動画でこそ価値が見えてくる、1981年のクラシックズーム
今回紹介するのはCanon New FD 35-105mm F3.5。この連載では初めて取り上げるズームレンズです。クラシックズームは単焦点ほど高く評価されたり、プレミア価格が付いたりすることは稀で、古い製品は「安価だが積極的に選ぶ理由も少ない」と見られがちです。しかし、このNew FD 35-105mmには、現代でも、そして動画でこそ使う価値があると感じられるいくつかのポイントがあります。順にひも解いていきましょう。
主なスペック
| 項目 | 仕様 |
| 発売年月 | 1981年4月 |
| 当時価格 | 59,000円 |
| マウント | Canon FDマウント |
| 焦点距離 | 35-105mm |
| 開放F値 | F3.5(全域一定) |
| 最小絞り | F22 |
| レンズ構成 | 13群15枚 |
| 絞り羽根 | 5枚 |
| 最短撮影距離 | 1.5m(通常撮影時) |
| 最大撮影倍率 | 0.079倍(通常撮影時) |
| フィルター径 | 72mm |
| 最大径×長さ | 76.5×108.4mm |
| 重量 | 600g |
シネマトグラファーたちが愛する「K-35」とは?
Canon New FD 35-105mm F3.5は1980年代のNew FDレンズですが、日本を含む世界のシネマトグラファーから高く評価されているレンズに、1970年代にキヤノンが映画撮影用として展開した「K-35」というシネレンズシリーズがあります。当時先進的だった非球面技術を積極的に取り入れ、柔らかなトーン、中央部の十分な解像感、そして逆光時の印象的なフレアなど、現代の高性能レンズとは異なるキャラクターを持つシリーズです。現在も映画やCMなどで使われ、ヴィンテージシネレンズを代表する存在の一つとなっています。
そんなK-35を好む映像制作者が、より身近な選択肢として注目しているのが、同時代にスチル用として生産されたCanon FDレンズ群です。K-35とFDの直接的な設計上の関係には不明な点も多いのですが、色再現、コントラスト、フレアなどに同時代のキヤノン製レンズらしい共通点を感じる撮影者は少なくありません。
写真分野でもFDレンズには根強い愛好家がいますが、EFやRFをはじめとする新しい世代の高性能レンズが豊富な現在、実用品として積極的に選ぶ動きは限定的です。一方、動画制作では解像性能だけでなく、フレアや収差を含めた「ルック」そのものが価値になるため、FDレンズはシネ用へのリハウジングを含め、K-35の面影を探す海外の映像制作者やレンズメーカーから再評価されているのです。
海外ではシネ用ズームとして再評価
今回のNew FD 35-105mm F3.5は、そうしたFD再評価の延長線上にあるレンズです。国内ではスチル用の古い標準ズームとして流通することが多く、少なくとも映像用レンズとして語られる機会はまだ多くありません。
一方、スチルレンズのシネ用リハウジングを行う海外メーカー「Ancient Optics」は、この35-105mmをベースにした「Canon FD 3X Multi Format Zoom」を製品化しています。同社は、1970年代のフルサイズ単焦点レンズ、とりわけK-35などと組み合わせやすいヴィンテージズームとして紹介しています。現代のシネマ用ハウジングに収めて使用するだけの描写的価値が海外で見いだされていることは、このレンズを動画の視点で見直すうえで興味深い事実です。
中古参考価格
2026年8月時点の国内相場を見ると、オークションや個人売買ではおおむね5,000〜10,000円前後、清掃・動作確認済みや保証付きの中古店では15,000〜25,000円前後と、かなりお手頃といっていい価格帯。ただしYahoo!オークション等個人売買で流通するモデルにはジャンク品や不具合を見過ごした不良品なども混在するため、購入時にはレンズ内のカビや曇りだけでなく、ズーム機構のガタ、絞りの粘り、フィルター枠の回転、そしてマウント部の状態を確認したいところです。
安価な個体が多い一方、整備状態による差が大きく、動画でズーミングを行うなら機構の滑らかさも重要になります。自分はオークションではなく中古カメラ店の整備済み品を購入しました。信頼できる中古店で購入するのが最も安全と言えるかもしれません。
チャートで描写をチェック! 動画におけるズームレンズの注意点
チャートで描写をチェックしてみましょう。今回はズームレンズということで、広角端35mm、中間域の70mm、望遠端105mmの3点で描写傾向を探ります。また、通常はチャートまで3ft(約91cm)でチェックしていますが、本レンズの最短撮影距離は1.5mのため、今回は6ft(約182cm)で確認しました。
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写真用ズームの多くは、ズーミングに伴ってピント位置が変化するバリフォーカル型です。静止画ではズーム後にピントを合わせ直せばよいため大きな問題になりませんが、撮影中に画角を変える動画では、ズームとともに被写体がボケてしまいます。対してシネマ用ズームでは、ズーム中もピントを維持するパーフォーカル性に加え、焦点距離による明るさや画角中心のずれも抑えるよう、より厳密に調整されています。 New FD 35-105mm F3.5は、写真用ズームの中ではズーミング時のフォーカス移動を比較的追い込みやすいレンズとして紹介されることがあります。実際はどうでしょうか。
ヘリコイド付きアダプターでバックフォーカスを追い込む
今回、レンズをカメラに取り付ける前に少し変則的なセットアップを試しました。テストに使用したBlackmagic Cinema Camera 6K FFはLマウントを採用しています。そこで、ヘリコイド付きのLマウント-Leica Mアダプターと、FD-Leica Mアダプターを組み合わせて装着しました。これによりFDレンズでありながら、アダプター側のヘリコイドを使ってフランジバックに相当する位置を微調整できます。
まず105mmでチャートを撮影します。105mmでチャートにフォーカスを合わせ、そのままゆっくり35mm側へズームすると、残念ながら大きくピントが外れました。これは本レンズだけの欠点というより、厳密なパーフォーカル調整を前提としていない写真用ズームでは一般的に起こり得る挙動です。
次に35mmまで引いた状態で、アダプターのヘリコイドを調整してピントを合わせます。再び105mmへズームしてフォーカスを確認し、ずれていればレンズ側で合わせ直す。さらに35mmへ戻し、外れていればヘリコイドで調整する。この作業を何度か繰り返すことで、今回使用した個体では35mmと105mm間のフォーカス移動をかなり小さく追い込むことができました。
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ただし、これは本レンズが本来の意味でパーフォーカルであることを示すものではありません。個体差やアダプターの精度に加え、チャートでは合っていても撮影距離が変わると再調整が必要になる可能性があります。それでも、写真用ズームでありながら、条件を整えればズーム中のフォーカスを実用範囲まで追い込める可能性がある点は、動画で使う大きな魅力だと感じました。
全域F3.5の明るさはどこまで安定しているか
次に露出の変化を見てみます。本レンズは公称F3.5一定のズームですが、古い写真用レンズでは焦点距離による実効透過率や周辺減光の変化、個体差などが映像上の明るさに現れることがあります。
35mmでチャートを撮影し、そのまま105mm側へズームしたところ、今回の個体では中央部の露出変化はほとんど確認できませんでした。公称どおり、全域で安定した明るさを維持していると言えそうです。
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ブリージングをチェック
クラシックなレンズですから、フォーカスの移動に伴うブリージング(画角変化)はそれなりにあります。大きくフォーカスを動かすような場面では注意が必要です。
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ただ、同時に記しておきたいのはボケ味が非常に滑らかであること。特に105mmでは単焦点ほどのシャープネスはなくとも、ボケ味を含めた全体の空気感という意味では非常に秀逸ではないかと感じました。
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陶酔! 美しいフレア
レンズフレアはどうでしょう。強い光源を画面内に入れると、まるでアニメの一場面を思わせるような、輪郭の明確なゴーストが現れます。13群15枚という構成枚数の多さもあって複数の反射像が生まれ、また、ズーミングすることで表情を変えていきます。現代レンズでは抑え込まれることの多い現象ですが、このレンズでは画作りの要素として積極的に使いたくなる表情です。
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マクロ機能
このレンズにはマクロ機構も備わっています。ズームリングを35mmまで戻し、マクロレバーを押しながらMACRO側へ回すと、通常撮影時1.5mの最短撮影距離を、実測で約1フィート(約32cm)まで短縮できます。ただし、マクロ機能を使えるのは35mm側のみで、合焦できる距離範囲も非常に限られます。実用時は、あらかじめ被写体との距離を決めてから構図を組む必要があると感じました。
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テスト撮影
俳優の栗山かほりさんに協力していただき、テスト撮影を行いました。フェリー船内という限られた空間と時間の中で、人物の寄りから空間を見せる引きまで素早く切り替えられるのは、ズームレンズならではの強みです。単焦点を交換する余裕がない状況でも、一本のまま画のサイズと背景との距離感を組み直すことができました。
完成した映像を見返して最も印象に残ったのは、派手な収差よりも、人物に必要な芯を残しながら画面全体を穏やかにまとめる描写でした。肌や髪の輪郭を過度に強調せず、背景も完全に溶かすのではなく形を残しながら整理する。そのため人物が空間から切り離されず、自然にそこにいるように見えます。
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最後に
今回はCanon New FD 35-105mm F3.5を紹介しました。
最短撮影距離が1.5mと長いこと、前玉側が回転するため角型フィルターや偏光フィルターの運用に工夫が必要なこと、そして現代の大口径ズームと比べればF3.5という開放値が物足りなく感じられることなど、弱点はあります。
今回使用した個体では、アダプター側でバックフォーカスを追い込むことでフォーカス移動をかなり抑えられ、ズーム全域で中央部の露出も安定していました。このくらい安定していれば動画用ズームとして運用できる可能性が見えてきます。そして実写で最も印象的だったのは、人物に必要な解像感を残しながら、背景や空間を穏やかに整理する描写でした。強いマイクロコントラストで細部を押し出すのではなく、画面全体のトーンを一つにまとめる。その性格に、美しいボケや印象的なフレアが加わります。動画で求められる実用性とヴィンテージレンズらしいキャラクターを、一本のズームで両立できる大きなポテンシャルを持ったレンズだと感じました。
中古価格はまだ手頃で、単焦点を何本も交換することなく一本で作品を仕立てられる機動性もあります。サンプル動画を通して見ても、その魅力は単に「古いレンズらしく甘い」ことではなく、必要な芯を残しながら映像全体を穏やかにまとめられる点にあります。「まだ広く見つかっていない銘玉」と呼ぶには慎重であるべきですが、少なくとも動画という視点から改めて試す価値のあるクラシックズームです。状態のよい個体を見つけたら、一つ手元に置いてみるのも悪くないと思います。
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