Vol.05 大型センサーの新たな可能性を広げる!? GFシリーズ初のティルトシフトレンズ「FUJINON GF30mmF5.6 T/S & GF110mmF5.6 T/S Macro」レビュー[FUJIFILM GFX Experience]メイン写真

GFシリーズ初のティルトシフトレンズ

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プロがカメラを選ぶ時、特にメーカーから選び直す時の指標の一つが「レンズラインナップ」でしょう。

各社ズームや単焦点・マクロなど、必要な焦点域をカバーしつつ、オリジナリティのあるレンズを発表し続けています。

しかしそれらはあくまで「標準的」なラインナップであって、特定のニーズに応える製品を出すことは、企業にとっても勇気の要る決断になると思います。

富士フイルムの中判系GFレンズシリーズのラインナップも確かに豊富になってきましたが、新しいフラッグシップ「GFX100 II」の発売のタイミングに合わせて、初のティルトシフトレンズを出してくる辺り、富士フイルムのこのプロ向けラインへの情熱が伝わってくるようです。まさに、GFシリーズのダークホースといったところでしょうか。

今回発売されるこれら2本のレンズは、建築関係や物撮りの専門職方面にも新たな販路を広げることになりそうですが、GFX100 IIは動画撮影機能も充実しているため、動画との親和性も気になるところです。

今回は、筆者も含めて動画系撮影では馴染みの薄いティルトシフトレンズを、動画的視点ではどう扱えるのかも含めて、レビューしていきたいと思います。

ラインナップ

フジノンレンズ

  • GF30mmF5.6 T/S(35mm換算で24mm相当):税込699,600円
  • GF110mmF5.6 T/S Macro(35mm換算で87mm相当):税込612,700円

2023年12月発売予定

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「GF30mmF5.6 T/S」は35mm換算24mm相当で広角なため、建築撮影向き。「GF110mmF5.6 T/S Macro」は35mm換算87mm相当で、マクロ撮影ができることから物撮り向きという棲み分けであると思われます。

中判以上の大型センサーのミラーレスカメラ市場は、種類も少なくまだまだ成熟途上です。ティルトシフトレンズにいたっては、扱っているメーカー自体が少なく、ましてや建築・物撮り等のプロの使用に耐えうる製品・ラインナップとなると、非常に限られたものでした。

そんな中登場したこの2本のレンズですが、30mmは、広すぎない常用画角ですし、110mmは0.5倍のマクロ対応の中望遠です。個人的には、とても理想的な初回ラインナップであると思います。

サイズ感・仕様

筆者が初めて手にした時は、結構ずっしりとして重い印象でした。35mm系のシフトレンズと比べると一回りくらい大きいサイズで、重量も30mmが約1,340g、110mmが約1,255gと比較的軽量に作られてはいますが、とはいえ両方1kg超えの重量があるので、気軽に持ち出して手持ちでスナップを撮るようなレンズではないです。

そもそもティルトやシフトは、下写真のような大きな蛇腹の機材を使って、時間をかけてじっくり調節する必要のある撮影手法です。その複雑な機巧をこのサイズにギュッと凝縮していると考えると、むしろとてもコンパクトであると言えます。

GFX100と大判レンズが使用可能な4×5ビューカメラをGマウントで使用するためのアダプター「VIEW CAMERA ADAPTER G」の組み合わせ例(富士フイルム公式サイトより)
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30mmは±8.5°のティルト調整と最大±15mmのシフト調整幅、110mmは±10°のティルト調整と最大±15mmのシフト調整幅を持っています。他社製35mm系シフトレンズからしても、遜色ない必要十分な可動範囲であると思います。

また、T/Sレボルビング機能により、これら2軸が別々に0°~90°まで回転可能ということです。

※カメラ本体側が30°ごと、もう一方が45°でロックがかかります。

これにより、撮影中にも使用しましたが回転角の途中で使うこともできるので、画角やフォーカス範囲の自由度が高いです。30mmには専用のレンズ三脚座も付属しているので、レンズを動かさずカメラだけシフトしたりしたい場合にも有効です。スティッチングなどの画面合成撮影に有効です。

描写性能

いくつか建築物や静物の撮影を行いました。以下の作例をご覧ください。

※RAW現像ソフト Capture One Pro 23
プリセットカーブ「富士フイルム CLASSIC CHROME」「富士フイルム Velvia(VIVID)」
今回、露出補正以外は行っておりません。

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GF30mmF5.6 T/S
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写真としての描写性能は、中判センサーの1億画素に対応して造られているだけあって申し分ないと思います。細部にいたるまで非常にシャープでクセの少ない写りをする印象です。

また、あまりシフトレンズに馴染みのない方向けに、シフトやティルトの効果がどのくらいのものか比較できるように、数パターン撮影しました。

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上の写真と同ポジションで、シフトを使わず雲台で左に振ったカット
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GF110mmF5.6 T/S Macro シフトなし、カメラを水平に調整したカット
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上方向シフトあり
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シフトなし、雲台で上方向に画角を調整
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シフト機能は、被写体の平行垂直を保った状態でレンズの鏡筒をずらすことで、遠近感を変えずに画角調整をすることができます。

シフトを加えたものと、シフトをせずにカメラを煽っただけの画像とを比較すると、建築物の縦横のラインが真っ直ぐに写っていることがお判りいただけると思います。

カメラを動かさずに画角の微調整ができることも利点の一つです。

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ティルト機能は、ピントの合う範囲を自在に変えることができます。作例のように、同じ絞りでも物の天面全体にピントを合わせたり、逆にわざと限定してミニチュア撮影のような不思議な効果を狙ったりすることもできます。

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GF110mmF5.6 T/S Macro ティルトなし、F5.6
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ティルトあり、F5.6
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GF110mmF5.6 T/S Macro 逆アオリによるミニチュア風カット
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GF30mmF5.6 T/S
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また、簡易的ではありますが、それぞれのレンズの歪曲収差を検証してみました。歪曲収差は、方眼画面をモニターに表示して撮影しました。

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GF30mmF5.6 T/S
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GF110mmF5.6 T/S Macro
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結果、歪みに関しては、ほぼゼロと言って問題ないレベルであると思います。

現像ソフトのCapture One Pro 23最新版には、すでにこれらのレンズプロファイルが搭載されていましたが、ほぼ補正が必要ありませんでした。やはり、建築や物撮り用レンズとしては、ここをしっかりとおさえておいてもらえると、とても安心感があります。

逆光耐性に関してはテストはしていないのですが、30mmはフードなしで、太陽光がレンズに少し入る状況で撮影していましたが、気になるほどのフレアは感じませんでした。

また、110mmはそもそもレンズの前玉が深い位置にあるので、逆光は入っていませんでした。

動画でシフトレンズはどう使う?

富士フイルムのGFXシリーズは、35mmフルサイズよりも大きなセンサーを積んでいて、しかも、先日発売されたばかりのGFX100 IIは、動画性能が他ラインナップとは一線を画しています。

  • CFexpress TypeB採用
  • 8K 29.97p、4K 59.94p
  • Apple ProRes 422 HQ収録可能
  • 収録時高温になるボディ用冷却用ファン(FAN-001)取り付け可能

などなど、スペックを見ただけでも、動画撮影への本気度が伺えます。画質面でも、1億画素をカバーするレンズ群からすれば、3300万画素程度の8Kは全く問題にならないでしょう。

しかし、スチル撮影で真価を発揮するこれらシフトレンズではありますが、筆者同様、動画撮影ではほとんど見かけることはありません。

今回せっかくテストの機会をいただきましたので、動画撮影でも利用できる場面はないか、といろいろ試してみました。

下の作例をご覧ください。

まずはシフト機能から見ていきましょう。

この機能はスチルと同様に、建築物を歪みを少なく撮りたい場合に使用します。

四角い建物を縦横真っ直ぐに撮るには、水平にカメラを固定し、建物の中心で撮影する必要があります。しかし、そのままだと思い通りの画角に対象を収めることができませんが、シフト機能を使えば水平垂直をキープしながら、自由に画角を変えることができます。動画においても、構造物を美しく構図に収めることができます。

次にカメラのワークを考えます。

今回は小型のスライダーを持ち込んでレールワークを試しました。

80cm程度の短いスライダーのため、少しワークが物足りなく感じますが、この短い動画でも天井部分のシャフトの歪みの有無や、画面左の窓が垂直を保ったまま動く映像が問題なく確認できると思います。

続いて、ティルト機能です。

スチルでも動画でも、ティルト機能を使ったミニチュア風撮影は結構前から定番としてあります。アオリ側に動かして、わざと浅く撮影することでこの効果が得られます。

建物がそんなに高くなかったのですが、割と可愛く撮影できたと思います。

ピント面を物理的に動かすので、多少絞っていても浅く撮ることができます。物撮りに限らず、画面内に極端なボケを作り出すことができるので、特殊なイメージカット撮影もすることができます。

逆にピントを深くすることもできます。ティルトレンズを先ほどとは逆に動かします。

また、スピーカーのレールワークでは、上面に全てピントが合っているため、被写体の構造面をしっかり見せたい場合などに有効です。このように、ティルト機能を使えば、自在にピントの範囲を変化させることができます。

動画では、IRISを絞りすぎるとレンズやセンサーについたゴミが目立ちやすくなり、場合によっては消すことが難しいため、絞りすぎることを嫌う傾向にあると思います。

そういった場合でも、ティルト機能を使えばたとえF5.6(これらのレンズの開放値)であってもかなりの範囲にピントを合わせることができます。これはパンフォーカスを狙いたい場合などにも有効であると思います。

まとめ

スチル用のティルトシフトレンズとしての性能は、申し分ないと言わざるを得ないと思いました。

また動画性能的にも、1億画素用に作られたレンズですので、8K(約3300万画素)でも有り余るほどの解像力や、非常によく補正された歪曲収差・逆光耐性など、とても優秀でした。

あえて難点をあげるとするなら、シフト調整用ギアの粘りがレンズ重量に対して若干弱いと感じました。

調整用つまみと反対側にある、締め込み用のネジを緩めてからギアを操作するのですが、重量のあるレンズに対して粘りが少し不足しているため、ネジを緩めすぎるとストン!とレンズが極端に動いてしまいます。

ネジをほんの少しだけ緩める工夫をすれば、その分の粘りが効いて動かしやすくはなるのですが、繊細な画角調整時には結構神経を使いそうです。

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もう一点、30mmの前玉は少し張り出しているので、レンズフィルターや付属のフードを付ける場合は、ノーマルリングから専用のアダプターリングへ付け替えるのですが、これによって105mm径に変換されてしまうため、35mm系定番の82mmまでのフィルターが使用できません。

105mmは82mmまでのフィルターと違って種類が少ないため、動画用のNDフィルターなどはマットボックスを活用するか、105mm径のフィルターを探すかなどの一手間が必要になりそうです。

本体価格約60~70万円と、プロ仕様の中判デジタルカメラ用レンズとしてはお手頃な範疇ではあると思いますが、まずは是非一度お試しになってこのレンズの凄さを体験していただければと思います。

北下弘市郎(株式会社Magic Arms 代表)|プロフィール
映像・写真カメラマン・撮影技術コーディネーター。大阪生まれの機材大好きっ子。音楽・広告・ファッション・アートなどを中心に、ムービー・スチル撮影を行う。撮影現場の技術コーディネートや機材オペレーターなど、撮影現場に関する様々な相談に対応する。