ゲーム業界のみならず、広く話題のゲーミフィケーション

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Jane McGonigalのキーノートスピーチ風景

SIGGRAPH今年のキーノートスピーチは、ゲーミフィケーションの第一人者 Jane McGonigalが講演した。ゲーミフィケーションは、人々がゲームに夢中になる仕組みや心理状況を、Webのサービスや、仕事など、他の分野にも生かそうと、最近台頭してきた新しい考え方だ。Jane McGonigalは、「幸せな未来はゲームが創る」(原題:Reality is Broken)の著者であり、世界的に有名なプレゼンテーションイベントTEDでも、ゲーミフィケーションに関する講演でよく知られるようになった。

今回のキーノートは、彼女の著作や過去の講演の内容を引き継ぎつつ、SIGGRAPHの聴衆向けにカスタマイズした特別版であった。講演は、開演30分前から長蛇の列となった観客を沸かせ、美しいプレゼンテーションとともに、示唆に富んだ内容であった。毎年SIGGRAPHのキーノートスピーチは、CG業界とは直接関係は無いが、業界の行く先へ指針を与えてくれる講演者が選ばれている。

昨年はインターネット時代の著作権やアーティストの活動方法に関して講演した作家のCory Doctorow過去にはブレードランナーのコンセプトワークで知られるSyd Meadの講演などもあった。

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今年のJane McGonigalは派手な靴と、ミニスカートにピンク色のライダージャケットと、華やかな様相で会場全体を惹き付けていた。講演内容は、彼女自身が脳震盪になった時の経験をもとにしたものだった。

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脳震盪の後、医者にやってはいけないと言われた事柄。読んではいけない。書いてはいけない。ビデオゲームをしてはいけない。メールをしてはいけない。走ってはいけない。お酒を飲んではいけない。コーヒーなどカフェインをとってもいけない。

癒しゲームSuperBetterの紹介を中心とし、彼女なりの法則のもと、誰もが人生に7分半を追加する方法を説いたものだった。

毎夜の注目イベント Electronic Theater

SIGGRAPHに来たならば、誰もが参加すると言われているイベントの一つが、毎夜2時間開催されるElectronic Theaterだ(1日だけ昼間上映のマチネーがある)。Electronic TheaterはCAF (Computer Animation Festival) の中から特に素晴らしかった短編作品を巨大スクリーンで大勢の観客が一緒に観るイベントだ。

アメリカらしく、素晴らしい作品には拍手喝采、口笛での賞賛が贈られる一方、気に入らない作品には、ブーイングで応え、楽しいコメディ作品には、会場中が笑いの渦に巻き込まれる。上映はクリスティデジタルが提供したハイエンドの DLP Cinemaプロジェクタで行われた。例年、フランスなどヨーロッパ勢の勢いを感じるElectronic Theaterであるが、今年は特にハリウッド映画に関わるCGプロダクションのデモリールの上映が数多かった。近年では WETA Digital(ニュージーランド)を始め、米国ハリウッド映画に深く関わっていたとしても、本拠地が米国では無いプロダクションもあり、中心地はハリウッドとしても、アジア圏を含め世界中に制作拠点が広がってきている。今回、CGプロダクションのVFX Reelが流れたのは以下のプロダクション。

  • iloura
  • Weta Digital
  • Sony Pictures
  • Dilated Pixels
  • ILM (Industrial Light & Magic)
  • Digital Domain
  • Tippett Studio

これらの Electronic Theater上映作品から、いくつか印象的な映像を紹介しよう。

Psyop(イギリス)

タイトル:Twinings “Gets You Back To You”
URL:http://psyop.tv/

数々のCM作品を手がけるPsyopのTV CM作品。手書き絵画風の美しい色合いの映像や冒険のストーリーから想像もつかない、最後のオチに登場するトワイニング(紅茶)に会場が沸いていた。

Psyop (アメリカ)

タイトル:Chovrolet “Joy”
URL:http://psyop.tv/

同じくPsyopのTVCM作品。前出のTwiningsは英国Psyopのエントリーだったが、こちらは、米国Psyopのエントリー。リアルな虫達が描かれている。最も広告料が高いと言われる米国スーパーボウルで上映された広告。

Disney Animation Studios

タイトル:Tangled
URL:http://www.disneyanimation.com/projects/tangled-ever-after/index.html

今回のElectronic Theaterの中で最も笑いを誘った映像ではなかろうか。ディズニーの「塔の上のラプンツェル」からの事後ストーリーを描いた、短編として再構成したもの。ディズニーならではの期待を裏切らないストーリー展開と、最後にホッとした後の、さらにハラハラするオチが用意されている。動物も含め、表情豊かな登場キャラクター達を応援したくなる、言語に関係無く楽しめるよう、セリフは皆無な短編作品。招待作品。

Supinfocom Arles (フランス)

タイトル:Wanted Melody
URL:http://www.supinfocom-arles.fr/

男性なら誰もが見慣れたキャラクターが西部劇を演じる作品。上映が終わってからも笑い転げている人がいたくらいの。会場の失笑を誘った作品。良い子は見てはいけません。仕事中に観るのもおすすめしません。

Filmakademie Baden-Wurttemberg (ドイツ)

タイトル:Oh Sheep !
URL:http://www.filmakademie.de/

リアルな質感を持った、コミカルなキャラクターが登場する作品。絵柄の可愛さと正反対なシュールなストーリーに、子供が泣き出すほど。本作もセリフらしいセリフは無く、言葉が分からなくとも楽しめる作品。

Electronic Theaterが全て終わった最後に、Special Surprise Presentationとして素晴らしい短編作品が流された(まだ見ていない人のために、SIGGRAPH最終日まで内緒)。Electronic Theaterの他にも映像系の催しとしては、短時間で映像のメイキングを紹介していくSIGGRAPH Dailies!!や、リアルタイムCG映像を集めたReal-Time Live!も待ち受けている。追ってレポートを予定しています。ご期待ください。

txt:安藤幸央 構成:編集部


Vol.01 [SIGGRAPH2012] Vol.03

WRITER PROFILE

安藤幸央

安藤幸央

無類のデジタルガジェット好きである筆者が、SIGGRAPHをはじめ、 国内外の映像系イベントを独自の視点で紹介します。