はじめに
今、ミラーレスカメラ業界は撮影性能のコモデティ化を迎えている中、富士フイルムは高品位なデザインや高級モデルのラインナップを特徴として堅調に推移している。特に2023年9月に発売した1億画素高画素センサー採用の中判デジタルカメラ「GFX100 II」は、ラージフォーマットカメラの常識を覆すほどの高速性能や動画機能が話題だ。
そこで富士フイルム イメージングソリューション事業部・商品企画マネージャーの大石誠氏にインタビューを実施。GFX100 IIの誕生から動画撮影への思いについて、話を聞いた。
静止画トップのGFXシリーズに4K60P対応新モデル登場
――GFX100 IIでは、シネマカメラと呼べるほどの動画機能強化を強く感じました。静止画でトップの実績を誇るGFXシリーズが、なぜ動画機能を強化したのでしょうか?
大石氏:
おっしゃる通り、GFXは静止画のハイエンドを目指してラージフォーマットで高解像度かつ多様な対応レンズも含めたラインナップです。当初、2017年発売の「GFX 50S」や2018年発売の「GFX 50R」では5,000万画素の解像力で、動画撮影もフルHDまでの対応でした。しかし、2019年にGFX100が登場して、1億画素の富士フイルムとしても史上最高画質と4K30Pの動画記録も実現しました。
ただし、GFX100も100Sも4K30Pのため、GFXを映像制作にフル活用する人はそこまで多くありませんでした。一方でワンマンや簡易的な映像制作ではGFXまでの高価格な大きなフォーマットは必要ありません。「帯に短し襷に長し」といった感じで選ばれにくい状態が続いていました。
しかし、同時にこの3年間、「GFXのフォーマットで本気の動画撮影ができたら夢のようだ」とも言われ続けました。そこでGFX100 IIでは4K60Pの実現をキーポイントとしまして、シネマやハイエンドの映像制作にも通用していくカメラの実現を目指してきました。
――御社としては中判動画の立ち上げを宣言して手を挙げた感じですね。
大石氏:
そうですね。GFX100 IIを使って、本気で映像制作をしていただきたいという思いで開発しました。
――映像業界を虜にしていますが、開発コンセプトは何だったのでしょうか?
大石氏:
GFX100 IIの開発初期からずっと変更してないプレゼンテーションが1枚あります。
それは「GFXクオリティ」です。きちんと静止画と動画撮影に対応したハイブリッドなカメラの実現を基本コンセプトとしてきました。
――小さな筐体の中に、静止画のカメラとシネマカメラが同居しているイメージですね。
大石氏:
そうですね。特に使用するレンズに応じて選べる「動画フォーマット」モードというアイデアはイメージセンサー開発者の発案で、「GFX100 IIのセンサーは様々なレンズに対応した読み出しに対応できそう」という発言がきっかけでした。
GFXの4K映像撮影は唯一無二の魅力
――大型イメージセンサーはフルサイズ比1.7倍の44×33mmサイズで、PRONEWSでは中判動画と呼んでいます。その大型サイズの動画撮影が最大の特徴だと思いますが、映像制作においてどのようなメリットがあるとお考えですか?
大石氏:
この大きさのイメージセンサーで4K映像がきちんと撮れるのは唯一無二だと思っています。私達は中判静止画の圧縮感や立体感に魅力を感じてGFXを発売してきました。あの表現がそのまま映像になるならもの凄いインパクトだし、ALEXA 65で撮られた映像を見ると「何かやっぱり違うよね」みたいな期待感を感じていました。富士フイルムとしてもお客様がどのように反応してくれるのか大変楽しみです。
――動画フォーマットモードはGFや35mm、アナモフィック、Premistaに対応していますが、特にPremistaに対応した狙いについて教えていただけますか?
大石氏:
大は小を兼ねるではないですけど、大きいサイズだからこそ、様々なフォーマットを工夫すればカバーできます。すると、先ほど言ったように、世の中に数多あるシネマレンズをGFX100 IIのボディで使ってもらえる。そういう多様性が中判ならではの特徴になるのではないかと思います。
実は、初期のGFX開発当時、同時にシネズームレンズ「Premista」の開発も社内で行っていました。しかし、イメージサークルは少し異なりました。そこで私自身、GFXにPremistaを対応させたいと思い、その当時からビスタビジョンを切り取って4Kにするという構想を考えていました。
私は放送用レンズの商品企画も担当しており、シネマレンズとカメラの両方に同じ人が関わっていて何で一緒にしないのかという葛藤もありました。それがGFX100 IIの登場をきっかけに、ついに対応できました。
――F-Log2搭載もGFX100 IIの描写を最大限に発揮できるのではないかと思います。そのあたりの狙いがあれば教えてください。
大石氏:
F-Log2の特徴は、まさしくダイナミックレンジだと思っています。シャドウからの立ち上がりが映像を作る時のダイナミックレンジの肝になっていると思います。そこをきちんと実現できる新しいLogを作ろうというところが狙いでした。これも新しいプロセッサーと相まって実現している機能で、以前のモデルまではできなかったことでした。
――富士フイルムはどこよりも早くからクラウドサービスFrame.io Camera to Cloudに対応してきました。NAB 2023ではX-H2シリーズでFrame.ioの配信デモを行っていました。今回のGFX100 IIでも本体内蔵の機能でFrame.ioに対応しました。いよいよ映像業界にもクラウドの波が来たと思っています。このFrame.ioを実装した狙いやインパクトみたいなのを教えていただけますか。
大石氏:
NAB 2022で、富士フイルムアメリカのメンバーがFrame.ioを発表したアドビブースを訪問したのがきっかけでした。そこからアドビさんからお声がけをいただき、Frame.io初のC2C対応メーカーになりました。
その当時、当社ではグリップ型のファイルトランスミッター「FT-XH」を開発中で、そこに入る技術がちょうどFrame.ioにハマりました。これはひょっとしたら今開発中の仕様を少し変えるぐらいで実現できるのではないか?それだったら即刻やろうという決断にいたりました。
GFXやXの歴史は浅く、基本的には他メーカーやサードパーティーと一緒に展開していきたいという思いもありました。われわれは自社でクラウドサービスを展開していないので、ぜひやりましょうという話になりました。その後、Adobe MAX 2022でX-H2SとFrame.io Camera to Cloudとのネイティブ統合した世界初のデジタルスチルカメラとして発表が行われたのです。
映像業界向けに本格的に取り組んだGFX100 IIに注目
――最後に、GFX100 IIの後継機種を考えていると思うのですが、具体的な未来予想などはいかがでしょうか?
大石氏:
今後発売の商品に関しての話はできないのですが、やはりGFX100 IIを発売してこれだけ良い反応をいただいているので、より多くの皆様に使っていただいて、GFX100 IIで作られた映像作品をたくさん拝見したいと思っています。
GFX100 IIは映像業界に対して初めて本格的に取り組んだ製品です。このチャレンジが結果的にどのようになるのか、皆様の反応次第で、われわれの今後の製品開発の将来が決まります。GFX100 IIをぜひ映像制作に使っていただき受け入れてもらえるなら、さらなる飛躍を遂げた製品作りを続けたいと思います。