IBC2025(国際放送機器展)のソニーブースでは、「ライブ」「ニュース」「撮影技術」の3つのコーナーを軸に、最新の映像制作ソリューションが展示された。ヨーロッパの高い環境意識を反映し、ブースの建材には100%再生材料が採用されている点も特徴である。
ブース中央で特に注目を集めたのが、XDCAMハンディカムコーダーのフラッグシップモデル新製品「PXW-Z300」である。このモデルはヨーロッパでは本展示会が初披露となり、日本では2025年10月頃の出荷が予定されている。PXW-Z300はコンパクトな筐体ながら、フォーカス、ズーム、アイリスを個別に操作できる3連のフルマニュアルリングを搭載している。これにより、ENGカメラで多用されるB4マウントレンズと同様の感覚で操作でき、報道や制作の現場からの評価が期待される。
モニター機構も大きく進化し、前後のスライドや回転が可能な新開発の3軸可動アーム「フレキシブルLCDアーム」が採用された。これにより、撮影者は自身の見やすい位置にモニターを柔軟に調整できる。さらに、従来モデル「PXW-Z280」と比較して約3倍明るいLCDパネルを搭載し、屋外での視認性を大幅に向上させている。このモニターの進化に伴い、従来のビューファインダーは廃止された。これまでビューファインダーがあったスペースには、オーディオトランスミッターなどを設置してもハンドル操作の妨げにならない空間が確保され、運用の自由度が高まった。
本体側面には、新たに「サイドVマウント機構」が追加された。これは物理的な取り付けを目的としたもので、電子接点はない。近年、カメラ本体にトランスミッターやスマートフォンを取り付けて運用するケースが増えているが、リグを使った固定ではぐらつきが生じることが課題であった。このサイドVマウント機構により、対応アクセサリーを確実かつ簡単に固定でき、カメラバッグへの収納時などでも安定性が保たれ、全体の可搬性が向上している。
本機は、カムコーダーとして世界で初めて動画への真正性情報の記録に対応した業務用カメラでもある。近年、フェイクニュースの増加を受け、映像の信頼性を担保する技術の重要性が高まっている。この機能は、撮影時に「どのカメラで撮影されたか」という電子署名をファイルに記録するものである。ブースでは、PXW-Z300で撮影した映像をトランスミッター経由でソニーのクラウドソリューション「Ci Media Cloud」へアップロードし、ファイルに「PXW-Z300 with C2PA」と記録されている様子が実演された。この情報は編集システムに引き継がれ、どのような編集が行われたかの履歴も記録される。これにより、放送にいたるまで映像の来歴を追跡し、その正しさを確認するワークフローが構築可能となる。
さらに、映像伝送の新たなソリューションとして、LiveU社との協業によるトランスミッター「LiveU TX1」が発表された。これは、撮影した映像ファイルを安定して伝送することに特化した製品である。重量は約750gと軽量で、内蔵SIM2枚と外部USB-C経由の1枚、合計3枚のSIMカードに対応し、これらの回線を束ねるボンディング技術によって確実なファイル転送を実現する。
LiveU TX1の背面にはVマウント機構が備わっており、PXW-Z300のサイドVマウントに直接取り付けることができる。従来のトランスミッターはサイズが大きくバックパックで背負う運用が主流だったが、この連携によりカメラと一体化したコンパクトな運用が可能となり、取材現場での機動力を大幅に向上させる。