単なる光学系を超えた「撮影プラットフォーム」としての進化
Cine Gear Expo LAのZEISSブースを訪れ、発表されたばかりの新たなフルサイズセンサー対応の2倍アナモフィック・シネマレンズシリーズ「Horizon Anamorphic」の詳細を確かめた。第一印象はある意味、「レンズ」というよりも「ネットワーク対応デバイス」に近くなったとも言える。今回のシステムは、フォーカスやアイリスの駆動系、通信機能、ルック変更機能までをレンズ内部へ統合し、従来のシネマレンズのあり方そのものを見直そうとしている。

最も特徴的なのは、フォーカスとアイリスの駆動モーターを鏡筒内部へ完全に格納している点だ。従来のシネマレンズでは外付けモーターやギアの装着が当たり前であったが、このシステムではそれらが不要となる。実際にカメラへ装着された状態を見ると、極めてすっきりとした外観に仕上がっていた。
外部モーター不要の新しい操作体系
鏡筒側面にはデジタル表示部が設けられ、フォーカス位置やアイリス値を直接確認できる。さらに鏡筒上には2本の帯状インターフェースが配置されており、一方がフォーカス、もう一方がアイリスを担当する。指でなぞるだけで数値を変更できるため、レンズ単体でのメンテナンスや検査時にも直感的な操作が可能だ。


実際にフォーカス操作を試してみた。2フィートから5フィートへの移動も瞬時に行え、レスポンスは非常に軽快である。フライ・バイ・ワイヤー方式による制御でありながら、遅延を意識する場面はほとんどなかった。精密なピント合わせが求められるシネマ撮影の現場でも十分に実用レベルに達している印象を受けた。
システム面ではARRIとの連携を前提に設計されており、発売時にはcmotionとの統合も予定されている。電源供給はカメラマウントまたはMDR経由で行い、接続もシンプルだ。内部にはアブソリュート・エンコーダーを搭載しており、通信エラーを抑えながら安定した制御を実現する。クレーンやジブなど人の手が届かない場所へカメラを設置した場合でも、統合された制御環境によって柔軟な運用が可能となる。
興味深かったのは、徹底して現場運用を意識したメンテナンス設計である。
鏡筒背面のネジを外すだけで内部モジュールへアクセスでき、電子部品やモーターそのものを交換できる構造を採用している。故障時にもモジュール単位で対応できるため、復旧時間の短縮につながる。機材トラブルによる撮影中断を少しでも減らしたいという開発思想が感じられた。
描写そのものを変えるルック調整用リアオプティクス
もうひとつの大きな特徴がルック調整用リアオプティクスである。
今回のシステムではPLではなくLPLマウントを採用している。LPLを選択したことで内部スペースに余裕が生まれ、電子回路だけでなく新たな光学システムも組み込めるようになった。
標準のLPLマウントは中空構造だが、このルック調整用マウントには専用の光学素子が内蔵されている。ユーザーはマウントを交換するだけで、異なる描写特性を選択できる仕組みだ。さらに特徴的なのは、マウントとレンズ本体が通信を行う点である。装着されたルックをレンズ側が自動認識し、それに応じてフォーカススケールを補正する。従来必要だったオフセット調整が不要となり、撮影助手の作業負担を大幅に軽減する。
最近の大型センサー化の流れとも相性が良い。3:2センサーと2倍アナモフィックの組み合わせは、現在のオープンゲート収録において極めて合理的な構成だ。従来の2倍アナモフィックらしい描写特性を維持しながら、現代の大型センサーへ最適化した設計思想が見て取れる。
ZEISSが描く次世代シネマレンズの方向性
ZEISSのアナモフィック市場参入は決して早かったわけではない。しかし、その分だけ後発ならではの発想が数多く盛り込まれている。外部モーターを不要にする設計、通信機能の統合、モジュール交換式のメンテナンス構造、そしてルック調整用リアオプティクスによる描写変更機能。いずれも単なるレンズ性能の競争ではなく、撮影現場全体の効率化を見据えた提案である。
今回の展示から感じたのは、ZEISSがレンズ単体ではなく、レンズを中心とした撮影システム全体を再設計しようとしていることだ。その発想は非常にZEISSらしく、今後のシネマレンズ市場に少なからぬ影響を与える可能性を秘めている。