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手元にある二焦点レンズを搭載するフィルムコンパクトカメラを並べてみた。前列右から時計回りに「キヤノンSUPER SHOT TELE(Autoboy TELE)」、「ニコン ピカイチ テレL35TW AD」、「ミノルタ MAC-TELE QUARTZ DATE」、「キヤノンAutoboy TELE6」。いすれも望遠用のテレコンバータを内蔵することで、二焦点としている

ライトユーザーなど一般的な消費者をターゲットとするAFフィルムコンパクトカメラ(以下AFコンパクト)の遷移を光学系から見たとき、1977年に発売された世界最初のAFコンパクト「コニカC35AF」をはじめとする準広角の単焦点レンズを搭載する時代と、1980年代後半ごろより展開されるようになったズームレンズの時代に大きく分けられる。

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1980年代、多くのメーカーから二焦点レンズを搭載するAFコンパクトカメラがリリースされた。現在その評判を聞くことはないが、単焦点レンズ時代からズームレンズ時代への橋渡し的な存在であった。中古市場ではそう多くは出回っていないものの、丹念に探せば出会う可能性は少なくないはずだ

その単焦点レンズ時代とズームレンズ時代のわずかな間、1980年代中頃から後半にかけてとなるが、準広角の焦点距離と、中望遠と言われることの多い焦点距離の2つを1つの光学系で賄う、いわゆる二焦点レンズを搭載するAFコンパクトが市場を賑わせた。

二焦点レンズ採用の理由は、某メーカーに所属する著名なレンズ設計者の方に伺ったところ、定番としていた準広角単焦点レンズを搭載するAFコンパクトをベースに、いかにして望遠で撮影できるようにするかという発想で生まれたという。筆者(大浦タケシ)は長年、単焦点レンズのAFコンパクトと、ズームレンズを搭載したAFコンパクトの時間的な間で、間に合わせ的につくったものと考えていたが、そうではないのである。ただし、1980年代末期ともなるとズームレンズを搭載するAFコンパクトカメラが雨後の筍のように現れ、早々に一般化するとともに、二焦点レンズを搭載するコンパクトカメラはあっと言う間に淘汰されてしまう。つまり二焦点AFコンパクトは、結果的にであるが、単焦点レンズを搭載するAFコンパクトの時代とズームレンズを搭載するAFコンパクトの時代の隙間を埋めたカメラになってしまったのである。

その二焦点レンズを広角から望遠に切り替える仕組みは基本的に次のようになる。なお、3つの動作ともほぼ同時に行われる。

  1. スイッチを望遠に切り替えると光学系が前面に繰り出す
  2. 光学系の後端にテレコンバータのレンズが組み込まれる
  3. 光学ファインダーは望遠の画角に合わせたものに切り替わる

※望遠から広角への切り替えはこの逆となる

キヤノンAutoboy TELE6

「キヤノンAutoboy TELE6」は1988年に発売。レンズの焦点距離および開放F値は、ワイド側35mm F3.5、テレ側60mm F5.6とする。このカメラは物撮影のカメラマン泣かせで、レンズカバーはカメラの電源をONにしても常時閉じた状態ままで、シャッターを押した瞬間のみ開く。そのためレンズの見えないカメラの写真となってしまうのである。したがって掲載した写真もレンズカバーが閉じた状態であることをご承知いただきたい
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「キヤノンAutoboy TELE6」のレンズが繰り出す様子。ワイド側ではレンズカバーが開くだけだが、テレ側ではレンズカバーは開くと同時にレンズ鏡筒が飛び出してくる。常時レンズカバーが閉じた状態とするカメラであるが、レンズの清掃とか考えなかったのだろうか

機構的にはレンズの繰り出しやテレコンバータの組み込み動作などはあるが、ズーミングするといくつかのレンズ群がある意味不規則に動くズームレンズにくらべれば、シンプルな動きと述べてよい。また、技術レベルで考えたときも、テレコンバータのほうが光学性能的にも、コスト的にも、またサイズ的にも有利であったと言われている。なお、広角と望遠を別個のレンズとするモデルもこの当時存在していた。そのひとつがハーフサイズとなるが、1985年発売の「富士フイルムTW-3」で、前面の大きなダイヤルを回すことで広角レンズと望遠レンズを切り替えていた。

ニコン ピカイチ テレL35TW AD

「ニコン ピカイチ テレL35TW AD」は1985年に発売された二焦点フィルムコンパクトカメラ。有名女優を起用した広告を展開していたので記憶している読者の方もいることだろう。レンズの焦点距離および開放F値は、ワイド側38mm F3.5、テレ側65mm F5.6としている。レンズ銘に「ニッコール」と付かないのはちょっと寂しい
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「ニコン ピカイチ テレL35TW AD」のテレコンバータが出てくる様子。テレ側に設定すると鏡筒が前方に伸びていくとともにテレコンバータが下側より飛び出してくる

キヤノンSUPER SHOT TELE

欧米では「キヤノンSUPER SHOT TELE」、国内では「キャノン Autoboy TELE」の名で1986年に発売されたモデル。写真は欧米向けモデルである。レンズの焦点距離および開放F値は、ワイド側40mm F2.8、テレ側70mm F4.9。ソフトフィルターを内蔵しているのも特徴だ。テレ側ではレンズ鏡筒周りのシェイプがちょっとゴツく感じられる
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「キヤノンSUPER SHOT TELE」のテレコンバータが出てくる様子。思いのほか素早くテレコンが動くことが分かる。「ライカM5」や「ライツミノルタCL/ライカCL」の露出計用受光素子の動きを思い起こす

筆者が二焦点レンズを搭載するAFコンパクトに注目したのは、今でもそうだが、単焦点レンズに強い興味を持っていたにほかならない。特にエッジのキレやコントラストなどどうひっくり返ってもズームレンズの写りは単焦点レンズに敵わないとする思い込み、あるいは偏見からである。一眼レフ用のズームレンズとなるが、たしかに1970年代から80年代初頭、その写りは単焦点レンズに及ばないものがあり、そのため私自身生意気にもズームレンズで真剣に写真を撮ろうとなどこれっぽっちも思わなかったのである。そんな偏った考えを持つ"単焦点レンズ原理主義者"として、ズームレンズはダメでも二焦点レンズであれば期待できるような画質が得られるハズ、という今にしては思えば噴飯ものの解釈から同レンズを搭載するAFコンパクトに興味を持ったのである。

ミノルタ MAC-TELE QUARTZ DATE

「ミノルタ MAC-TELE QUARTZ DATE」は1988年に発売の二焦点レンズを搭載するフィルムコンパクトカメラ。焦点距離および開放F値は、ワイド側38mm F2.8、テレ側80mm F5.6としている。テレ側に設定するとレンズとともにストロボがボディより飛び出すのが特徴。余談だが、ストラップはボディに固定されており、容易に外すことができないのは如何ともし難いところ
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余談だが、その偏った考えは一眼レフ用のレンズでも存分に発揮され、筆者は「SOLIGOR C/D DUALFOCAL 28mm F3.5 + 35mm F3.8」と「SOLIGOR C/D DUALFOCAL 85mm F4 + 135mm F4」の2本の二焦点レンズの存在を知ると、すぐに手に入れている。ただし、期待が大きかった分、残念に思うところも少なくなく、特に85mm+135mmに限って言えば最短撮影距離は両焦点距離とも1.8mと少々厳しい部分も見受けられるなど、写りも含めその結果にがっかりしたものである。

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数少ない一眼レフ用二焦点レンズで、左が「SOLIGOR C/D DUALFOCAL 85mm F4 + 135mm F4」、カメラに装着しているのが「SOLIGOR C/D DUALFOCAL 28mm F3.5 + 35mm F3.8」。1970年代後半か1980年代前半につくれたもののようである。残念ながら写りをはじめ特筆すべきところはないが、現代の光学技術を用いれば面白いレンズがつくれそう

AFコンパクトの二焦点レンズの写りは、もちろんそのようことはない。かと言って、その後に登場したズームレンズを搭載するAFコンパクトと比較して、写りなど圧倒的に優位かというとそこまで述べいたらない。もちろん光の条件などによってはなかなかの写りを見せてくれることもあるが、サービスサイズ(Eサイズ)のほどの大きさのプリントで見る分には、二焦点レンズを搭載するAFコンパクトで撮影したものも、ズームレンズ搭載するAFコンパクトで撮影したものも決定的な差はそれほど感じられない。もっとも今のZ世代の方々は、我々中高年が考える写りと異なる写りを好ましいと考える傾向があるので、意外とその写りは受けてくれるかもしれないが。単焦点レンズとズームレンズの時代の間に生まれ、ほんのわずかな期間少しだけ輝いた二焦点レンズを搭載するAFコンパクト。 緩い"単焦点レンズ原理主義者"で、なおかつ天邪鬼な性格の筆者にとって、それでも興味深いカメラに思えてならない。


大浦タケシ|プロフィール
宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマン、デザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌をはじめとする紙媒体やWeb媒体、商業印刷物、セミナーなど多方面で活動を行う。
公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。