテリーTB-1

――それでは、リムーバブルバッテリーのTB-1についてはいかがでしょうか?THETA Xでは自社の既存のものを使われていた訳ですが、THETA A1向けには新たに専用のものを開発された訳ですね?TB-1は1485mAhと、THETA Xの1350mAhより増量されていますが、容量自体は思ったほど増えていない感じですね。それでも、駆動時間などの性能は上がっている印象です。

川邉氏:

THETA A1のバッテリーは新規開発です。仰るとおり、必ずしもインパクトのある増量にはなっていないかもしれませんが、そこはサイズとのトレードオフというところです。容量は10%増量した程度であるものの、静止画の撮影枚数、動画の記録時間の持続など、かなり性能が向上しています。

それはなぜかと言うと、何アンペア流せるかという出力電流が1.5倍から2倍に、2A弱から3A程度に向上しているからです。
これにより、本来、カメラ製品は定電力駆動なのですが、動画などを撮影して常に電池を使っていくと、だんだん電圧が下がっていきます。
電力は電圧と電流の掛け算なので、
電圧が下がると流さなければいけない電流が増えていきます。
例えば、無線を使った動画撮影などでは消費電力が大きいので、流す電流が足りなくなると電池を使い切れなくなります。その出力電流のスペックを上げ、制約をなくし、電池を使いきることができるようになったので、その結果、容量以上の性能向上となりバッテリーの持ちがよくなったのです。

リチウムイオンタイプの新型リムーバブルバッテリーTB-1(容量:1485mAh)
バッテリー充電器 TJ-1で、バッテリーTB-1を充電している模様
ACアダプターキットK-AC166Jを用いることで、バッテリーなしで給電が可能となる

外部ストレージを排し、クラウド連携の強化を目指す

――次にストレージのこともお伺いしたいと思います。
これまでTHETAシリーズでは、THETA X以外は、全て外部メディアを使わずに内蔵ストレージのみという仕様でした。THETA A1では再び外部ストレージ非対応に回帰し、内部メモリーも約27.5GBとかなり容量が少なめだと感じます。それは静止画がメインで、クラウドとの連携を志向されているからでしょうか?

川邉氏:

THETA Xに関しては、マイクロSDカードのスロットをつけていますが、今回、敢えて省略したのは、クラウドとの連携、つまりシステムサービスを前提にお使いいただきたいという考えがもとになっています。

――個人的には、外部ストレージも拡張できると良いなと思うのですが、その辺りの割り切りについては、チーム内では結構すんなり決まったのですか?それとも喧々諤々の議論があったりしたのですか?

川邉氏:

やはり、それなりに議論がありました。SDカードも含めて、バッテリーを交換式にするかどうかというところも併せて考えました。
実は当初はバッテリー内蔵かつSDカードスロットなしの昔のTHETAに近い考え方で開発を進めようとしていましたが、議論の結果、SDカードはなしで、バッテリーは交換式となりました。

清水氏:

今思い返してみると、開発からはSDカードスロットはあったほうが良いと後半までしつこく言われていたことを思い出しました。
私は最初から用意するつもりが全くなくて…。

THETA Xで、なぜ初めてSDカードに対応したかというと、THETA Xのコンセプトがアプリレスでスタンドアローンで使うというものだったからです。それまでTHETAは撮った画像をスマホに転送して閲覧したり、SNSにアップロードしたりする使い方でしたが、THETA Xでは基本的に全て単体でやろうと。それであれば、ストレージが必要だろうとなりました。
しかし、THETA A1ではRICOH360と一体となるハードウェアというコンセプトを一番重視して作っているので、正直言うと内部ストレージも本当は今よりもっと少ない容量で良いかなと思っていました。ところが、逆に少ないストレージが今の時代存在しない(笑)
そこで、今あるもので入手性が良くて、コストの観点も踏まえて今回のストレージを採用したというのが正直なところです。
ですから、われわれとしては、できるだけ撮ったものをすぐにクラウドに上げてもらう、そういう使い方を推進していきたい。それがパッケージという形で全部含めたソリューションを提案するところに繋がっていると思っています。

*筆者の検証では、4K/30fps / 64Mbps(H.264)で、58分撮影したところでストレージ容量が満杯となった。公称値を少し上回る結果である。環境温度は28℃、撮影終了時の筐体の最大表面温度は40.5℃で、その間、サーマルシャットダウンは起きなかった。

アプリからTHETA A1の自動アップロード設定をオン、CL(クライアント)モードの状態でWi-Fi接続時には、撮影する側からカメラよりクラウドに撮影データがアップされる

GPS機能の改善状況、煩わしい設定を不要とするライブ配信

――GPS関連の改善については、いかがでしょうか?

川邉氏:

基本的には、THETA Xをベースにしていますが、型番が違うGNSSモジュールも採用していますので、対応する衛星が少し増えています。概ねTHETA Xと同じですが、少し測位の速度や精度が上がっています。

――GPS機能、GNSS(世界中の衛星測位システムの総称)機能において、将来、より高精度な位置測位が可能なDroggerのように、RTK(リアルタイム・キネマティック/全球測位衛星システムの信号を利用することで、高精度な位置情報をリアルタイムに取得する技術)に対応する計画や技術的課題などはありますか?

川邉氏:

RTKなどは開発サイドでは注目しています。
屋内の建築では、なかなかGNSS機能が使えないので、これまではそこまで注力できなかったのですが、当然、屋外建設のプラントなどでは、どこまで精度が求められるかにもよりますが、RTKはニーズがあると思っています。

――ライブ配信の予定についてはどうでしょうか?国内と海外では違うサービス状況になりますか?

清水氏:

ライブ配信は、国内限定となります。

鳥越氏:

リコーとしては「Remote Field」というアプリを利用して、THETA X、THETA Z1でライブストリーミングのサービスを提供してきたのですが、THETA A1としても今後提供する予定になっています。ただし、既存のTHETA X、THETA Z1の場合、スマホアプリを使ってTHETAのライブ配信するためのプラグインをインストールしなくてはいけなかったのですが、THETA A1では当初からRemote Fieldに対応するというコンセプトで設計しているので、プラグインのインストールが不要な状態で利用できます。

そもそも、なぜプラグインのインストールが必要だったかというと、ライブ配信するサーバーと繋ぐための秘密情報をTHETAにインストールする必要があったのですが、それがTHETA A1の場合は、予めRICOH360のクラウドとつなぐパスがあるので、最初からクラウド経由でライブ配信を行う仕組みが導入できているのです。ユーザーにとっては煩わしい手間が少なく、すぐにライブ配信ができるようになります。

また、ライブ配信の際には、THETA XやTHETA Z1で熱の問題がありましたが、THETA A1で大幅に解消されました。あとはネットワーク性能ですね。

川邉氏:

熱に強くしたところが一番基本的なところだと思っています。THETA Z1からTHETA X、THETA A1という流れを見たときに、THETA Z1の時はリアルタイム天頂補正ができなかったので、歩きながら配信する場合、手ブレが起こって、見る側が厳しかった。THETA Xの時にはリアルタイム天頂補正が実現してすごく便利だったので、それを皆さんにアピールしたかったのですが、残念ながら熱の問題があり、ひどいと5分歩いたら落ちてしまう。それが今回のTHETA A1では改善できたので、自信を持ってお使いいただきたいです。
ようやくライブストリーミングにおいて、WebRTCを利用した実用に耐えるものが実現できたなと。ここは他社を見渡しても差別化できているところなので、改めて提案したいですね。

使いやすさを追求したTHETA A1のUIとRICOH360アプリ

――本体のUIもTHETA Xとは異なり、液晶画面が割愛されましたね。

清水氏:

デザイン面で言いますと、THETA Xで液晶をつけて非常にいろんなことができるようになって、設定を変更したり、画像を閲覧するだけではなくて、プラグインを活用した新しい使い方などもできるようになったところを、今回はシンプルさを追求して液晶を外しています。
それによってやらないことをしっかり見極めて、シンプルだけれども使いやすいUI・UXを実現しています。
操作性ということで、特に今回こだわったのが各種ボタンをかなり大きくした点です。従来のデザイン性を重視したフォルムから、普段カメラを使わないような現場の職人さんでも押しやすく、使いやすいボタンの形状や構造、配置にこだわりました。

――スマホからのコントロールがわずらわしくて、単体で使う方が良いなという声も正直あって、他社もそういうトレンドになっているという実情もあります。それを敢えて、カメラ本体をシンプルにしてスマホのアプリから操作するような判断にいたった理由を教えていただけますか?

清水氏:

THETA A1もCLモードを使ってTHETA XやTHETA Z1と同様にRICOH360のクラウドに直接接続することができますので、THETAをクラウドに接続しておけばシャッターを押すだけで、画像はクラウドにそのままアップロードすることが可能です。

THETA Xでできて、THETA A1でできないこととは、液晶モニターのあるなしによって、例えばその場で設定を変えること、あるいは画面が小さいのですが、撮影した画像をちょっと確認したいということ、この2点がスマホがないとできなくなってしまうことだと考えています。
THETA A1に関しては、基本的に現場で設定を変えるといった使い方はあまり想定していなくて、例えば職人さんのような方でも、ただシャッターを押すだけで撮影できるデバイスであるべきと考えていますから、本体の設定は不要なものと切り捨てた部分になります。

撮影した画像の閲覧という部分に関しては、賛否あるかもしれませんが、個人的にはやはりTHETA Xの画面では画像確認というのは正直難しいと思っています。撮影した画像が非常に重要で余計なものが写っていてはならないという場面においては、やはりアプリは必要ではないかと考えます。そのような面からも、THETA A1は従来のターゲットユーザーが違うということにおいて、一番大きな液晶の部分を割愛しています。すなわち、カメラ単体でも使えるし、画像を見たい場合はアプリを使ってくださいという方向に変更していくという考え方を持っている訳です。

――確かにカメラ本体でプレビューするといっても記念撮影程度でしたら良いかもしれませんが、業務などで、しっかり確認しようとすると、スマホやタブレット以上の大きな画面が必要ですね。
RICOH360アプリについても、開発される過程での苦労があったと思いますが、いかがでしょうか?

鳥越氏:

基本的には、RICOH360自体は、THETA Z1やTHETA Xからの流れで対応してきているものです。
これまであまりなかったユーザーを管理する機能などは、今回、苦労した点ですね。
BtoBで使うにあたっては、組織の中で、どのように使っていただくかというところを検討して、チームとそのメンバーで扱えるような仕組みになっています。あとは、各種AIの仕組みを入れたりとか、そういった機能追加が多い点を踏まえて開発していくというところが苦労しました。

また、クラウドのアプリ上で見えるサービスとは別に、そのバックボーンとなるシステムがあるのですが、サードパーティーのアプリと連動して使えるようにする試みのもと、他社のシステムとシームレスにつながるサービスを提供する仕組み作りも苦労した点であり、継続して取り組んでいるところです。

――クラウドの完成度に関しては、登山に例えると、どれぐらいのところまで行っていますか?

鳥越氏:

まだ登り始めたところですね。やりたいことの半分もできていません。

廣瀬氏:

RICOH360として提供していく中で、ベーシックなところは完成したので、オールインワンのビジネスパッケージとして4月から提供しています。基本的な部分がようやくできてきて、これからどう伸ばしていくかという段階です。品質面も最近かなりよくなってきましたが、まだ十分ではないので、さらに高めていきたいと思っています。

鳥越氏:

360°は見せ方が難しいところがあって、ユーザー自身がどこを本当は見たいか、共有した相手にどこを見てほしいのかということがあったりする訳ですね。ぐりぐりしてわざわざユーザーの手間を取らせるような形で見せるのか、あるいは展開してぱっと見せるのか、ここを見てほしいという意図を踏まえたアノテーションの工夫においてはまだまだ課題があります。ユースケースによって見せ方が違うと感じています。

――それらを提案したり、誘導したりするところまで目指していく訳ですね。

清水氏:

次の展開としては、業界や業種によって使い方が少しずつ異なっていることもわかっているので、それぞれの業界で使いやすい機能の追加もしていきたいなと思っています。
加えて、われわれはそこにとどまるわけではなくて、THETAとRICOH360が連携したサービスの基盤を、より使いやすいものに高めていきたいと考えています。
その基盤をアプリサービス会社の方々にも使っていただきたいと考えています。
例えば、THETAとRICOH360が連携し、360°画像やカメラの様々なデータがクラウドにどんどん溜まっていって、そのデータをクラウド上で別のサービスと連携して活用していただくというような世界を目指しています。

廣瀬氏:

RICOH360のモバイルアプリについては、接続性の改善やアプリの使いやすさに今取り組んでいるところです。
周辺の使い勝手としては、最初にアプリを使うときに、従来のアプリではカメラと接続するためのスマホの権限設定の警告が都度出てきて、いつになったら完了するのか、完了しているかわからないということがあったので、初期設定の際に、一画面の中で順番にチェックしていけば、権限設定が完了するよう改善しました。これにより、ビジネスパッケージ導入時にもスムーズにご利用を開始していただけるようにしています。

――技術的にはどのように改善されているのですか?

廣瀬氏:

接続性に関しては、OSから返ってくるエラーコードとUIフローを整理して、接続時の環境や条件に応じてどのパターンでどのような案内をすべきかを一つ一つデザイナーと一緒に検討・改善しています。

――アプリのUIはまだ進化する可能性がある訳ですね?

廣瀬氏:

そうですね。日々改善を進めています。

THETA A1(右)では物理ボタンも押しやすく、大きな形に改善されている。無線ボタン(下)を短く押すと、無線LAN機能のクライアント(CL)モード/アクセスポイント(AP)モード/オフを切り替えることができる
RICOH360アプリ(スマホ)のプレビュー画面
RICOH360アプリ(Web版)
WebApp / Web版の管理者コンソールのダッシュボードからカメラの利用状況を確認できる。その他、メンバー、チーム設定の管理なども可能。アプリの連携としては、RICOH360にアップロードされたデータが、Boxのアカウントと連携することで、自動的に指定のフォルダにアップロードされる

クラウドで実現するAI編集

――次にRICOH360のPCアプリとクラウドにおけるAI編集のお話をお伺いします。画像補正と人をぼかすという、大きく分けて2つの機能がありますが、実際に試してみて、それぞれの効果が確認できました。まずAI編集は、具体的に、どのようなアルゴリズムになっていますか?

廣瀬氏:

処理内容としては、傾き、解像感をあげる、明るさの補正といった処理が主な機能です。画像内のシーンを認識して、適切なチューニングで処理をかけています。

――傾き補正も、明らかに効果を実感しました。それはカメラ内で処理するより、やはりAIによって精度が向上するといった仕組みなのですね?

廣瀬氏:

もちろんカメラ内のセンサーの値を利用した補正もしているのですが、それに加えて画像の特徴を認識して、精度をさらに上げる補正を追加で行っています。

川邉氏:

クラウドの補正処理には、2つの意味合いがあり、例えばTHETA Sなどの昔の機種のカメラの内部で天頂補正処理していない画像にもかけられるというメリットがあります。
もう一つは、カメラ内で処理をしているものに対しても、クラウドでさらに精度を上げるというメリットです。

――AI人ぼかしについては、個人的には処理の程度を加減するパラメーターなどもあると良いなと感じたのですが。

廣瀬氏:

こだわりのあるお客様に関しては、Adobe社製などのツールを使っていただいて各個人でやっていただくことを想定しています。AI画像補正や人ぼかしに関しては、編集という手間をかけることなく、誰でも簡単に、同じように加工できることをコンセプトとして提供しています。もちろん、要望が多いようであれば将来的に機能拡張を検討する可能性はあります。

――AI編集については、動画の対応予定はないのですね?

廣瀬氏:

データ量も静止画と比較して圧倒的に大きくなってしまうので、技術的な課題があり、今、お伝えできる内容はありません。

AI画像補正(Before)RICOH360アプリ(Web版)
AI画像補正(After)RICOH360アプリ(Web版)傾き、解像感、明るさ、色収差などが補正されている
AI人ぼかし(Before)RICOH360アプリ(Web版)
AI人ぼかし(After)RICOH360アプリ(Web版)プライバシー保護の目的のAI人ぼかしは、顔だけでなく体全体に適用される

*AI画像補正、AI人ぼかしの処理を施した画像は、アクセスの制限の観点からダウンロードはできずに、URLリンクを共有して公開することになる。

レンタルと手厚いサポートでダウンタイムを削減するRICOH360ビジネスパッケージ

――RICOH360ビジネスパッケージのソリューションは、ハードとアプリ、そしてクラウド、さらにはサポートなども含まれているということですが、例えば故障への対応などはいかがでしょうか?360°のカメラは、倒れた時にレンズが破損しやすいということがあると思うのですが、保守などについてもいかがでしょうか?

田中氏:

RICOH360ビジネスパッケージは、3点セットになっていて、まず撮影機材のレンタルですね。それから撮影データを利活用するツール、そして、サポートや補償対応を含めた保守の部分という立て付けになっています。
それらをオールインワンとして運用や管理までを、リコーがサポートするところが大きなポイントになっています。

――購入した場合と比較して、なぜレンタルなのでしょうか?

田中氏:

例えばTHETAが壊れてしまったとか、現場で使い方がわからないスタッフがいるなどの不都合も想定されます。また、
THETAを長く使っていただく中で、技術の陳腐化ということも起こりえます。 いずれにせよ、何かあった時には、専用サポートダイヤルにご連絡いただければ、われわれがサポートします。
もちろん、通常のサポートもありますが、契約状態を踏まえた、より手厚いサポートが受けられるという形にしています。
特に故障した時のサポートが強いです。
故障として修理に出すと1~2週間くらいかかるところ、大体三営業日くらいには、代替機を発送する仕組みとなっているので、それによって、なるべくダウンタイム(撮影できない時間)を減らし、撮影できないといった機会損失を防ぐことができる訳です。
修理だと費用もかかってしまうのですが、ビジネスパッケージでは、年1回まで無償で代替機と交換しますので、壊れてしまった場合、迅速に物損保証の対応をさせていただきます。

――このビジネスパッケージは、カメラが何台必要かなども含めて、選択できるコースやプランのようなものがあるのでしょうか?それとも、案件ごとに御社に見積もりを求めることになりますか?

田中氏:

基本的には案件ごとに見積もりを出させていただくことになりますが、ビジネスパッケージを一つ契約していただくと、基本的にTHETA XかTHETA A1のカメラ一台およびスティックが一本貸与されます。

THETA A1については、パッケージビジネス特化型として導入できるモデルになっていて、お客様が単体で購入して終わりではなく、安心して活用できて、定着・効果が出るまでわれわれがしっかり支えていきたいという意味合いもあり、パッケージとなっています。

――今までの販路から変わって、新しい商流になるようですが、販売チャネルについて教えてください。

田中氏:

ビジネスパッケージで展開しているTHETA A1は、リコーから直接、販売させていただきます。ビジネス向けでしっかり定着した形でご利用いただく観点で見ますと、これまで展開しておりました量販店経由ではなかなかご支援できなくなるので、法人のお客さまがリコーと直接契約するという商流になっています。
リコーグループと捉えれば、やはりリコージャパンの販売網が強みというところもありますし、
THETAという観点からは、これまでも不動産業や建設業の方に多く利用していただいています。既存のお客様へのアプローチに加え、新規のお客様へのご案内との両軸になるものと考えています。

RICOH360ビジネスパッケージのシステム概要とユースケースのイメージ

これからのTHETAについて

――では、最後にTHETA A1が発売になったばかりですが、今後のTHETAの方向性についてお訊かせください。

清水氏:

ビジネスパッケージのラインナップとしては、カメラはTHETA XとTHETA A1になります。THETA X、THETA Z1については、従来通りの販売方法も維持しますし、またアプリも含めてコンシューマーの方々にも長く使っていただけるように、無線接続性や使い勝手の向上はバージョンアップとして今後も継続していきます。

――THETA Z1向けのRICOH THETA Stitcherは継続されるのですか?

清水氏:

RICOH THETA Stitcherのアプリは、継続してやっていきます。

――今日は詳しいお話しをお聞かせくださり、皆さん、本当にありがとうございました。今後のTHETAやサービスについて期待しています。

まとめ

RICOH360 THETA A1は、ビジネス現場の課題解決を目指した360°カメラである。建設業を主要なターゲットとし、安全に配慮した設計のもと、高い耐久性、防水・防塵性能、熱対策などを強化することで、過酷な環境下でも安定した撮影を可能にする。また、カメラとクラウドがシームレスに連携するRICOH360ビジネスパッケージとして提供することで、現場の負担を軽減。撮影データの活用から運用管理、万が一の際の迅速な代替機提供まで、リコーがトータルでサポートする体制が構築されている。

コンシューマー向け販売も継続しつつ、ビジネス市場に本格参入することで、THETAは新たなフェーズを迎えた。今後は、建設業界で培ったノウハウを他業種にも横展開し、クラウドサービスのさらなる充実と共に、より多くのビジネス現場の課題解決に貢献していくことが期待される。

▶RICOH360お問い合わせページ:https://www.ricoh360.com/contact/

WRITER PROFILE

染瀬直人

染瀬直人

映像作家、写真家、VRコンテンツ・クリエイター、YouTube Space Tokyo 360ビデオインストラクター。GoogleのプロジェクトVR Creator Labメンター。VRの勉強会「VR未来塾」主宰。