ディズニーの新作短編 Paperman
毎夜、コンピュータアニメーションフェスティバルの入賞作品から特に素晴らしい短編作品群を2時間にわたって巨大スクリーンで楽しむSIGGRAPHの目玉イベントがElectronic Theaterです。その中で、配布されたプログラムにも記載が無く「Special Surprise Presentation」とだけ書かれ、Electronic Theaterの最後に上映される謎の招待作品がありました。幸運にもご覧になられた方には、とても印象に残った作品のひとつかと思います。
その作品とは、ディズニーの新作短編作品「Paperman」でした。Papermanは2012年秋に公開予定のディズニー長編映画と同時上映される予定の短編作品です。主人公はマンハッタンで働く事務職のサラリーマン。白黒を基調とし、派手さは無いながらも、ストーリーといい、キャラクタの描写といい、とてもディズニーらしいアニメーションです。作品そのものは現在、一般には未公開です。映画館での公開をご期待ください。監督は今作品が初監督のJohn Kahrs氏。インタビュー動画やスケッチなどが公開されています。
Paperman 映像のアイデアについて
Paperman 見栄えに関して
Paperman 描き方に関して
手書きの絵コンテやキャラクタ画像を元にCGを作成し、トゥーンシェーダーなどアニメ風の見栄えに調整し、背景と合成するなど、コンポジット作業を経て完成となるのが手書き風のCG作品の一般的手法です。Papermanでは手書きアニメーションのアニメーターの手腕を生かすために様々な試みがなされました。
Papermanでは、CGで描かれた三次元描画の上に、さらに手書きのストロークを載せ、手書きの雰囲気をデジタルで描けるツールを開発し、制作にあたりました。そのペンタブレットを最大限に利用した専用ツールでは、ペンで描いたストロークが全くの遅延無しで、高速に画面に反映し、紙に物理的なペンで描いたとのと同様の効果が得られるそうです。白黒作品の風合いそのものもそうですが、最新コンピュータグラフィックスの技術面でも脈々と受け継がれるディズニースタイルが継承されていることが色濃く伝わってきた作品でした。
Job Fairにおける求人例
SIGGRAPHレポート Vol.04でも取り上げた、Job Fairの様子をさらに紹介します。フルCGのハリウッド映画作品や、特殊効果満載の映画、世界的に展開するTVCM作品、ミュージックビデオ作品の特殊効果を手がけるCGプロダクションの場合、予算や規模の関係で、細かな分業体制が敷かれています。
ハリウッドで活躍するアーティスト、エンジニア、求職担当者の声を聞くと、個々の制作メンバーのスキルは、日本とそう変わることは無く、むしろ個人個人は優秀であることが多いとのこと。日本のプロダクションで活躍する人であれば、一人でいろいろこなせる人も多いが、大規模で分業体制が進むと、個々の作業ごとに一流のメンバーが総勢で作品作りに集結し、それが最終的なクオリティの向上に繋がるとのことです。そういったハリウッド映画の分業体制を受けて、CGプロダクションの求人も、とても細分化された職種での募集となっています。
また、TVCM系を手がけるプロダクションでは、よりアーティスト系、クリエイティブ系での職歴や受賞歴を求められる傾向が強いようです。例えばマッチムーブ担当の職種の場合、使えるツールやシステムに指定がある場合が多いです。逆にコンセプトアート担当の職種の場合は、ツールよりも、スケッチのスキルや色彩設計、美術系の学歴や職歴が重視される傾向にあります。
Job Fair のパノラマ写真
スターウォーズの特殊効果でしられるILMの求人票。Join the Force(フォースに参加しろ!)がテーマで、TwitterアカウントやFacebook ページもあります!
SIGGRAPH Dailies!
SIGGRAPH Dailies! の発表者一覧。当日までどんな発表なのか詳細はわかりませんでした
SIGGRAPH初日の目玉イベントとして楽しまれている、短時間での論文発表、Papers Fast ForwardのCG映像メイキング版のイベントがこのSIGGRAPH Dailies!です。Papers Fast Forwardほどの厳しい時間制限はありませんが、短時間で様々な映像のメイキングを紹介していくものです。投稿者の関係か、若干内容には偏りが感じられましたが、大規模なメイキングセッションとはまた違い、アットホームな雰囲気の中で会場いっぱいの観客が盛り上がったイベントでした。今回の審査は、応募作品に対するTwitterのツイート数を計測して優秀賞を決めていました。
来年はSide Effects社の主任数学者Mark Elendt氏が審査委員長とのことで、沢山の応募を期待しているとのこと。論文発表やスペシャルセッションでの発表はなかなか難しく敷居が高いですが、SIGGRAPH Dailies!であれば比較的気軽に申し込んで気軽に発表できるかもしれません。
Eggceptional Faberge / Zoic Studios
Blast, Off? / Analytical Graphics, Inc.
イベントにおけるTwitterやFacebookの活用
最近では、各種大規模イベントにおいて、ソーシャルネットワークの活用は無くてはならないものになってきました。SIGGRAPHもTwitterアカウント、Facebookページなどでイベントの細かな告知を絶妙なタイミングで進めるとともに、各展示企業も、プレゼンテーションの時間の紹介や、プレゼントの配布のお知らせなど、効果的に活用していました。また、多くの参加者も、会場中に完備されたWiFiを活用し、セッションの内容をツイートしたり、人気のセッションの行列の長さを知人にお知らせしたり、便利に活用していたもようです。
SIGGRAPHは広い会場の多くの部屋で、複数のセッションが同時並行で進行します。特に論文発表は、全部みたいのに、見切れないという声も多く、近年設けられたギークバーでは、全8画面。複数の発表内容を全て観ながら、音声レシーバーのチャンネルを変えて、テレビをザッピングするように鑑賞することができました。広い会場内を移動することなく、全ての発表を一度に聞けてしまうのです。今年はちょうど、火星探査機「キュリオシティ」の着陸中継もギークバーで見ることができました。また、アートギャラリー作品解説をPodcast データ配信し、参加者が個人個人の iPhoneやiPodで展示を観ながら解説を日本語で聞けるような配慮もありました。
また今年の傾向として、様々なデータや資料が DVDやCDといった物理的メディアから、オンラインに移行していることが強く感じられました。セッションの資料も、終了後すぐにオンラインで一般公開されるものが数多くありました。また、旧来DVD3枚組で販売されていたコンピュータアニメーションフェスティバルの作品集も有料のオンラインサイトSIGGRAPH アンコールに全面移行しました。ACM SIGGRAPHの会員であれば、過去のアーカイブが一部無料で観ることができ、SIGGRAPHアンコールの有料登録者は、今年の最新映像、様々なコンテンツをオンラインで観ることができます。これらはコスト削減の目的とともに、最近のノートパソコンにDVD/CDドライブが搭載されなくなったことも影響しているかもしれません。
総括
今年の冬のSIGGRAPH ASIA 2012は二回目となるシンガポール。来年のSIGGRAPH 2013は、米国西海岸のアナハイムで開催、2014年はカナダのバンクーバーで開催されることが発表されています。ますますオンライン化し、オンラインで数多くの情報が得られる世界になってきました。しかしSIGGRAPHで出会う人々、多くの素晴らしい展示や、研究発表から得られるモチベーションや、ワクワク感は、その場に、参加した人のみが得られる貴重なリアルな体験です。冬のSIGGRAPH ASIA、来年のSIGGRAPHもレポートを予定しております。ご期待ください。
SIGGRAPH ASIA 2012 http://www.siggraph.org/asia2012/
SIGGRAPH 2013 http://s2013.siggraph.org/
txt:安藤幸央 構成:編集部