CESにおいてテレビは現在とても地味な存在へ

テレビの存在は、CESにおいて現在とても地味な存在になっている。そうなった経緯と、今回の状況も改めて振り返りながら、次世代のテレビを考える上でのものとしてのテレビジョンをデザインする際の一つの参考材料としてまとめておく。

CESは55年前の1967年が第一回の開催だったそうである。そんな昔の話はともかく、2008年頃からテレビはCESの主役となり、花形となっていく。毎年各社が大きさや解像度の世界一を競う時代になる。2011年頃からはスマートTVが話題になり、一瞬3DTVが掠めるがそれは何事もなく通り過ぎ、2014年頃から4K&8Kが中心となる。

しかしこのあたりでテレビはネタ切れとなる。CESの主役は自動車、ドローン、IoT、ヘルスケア、フィットネスなど広範囲に渡るようになる。2020年にはデルタ航空が基調講演とブース展示を行い、MaaSやDXの時代の到来と感じさせる場となった。ところがこの2020年からコロナによる空白の時間を経過して、昨年2022年になんとかリアル開催を実現し、今年はかなり通常開催に近づいた感がある。

2023年のテレビの世界勢力図はどうなっているのか?

今年大画面や高画質、OLEDやマイクロLEDをアピールしていたのは中国のHisenseとTCL、韓国のLGくらいになってしまった。こうした企業のテレビ関連の展示はいまでも華やかであり、それはむしろ懐かしささえ覚える。

 ハイセンスブースはテレビ全盛時代の日韓メーカーのように巨大で華やか
 ハイセンスの110インチと85インチの8K miniLED TV

中国勢はこの5年ほどでの着実に技術力を上げてきている。韓国サムスンと日本のパナソニックはCESでの展示内容はサスティナブル関連に完全にシフトしており、家庭向けのテレビの展示もプレゼンテーションはほぼない状態だ。ソニーは別記事の通り、新たに明確な方向性を示しているが、ブラビアに関して新製品はあれども一台も展示はしていない。また米国市場に再参入をすると発表したシャープは、なぜか場所がWynnホテルの会議室だったために時間がなく、結局訪れることはできなかった。

 TCLブースも非常に巨大で奥にはスマートホームの展示スペースがある
TCLの85インチ、93インチ miniLED 4K TV

日韓メーカーの中においては、唯一LGだけがテレビをメインにして訴求している。2020年のロール(巻取り)型のOLED TVに続いて、今年は電源以外が全てワイヤレスのOLED TVを「World’s First Wireless OLED TV」として「世界で一番シリーズ」を未だに継続しているのは立派なことだと本当に思う。

LGの世界初のワイヤレスOLED TVはエントランス正面で4面連動でデモ

 
 LGの透明OLED TVは透明度とコントラストがさらに向上した。奥に置かれているのがノベーションアワドのトロフィー

テレビは、すでに主役の座からは降りている実情

5年ほど前から、CESにおいてテレビは、すでに主役の座からは降りている。しかしテレビは売れていないのか、スマホがあればテレビは不要かと言われるとそうではない。水や空気と同じで欠かせないものであり、同時にあまりにも普通のものなために頓着しない、されない存在になっている。 

確かに最新のmini LEDやmicro LEDを搭載したテレビは非常に美しく、コントラストの高い映像を表示する。しかし日本だけではなく家の中のテレビはある程度大きさが制限されるし、視聴ポイントも同様なので、大きさや解像度のようなパラメーターはもう臨界点であり、差別化や高性能化の要因にはならないことは誰もが感じることだ。手のひらサイズのスマホのディスプレイを8K化しても無意味であるのと同じだ。そしてスマホでさえも、すでにCESではテレビと同じくらい主役ではない。

テレビの現在地を改めて考える

本稿ではCES自体の話が目的ではないために多くは語らないが、デジタル革命と言われるものが現在進行系だとして、テレビの現在地を改めて考えてみたい。

ここで言うテレビとは、家の中で見るものに限定する。移動中や屋外は除く。視覚に訴求するメディアであるテレビの特性から、移動していない、視覚を100%テレビに集中できる場所がメインの仕事場にあるはずだからである。

CES2023で特徴的だったことは、テレビに表示するコンテンツに関しての展示も議論もほとんどなかったことだ。少なくともOTTに関する議論は全く活発ではないし、FASTサービスに関しても日本での言われようほどには話題にはなっていない。

実際問題としてはNetflixを見るケースが多いのだろうし、コロナ以降はテレビの接触時間は米国でも上昇している。こうしたコンテンツについて、コンテンツプロバイダーの出展もないし、それを具体的に示したり、サンプルとして表示している例さえも殆どない。

ATSC3.0ブースは壁に囲まれた狭い出入り口が4箇所しかなく、非常に入りにくい雰囲気

以前なら「当社のテレビならリモコンのボタン一つで、画面上のアイコンをクリックだけですぐにNetflixが見られます」がセールストークになったが、こうした提携や抱え込みは結局失敗というか、全部有りに落ち着いてしまった。

 NEXTGENTV関連のセッションは人の入りも少なく重苦しいままの雰囲気で進行された

これはコンテンツによる差別化が、ハードウエアレベルでは成立しないことを意味しているのではないだろうか。そうだとしたら、テレビは単なるディスプレイであるという、身も蓋もないない事実に落ち着くだけなのかもしれない。そしてこうした議論においても、NEXTGENTV(ATSC3.0)は影も形も見えては来ない。全米で77局がすでに放送を開始しているそうだが、彼らの展示ブースには関係者しかいないし、セミナーは内容も薄くて参加者もまばらであった。

そしてテレビはどこへ行く

これまでテレビは、コンテンツ、伝送路、表示装置が制度で規定されて三位一体となって成長をしてきた。ところがインターネットと様々なサイズのディスプレーがバラバラで進化をする状況下においては、コンテンツも三位一体ではなく、TikTokの縦動画のようにそれぞれに最適化された内容となっている。

そして技術の進化によって、これらをうまく吸収することができるMMTやオブジェクトベースのコンテンツも見えてきている。こうなると制度を規定してそれに準拠したテレビの開発製造を短期間で完了させて、かつ一定期間以上の保守メンテナンスを継続するのはコストに見合わなくなる。

これらをまとめて考えてみると、テレビはディスプレイ機能に特化したもので十分だということになりそうな予感がするのである。特にアメリカではもともとケーブルテレビか衛星放送のSTBがテレビにつながるものだったため、なおさらその傾向が強い。

このことが何かに悪影響を及ぼすかどうかだが、B-CASの存在を今後どうするべきかという議論だけは、避けては通れないだろうと思う。