txt:石川幸宏 構成:編集部
また産まれる新しい技術が活用される未来を体験
IBC2015初日の朝は気温15℃と肌寒いながらも気持ちよく晴れ渡り、絶好の展示会日和となった
欧州最大の映像・放送展「IBC(International Broadcast Conference)2015」が、今年もオランダ・アムステルダムのRAI会場で例年通り開催された。この時期のアムステルダムは、晴天と不安定な天候が不規則に入り乱れる季節で、今年も初日、2日目と一日中気持ちよく晴れ渡り、3日目以降は曇天から雨天と天候不順ではありながら、全般的には盛況な開催となった。今年は世界170カ国から参加企業が1,800社以上、登録来場者数も55,182名と、昨年2014年の記録を更新するなど、参加者もここ数年好調な伸びを見せている。
各社ともHDR技術が活況に
IBC会場であるRAIは今年拡張し、施設が増設しており、今年オープンしたAmtriumにはカンファレンスルームのほか、レストラン等も完備している
今年のトレンドとしては、IBCの開催数日前にドイツ・ベルリンで開催されていたコンシューマー家電の展示会「IFA」でも観られたのと同様に、HDR(ハイダイナミックレンジ)が大きなテーマとなっていた。
HDの次世代放送としての4K化は欧州の各放送局もすでに睨みつつも、やはり「価値ある=ユーザーメリットがある高画質化」という意味ではHDRを意識することは有意義であるし、ある意味で当然の方向性だと考えられる。ただ、いま論じられているHDRは、これまでのTVに比べて、広いダイナミックレンジを表示できるというものであり、モニタリング側の要素として主にディスプレイ分野で着目されているわけで、制作側においては、すでにカメラのダイナミックレンジはそれ相応に広くなってきているため、あまり大きな技術的革新は見られない。
The Future Zoneに設けられたNHKのブース。今年は恒例の8Kシアターから8K HDRモニターを設置。これまでの8Kとは大きく異なる高画質に連日多くの来場者を引きつけた
その中でもNHKが例年の8K関連展示を行う中で、新たにシャープと共同開発した8KのHDR対応モニターを世界初展示。そこにはHDR実現のために8Kカメラ用に新開発された“ハイブリッドLogガンマ”を英国BBCと共同で開発し、ソニーのF65に搭載して撮影された8K HDR映像を上映するなど、8K放送のHDR表示実現に向けて、早くもアクションを起こしたようだ。
BBCとは方式が同様ながら、日本と英国では表示に関する規定が異なるため、EBUでも同様のLogガンマを用いて撮影されたHDR映像がBBC方式で上映されていた。その他にもドルビー、ソニーといったHDR先導メーカーを始め、ARRIのAMIRAで撮影されたHDR映像が最新のSamsungの民生用HDR対応TVで上映されたり、REDやグラスバレーなどでも独自のHDR映像の上映展示と、各所でHDRが活況を呈していた。
また今春のNABに引き続き、放送のIP化への実運用に向けた動きが更に顕著になったことだろう。IPによる放送技術がより具現化してきたこと、そして4K放送に必須となるHEVCに関する技術も熟れてきたようで、随所に実運用可能な製品群が目に見えるカタチで出て来たことで、今後放送の4K化がさらに加速されることになりそうだ。
新製品よりも実製品展示に注力
RAIのちょうど中央部分にある広場に設置されたドローンゾーン。DJI社を中心に連日各社のドローンのデモフライトが実施されていた
カメラ関係の新製品は、ソニーがミッドレンジ向けのコンパクトな4KカメラPXW-FS5と、ミラーレス一眼タイプのα7sIIを一挙に発表してきた以外、他社はあまり大きな動きが無く、NABで発表された新製品の実機展示や、ソフトウェアのファームアップデートやアップグレード品の展示が多かった。また大きな動きとしては、ここでもやはりドローンに関する展示が多く増えたこと。会場中央の屋外にはドローンエリアが設けられ、ここでは各社のテストフライトなどが模様された。
DJIを中心に、多くは中国のドローンメーカーが軒を連ねたと同時に、一時期ところ狭しとひしめいていた中国系LEDメーカーが鳴りを潜めた様相だ。またNABよりも放送に大きく力点を置いているIBCだからなのか?Nikon、Autodeskといった企業が自社出展を見送ったり、また東欧などの小国からの面白いアイディア製品の展示が少なくなるなど、欧州全体の経済不審の影響も少なからず見えた。
とはいえ、新たな話題も多かった今年のIBC2015で、特に注目された製品展示を中心に最新のレポートをお届けする。
今年のテーマ的なキーワードは、“THE FUTURE IS NOW.”というわけで、プレスルームのある8ホール前の入り口付近には、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でおなじみのデロリアンが展示されていた
txt:石川幸宏 構成:編集部