S1IIをベースに誕生したネットワーク対応モデル

Cine Gear Expo Los Angelesのパナソニックブースで注目を集めていたのが「S1IIN」だ。一見すると既存のS1IIそのものに見えるが、その役割は大きく異なる。ミラーレスカメラでありながら、放送システムやライブプロダクションのネットワークへ直接組み込むことを前提に設計されたモデルである。

モデル名の末尾に付けられた「N」はNetworkを意味する。ハードウェアはS1IIと共通だが、ソフトウェアを大幅に刷新することで、放送やライブプロダクションの現場で求められる高度なネットワーク機能を実現している。

放送システムへシームレスに統合

最大の特徴は、既存の放送システムへシームレスに統合できる点にある。本体に専用のEthernet端子を搭載するのではなく、USB端子に有線LANアダプターを接続することでネットワーク機能を利用する仕組みだ。会場ではサードパーティー製のアダプターを介して、プロAVチームが運用するリモートコントロールパネル(RCP)と接続されていた。

本機はパナソニックのスタジオカメラ・リモートカメラで共通して使われている、AWプロトコルにも対応している。これにより、放送現場で広く使用されているAWシリーズのコントローラーからミラーレスカメラを制御できるようになった。従来はPTZカメラやボックスカメラが担っていたネットワーク運用を、フルサイズセンサーを搭載したLUMIXで実現できる点は大きな特徴といえる。

実際にデモ機を確認すると、ベータ版ファームウェアの段階でありながら、アイリス、ゲイン、ホワイトバランス、マスターペデスタルなど、放送現場で必要となる主要な画質調整項目をコントロールパネル側からスムーズに操作できた。 現段階では彩度やマトリックス、色補正関連の一部機能は未実装だが、今後のアップデートで対応項目を増やしていく予定だという。

ストリーミング機能も強化されている。従来のS1IIやS5IIXではRTMPおよびRTMPSに対応していたが、S1IINでは有線接続によるNDI|HX2やSRTにも対応する。これにより、放送局やスタジオ、ライブ配信設備など既存のIPベースのシステムへ容易に統合できるようになった。

特に興味深かったのが、パナソニックのソフトウェアプラットフォーム「Media Production Suite(MPS)」との連携である。PTZカメラやボックスカメラ、そしてS1IINを同一システム上で管理できるだけでなく、異なるカメラ間の色合わせも大幅に効率化される。従来ならエンジニアが時間をかけて行っていたカラーマッチングを短時間で完了させることも可能になるという。システム全体の運用負荷を大きく軽減できる可能性を感じた。

こうした機能が実現した背景には、パナソニック社内の組織統合がある。これまで別々に展開されていたプロフェッショナルAV部門と民生カメラの部門の技術やノウハウが融合した結果として生まれたのが、このS1IINだ。すでにNDIやSRTに対応したボックスカメラやPTZカメラを展開しているパナソニックだが、それらで培われたネットワーク技術をLUMIXシリーズへ展開した点に、本機の意義がある。

ボックスカメラとの最大の違いは、ミラーレスカメラとしての機動力を維持していることだ。グリップやメカシャッターを備え、スチール撮影にも対応するため、スタジオではネットワークシステムに接続して運用し、そのまま現場へ持ち出して取材や撮影に活用できる。LANアダプターを外せば通常のミラーレスカメラとして機能するため、スタジオ収録、ライブ配信、ENG取材、スチール撮影まで1台でカバーできる。

こうした運用スタイルは、中国や韓国の放送局で特に関心が高まっているという。現場では映像収録だけでなく、同時にスチール撮影や記事制作まで担当するケースが増えている。映像機材とスチールカメラを別々に運用するのではなく、1台で複数の役割を担うワークフローが求められているのだ。本機の発売に関しては、中国と韓国で発表されており、放送業界を中心に注目を集めている。

気になるのは既存のS1IIユーザーへの展開である。現時点では中国と韓国向けに専用モデルとして展開される予定だが、既存ユーザー向けのアップグレードパスについては市場の反応を見ながら検討していく段階だという。また、日本およびアメリカでの販売も未定であり、今回のCine Gear Expo Los Angelesや、翌週にラスベガスで開催されるInfoCommでのフィードバックを踏まえて判断する方針だ。

ミラーレスと放送機器の境界を越える一台

S1IINは、ミラーレスカメラの機動力と放送機器の運用性を融合させた意欲的なモデルである。スタジオではネットワーク対応のシステムカメラとして機能し、そのまま現場へ持ち出してスチール撮影や取材にも活用できる。従来は別々の機材が担っていた役割を1台でカバーしようとする発想は非常に興味深い。日本市場での展開は未定だが、今後のフィードバックによってどのような進化を遂げるのか注目したい。