Rig(リグ)とは何か
Rig(リグ)は英語で、名詞では「(特定の目的のための)道具、装備一式」を意味し、動詞では「(機器や装置を)装備する、組み立てる」を意味する。映像業界固有の言葉ではなく、広く一般的に使われている言葉のようだ。
映像業界においては、ショルダーリグ、カメラリグといったフレーズで使われ、省略されてリグと呼ばれることも多い。筆者は2000年代後半頃からリグという言葉をよく耳にしているが、当初はショルダーリグというハンドヘルドカメラを安定して長時間撮影するための補助具のイメージが強かった。
1990年代から2000年代前半は、放送用、業務用カメラというと肩乗せのショルダーカメラが全盛であったが、2000年前半にDVカメラ、DVCAMのハンドヘルドカメラがリリースされ、その流れはSDからHD、そして4Kへと撮影解像度の変遷とともに現在まで進化してきた。
SDからHDに移行した際、ハンドヘルドカメラのレンズもボディも大きくなり、ハンドヘルドとはいえ、とても片手では持てない重さ、大きさとなった。当時は今と比較にならないくらい前後左右の重心バランスが悪く、とてもじゃないが手持ちで長時間撮影は厳しかった。そのため、ShouldeRIG SRG-2のようなショルダーリグが良く売れていた。正に"Rig"の言葉が意味する楽に運用するための装備一式といったところだ。
ソニーHDVカムコーダー「HVR-Z1J」
2005年1月発売
パナソニックのメモリーカード・レコーダー「AG-HVX200」
2005年12月発売
EOS 5D Mark IIなどのDSLRで動画制作が行われ始めた頃もRedrock Micro、Zacuto、Manfrottoといったブランドから登場したDSLR向けのショルダーリグが盛んに使われていた。スチル用カメラは元々、動画撮影を目的にボディ設計されたわけではなく、現在の電動ジンバルのような優秀なスタビライザーもなかったため、安定して動画撮影するためにショルダーリグを活用していた。
同時に、シネマレンズを付けてフォローフォーカスを操作したり、EVF(Electronic View Finder)を使ったり、長時間撮影用の外部バッテリーをマウントして運用したりと、スタビライザー面だけではなく、アクセサリを拡張装備する目的でも使われるようになった。
Manfrotto社のショルダーリグ。肩に担いだまま、手元でカメラやレンズを操作できるようコントローラーがオプションで発売されていた。
ミラーレスカメラ時代のリグとは
動画ユースではDSLRからミラーレスカメラが主流になった現在、リグはCage(ケージ)というカメラボディを囲むように取り付けるものが中心となっている。アルミ合金で出来ており、1/4、3/8インチのネジ穴が多数施されているのが一般的だ。このネジ穴を利用してトップハンドルやグリップ、三脚のベースプレート、小型モニター、外部マイク、LEDライト、収録用のSSDメモリ等を取り付けている。グリップ感を高めたり、撮影用途やスタイルに応じてアクセサリを拡張装備するための中心的な役割を担っている。そして、ケージを中心とした一式をカメラリグと呼んでいる。
メーカー各社、カメラボディやレンズの軽量化が図られ、優秀な手振れ補正機能が備えられた結果、より機動力を発揮できるように手持ち撮影が増え、ミニマルの装備が求められるようになってきた。また、スタビライザーを利かせたい撮影では3軸の電動ジンバルが一般的になってきたことで、ショルダーリグというよりもミニマルのカメラリグスタイルがより好まれるようになっている。
アンケート結果から
今回実施したアンケートで、ミラーレスカメラユーザーのリグの所有率や、どうのような目的で使用しているのか、どのブランドが使われているのかを聞いてみた。
Q.カメラリグをお持ちですか?
Q.カメラリグを使用する目的をお教えください(複数回答可)。
Q.お持ちのカメラリグのメーカー名をお教えください(複数回答可)。
ミラーレスカメラを所有する映像クリエイターにおいてはSmallRigが全体の64%弱を占め、圧倒的な支持率を得ている。SmallRigは数ある中国リグメーカーの一つだ。支持されているポイントとしては、コストパフォーマンスの高さと開発スピードの速さではないだろうか。汎用ケージではなく、専用ケージをどこよりも早期に発表し、カメラの発売時期に合わせて出荷開始するそのスピード感には驚きだ。
所有率2番目のTiltaも中国メーカーで、デザイン性の高さに定評がある。リグ以外にもマットボックス、レンズコントロールシステム、スタビライザーシステム等も製造しており、総合的なカメラアクセサリーメーカーといえる。
この後、実際のユーザーにもリグがなぜ必要なのか、おすすめブランドと選定ポイントをインタビューしてみたので紹介したい。
「私がリグを選んだ理由」インタビュー
SmallRig 2203を選んだ理由
サカイアキヒロ
1984年生まれ。業務用音響機器メーカーでデザインエンジニアとして勤務する兼業映像クリエーター。長年エンジニアとして培った音響とネットワークの知識を活用し、急激に需要が高まったBtoBのライブ配信現場でテクニカルディレクター兼音響スタッフとしても活動している。最近はYouTubeで機材レビューや配信技術などの動画を発信中。
私はコロナ禍以降、急激に需要が増えたライブ配信という業務に多く従事しています。カメラからスイッチャーまでの距離が遠くてSDIケーブルを使用しなければならないケースで、予算の都合上SDI出力がないカメラを使用した場合にリグを組んで解決することがあります。
■カメラリグ
- カメラ:Blackmagic Design Pocket Cinema Camera 6K
- レンズ:Canon EF24-105mm/F4L
- ケージ:SmallRig 2203
- ハンドル:SmalRig NATO Handle 1955
- モニターマウント:SmallRig BSE2348
- モニタ:Porkeys LH5P
- コンバータ:Blackmagic Design BiDirectional SDI/HDMI + CAMVATE SDI-HDMIアダプター
このリグを選んだ理由は、トップマウントしたモニターにPGM OUTを映すことでカメラマンに配信映像を常に共有でき、かつそのPGM OUTとカメラ映像をSDIで入出力することができます。HDMI出力しかないBMPCC 6Kでもスタジオカメラのように扱うことができます。
リグを使う理由は、使わなくて済むのならば一番いいのですが、PGM OUTの返しモニターの設置や、HDMI出力をSDIへ変換することを考えるとどうしても周辺機器が増えてきます。リグを組むことでカメラ位置の移動などにも素早く対応することできます。コンバーターを床に転がしておくのもケーブル脱落等の事故の元なので、スッキリとまとめるためにリグを組むのが最適解だと思っています。
このリグで気に入っているポイントは、BiDirectional SDI/HDMIを使うことでHDMI/SDIを相互変換でき、2変換のコンバータが1つで済んでいます。またコンバータの電源はモニターのUSBポートから給電しているのもポイントです。ケージのコールドシューにコンバータをマウントすることでリグ全体の剛性も高いのが気に入っています。
リグメーカーへのリクエストですが、リグを組むとどうしても電源が複数になってしまうことが多いので、例えばUSB-PD入力からカメラ・モニタ・その他周辺機器(USB TypeA 5V) が取り出せる電源用のパーツがあるととても嬉しいです。配信では長時間電源を付けている事が多いのでバッテリー内蔵ではなくて、単純にUSB-PD入力で動作すれば軽いしモバイルバッテリーで運用出来て便利かなと思います。
Full Camera Cage+Right Side Advanced Power Handleを選んだ理由
Jo Terauchi
早稲田大学川口芸術学校で映像を学び卒業後、独立。ビデオグラファーとして企業VPやWebCMなどを中心に映像制作に従事。Run&Gunスタイルでの撮影が好きなフッ軽おじさん。
学生時代、初めて使ったカメラがパナソニックのDVXで、2005年頃のことです。当時はまだ一眼レフでの動画撮影は普及しておらず、ENGカメラやデジを使った現場で撮影の腕を磨いてきました。そういった経緯もあり、一眼やBMPCCを扱うようになった今でも、デジのような使い勝手で撮影したいなと思っています。
手持ち撮影の際は、右手をハンドグリップに差し込みカメラを支え、左手はフォーカスやズーム操作のためにリングに添える、みたいな感じです。ですので、サイドグリップは必須ですね。
- Tiltaing Right Side Advanced Power Handle with Run/Stop(F570 Battery)
- Full Camera Cage for BMPCC 6K Pro(TA-T11-FCC-B)
- Tiltaing Advanced Right Side Handle Attachment Type V(Type 5)
- SmallRig ARRIロゼット互換マウント(M6ネジ穴)2804
ただ、一眼やBMPCC用のサイドハンドルは左手側につけるスタイルが一般的なようです。右手側のサイドハンドルはあまり出回っておらず、色々と探してようやく見つけたのがTiltaの製品です。少し値は張りますが、とても気に入っています。
気に入っているところは、一眼カメラはあくまでスチルを撮るために設計されたボディなので、映像を撮る上ではどうしても使い勝手が悪い。スチル機の設計に寄せたBMPCCも同様ですね。カメラリグを組むことで使いやすくカスタムしています。ベルト付きのサイドグリップのおかげで、手持ち撮影の際のホールド感がアップしますし、握っていなくてもカメラが持てるので疲労も軽減されます。
また、グリップが回転できるので、ローアングルやハイアングルの際に持ちやすい角度に調整できる点が非常に気に入っています。
リグメーカーへのリクエストは、前述した通り、右手側のサイドグリップがあまりないようなので、ぜひ種類を増やして欲しいです。グリップにNucleus Nano Motorと連動できるサーボズームが付いていたら面白いかもしれません。
Tilta Float Dual Handle Support Systemを選んだ理由
井上卓郎
Happy Dayz Productions。北アルプスの麓、長野県松本市を拠点に、自然やそこに暮らす人を題材とした映像作品を自然の中にゆっくり溶け込みながら作っている。現在は企業や自治体のプロモーション映像や博物館などのコンテンツを中心に、映像作品を手がけるかたわら、ライフワークとして自然を題材とした作品を制作しています。一応DaVinci Resolve認定トレーナー。
Nikon Z 9を使うようになり、ジンバルを使用する際の重量が少し重くなったので、ジンバルサポートが欲しいと思っていた矢先、目についたのがTiltaのこのサポートアームだった。吊り下げ式も考えたが、森の中で使うと頭上の枝と引っかかる可能性もあるのでアーム方式が最適と考え導入。
荒れた足場でも上下の動きを吸収し安定したジンバルワークが可能だ。撮影時に使用しているカメラバッグのウェストベルトに偶然にもサポート基部がシンデレラフィットしたので自然の中の撮影では付属のベルトを使わず使用している。
使用しないときはバックパックの側面に固定している。ジンバルとの接合部にレベリング機能が付いており、アームの角度にジンバルの動きが遮られない。クイックリリースになっており脱着も素早くできる。ダブルハンドルとの組み合わせはゆっくりとスムーズなジンバルワークにとても合っている。
先日ニコンが発表したリモートグリップ「MC-N10」と組み合わせて使うのも良さそうだ。ジンバルを使わずにカメラ単体でも使えるようだが、Z 9の重量だと少しバネが強すぎて適度なバランスが取れないので交換用の弱いバネも出してもらえると嬉しい。
BMPCC 6K Pro 3270ケージを選んだ理由
田村雄介
主に撮影したり買い物したりして興奮したりする人。記事の文体と実際の本人が噛み合わないため筆弁慶と呼ばれてショックを受ける。
2022年6月現在、様々な仕事でひじょうに便利に使っているBMPCC 6K Pro。ND内蔵で現在のBMPCCの完成形とも言えるこのカメラを日常的に覆ってくれているのがSmallRigの「BMPCC 6K Pro 3270ケージ」だ。底面にSamsungのPortable SSD T5を内蔵できるなど、基本的な使いやすさ+αもあって発売当初から愛用している。
そして今回はこれに加えまだテスト段階だけど、これで一本撮りたいな!というリギングを紹介します。もちろん他のカメラや重量級レンズの組み合わせでも応用が効くセットアップなのでご参考になればこれ幸い。
そもそもこの組み方は2022年5月に入手したクラウドファンディング「Indiegogo」発のレンズ、GREAT JOY 50mm T2.9 1.8x Anamorphic Lensをしっかり快適にワンマンでもチームでも使えるようにというところがコンセプトです。それに加えて見た目麗しい感じでオレンジベースの統一感をもってイケてるやつらで組んでみるというのもテーマです。
実は「このレンズのための組み方!」というわけでもなく、KOMODOほどの大きさでもしっかりオペレーションしようとするとこうなるよ、というリギング。愛用のレンズサポートはロックレバーのバネ止めボールが抜け、ビヨンビヨンになっているがまだ使える
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しかし見る人が見たら卒倒しそうなキメラ的ごっちゃり感。ここで使用しているブランドは見えているところでRED、GREAT JOY、Bright Tangerine、Wooden Camera、SmallHD、TILTA、SmallRig、Vemico、bebob、CORE、PANAVISION、Canon、Easyrigと自分で書いてて目眩がします。しかし本当にしっかり一つ撮りきろうと思うと外す部分がないのもまた事実。
今回はEFマウントバージョンで組んでいるため、しっかりと固定するためのチタンロッドとレンズサポート、その設置の高さ調節も付加したベースプレート。大きなフォーカスリングの回転角をコントロールするための電動フォローフォーカスや、モニターを快適に使うためのモニターマウント一体型トップハンドル。小型で見た目良く、イケてる感を出しながらもツイストD-Tapで配線の自由度をあげるVバッテリー。
この3Dプリンター製のケーブルホルダーがPanavision社内のPanastoreで売ってたのを見たのが2019年のCine Gear渡米の際。ケーブルはなるべくカメラのフットプリント内にきれいにまとめていきたい。Easyrigのボールもこう見えてあんまり邪魔にならない
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配線を上手く処理しつつ意外と握り心地のよいウィンググリップや、嘘みたいだけど本当にPanavisionブランドで売っているケーブルホルダー。そして手持ち、三脚を自在に変えられるEasyrigのクイックリリースボール。そしてその全体がオレンジをベースに統一できる喜び!こつこつ色々買い集めていて良かったなぁと実感するところです。
ちなみに重量は約5.5kg。最軽量構成でもEasyrigのVario 5の動作範囲内に収まってるのもグッドです。重くしようと思えば3ステージのマットボックスに変えたりハンドコントロールグリップを加えたりカメラコントロール付きの7インチモニターに変えたりと色々できるので、まだまだリギング遊びは堪能できます。部分ごとでも全体的にでも。皆様のリギングライフの一助になれれば幸いです!