ソニーから超小型シネマカメラ「FX3」が出て早4年(2021年3月発表)。弟機種FX30も出回ったこのタイミングで、ソニーが「FX2」という新機種を発表しました。FX2の希望小売価格は税込416,900円。
「FX」を冠したこのシリーズは、Cinema Lineの名の通りシネマカメラとしての機能をメインに搭載した動画特化型のプロ仕様のカメラ群です。その中でも特にFX3やFX6は、ワンオペ撮影をメインに活動しているカメラマンやディレクターをはじめ、現在の撮影業界で非常に広く出回っている名機となっています。
ここにFX2は、FXシリーズのエントリーモデルとして加わった形です。
公開されたスペックをざっと見た感じでは、スチル撮影に十分な画素数、オーバーサンプリング処理による動画の画質向上など、α7 IVをベースに見た目はFX3にビューファインダーを付けた感じ、という印象でした。
しかし一つ上位のFX3と比べると機能制限も割とあるため、私の周囲でも、
- 「エントリーモデルのFXシリーズってどこが買いなの?」
- 「FX3ユーザーだが買い換える(買い足す)かどうか悩む」
- 「どの立ち位置のカメラかわからない」
という疑問が多く(特にディレクター層やワンオペ系カメラマン、スチルカメラマン)、私自身も同意見で、イマイチ買い!と思えるポイントが見え辛い感じがしていました。
しかし実機を手にして電子ビューファインダーを上から覗いた瞬間、「おっ!」と声が出てしまいました。90°の可動域があるこのビューファインダーを跳ね上げると、自然とウエストレベルのポジションになり、これがなかなか新鮮で小型軽量なボディが体にピタッと密着する感じがして、多少望遠でも安定してカメラをホールドすることができます。
そんな気になるFX2の「おっ!」と驚く新機能や魅力の数々を、実際の現場での使用感とあわせてご紹介していきます!
できることと、できないことが複雑なカメラ
まずスペックを見ていきますが、エントリーモデルといっても中身はしっかりプロ仕様で、別売のXLRハンドルユニットが装着可能、内蔵ファンで長時間高画質録画、AI搭載でAF機能の向上、ハイエンド機と同等のインターフェース(シャッター開角度やBIG6表示など)、など多様な現場に対応できる十分な性能を備えています。
とはいえ、この記事の読者の多くは、外観も似ているFX3(FX30)との比較が気になっていることでしょう。そこで注目されがちなポイントがこちらです:
- 4K60p撮影はクロップされる
- 120p撮影はFullHDのみの対応
- デュアル・ベースISOが800/4000(FX3は800/12800)
これらの仕様を見て、「物足りない」「できないことが多い」と感じる方も多いのではないでしょうか。特にワンオペのカメラマンやディレクターにとっては、致命的な要素と受け取られる可能性もあります。
しかし、実際に複数の現場で本機を検証してきた筆者としては、ここで候補から外してしまうのは非常にもったいないと断言します。
その理由のひとつが、α7 IVから継承された「7K→4K オーバーサンプリング」技術です。ここから先はこの技術を軸に、FX2の魅力を紐解いていきたいと思います。
7K→4K オーバーサンプリング
「オーバーサンプリング」という言葉に聞き慣れない方も多いかもしれませんが、これは7Kの高解像で撮影し、その映像を内部処理で4Kに変換する技術です。
このプロセスにより、高画素機で起こりやすいモアレやジャギーの発生を抑えつつ、光の情報をより精細に記録できるため、非常にシャープで高品質な画像が得られます。
この技術はすでにソニーの他機種でも採用されており、実際に使用しているユーザーからも高評価を得ています。FXシリーズの最上位モデルであるFX9も、6K→4Kのオーバーサンプリングをいち早く搭載しており、画質面では特に注目すべきポイントです。
筆者もFX9を発売当初から使用しており、FX2と同じBase ISO数値であることから、今回の比較テストに加えてみました。 ここでFX2、FX3、FX9を撮り比べたテスト動画をご覧ください。
3機種をBase ISO毎に同条件で撮影し、比較用に並べました。
画質に関しては、やはりFX2とFX9がより精細に描写しています。これはオーバーサンプリングの恩恵であると言えます。
肌の色味に関しては、FX3は若干G方向に、FX2はM方向に色が乗る傾向でした。モノクロは肌の諧調を見るために入れましたが、私の目では大きな違いを判別することはできませんでした。トータルで見ると、FX9の色のりの良さが結構顕著に出たなという感じです。肌の色味にも調整幅の余裕が見える気がします。
後半は、Base ISOの高感度側を撮り比べました。12800で約1.5段分感度が高いFX3は、やはりノイズが多く出てしまっていますが、むしろこの程度の違いで収まっているのはさすが高感度機と言えるでしょう。
デュアルBase ISOで、4000と12800の違いをどう捉えるかが選ぶ1つの基準になりそうです。筆者としても、屋外ロケで日が暮れるギリギリまで粘れるFX3の高感度には何度も助けられましたが、屋内の地明かりを利用する場合には少々高すぎる場合も多いため、ここは悩みどころです。
また、FX3はFX9等と比べると肌色に緑が乗った感じに映ることが多く、この2機種を混ぜた時に若干の色調整が必要になります(隣に並べてわかるレベルの微細な違いですが)。筆者のようにFX9をメインに、サブ機にFX3をジンバル用などで運用する際に、この色問題は毎回発生する課題でした。
その点、FX2の発色傾向はFX9に少し似ていて、解像力が同程度あることやBase ISOが同じであることなどから、親和性が高いと考えられます。
そして、オーバーサンプリングのデメリットはズバリ「熱」です。より大きな光情報をリアルタイムで圧縮しているわけですから、当然マシンへの負荷は大きく発熱量も多くなります。
すでにお持ちの方はご存知かもしれませんが、ベースとなっているα7 IVは長時間録画ができません(4K60pで実測40分程度)。FX2ではここに冷却ファンが搭載されたため、この問題を解決しています。
背面液晶の裏にも排熱用の穴が空き、液晶を閉じても冷却できるように上側に小さな空間が開いていました。
また、上位機種のFX9でもそうでしたが、4K60p時にはクロップがかかります。FX2の場合はSuper35mm(APS-C)サイズになります。
FX9も初期は同様で、途中のアップデートからFFクロップ5K(1.25倍)での使用が可能になったので、FX2への対応も期待したいところです。
ハイスピード撮影も同様で、120p撮影はFullHD画質のみの対応になります。FX9でも4K120p収録はできますが、クロップがかかり画質が大きく低下します。
フルサイズでの60p使用はできませんが、オーバーサンプリングは適用(4.6K→4K)されており、画質の低下は感じませんでした。裏を返せば、FX3では4K60p時にはフルサイズでしか収録できませんが、ライブやスポーツなど、Super35mmサイズを扱いたい方にはメリットも大きいと思います。
スチル撮影機能が大幅にグレードアップ
7K高画素の恩恵として、スチル撮影時の高画素化があります。3300万画素は、大型ポスターを除く通常のスチル撮影としては十分な対応力であると思いますので、ムービーとスチルの両刀使いの方にも新しい選択肢となります。
スチル撮影の利便性を高める要素として、「MOVIE/STILL 切り替えスイッチ」の搭載があります。このスイッチは親指で自然に操作できる位置にあり、テスト撮影でもMOVIEとSTILLをこまめに切り替えながら、ファインダーを覗いたまま同じ雰囲気で撮り分けることができました。
この感覚はとても新鮮で、心地よい操作体験でした。私見になりますが、αシリーズは「ムービー機能のあるスチルカメラ」、FX3やFX30は「スチルも撮れるがオマケ程度」という印象でした。しかしFX2はCinema Lineの系譜でありながら、「スチルがしっかり撮れるムービーカメラ」という、ありそうでなかった立ち位置を実現していると感じます。
その決定的なポイントが、新たに搭載されたスチル撮影時のLog撮影メニューです。これにより、ムービーと同じ操作感でスチル撮影が可能となり(ISOの設定やカラーなど)、編集でもDaVinci Resolveなどのグレーディングソフトで、ムービーと同じLUTを適用でき、両者のルックを合わせることが非常に容易になりました。ムービーカメラマンにとって、スチルとムービーのカラーマッチに苦労する場面は多く、この機能はまさに待望といえるでしょう。
例えばサムネイルを切り出しより高画質に仕上げたり、映像内に同じ雰囲気の高精細な画像を入れ込むことも可能になります。これにより、表現の幅が広がります。
協力:
出演 怒留湯 蓮
動画写真撮影 波場木 えみり
MOVIE/STILLスイッチを活用して、ショートムービーを撮影しました。刻一刻と環境光が変化し続ける夕暮れ時に、このスピーディな切り替えはとても有効に働きました。
スチルもLogモード(JPEG)で撮影し、同じ編集ソフト上で動画と同じLUTを当ててグレーディングを行いました。色調整もほぼしておりませんが、違和感なく映像に組み込まれていて、切り出し画像と違ったスチル的な繊細な表現ができているのは、編集していても驚きでした。
スチルカメラとしての観点でも、3300万画素、秒間10枚の高速連写、AIによる高速AF追従、電子シャッター時の限界シャッター速度が1/8000s(メカシャッター時 1/4000s)、ストロボ同調など、ビューファインダーが付いたことも合わせて、必要なものは一通り揃っていて、撮影していて特に不便を感じる場面はありませんでした。
こちらにいくつかスチル撮影画像も置いておきます。
※人物カットはLog+LUTで、他の風景写真はPictureProfileの「S-Cinetone」で撮影。
電子ビューファインダー搭載
スチル撮影を本格化させる要素のひとつが、水平・垂直に可動する新しいビューファインダーの搭載です。FX3やFX30では背面液晶での撮影が基本だったため、ファインダーを覗く習慣がなく、最初はやや違和感がありました。
しかし、一度このウェストレベルでのポジションを体感すると、手持ち撮影が一気に楽しくなります。
小型軽量な分両手だけでは安定感に欠ける場面もありますが、顔をファインダーに当てることでしっかりホールドでき、屋外でも外光の映り込みを気にせず撮影に集中できます。ファインダーの画質もクリアで視度調整にも対応しており、スチル用途としても非常に快適です。
動画撮影では、歩き撮りにはあまり向きませんが、望遠撮影や構図に集中したい場面では大きな力を発揮します。
ビューファインダーはややボディから出っ張っているものの、収納時にも問題なくカメラバッグに収まり、特に不便に感じる場面はありませんでした。
このビューファインダーに関しては、ぜひ一度お手に取って直接ご確認いただきたいと思います!(特にウエストレベル)
また、背面液晶とビューファインダーの両方で、ステータス情報の縦位置表示が可能になりました。スチルはもちろん、縦位置での動画撮影が増えている昨今においても、うれしいアップデートです。
強力手ブレ補正「ダイナミックアクティブ」
こちらも手持ち撮影に一役買ってくれる心強いサポート機能です。
ZV-E1より追加された、従来のアクティブモードよりさらに強力なボディ内手ぶれ補正機能です。アクティブモードよりさらに画角は狭くなってしまいますが、ジンバルで撮影しているかと錯覚するほど良く効きます。私もこの機能は今回初体験でしたのでかなり驚きました。
こちらも、大きな画素数から得られる恩恵の一つであると思いますが、スピーディな撮影現場やスナップにおいて威力を発揮してくれると思います。
ご紹介したショートムービーでも三脚は使用せず、ブレ補正モードを切り替えて揺れ具合を調整しています。
手ぶれ補正は3段階で、
- スタンダード(クロップなし)
- アクティブ(1.1倍程度クロップ)
- ダイナミックアクティブ(1.4倍程度クロップ)
を選択可能です。
ダイナミックアクティブ使用時は、超解像ズームの使用は不可になります。
カメラ底面の1/4ネジ穴が2個
こちらは一見地味な変更に思えるかもしれませんが、現場の声としては「やっと付けてくれた!」と喜ぶポイントです。私を含め、動画カメラにはアクセサリーを多く装着する場合が多く、カメラを三脚用のスライディングプレートに2点留めできるかどうかは非常に重要です。
これまでは、そのためにリグメーカー製のカメラケージを別途購入する必要があり、その分機材が大きく重くなるのが課題でした。バッテリーやフォローフォーカスなど、多くのオプションを搭載するなら別ですが、ラン&ガンスタイルの撮影では小型軽量が絶対条件です。
また、ケーブル差し込み口側にも小さなネジ穴があり、ケージを使わずにケーブルクランプを直接取り付け可能になっています(※純正部品には含まれていないようです)。
このように、実用性の高い位置にネジ穴が設けられたことで、さらなる軽量化・機動性が期待できます。
FX3との比較と有用性
サイズ感はほぼ同じですが、厚みがわずかにスリムになり、重量も約35g軽量化されています。
ハンドルユニットは別売となり、XLR端子が必要な場合は別途購入が必要です。一方、ソニー製のワイヤレスピンマイクなどを使用する場合は、MIシュー経由でカメラ本体から電源供給が可能で、ケーブルレスかつ高音質な収録が可能です。XLRが必要な場面でなければ、ハンドルユニットなしでも十分運用できると感じました。
※ハンドル装着時はウエストレベルでのファインダー撮影がややしづらくなります。
メディアスロットはCFexpress Type A対応が1スロットのみ。長時間収録時には不安が残るかもしれませんが、メディアの信頼性も高く、高速タイプのSDカードも併用すれば、実用上は大きな問題ではないでしょう。
ハイスピード撮影性能に関しては、FX3やFX6が優位ですが、FX2とFX9は画質重視型、FX3とFX6は高感度・高フレームレート対応型というように、シリーズ内での棲み分けができている印象です。
AF機能では、AIを活用した「リアルタイムトラッキング」が特に優秀。変則的に動く被写体にも粘り強く追従し、体感でもFX3以上の性能を実感できました。
個人的に気に入っているのが「高分解シャッター」。これはαシリーズのフラッグシップ機「α1 II」などに搭載されているフリッカー対策機能です。
演出用のLED照明の中には周波数がバラバラなものがあり、既存のシャッタースピードの設定値では取りきれないフリッカーが存在します。高分解シャッターはより細かなシャッターの数値設定が可能で、目視で確認しながらフリッカーが消える数値を探します。実際、テスト撮影中にもフリッカーが消えないLED照明があり、この機能に助けられました。
総じて、FX3にはない多くの機能が詰め込まれており、用途や現場に応じて十分に活躍できる1台だと感じました。
まとめ
ここまで、FX2の特性とその有用性をFX3との比較を中心に見てきましたが、私の結論としては、
「"撮れる"を逃さない、高機動・高画質を両立した面白いカメラ」
——このひと言に尽きます。
最大のデメリットを挙げるとすれば、16bit RAW出力がSuper35mmに限られ、フルサイズでのRAW収録ができない点です。しかし裏を返せば、外部モニターすら必要としない徹底した軽量化と機動力重視の設計とも言えます。
ここまでご紹介してきた数々の機能や仕様は、すべてこの「小型・軽量・高画質」にフォーカスした思想に通じているように感じました。
実際の使い勝手としては、ケージなどを装着せず気軽にバッグに忍ばせておいて、必要なときにさっと取り出して、いつでも美しいカットを狙える
――まさに"懐刀"のような存在です。
FX3・FX6・FX9のような主力機と比べると、メインとして使うには少し力不足な面もありますが、どの機種とも高い親和性を持ち、スチルも撮れる優秀なサブカメラとして活躍してくれます。買い増し用途としても、非常にバランスの取れた一台だと感じました。
また、その他の注目すべき機能としては、以下のようなものがあります。
- VENICEなどのハイエンド機種と同様の「BIG6(ホーム画面)」表示に対応
- シャッター開角度表示の切り替え、およびアナモフィックデスクイーズ表示
- S&QモーションがFPS表記に変更
- NDフィルター装着時のメタデータ書き込みに対応(※NDフィルター自体は内蔵されていません)
- 純正レンズ対応のブリージング補正機能
- 新機能「フォーカスマップ」の搭載
このように、ここでは紹介しきれないほど新機能が満載で、思わず唖然としてしまうほどの進化を遂げています。
しかし何より素晴らしいのは、Cinema Lineのどのカメラで撮影しても、編集時にルックが自然に揃うその一貫したワークフロー設計にあります。
FX2も例外ではなく、高画質ながら画面上で出しゃばることなく、自然な個性を発揮してくれるので 「このカットに使ったら面白いかも」と、撮影の発想が広がる楽しいカメラに仕上がっています。
本記事が、FX2を手に取るか迷っている皆さんのヒントになれば嬉しく思います。
北下弘市郎(株式会社Magic Arms 代表)|プロフィール
映像・写真カメラマン・撮影技術コーディネーター。大阪生まれの機材大好きっ子。音楽・広告・ファッション・アートなどを中心に、ムービー・スチル撮影を行う。撮影現場の技術コーディネートや機材オペレーターなど、撮影現場に関する様々な相談に対応する。
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