txt・構成:編集部

Supreme Primeの拡充から見えてくること

Cine Gear展示会場の見どころは、やはりほぼすべてが出揃っているレンズメーカーの展示だ。その中でも、数多くの有名なシネマ撮影を支えているカールツァイスブースは特に注目の存在だ。今年のツァイスブースでは、2019年9月に出荷予定のSupreme Prime 21mm T1.5や135mm T1.5を展示。合計9本と充実してきたSupreme Primeの魅力を、カールツァイスの小倉新人氏に聞いてみた。

Supreme Primeの65mmを手に持つカールツァイスの小倉新人氏

――今年のツァイスブースの見どころは何でしょうか?

2019年9月に発売予定のSupreme Prime 135mm T1.5と21mm T1.5を展示しています。21mmはソニーのVENICE、135mmはRED MONSTRO 8K VVと組み合わせて実機展示をしています。

135mmは、空間演出に特徴のある望遠レンズです。ラージフォーマット対応の135mmとして、Supreme Primeの135mmはMaster PrimeやUltra Primeの135mmと異なるボケと奥行き感の演出ができますので、これは新しい表現域かなと思います。9月にデリバリー開始で、量産先行試作機をテストなさったDP達からは非常に高い評価を頂いています。

人を浮かび上がらせる描画が特徴のSupreme Prime 135mm T1.5

21mmは、今後拡充される15mmと18mmに続いてワイド端を担う重要なラインナップであり、スーパー35mmフォーマットでは16mm相当の広さになります。T1.5と明るく、また最短撮影距離も35cmと非常に近いため、被写体に寄ることで広角レンズながら背景は望遠レンズのようなボケが生まれます。Supreme Primeは今までワイド側のラインナップの拡充が待たれていましたが、この21mmも9月にリリースされる予定です。これら2本の登場で、映像制作者の選択肢が広がるのではないかと思います。

ソニーのVENICEとSupreme Prime 21mm T1.5を組み合わせて実機展示

――国内では65mmのレンタルも始まって7本のラインナップとなりましたが、反響はいかがでしょうか?

国内では現在、5本の劇場公開映画と2本のテレビドラマが、長期に渡ってSupreme Primeで撮影されているほか、携帯電話会社や日用品の大手メーカーコマーシャルなどでも頻繁に使われています。このためレンタル会社ではSupreme Primeの空きがない状態が続いていまして、Supreme Primeセットの買い足しを検討されているところもあります。21mmや135mmの登場は、さらに増備をプッシュするきっかけになるのではと思います。

――これまでカールツァイスはスーパー35mmフォーマットのラインナップが中心でしたが、フルサイズセンサー対応のSupreme Prime登場によって現場の反応はいかがでしょうか?

ラージフォーマットのマルチカメラ撮影の現場では、同じカメラを揃えられない場合があります。ARRI ALEXA LFとALEXA Miniや、ソニーVENICEとALEXA Mini、といった組み合わせは意外と多いものです。

こうした現場ではレンズはSupreme Primeを使っておけばラージフォーマットもスーパー35mm判もレンズは同じなので、ルックは揃います。しかし、カメラマンやカメラアシスタント達が2台の収録画角の違いをきちんと体感できていないと、スーパー35mmで見慣れている画角に対して適切なラージフォーマットレンズの焦点距離選びに迷うということが起こります。例えば、スーパー35mm判でMaster Prime 32mmと同等のが画角をラージフォーマットで再現したいときにはSupreme Prime 50mmを選べば良いのですが、この換算に混乱している方々も多いです。

そのため弊社では、スーパー35mm判からからラージフォーマットに移行した際に何mmを選択すればよいのか「Focal length finder」変換チャートをご用意しました。このチャートは今後のご要望に応じて印刷やダウンロードなどで配布してゆく予定です。

https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2019/06/190601_cinegear_VOL07_06.jpg

※画像をクリックすると拡大します

――数々の撮影でSupreme Primeが選ばれていますが、その理由はなんでしょか?

現状でほかに選択肢があまりないというのが、理由の1つでしょう。

現在はまだラージフォーマット黎明期といっても良い時期で、カメラもレンズもまだ種類は多くはありません。しかしながら弊社のSupreme Primeは、交換式マウントを備えているためにPLにもLPLにも装着できます。これはつまりARRIでもREDでもソニーでも、市場にあるほぼすべてのハイエンドカメラに装着・撮影できるということで、Supreme Primeはレンタル会社やプロダクションにとって安全な投資であると言えます。

またSupreme Primeは、一部他社にあるような個性を打ち出した描写特性ではありません。合焦点のシャープネスを維持しながらアウトフォーカスへのなだらかで心地よいボケの繋がりにこだわっており、クセが先立たない中庸な路線を実現しています。

ツァイスの立ち位置は、いつも映像業界の中心にあると考えています。実際にシネレンズのマーケットではツァイスは最大シェアを占めてはいますが、それは決して100%にはなりません。なぜならレンズというものはプロジェクト(作品意図)を反映しつつ多分に美意識と主観によって取捨選択されるため、100本の映画作品で、100人の撮影監督が全員ツァイスを選ぶというようなことは決して起こりえないからです。

これまでも、そして今後もシネレンズの業界ではツァイスがマジョリティを占めるなか、それ以外のメーカーもそれぞれに工夫を凝らした製品によってファンを獲得し、様々なレンズが共存していくという図に大きな変化はないと思います。

――ありがとうございました。

txt・構成:編集部


Vol.06 [Digital Cinema Bülow VIII] Vol.08