EOSデジタル二桁機の初号モデルであるEOS D30。それまでのプロユーズを意識したものから、一般向けへと変換を図った記念すべきモデルである。ちなみに次のEOS D60まで数字の前にDが付いていたが、3世代目であるEOS 10Dからは数字の後にDが付く

1990年代末、それまでのデジタル一眼レフの概念を覆す65万円という価格と、高い性能を備えた「ニコンD1」が発売されると、より現実的な価格帯のデジタル一眼レフを求める声がさらに高まった。私(大浦タケシ)もそのような普及価格帯のモデルの登場を今か今かと待ち侘びるひとりであった。期待していた理由はシンプル。撮影した写真が原稿としてDTPと相性のよいデジタルデータであること(当たり前のことだが)、そして撮影した画像を背面の液晶モニターでその場ですぐ確認できることであった。

特に後者に関しては、それまで対談やポートレート、あるいは小物などストロボを用いた撮影の場合、光の状態や影の現れ方などを見るためポラロイドフィルムによるテスト撮影ではブローニーカメラを用いていた。例えそれが35mm一眼レフカメラをメインとする撮影の場合でも同様で、機材の量や重量などを考えると機動性がよいとは言い難いものだったのである。

また、ポラロイドフィルム専用のボディである「コンタックスプレビュー」や、サードパーティ製で35mm一眼レフに装着できるポラロイドパックも以前から存在していたが、いかんせん24×36mmの画面サイズでは、ポラロイドフィルムの特性もあり細かいところまで確認することは難しくもあった。液晶モニターを備えるデジタル一眼レフであれば、テスト撮影のためのブローニーカメラを携える必要も、ポラロイドフィルムを用意する手間もなく、本番の撮影結果もその場ですぐ確認できる。拡大表示機能により詳細をチェックすることも可能だ。しかもRAWフォーマットで撮影しておけば多少の露出の失敗はなかったことにでき、とても便利そうに思えたのである。

そして満を持するかのように登場したのが、今回ピックアップした「キヤノンEOS D30」(以下:EOS D30)である。発売は2000年。定価は税抜で35万円ほどであった。注目のキーデバイスはAPS-Cサイズ(22.7×15.1mm)のCMOSセンサーで、有効画素数は325万画素。当時としては十分とは言えないまでも実用に値する画素数であった。ただ、本モデルの発売から2年後に登場した後継モデルの「キヤノンEOS D60」は有効630万画素と一気にほぼ倍としたのは、やはり物足りなさを感じていたユーザーが多かったからだろう。

有効325万画素のCMOSセンサーを搭載するEOS D30。発売は2000年で、このシリーズは2019年発売のEOS 90Dまで11世代続いた。ボディのデザインについては、小さな変更はモデルチェンジの度に行われたが、大きく変わることは最後までなかった

イメージセンサーのタイプについては、その後登場したライバルメーカーのデジタル一眼レフはCCDセンサーを採用するものがほとんどで、CMOSセンサーを搭載するデジタル一眼レフは当時マイノリティな部類であった。しかしながら、従来言われていたCMOSセンサーは高感度に弱くノイズが出やすいという定説を覆し、最高感度であるISO1600でも実用レベルとしてEOS D30では高く評価されたと記憶している。現在メーカーを問わずほぼ全てのミラーレス、デジタル一眼レフがCMOSセンサー、もしくはそれに準じた構造のセンサーを採用していることを考えると、キヤノンの先見の明を示すひとつの例と言えるだろう。

CMOSセンサーは本文でも触れているようにEOS D30登場以前は高感度に弱くノイズが出やすいと言われていた。それを大きく覆したのが本モデルで、以降EOS-1Dを除きキヤノンのデジタル一眼レフは基本同社製のCMOSセンサーを採用している(EOS-1Dは松下電器製のCCDセンサーを採用)

また、イメージセンサーがAPS-Cサイズであるため、装着したレンズの画角を35mm判に換算するための「焦点距離倍数」という概念を、このカメラで初めて知ったユーザーも少なくなかった。なお、キヤノンのAPS-Cサイズの焦点距離倍数は、EOS D30以来ミラーレスとなった現在でも他のメーカーが1.5倍とするなか1.6倍としている。

さらにAPS-Cサイズのデジタル一眼レフは現在にいたるまでどのカメラもそうだが、ファインダー倍率の低さはEOS D30も例外ではなかった。カタログを見るとファインダー倍率は0.88倍と記されているが、これは焦点距離50mmのレンズを装着したときのもの。同じ画角とする場合焦点距離倍数の1.6で割ればよく、その際のファインダー倍率は0.55倍となる。「井戸の底を覗くよう」と言ってはちょっと大袈裟だが、ファインダー画面がフルサイズにくらべはるかに小さく、お世辞にも見やすいとは言えなかったのである。ちなみにファインダー像を拡大する専用のマグニファイヤーは、EOS D30の登場から15年後の2015年まで待たなければならなかった(「マグニファイヤーEG-Eb」でEOS D30にも装着が可能。ファインダー像を1.2倍に拡大する)。

液晶モニターのサイズについては1.8型。現代の尺度からすれば、びっくりするほど小さいが、本モデルが登場した時代ではこれでも一般的なサイズであった。解像度も11.4万ドットで、正直に言えば画像やメニューの表示は粗い。ただし、時代的には常識の範囲内であった。それよりも撮影した画像がその場で見られるメリットは大きく、前述のようにフィルムカメラにはないこのデバイスの存在がとても尊いものに思えた。

今となっては小さな液晶モニター。1.8型11.4万ドットとする。画面のなかの楕円形のキズのようなものは、液晶に貼られたフィルターが劣化したものと言われており、EOS D30の持病のひとつ。カメラ背面には、ON/OFFスイッチが2つあり紛らわしい(電源用とサブ電子ダイヤル用)
シャッターボタン側のトップカバーの様子。液晶パネルの左側にボタン類が並ぶ。液晶パネルの表示はEOS 90Dまで仕様に大きな変更はなかった。視度調整ダイヤルの位置もEOS D30から変更はない
メニューの表示。項目が少ないため、タブで細かく区切られておらず、そのままサブ電子ダイヤルを回すと撮影メニュー→再生メニュー→セットアップ・機能メニューと変わっていく。この個体の場合、液晶のフィルター劣化によりメニュー画面は見にくい

あれほど期待いっぱいだったEOS D30であるが、個人的にはすぐに手にいれることができなかった。発表直後から喉から手が出るほど欲しかったのだが、当時はほかに資金繰りの都合があり、1年ほど待つことになる。ただ、地元都城を拠点に活動し、私が高校時代よりお世話になった写真家の故 川﨑利昭氏が発売開始早々にEOS D30を手に入れており、帰省する度に使わせてもらったのが今となっては懐かしい思い出となっている。

今回の記事を執筆するにあたりあらためて使ってみたが、たしかに現在のデジタル一眼レフやミラーレスとくらべてしまうと、古く感じるところは多い。しかしながらRAWフォーマットで撮影した画像は、今でもDPP(Digital Photo Professional)やPhotoshopのCamera RAWなど現像処理に対応するため、最新のEOSの生成する画像に迫る仕上がりを得ることができる。解像度(画素数)はやや心もとないけれど、スマホやタブレットで撮影した画像を閲覧するかぎり、今でも十分楽しめるように思える。

インターフェースは上からUSB端子、ビデオ出力端子、下左はシンクロ端子、下右はN3タイプのリモートコントロール端子としている。USB端子とビデオ出力端子を覆うゴム製のカバーは経年劣化のため根本から切れてしまっている
EOSデジタル二桁機の特徴のひとつ、ストロボを内蔵。ガイドナンバーは12(ISO100・m)で、焦点距離18mmの画角に対応する。ポップアップしたた際の発光部の位置はさほど高くはならない
カードスロットはCFカードに対応。写真に写るCFカードはEOS D30に同梱されていたもので、キヤノン銘のもの。容量は16MBと現代の尺度からすると恐ろしく小さい

大浦タケシ|プロフィール
宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマン、デザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌をはじめとする紙媒体やWeb媒体、商業印刷物、セミナーなど多方面で活動を行う。
公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。
都城市公認「みやこんじょ大使」。