待望の55mm新登場
「フジノンレンズ GF55mmF1.7 R WR」は、35mm判換算で44mm相当の、GF 45mm F2.8 R WR(35mm判換算 36mm)よりもほんの少し狭い、人の視野角に最も近い画角として発売されました。
今回レビューをさせていただくにあたり、このレンズを初めて触ったのですが、このレンズの焦点距離は35mm判換算の35mmより少し狭く、50mmより広いため、筆者のように35mm判のセンサーを普段使用するユーザーとしては馴染みを感じず、視野角に近いという説明に対して始めは正直疑問を感じていました。
※今更ご説明するまでもないかもしれませんが、35mm判では35mmは人の目の捉えられる視野角、50mmは実際に認識できる視野角に近いとされている、ということを前提にお話しております。
しかし、実際にファインダーで覗いてみて納得しました。GFXシリーズは4:3のアスペクト比で、35mm判の3:2より縦が長い計算になります。これにより、ファインダー内の視野は35mm判換算の数値より広く見えるため、この55mmは数値よりも広く、人の目の視野角に近く感じられるのです。
むしろ個人的には35mmよりも見た目に近いと思いました。視野角に近いということは、35mm(35mm判換算)の感覚で扱えるということです。私は35mmが最も好きな画角ですので、とてもしっくりきた感じでした。
既存の標準域のGFレンズラインナップは、
- GF 45mm F2.8 R WR(35mm判換算 36mm)
- GF 50mm F3.5 R LM WR(35mm判換算 40mm)
- GF 63mm F2.8 R WR(35mm判換算 50mm)
- GF 80mm F1.7 R WR(35mm判換算 63mm)
となっており、数字としては一見潤沢そうに見えます。
しかしある程度GFレンズシリーズをお使いの方は、この画角感はすでにご理解されていると思うのですが、これから購入を検討されている35mm判ユーザーの方には、
- GF 55mm F1.7 R WR→35mm相当
- GF 80mm F1.7 R WR→50mm相当
- GF 110mm F2 R LM WR→85mm相当
の方が感覚的に当てはまるのではないかと思いました(F値的にも大口径で揃ってますし)。
ということもあり、この55mmの登場によりGFレンズシリーズに待望の大口径標準域3本がようやく出揃ったことになります。
基本性能・仕様について
同レンズは2023年9月末にすでに発売されており、レンズの描写性能について細かく分析されたレビュー記事がすでに国内外でいくつか上がっていますので、ここでは描写性能以外のポイントについても、重点的にレビューさせていただこうと思います。
基本性能の評価を簡単にまとめます。
まず、11枚の円形絞りによって滑らかなボケ味が実現しています。他の標準域のレンズではF2.8が最高で、開放で撮影したい派のユーザー的には今一歩ボケ味が足りない感じでしたが、このF1.7がそれを解決してくれました。
開放でも中央部はしっかりと解像していて、35mm判では表現できないラージフォーマットの醍醐味を感じる、うっとりするようなボケ味と立体感が味わえます。
その大口径にしてはとてもコンパクトなサイズに収まっているため、小型のカメラバッグにもすっぽりと入ります。なので気軽に屋外撮影に持ち出しやすく、さらに防塵防滴が付いているので天候条件を気にせず、様々なシチュエーションにチャレンジできるのも嬉しいポイントです。
また先ほども書きましたが、55mmは35mm判の35mm的感覚で扱えるので、スナップにも向いていて、最短撮影距離0.9m、最大撮影倍率0.16倍と、同口径のGF 80mm F1.7 R WRよりも比較的寄れるレンズとなっています。
レンズの歪曲については、方眼を表示した画面を撮影しましたので、以下の写真をご覧ください。
beforeはソフト(Capture one)による歪曲補正前です。周辺部にほとんど気にならないレベルの緩やかな樽型の歪曲が見られました。歪曲補正後のafterは、かなり綺麗に補正されています。ある程度直線的なものを撮影しても、気になりにくいと思います。
AFに関しては、大型のレンズ群をモーターで動かすため少し動きが遅いです。特に開放F1.7での挙動はかなり鈍く、動き回る子供を撮った場合では合掌率は高くはありませんでした。
ここは、若干被写体を選ぶポイントになってくると思います。
描写性能
描写性能は、GFXシリーズの大きなセンサー用に設計されているため、また商品HPのMTF特性曲線が示すように、申し分ないシャープさと解像力を持っています。
私はレンズの描写を見る時、実はあまりMTF特性曲線などは参考にせず、全体のコントラスト感や色のりとシャープネス感のバランスを個人的な指標で見ているのですが、このレンズを評価する上では、そういった目で見るというよりは、そもそもこのレンズは富士フイルムが今まで培ってきたフィルムの色味を出すのに最も適した調整を施されたレンズ、という視点で見る方が正しいように感じました。これはGFレンズシリーズ全体に言えることだと思います。
撮影したデータを現像ソフトで開き、富士フイルムのカーブを当て込むと、途端に富士フイルム独特の美しいコントラスト感や色再現がなされた写真が表示され、そこから色調整などはしたくなくなってしまうほど、完成された写真に見えたからです。
試しに他社製の35mm判レンズをマウントアダプターを介して試写してみたのですが、センサーの使用範囲が狭まったことも相まって、この色味や立体感は出にくいように思いました(こちらの作例はありません。ごめんなさい)。
まさに、GFXシリーズのカメラで撮影するために設計されたレンズであると言えると思います。
※以下、作例のフィルム名は、CaptureOne内のフィルムシミュレートのカーブです。フィルムシミュレーションの雰囲気を観ていただきたかったので、露出以外は調整していません。
動画用レンズとしての評価
写真がこれだけ綺麗に撮れるレンズですので、動画においての描写力も期待が高まります。感想としては全く申し分なく素晴らしいと思いました。
撮影はF-Log2で行い、編集でフィルムのETERNAがシミュレートされたLUTを当てました。LUTは公式HPよりダウンロードでき、フォルダ内には各カメラに用意された4種類のLUTから選択できます。動画でも同じくフィルムの様な色味で美しく表現してくれています。
今後、もし他のフィルムのLUTを出してくれたら、もっと撮影が楽しくなりそうです。
実用的な部分で言うと、フォーカスの挙動が個人的には気になりました。AF時の被写体追従の動きがかなりぎこちなく、急に動いたり、中央部でもピントが外れたりします。カメラ側の動作設定を変えてみても(GFX100 IIの場合)、挙動に大差は感じられませんでした。
なので、使うならAF+MFモードでAFはガイド的に使用する感じになるかなと思います(そもそも中判センサーでここまで追従してくれるAFというだけでも、かなり優秀であるとは思います)。
逆にMF操作はフォーカスリングに適度な粘り感もあり、フォーカス送りは比較的やりやすい印象でした。ただ、インナーモーターの挙動が多少機械的なため、ゆっくり動かした場合クックッククッという音とともに、カクカクした動きが画面に出てしまいます(音も内蔵マイクで拾います)。
動体の撮影に関してはほぼ気にならないのですが、三脚に固定して、手前から奥にゆっくりピントを送るようなカットでは少々目立ちます。
また、インナーフォーカス特有のフォーカスリングとフォーカス位置のズレがかなり顕著です。多くのレンズ群をモーターで動かしている分、そこのズレは致し方ないとは思いますが、ワイヤレスフォローフォーカスなどを使った場合の、レンズキャリブレーションはほぼ意味をなさないと思います。なのでフォーカスに関しては、直接手で操作するのが一番確実だと思いました。
この辺りに関しては、魅力的な描写性能を動画でも生かしたいと思っている私のようなユーザーのためにも、今後の改善点としてぜひともお願いしたい部分です。
まとめ
さすがF1.7の中判系標準レンズということもあって、妥協のない描写性能から富士フイルムの本気度を感じさせる一本に仕上がっていると思いました。何より開放F1.7の描写は圧巻です。ずっとF1.7で撮りたくなります。
ただプロユースとして欲を言えば、前述のフォーカス問題を含め今一歩物足りなく感じるポイントが少しあります(大型センサーなのである程度仕方ないのですが…)。
実際は他レンズと同じく、スタジオや環境が整った場面でじっくりと撮影するのに向いているのかもしれません。
しかしそれらマイナス面を差し引いても、余りある描写力がこのレンズの最大の魅力であることに変わりありませんし、防塵防滴とコンパクトなサイズによって、中判センサーカメラを外に持ち出しやすくしてくれるこのレンズは、どんな写真が撮れるのだろうというカメラ小僧的なワクワク感を十分に掻き立ててくれます。
また、人の視野角に近い素直な画角なので、自分の視点や作品について改めて向き合わせてくれるとても良い焦点距離だなと感じました。
GFXシリーズを初めて買う方には初めの一本として、すでにお持ちの方はレンズラインナップに加えていただき、富士フイルムカラーを活かした楽しい中判デジタルの世界をぜひご堪能ください!
北下弘市郎(株式会社Magic Arms 代表)|プロフィール
映像・写真カメラマン・撮影技術コーディネーター。大阪生まれの機材大好きっ子。音楽・広告・ファッション・アートなどを中心に、ムービー・スチル撮影を行う。撮影現場の技術コーディネートや機材オペレーターなど、撮影現場に関する様々な相談に対応する。