今年のIBC 2025で大きな注目を浴びていたのは、ニコンのベールを脱いだフルサイズセンサー搭載カメラ新製品「ニコン ZR」である。会場に構えられた巨大なブースからも、映像市場に新たな歴史を刻もうとする同社の凄まじい気迫が伝わってくる。今回、その最前線に立つニコンの担当者に話を伺うことができたので、早速その内容をお届けする。
映像事業部 マーケティング統括部 マーケティング部 横浜純氏
映像事業部 マーケティング統括部 マーケティング部長 山岡廣樹氏
映像事業部 開発統括部第一開発部 竹内悟氏
――ニコンが動画市場に本格参入されるというニュースには驚きました。今回の背景について教えていただけますか?
山岡氏:
はい。ご存じの通り、SNSや動画配信サービスの普及によって、動画撮影需要は急速に拡大しています。それに伴い、高画質な撮影機材へのニーズも高まっていると感じていました。これまでもZ6やZ7をはじめとしたZシリーズで動画撮影機能を提供していましたが、動画市場においてニコン単独で存在感を示すのは難しかったんです。特に日本市場ではトッププロのユーザー層が限られているため、時間がかかると考えていました。
しかし昨年、RED Digital Cinema社が日本グループに加わったことで状況は一変しました。REDはシネマ業界で高い信頼と実績を持っており、ニコンと協業することで、より短期間で動画市場に参入できると判断しました。
――動画部門の社内の反応はいかがでしたか?
山岡氏:
社内では「これまでのデジタルカメラ技術を活かして、映像クリエイターに新しい選択肢を提供できる」と期待感が高まっています。REDの経験と、ニコンのセンサーや画像処理技術を組み合わせることで、より魅力的な製品が作れると実感しています。
――新製品はニコンとREDの協業で開発されたとのことですが、具体的にはどのように協業されたのでしょうか?
山岡氏:
両社の企画・開発チームがほぼ毎日密に連携しました。意見がぶつかることもありましたが、顧客視点を共有しつつお互いを尊重しながら開発を進めました。REDの動画制作に関する深い知見を活かすことで、ZRの開発が実現しています。日本からは社長を含む複数のスタッフがREDに出向し、現場で開発・企画に参加しました。
――具体的な機能や性能面での協業ポイントは?
竹内氏:
ZRの最大の特徴はREDのカラーサイエンス、具体的にはREDのLogカーブ(Log3G10)や色域(REDWideGamut)で撮影できるR3D NEフォーマットの搭載です。R3D NEを用いればポストプロダクションにおいてREDのシネマカメラとワークフローを統一できます。これにより、ZRをV-RAPTORのB/Cカムとして組み込むことも可能です。
――価格面の戦略についてもお聞かせください。
山岡氏:
ZRは、若い世代のクリエイターや、これから映像制作を始める方に動画制作の魅力を体験してもらうための製品です。これまでのZ9やZ5IIの機能をベースに、RAW動画や多様なフレームレートもサポート。画像処理エンジン「EXPEED 7」を活かすことで、価格を抑えつつ、R3D NEを含む複数のRAW動画フォーマットに内部収録で対応、高性能な画像処理を備えることで、自由な映像制作の基盤として使ってもらえることを狙っています。
――今回のニコンブースで特に注目してほしいポイントは?
横浜氏:
今回の展示の特徴は、ニコン、RED、MRMCと異なるメーカーが協業して出展している点です。カメラ本体だけでなく、リグやアクセサリー、レンズまで含めた映像制作システム全体を体験できます。また、古いニッコールレンズをリハウジングして再利用する動きも盛んで、個性的な映像表現の可能性を感じていただけると思います。こうした「システム全体としての映像体験」を体験できるのは、今回の展示の大きな魅力です。
――ZRを通じて、ニコンとしてどのような映像文化を広げたいとお考えですか?
山岡氏:
世界中のクリエイターにZRやR3D NEを使って「動画を撮る楽しさ」を体感してほしいです。若い世代に限らず、全てのクリエイターが自由に映像制作を楽しめる環境を提供することが目標です。さらに今後、シネマレンズの展開も予定しており、映像制作の幅を広げる基盤作りにも力を入れています。ZRや関連機材を通じて、映像文化のさらなる発展につながることを期待しています。

