北陸放送機器展2025のPRONEWS STATIONセミナーエリアでは、アドビのPremiere Proの新機能として、今年の春に新搭載されたカラーマネジメント機能についての詳細なセミナーが行われた。
初日の9月17日に開催されたセミナー「Premiere Pro カラーマネジメントの魅力 『カラーマネジメントで素材を活かす』」では、Premiere Proに新たに搭載されたカラーマネジメント機能が紹介された。
この機能を活用することで、様々なLog形式で収録された映像素材に対し、カメラセンサーが捉えた画像情報を充分に引き出すことができる。従来のSDRはもちろん、HDRの作品制作まで、自動的に適応できる機能だ。
セミナーでは、このカラーマネジメント機能の紹介と、その前段として必要な知識として、Log収録ができる現在のシネマカメラの成り立ちなどについて解説された。
登壇者は、映像プロデューサー/ジャーナリストの石川幸宏氏と、ターミガンデザインズの高信行秀氏。
シネマカメラの普及の歴史と、Log収録のメリット
前半では、石川氏による、Log収録できるカメラ=シネマカメラ黎明期と称した、シネマカメラ誕生の軌跡と、Log形式の成り立ちなどについての解説がなされた。
シネマカメラが定義された明確な基点としては、2008年のキヤノン「EOS 5D Mark II」が映像制作に登場し始めて、被写界深度の浅いフィルムルックの映像に魅了された時代から、2011年のキヤノン「CINEMA EOS SYSTEM」の登場あたりとされる。
その後レンズ交換式に加えて、カメラ内でLog形式のデータが収録ができるカメラが各メーカーから登場した。これを従来のビデオカメラの持つ、8ビット 4:2:2 50Mbpsというビデオの基本機能に加えて、レンズ交換+Log収録できるカメラを区別して、デジタルシネマカメラと呼ぶようになった。
Log形式の収録メリットは、TVモニターへの標準的な表示規格であり、従来のビデオカメラの収録形式Rec.709に対して、より広い色域とダイナミックレンジを表現できる映像素材であること。
また、そもそものLogの発明は、1990年代のフィルム時代にコダック社が開発したシステムが発祥であるという。
当時まだフィルム撮影が全盛だった頃、撮影し現像したフィルムを「フィルムスキャナー」という機械でスキャンニングしてデジタルデータに変換し、色調整などの処理をデジタルで行うDI(Digital Intermediate)という手法があった。
Logとは、そのDIシステムである「Cineon(シネオン)」で、ネガフィルムをデジタル化する際に採用された10ビットの記録方式(ガンマカーブ)であること。
これはフィルムに収録された広いダイナミックレンジを損なうことなく、そのデータ量を効率的に圧縮して記録できる方法ため、ポストプロダクションでのカラーグレーディングの幅を広げ、現在のデジタルカメラに搭載されているLog撮影モードの基礎となったことなどが紹介された。
また、今回Premiere Proに搭載されたカラーマネジメントの、大きな特徴の一つでもあるACEScctという大きな作業用カラースペースを採用したことで、従来のSDRはもちろん、HDRの出力時のカラースペースのサイズまでもカバーできることなどの基本解説が行われた。
カラーマネジメントで素材を活かすには?
続いて後半は、ターミガンデザインズの高信行秀氏から、Premiere Proカラーマネジメント機能についての解説が行われた。
この機能は、今後SDR以上のHDRコンテンツなどの制作にあたる上で、標準的なものになる技術であることを強調。今回は特にカラーマネジメントの魅力となるメリットの一部について解説された。
最初に「カラーマネジメント」という言葉から真っ先にイメージするのは色を合わせるといったものだが、それは目的の一部に過ぎないこと。ここで言うカラーマネジメントは、その名前の通り色を管理すること全般のことを指す。このセミナーでは、その1つとして素材の色を管理して、素材を生かす方法を紹介した。
カメラ撮影素材の現状性能
今ある高性能カメラでは、Rec.709以上のカラースペースを記録する能力を持っているが、結果に反映できていない。
また編集自体もRec.709だけのものがほとんどで、いくらカメラの性能が良くても、結果にその性能を発揮できていなかった。その理由は、静止画の場合は記録するフォーマットの問題であり、動画に関しては扱いの問題があったためである。
特に動画の場合においては、HDRやLog形式といった広色域・広いダイナミックスなフォーマットがカメラ内ですでに用意されているが、その使用方法がわからず利用されていないか、間違った使い方をされているのが現状だという。
特にLog形式は一部のユーザーにはまだ間違われて使用されていることも多いという。そんな課題をこのPremiere Proのカラーマネジメント機能が解決し、コンテンツのクオリティーを上げることができる。
素材を活かす方法とは?
ここではPremiere Proで素材を活かす方法として、
- (1)「HDR素材を使う
- (2)Log形式の素材を使う
の2種類がある。
(2)のうちLog形式の場合はさらに、
- LUTを使う場合とカラースペース展開の場合の違い
- Log形式の映像の能力を引き出す
これらの場合についての説明が行われた。
ただしここでは、引き続き使用することが多いであろう、Rec.709仕上げのフォーマットに収めることを前提に解説された。
素材を活かすHDRの場合
HDRは、Rec.709以上の色域と輝度ダイナミックスを持っている。これをRec.709の編集に使うには、トーンマップを使ってRec.709に押し込める。
この「トーンマップ」は、情報を押し込める機能で、これにより損失している色・明るさの表現はあるものの、結果的にRec.709で似たような表示になることを説明。
ここのデモでは、iPhoneで撮影されたHDR映像をトーンマップによってSDR内に収められる状態を表示。その後、波形モニターで確認しながら、次に入力トーンマッピングを「なし」に変更する。するとトーンマッピングが無効になり、SDR外の成分がクリッピングされる様子で、映像の状態が変わることが確認された。
ここでは、カラーマネジメント機能を使うことで、タイムラインのカラースペースが素材のものより小さい場合に、自動的にトーンマッピングが適用されることが証明された。
また、このトーンマッピングの処理では、あらかじめカラースペースを小さくすることによって表現のクリッピングを防ぎ、その結果として従来の画の感じを持つことができるのである。
これによりSDRの編集においても、HDR素材は豊かな素材として使うことができる。
素材を生かすLog形式の場合
なかなか理解が難しいLog形式の素材の使い方について、カラーマネジメントを使用して、正しい使い方を理解すれば、より高品質な素材としての利用はもちろん、Rec.709のコンテンツでも便利に利用できることを解説。
Log形式の映像にLUTを適用したものは、元来の表示と「Rec.709で似たように見える」というもので、本来の表示ではない。その上、結果は常に最適というわけではない。Log形式はあくまでも圧縮ファイルのようなものであり、そのまま使うものではない。Premiere Proには各カメラのLog形式のメタデータを読み込んでその内容を解釈し、本来のカラースペースに展開する能力がある。
また事前知識として、Log形式について、通常は「〇〇Log」と呼ばれが、厳密に言うとこの呼び方では情報が足らず、あくまでもこの表記は、輝度記録トーンの名称でしかなく、色域の情報が欠けてる状態であることが解説された。
実際使用する色域は規格で決まっており、その規格を守る必要がある。例えば富士フイルムのF-Logの場合、Rec.2020色域で使うことが規格で決まっている。
LUTとカラースペース展開の違い
さらにPremiere Proの操作デモとして、LUTとカラースペース展開の違いについての解説がなされた。
タイムラインに同じ内容のクリップを並べて、片方にはLUT、もう一つにはカラースペース展開をして比較するデモが行われた。
見た目はもちろん違うが、波形モニター上で2つの違いが確認できる。
LUTとカラースペース展開の違いについて、Log形式の映像にLUT適用する場合は、基本的に本来の映像に似たRec.709の映像になるが、それと違い、カラーマネジメント機能のカラースペースで展開すると、Log形式の本来の表現になる。
ここでわかることは、Log形式の素材は、広いカラースペースを持っていることが確認できるが、LUTを当てただけでは、Log形式素材の持つ「本来の表現」を活かしきれていないことがわかる。
このPremiere Pro カラーマネジメント機能では、カラースペースの展開をすることで、Log形式の本来の素材の良さを活かすことができることが証明された。
アドバンス:入力トーンマッピングを調整し、素材を調整する
さらなるデモでは、2つの同じシチュエーションのちょっと露出が高くハイライトの情報が乏しい2つの画像を調整する。
タイムラインには比較のため同じ内容の素材で、LUTを適用したもの(左)と、カラースペース展開したもの(右)が用意され、比較検証が行われた。
波形モニターを見るとわかるが、左側のLUTを当てた画像の方を「Lumetri」の編集から露光量を下げると、情報がスライドするためにヘッドルームに空きができる。
次に右側のカラースペース展開したものでは、入力トーンマッピングの設定で露光量を調整すると、トーンマップで押し込まれた情報が引き出され、情報量の多い調整がされたことが確認できた。
これにより、トーンマップを調整することで使用以外の色情報を参照できるうえ、この設定はクリップごとに行える。結果として、Rec.709を使用しても、広い輝度ダイナミクスの情報を引き出すことができ、誤った収録設定のリカバリーなどに活用できることが解説された。
カラーマネジメント機能のまとめ
このセミナーでは、これまでのLog形式素材の処理方法では、せっかく高性能カメラを使っても、実はその性能を十分に活かしきれていなかったとことが示された。さらに、一般的に知られている「Log映像にLUTを当てるだけ」という考え方では、本来の映像素材が持つ表現力を引き出せていなかった点も指摘された。
カメラ本来の性能を活かすには、Premiere Proのカラーマネジメントが有効であり、こうした従来の問題を解決するものだ。
セミナーでは、Premiere Proのカラーマネジメント機能が今後の映像制作において必須の技術であることも解説された。
現状、Rec.709での納品が通常業務であれば、この機能を使わなくても何とかなるだろう。しかし、今後HDRデバイスの普及に伴いHDRコンテンツが一般化すれば、状況は変わってくる。こうしたカラーマネジメントの内容を理解し習得しておくことは、将来の技術進化に追従していく上で、必要となるということである。