Cine Gear Expo LA 2026の会場では、シネマレンズの進化が次の段階へ進んでいることを強く感じさせる展示が相次いだ。大きな流れのひとつは、65mmフォーマットをはじめとする大型センサーへの対応である。さらに、AF対応アナモフィックレンズやT1.0の超大口径レンズ、ヴィンテージレンズを現代の撮影環境へ適応させるリハウジングなど、各社のアプローチは多様化している。カタログスペックだけでは見えにくい描写や操作感を含め、現地で確認できた注目のレンズを紹介する。

ZEISS ― 65mmフォーマット対応の単焦点シリーズ「Panoptes 65」

Cine Gear Expo LA 2026のZEISSブースでは、新たに発表された65mmフォーマット対応の単焦点シネマレンズシリーズ「ZEISS Panoptes 65」が展示されていた。話題の中心は2倍アナモフィックレンズ「Horizon Anamorphic」だが、同時発表された本シリーズも、大型センサー向けレンズ市場の拡大を象徴する製品として注目を集めていた。

65mmフォーマット対応の単焦点シリーズということもあり、ARRI ALEXA 265やBlackmagic URSA Cine 17K 65、FUJIFILM GFX ETERNA 55など、近年存在感を増している大型センサー機を見据えたシリーズとなっている。

実際に機材を確認すると、派手さを抑えた自然な色再現と、肌の質感を丁寧に描き出す描写が特徴的だった。フォーカス面からアウトフォーカスへのつながりも滑らかで、柔らかなボケ表現を実現している。単に解像度を追求するだけではなく、階調や質感を含めた総合的な描写バランスを重視したレンズといえる。

ラインアップは25mmから180mmまでの10本構成。65mmフォーマットに対応しながら全焦点距離でT2.2を実現している。レンズデータのサポートなど、ハイエンド市場を意識した仕様も備えており、大判センサー向けレンズ市場の拡大を象徴する存在として今後の展開が注目される。

シグマ ― 会津から生まれる本格シネマレンズ「Aizu Prime」

Cine Gear Expo LA 2026のシグマブースで、昨年のCine Gear Expo LA 2025で発表されたフラッグシップシネマレンズ「Aizu Prime」を改めて体験した。発表から1年が経過し、シリーズとしての完成度もさらに高まっている印象を受けた。従来のArtシリーズをベースとした展開ではなく、シネマ用途を前提にゼロから設計された完全新規のレンズシリーズである。

実際に映像を確認すると、収差補正は丁寧に行われており、クリーンでニュートラルな描写を実現している。一方で過度にシャープネスへ依存することなく、なだらかなフォールオフと自然な階調表現を備えており、被写体の立体感を引き出す描写が目を引いた。コントラストや細部描写を損なうことなく、シグマらしい端正な描写に独自のキャラクターを加えている。

機構面では13枚羽根のアイリスを採用。ボケの形状にはアナモフィックレンズを思わせる独特のニュアンスがあり、アイリスリングは270°の回転角を確保しているため、精密な露出操作が可能だ。

また、シグマ製品全般に共通する強みとして、レンズ間の色再現性の高さがある。異なる焦点距離へ交換しても色味の変化が少なく、編集工程でのカラー調整負荷を軽減できる。

Aizu Primeの特徴は光学性能だけではない。設計から製造、品質管理までを福島県会津工場で一貫して行う生産体制も特徴のひとつである。組み立てから検査までを同一拠点で実施することで、シリーズ全体の品質管理を徹底している。シリーズ名の「Aizu」には、そこで働く人々への敬意も込められているという。

ラインアップは18mmから125mmまでの全12本構成。18mm、21mm、25mm、27mm、32mm、35mm、40mm、50mm、65mm、75mm、105mm、125mmを揃え、今秋には18mmと21mmが発売予定となっている。さらに将来的には200mmの追加も視野に入っている。

フルフレーム対応かつT1.3という明るさを実現しながら、筐体をコンパクトにまとめている点も特徴である。近接性能も高く、25mmでは最短約30cmまで寄ることができる。被写体へ大胆に近づける撮影スタイルは、実際の現場で大きな武器となるだろう。

Aizu Primeは、シグマがシネマレンズ市場に向けて本格的に展開を進める姿勢を示す象徴的なシリーズといえる。

Sirui ― AF対応アナモフィックで1.5×という新提案「SIRUI IronStar 35/45/60mm T1.9 1.5x」

Cine Gear Expo LA 2026のSiruiブースでは、Cine Gear Expo初登場となる新レンズ「SIRUI IronStar 35/45/60mm T1.9 1.5x フルフレーム アナモフィック シネレンズ」を体験した。

これまで同社のアナモフィックレンズは1.33倍モデルが中心だったが、今回はよりシネマライクな表現が可能な1.5倍スクイーズへと進化している。シリーズはPLマウントを採用しており、メーカーは交換可能なPL/EFレンズマウントとしている。シリーズ全体では6本のレンズをラインアップする予定だという。

最大の特徴は、アナモフィックレンズでありながらオートフォーカスに対応していることだ。もちろんマニュアルフォーカスでの運用も可能だが、AFが利用できることで撮影スタイルの自由度は大きく広がる。

1.33倍モデルと比較すると、よりワイドな画角を得られることに加え、背景のボケが縦方向へ伸びるアナモフィック特有の描写がより強調される。1.5倍スクイーズによって生み出されるスリムなボケは、映像に独特の雰囲気を与える。

さらに興味深いのは、シリーズにアナモフィックマクロレンズが用意されていることだ。一般的にアナモフィックレンズは最短撮影距離が長くなりがちだが、このモデルは被写体へ大きく近寄ることができる。

ワイドな画角と特徴的なボケ描写に加え、近接撮影性能も備えることで、従来のアナモフィックレンズとは異なる撮影スタイルを提案するシリーズといえる。AF対応というアプローチも含め、アナモフィック撮影の活用範囲を広げる製品として注目を集めそうだ。

Zhongyi Optics ― T1.0が切り開く新たな可能性「Zone T1 Cineシリーズ」

Zhongyi Optics(中一光学)のブースでは、新しい「Zone T1 Cineシリーズ」を体験した。

最大の特徴は、T1.0という明るい開放値である。ドキュメンタリーやインタビュー撮影など、限られた照明環境での撮影において大きな武器となるスペックだ。RED V-RAPTOR Xへ装着された実機が展示されていたが、価格帯を考慮すると、T1.0という開放値を実現している点は意欲的なアプローチといえる。

T1.0が生み出す浅い被写界深度は、独特の距離感と奥行きを演出する。背景のボケも滑らかで、シネマティックな質感を維持していた。映像制作におけるT1.0の価値は、単なる明るさだけではなく、この描写特性そのものにもある。

描写はシャープネスと柔らかさがバランスよく共存しており、価格帯を超えた映像表現の可能性を感じさせた。

メカニカルな完成度も高い。フォーカスリングやアイリスリングの動作は滑らかで、ハウジングの剛性感も十分だ。以前のSpeedmaster Cinemaシリーズと比較しても、ビルドクオリティの向上が感じられた。

高額な予算を確保しづらいインディーズ映画制作者や個人クリエイターにとって、このシリーズは魅力的な選択肢のひとつとなりそうだ。現在はIndiegogoでの展開準備が進められており、正式リリースは7月を予定している。超高速シネマレンズ市場において、新たな選択肢となり得る存在である。

Zero Optik ― 大型センサー時代に向けた挑戦「Canon FD-X 10mm T3.7」

Zero Optikブースに展示された「Canon FD-X 10mm T3.7」は、2026年1月に発表された注目すべき製品である。キヤノン製FDレンズをベースとしたこの10mmは、フルフレーム対応の歪みの少ない直線描写を特徴とするプライムレンズとして、4年前に初めて登場した。

映画制作現場におけるセンサーの大型化が進む中、同社はFUJIFILM GFX ETERNA 55を完全にカバーするための特殊コンバージョン仕様を開発した。後群に光学ガラスを追加配置することで65mmフォーマットへの対応を果たしており、開放値はT3.1からT3.7へと変化するものの、大型センサーにおける超広角表現の選択肢を広げるものとなっている。

10mmという超広角を維持しつつ、リハウジングによって広大なイメージサークルを確保した点は興味深い。これにより、FUJIFILM GFX ETERNA 55に加え、ARRI Alexa 65やBlackmagic URSA Cine 17K 65といった大型センサーでの撮影が可能となる。

65mmフォーマット対応で10mmという焦点距離は珍しく、さらにレクティリニア設計による直線描写を維持している点が大きな特徴となっている。

開放から高い解像性能を持ち、収差も良好に抑制されている。一方で、適度な周辺減光やヴィンテージレンズを思わせるフレアなど、情緒的なキャラクターも備えている。

最短撮影距離は約35cmまで短縮されており、超広角でありながら被写体へ大きく近づいた撮影も可能としている。

また、本レンズには新しい「Name Tag」マウントを採用。Cooke i/ Technologyをベースに、焦点距離や開放値、シリアル番号などの情報をカメラへ伝送する仕組みを備えており、デジタルワークフローへの対応も図られている。

近年は大型センサー対応レンズの開発競争が激化しているが、その多くは新規設計によるアプローチである。一方のZero Optikは、ヴィンテージレンズの個性を活かしながら現代の撮影環境へ適応させるという独自の方向性を選択している。大型センサー時代におけるもう一つの解答として興味深い存在であった。