新カテゴリが加わり、分野が広がったSIGGRAPH論文

SIGGRAPHの論文のカテゴリに、今年から新カテゴリが加わった。純粋なコンピュータグラフィックス関連のカテゴリはそのままで、ハプティック(触覚)や、ファブリック(素材)、サウンド(音/音像)などである。

今年の論文は昨年より若干少ない412本の投稿がありその中から昨年よりも多い94本が採択された。採択数は約23%と、一般的な学会の中では特に競争率が激しい部類に入る。SIGGRAPHは論文採択数があらかじめ決まっているわけではなく、ある一定の質を超えた論文はすべて採択されるため、採択数の多い年、少ない年がある。論文はSIGGRAPH向けの投稿だけでなく、学会誌ToG(ACM Transactions on Graphics) からの38本の論文も含まれる。

SIGGRAPHの近年の論文の特徴として、遠い将来に役立つ技術ではなく、数ヶ月~数年といった、ごくごく近い未来に役立つ研究が多い。また、企業の研究所や大学での研究以外にも、ハリウッド映画の特殊効果で利用した最新技術が論文で発表されることもある。論文発表で見かけた便利な機能が、次の年にはツールとして販売されていたり、メジャーなツールのプラグインや拡張機能として取り込まれていたりする。研究論文から、実務に生かされるまでの、圧倒的なスピード感が感じられる。欧米ではこういった学術系と企業系の人材の行き来が頻繁で、技術そのものの研究と、その成果による企業活動とのバランスがうまくとれているのであろう。

今回は、PRONEWSの読者に興味を持って頂けるような、映像系の技術論文を中心にいくつかピックアップして紹介していこう。

Technical Papers Video Preview:主要な論文のデモビデオを短くまとめたプレビュー用動画

Sketch-Based Shape Retrieval

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スケッチから3Dモデルを検索する方法。もとの三次元モデルを様々な方向から見た映像としてあらかじめレンダリングしておいて、その映像とスケッチ画像との比較で該当するモデルを見つける。デモンストレーションではスケッチで描いた花束を三次元プリンタで彼女にプレゼントするところまで見せていた。

Decoupling Algorithms from Schedules for Easy Optimization of Image Processing Pipelines

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新しい画像処理プログラミング言語 “Halide”の提案。すでにオープンソースで公開されている。画像処理をアルゴリズムと分離し、コードを処理スピードのために最適化した時のプログラムの可読性やメンテナンス性が低下することを避けるアプローチ。

Tools for Placing Cuts and Transitions in Interview Video

テレビ番組などでインタビュー映像を見るとたいていコメントが切り貼りされて、映像に不自然な切れ目やディゾルブでごまかした映像をよく見かける。このツールは、インタビュービデオを切り貼りした時にも、一連のスムーズな動きを持った動画映像として自然に変化する動画に編集する方法。このツールが進化しすぎると、実際に話していない事まで勝手に編集できる、怖いツールになるかもしれません。

Synthesis of Detailed Hand Manipulations Using Contact Sampling

手のモーションと体のモーションを同時に撮るのは難しいのだが、物理計算によって手の動きを解析する方法。

Stitch Meshes for Modeling Knitted Clothing with Yarn-level Detail

毛糸のシミュレーション。毛糸の編み方を大雑把な領域ごとに作り分ける。毛糸一本一本をシミュレーションし、インタラクティブな編集ができるツール。細かい編み方を指定しなくても典型パターンから再現できるのが便利な点だ。近い将来は、夏服で撮影した映像も、毛糸のセーターを着た映像に自動変換できるかもしれない。羊が羊毛のセーター着ている、意味の分からないCG画像が会場の笑いを誘っていたのが印象的。

Fast High-Resolution Appearance Editing Using Superimposed Projections

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プロジェクションマッピングで色をぴったり合わせる方法。プロジェクションマッピングの場合、屋外であったり、建物の壁が投影面であったりと、理想的なスクリーン面では無い場合が多い。そのような状況で活用できる手法の研究。投影する先の素材の色にあわせて、プロジェクションマッピング用の素材の色を調整する方法。実物体にプロジェクタで画像を投影して見栄えを合わせ、理想とする色合いと、実際に投影される色との差を最小限に合わせることができる方法。

Selectively De-Animating Video

ビデオ映像から、動いている部分、動いていない部分を分けて抽出し、ブレや動きの少ないシンプルなアニメーションにする手法。Google+ Eventsでも使われている最近流行の「動く写真 “cinemagraphs”」の素材を作るためのツール。

Interactive Images: Cuboid Proxies for Smart Image Manipulation

画像の中に映っている物体の構造を解析し、自動に引き延ばしたり、移動したりといったインタラクティブ編集が可能になる仕組み。

Motion-Driven Concatenative Synthesis of Cloth Sounds

動きに応じた、布の音、いわゆる「衣擦れ」を生成する方法。

Videoscapes: Exploring Sparse, Unstructured Video Collections

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あちこちに設置された複数のカメラの映像をつないで一連の映像として使う方法。動画はこちら

HelpingHand: Example-Based Stroke Stylization

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ペンタブレットでアーティストが描いたベクトル情報を記録し、同じようなものを描く時に、アーティストが描いたかのような軌跡を再現する手法。Mac版とWindows版のツールも無料で公開。

ちなみにここで紹介した論文以外にも、どんな論文があるか興味を持った方は是非以下のリンクをチェックして頂きたい。近年の研究者は大抵ホームページを持っており研究内容を公開するとともに、デモビデオをYouTube等で公開しているので、便利である。中には論文を実際に動かしてみられるよう、Windows版、Mac版のツールを無料で公開している研究者もいる。プロダクションレベルのツールでは無いながらも、最新技術に触れてみる機会が増えるのはうれしいことだ。

SIGGRAPHの論文の分野として従来のCG技術、インタラクティブ技術に加えて、カテゴリの広がりがより効果があがるよう、多岐に渡った新技術の展開が期待される。

SIGGRAPH 2012 Papers:論文リンク一覧(非公式)

今年から、公式サイトより、論文の最初の1ページのみ無料公開されることがアナウンスされた(PDFリンクはこちら

txt:安藤幸央 構成:編集部


Vol.02 [SIGGRAPH2012] Vol.04