モノクロ専用とするデジタルカメラはライカとリコー/ペンタックスからこれまで発売されてきている。通常カラーの撮れるデジタルカメラでも仕上がり設定機能やフィルター機能などでモノクロの写真は生成できるので、モノクロ専用機の必然性はないように一見思われる。しかしながらモノクロ専用のイメージセンサーと、一般的なカラーの撮影に対応するイメージセンサーとではその構造が異なり、また生成する絵も厳密には違いがあるため、それがモノクロ専用機の存在意義となっている。
その違いを簡単に述べると、カラーのイメージセンサーは、カラーフィルターを搭載している。このフィルターは、マイクロレンズとフォトダイオードの間にあり、マイクロレンズを透過し光は、カラーフィルターでRGBの各色に分離(分光)されフォトダイオードへと導かれていく。フォトダイオードではRGBそれぞれの光を電気信号に変え、画像に変換する回路へと送り出し、カラーの画像データへと生成する。この画像データをモノクロにするには、RGBのいずれかの画素情報を元にモノクロへと変換を行うのが一般的となっている。
一方、モノクロ専用のイメージセンサーはカラーフィルターを搭載しておらず、マイクロレンズを透過した光はそのままダイレクトにフォトダイオードへと導かれる。さらにフォトダイオードで電気信号となった全てがモノクロの輝度情報で、それでモノクロ画像の生成を行う。そのため階調豊かな画質が期待できるとともに、カラーフィルターがないためより先鋭度の高い写りが得られる。以上のようなことからカラーの撮れるイメージセンサーによるモノクロ画像と、モノクロ専用のイメージセンサーによるモノクロ画像とは素性が異なる、と述べてよい。なお、モノクロ専用のイメージセンサーはそのようなことから、JPEGに限らずRAWで記録される画像もモノクロであり、撮影した画像をRAW現像でカラーに生成することはできない。
「ライカ M-Monochrome」(以下:M-Monochrome)は、モノクロ専用のイメージセンサーを積む初めてのデジタルカメラである。発売は2012年でベースとなったモデルは「ライカM9」。センサータイプはCCDで、フォーマットは言うまでもなくフルサイズ。有効画素数は1,800万画素としている。当時すでに一般的であったCMOSタイプのセンサーではなく、画素数も2,000万画像に及ばないなど、スペック的に新鮮味にやや欠けるものであったが、モノクロしか撮れないカメラということで注目度は高かったと記憶している。
このカメラの発表に、筆者(大浦タケシ)は当時心底喜んだ。と言うのも大学時代に「ライカM4-P」を、社会人になって「ライカM6」を距離計連動のカメラとして使っていたが、装填するフィルムはいつもモノクロであり、"M型ライカはモノクロフィルムで撮らねばならぬ"という何とも言えない偏った思考から抜け出さずにいたからである(今も抜けきれていない)。当然カラーの撮れるデジタルM型ライカの存在に、恥ずかしながら少々疑問を抱いていたことは言うまでもない。
ちなみに、ここまでモノクロ一辺倒になった理由としては、写真をはじめた中学高校時代カメラに常に装填していたのは手に入れやすい価格であったモノクロフィルムだったこと、大学ではモノクロ写真による課題提出が多かったこと、またモノクロは人の手を頼らず自分でフィルム現像からプリントまで一貫してやれたことなどが大きい。グレーの美しいハーフトーンを持つプリントが得られた時の喜びや、当時誰でも一度は"罹患"したことのあるアレ・ブレの写真も増感や高温現像などで比較的気軽に楽しめたことも理由のひとつ。また憧れであった国内外の著名写真家の作品の多くがモノクロで撮られたものが多く、その影響を受けていたことも理由と言えるだろう。何よりモノクロ写真自体が好きだからにほかならない。筆者と同年代か、それ以上の年齢の方のなかにはこの笑えるようなモノクロ原理主義に同調、あるいは少なくとも理解してくれるひともいるかと思う。
M-Monochromeの発表に際し、ライカは発表会を開催した。カメラ関連媒体の記者をはじめ、カメラライター、販売店等の関係者が呼ばれた。私も呼ばれ出席したのだが、会場で流されたプロモーションビデオや、関係者のプレゼンを食い入るように見たことは言うまでもない。そして、心の中で密かに「このカメラこそデジタルM型ライカの真骨頂だよね」と勝手に思ってしまったのである。その発表会で筆者の隣に座っていたのがよく知るプロショップの方だったが、発表会が終わるや否やその方にM-Monochromeをオーダーしたのであった。距離計連動のカメラで、しかもカラーで撮れないとなると仕事で使うことはほぼなく、あくまでも趣味のカメラとなる。そのため自分にとって贅沢な買い物かなと思ったのだが、それよりも何よりもモノクロ専用のM型ライカであることに注文しない理由はなかった。ただ当時も今と同様経済的な余裕などはなかったのだが。
今回のコラムで写真に写った個体は、そのときに手に入れたM-Monochromeである。すでに14年間使っているが、M9シリーズの持病であるセンサー保護ガラスの加水分解による腐食でセンサー交換を行ったこと以外はトラブルらしいトラブルもなく未だ持ち出す機会も多い(その後に登場したM型モノクローム機があまりにも高価で買えないこともある)。また、フィルム時代から使っている同社のMレンズはすべて6bit化を行い、少しでもよい条件で撮影できるよう整えている。これからも電子部品の劣化などで動かなくなるまで使い続けようと考えている。
とにかく手元に届いたときは嬉しくて仕方がなかったM-Monochrome。フィルム時代のようにレンジファインダー機で、しかもモノクロで撮る楽しさが味わえ、それは現在まで続いている。そのような勢いで家族の記念写真のようなものまでM-Monochromeで撮っていたのだが、ある日家人からクレームを頂いてしまうのである。
「私は色のある世界で生きている。だから白黒の写真はあなたひとりで楽しむ写真だけにしてほしい」
大浦タケシ|プロフィール
宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマン、デザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌をはじめとする紙媒体やWeb媒体、商業印刷物、セミナーなど多方面で活動を行う。
公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。