ソニー株式会社は、IBC2025のブースにおいて、バーチャルプロダクションに関連する新たな製品群とソリューションを公開した。今回の展示では、LEDディスプレイの新モデルや、マーカー不要のカメラトラッキングシステムなどが紹介され、映像制作の現場に向けた最新技術が披露された。

バーチャルプロダクションの中核をなすLEDディスプレイには、新たなラインナップとして「Crystal LED CAPRI」が加わった。このモデルは、既存のプレミアムモデルである「Crystal LED VERONA」に加えて提供されるもので、ピッチサイズ2.50mmの仕様となっている。

VERONAと比較して導入しやすい価格帯でありながら、バーチャルプロダクション用途に求められる高画質を実現している。具体的には、最大輝度1,500cd/m2の高輝度、DCI-P3カバー率98%以上の広色域、そして業界最高水準の7,680Hzの高リフレッシュレートを確保している。LEDコントローラーや取り付け用のフレームはVERONAと共通化されており、例えばスタジオのメインウォールにVERONAを、そして天井や周囲のリフレクション用としてCAPRIを配置するなど、予算や用途に応じた柔軟なシステム構築が可能である。業界標準のコントローラーであるBrompton TechnologyやMegapixelに対応し、可搬性を考慮した簡単な設置方法も特徴となっている。

また、カメラトラッキングシステムとして、今冬に発売が予定されている新製品「OCELLUS」が大きな注目を集めた。このシステムの最大の特徴は、IRマーカーなどのステッカーをスタジオに貼り付ける必要がない、マーカーフリーのトラッキングを実現している点にある。5つのセンサーを搭載したセンサーユニットがそれぞれの方向を監視することで、一部のセンサーが隠れた場合でも安定したトラッキングを継続できる。これにより、従来のスタジオ内に限定された利用だけでなく、屋外での撮影にも対応可能となった。

さらに、ソニー製カメラとのメタデータ連携や、ポストプロダクションでの活用を見据えたFBX形式でのファイル記録機能も備えている。ブースでは、VENICEカメラと組み合わせたコンパクトなセットアップが展示され、トラッキング情報がFreeDプロトコルを通じてリアルタイムにUnreal Engineへと送られる様子が実演された。

ソフトウェアソリューションである「バーチャルプロダクションツールセット」も機能強化が発表された。このツールセットは、Virtual Cameraを実現するUnreal Engine用のプラグイン「Camera and Display Plugin」と、バーチャルプロダクションで高い色再現性を実現する補正LUT生成ソフトウェア「Color Calibrator」で構成される。今冬にリリース予定の「Camera and Display Plugin」バージョン3は、全ての機能が無償で提供される。

新機能の一つである「レイトレーシングアクセラレーション」のサポートは、Unreal Engineでレイトレーシングを有効にした際に発生するフレームレートの低下を抑制する技術である。これにより、既存のGPU環境のままで、映像品質を維持しながら高いパフォーマンスでの撮影が可能になる。この機能は、LEDディスプレイやカメラのメーカーを問わず利用できる。もう一つの新機能「視野角色補正」は、LEDをコーナー状に設置した際に生じる色のずれを、カメラの位置と連動してリアルタイムに自動補正するものである。この機能は「Crystal LED VERONA」および「Crystal LED CAPRI」の限定機能として提供され、XRステージなどでの活用が見込まれる。

ツールセットを構成するもう一つのソフトウェア「Color Calibrator」もアップデートされた。これは、カメラで撮影したLEDディスプレイの色を正確に調整するためのWindows用ソフトウェアで、次期バージョン3からソニー製以外のカメラもサポート対象となる。また、Unreal Engine以外のメディアサーバーを使用している環境でも導入が可能となり、より幅広いユーザーが利用できるようになった。カラーチャートをLEDに表示して撮影するだけで、キャリブレーション用のLUTデータが自動で生成され、メディアサーバーなどに適用することで、正確な色再現を実現する。

ソニーは、これらのハードウェアとソフトウェアを連携させることで、高品質かつ効率的なバーチャルプロダクション環境を総合的に提供していく姿勢を示した。