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txt:江口靖二 構成:編集部
8K HDRが登場!
HDR(High Dynamic Range)は1月のCESでも注目された映像技術だ。CESではソニー、パナソニック、LGなどが4K解像度でのHDRを展示したが、IBCではNHKとシャープが共同で、8K HDRを世界で初めて展示した。
HDRは言うまでもなく、写真の世界ではすでにポピュラーだ。写真の場合は異なる露出で撮影したものを複数枚合成処理しているが、動画の場合は露出の異なるものを同時に撮影することが困難なために、最初からダイナミックレンジの高い信号(RAW)を撮影し、ガンマカーブかポスプロでのグレーディングで調整を行う。
今回の8K HDRは、NHKとBBCが共同提案している「Hybrid Log Gamma」という方式を用いている。これはLog曲線のような特殊なガンマカーブを用いることで、ポスプロ処理を伴わないライブ放送においても、リニアに画像を表示させることができるという、いわば放送向けのHDR方式だ。
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デモにおける撮影素材は、ソニーのF65を利用しているとのこと。F65は有効画素数が約1900万画素の8K CMOSセンサーを搭載しているので、RAWデータなら8Kの信号を取り出せる。2014年のNHK技研公開で登場したベースバンドプロセッサーユニット「BPU-4000」に8K RAWデータを伝送し、リアルタイムに処理をかけることで、8Kを得る事ができるという。特殊なカメラではなく、すでに市販されているカメラで8K HDRを実現させている点にも注目が集まっていた。
ディスプレイはシャープの85インチLCDで、8K 60Hzでリフレッシュレートは120Hz。輝度は1000カンデラで、コントラスト比は10万:1以上。BT.2020の色域包含率は77%となっている。このディスプレイはIBCの2週間ほど前に渋谷のNHKに搬入され、詳細調整の上でIBCに持ち込まれた、まさに世界に1台の存在とのこと。
スペックはこれくらいにして、なんといってもその映像のリアリティーには圧倒された。4K以上、8Kクラスの解像度になると、80インチを超えるような大型画面サイズで見て、空気感や奥行き感を感じられるようになるのだが、今回HDRが加わるとそれが更に明確に感じられるようになる。IBC会場内では、CESと同様に、ソニー、LGなどが4K HDRを盛んにアピールしていたが、4KにおけるLDR(Low Dynamic Renge)とHDRの差以上に、8KではLDRとHDRの差が顕著に感じられる。例えれば、HDRによってリアル差が5割増しになっているとしても、解像度と画面サイズが大きい8Kの方がより臨場感が増すのである。
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このカットはカメラがドリーインしているが、明らかに手前の机が手前にあるように見える
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ガラスの質感が本物以上だ
このくらいのリアリティレベルに達してくると、カメラワークとレンズ選びが非常に重要になってくることも予感させるデモ映像であった。被写界深度で意図的に背景をぼかすということの是非が議論になってくるかもしれない。
また「狙ったわけではない」とのことだが、ブースでは同じパネルを搭載したシャープの85インチLCDが2台並んで配置されており、左にLDR、右にHDRとなっていた。写真はHDRに合わせて露出を絞っているので、現場での実際の見え方とは異なるものの、これは明らかにHDRの圧勝で、いままで十分凄いと感じていたLDRが暗く見えてしまう。
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写真左がLDR、写真右がHDR。どちらもパネルは同じシャープ製85インチLCD
今後は更に大画面や、HDRに対応したプロジェクターの登場に期待がかかる。筆者は8Kマーケットは放送以上にパブリックビューイングがメインになってくると見ている。オリンピックを契機として、国も8Kパブリックビューイングを推進していく方針であることは、こちらの「2020年に向けた社会全体のICT化アクションプラン」の17、18ページにも明示されているところだ。特に音楽やスポーツのリアルタイムの遠隔興業のマーケットはかなり伸びるに違いない。「8Kテレビは家に入らない」と高を括っていると、絶好のビジネスチャンスを失うことになるだろう。
txt:江口靖二 構成:編集部
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