「生きし芸術-living art」が出来るまで。〜演者 眞利子大輔、江上万絢に訊く〜GFX100 IIの魅力[FUJIFILM GFX Experience] Vol.12

中判動画でドキュメンタリーアート作品を撮影

2023年9月、富士フイルムはGFX100 IIを発売。写真撮影のみならず動画撮影にも対応する中判カメラの登場に多くのカメラマンや撮影監督から期待が寄せられた。富士フイルム自身も、このカメラを高性能なシネマカメラとして大々的に宣伝していた。

このカメラに興味をもった東京を拠点に活動するアルバニア出身の映画監督兼写真家 Erjol Muarem氏(以下:エリオル監督)は、シネマカメラ用ズームレンズPremistaとGFX100 IIを2台使用し、盆栽に焦点を当てたドキュメンタリーアート作品を制作した。

この作品を制作するにあたり、このドキュメンタリーに登場する盆栽師の眞利子大輔氏と、ダンサーの江上万絢氏が大きな役割を担う。前編は、主演側の二人の視点を中心に、後編は監督や撮影監督からの作品コンセプトや、GFX100 IIでの制作過程などを紹介していこう。

東京・表参道での完成試写会

「生きし芸術-living art」の完成試写会が2024年8月28日、東京・表参道で行われた。プロデューサーの植原スタジオの協力のもと、出演者や関係者が一堂に集まった。そして会場には、眞利子盆栽園の盆栽がずらりと並んだ。

作品上映は30分ごとに行われた。GFX100 IIで切り取られたカメラアングル、森や木々の鮮やかな緑と江上万絢氏の優雅な舞のコントラスト、そして眞利子氏の盆栽工房の伝統的で時代を超越した雰囲気が会場を包んだ。上映が終わるたびに、出席者からは大きな拍手が沸き起こった。

ダンサーの江上万絢氏(左)、監督のErjol Muarem氏(中央)、盆栽師の眞利子大輔氏(右)

この上映会の参加者は関係者だけではなく、多岐にわたり日本を拠点に活動する様々な映画製作者、フィルムとデジタルの両方で活躍するビデオグラファーなど多くの映像人たちが参加した。他にも俳優、ダンサー、モデル、アーティスト、クルーの友人たちも出席した。ゲストからスタッフまで、誰もがこのイベントに集まった人数の多さに驚いていた。

中には樹齢210年超え、さらに作中に登場した樹齢380年の盆栽も…。値段はつけられないくらいだ

盆栽師 眞利子大輔

眞利子氏は、父親から大きな影響を受けた盆栽師である。父親の眞利子三次は日本を代表する歴史ある盆栽職人である。

眞利子氏はこのドキュメンタリーを通して、盆栽や日本文化に興味を持ってもらいたいと考えている。しかし、それを如何に世の中に伝えるかは難しい。

この作品の核心は、眞利子氏の言葉を借りれば、「彼が師である父親に認めてもらうか?」。盆栽の道を歩むために懸命に訴えたその記録も描いている。さらに、盆栽の手入れという繊細な技術に対する情熱も伝わってくる。作中に登場した樹齢380年を超える盆栽も完成試写会で展示されていた。

眞利子氏は、このドキュメンタリーの主な目的は、盆栽をより深いレベルで紹介することだと語った。特に、盆栽の難しさや技術を紹介するだけでなく、日本の有名な芸術のひとつである盆栽の本当の姿を世界に紹介したいという。"盆栽には技術、正確さ、忍耐が必要"それを表現すること自体が、眞利子氏にとってこのドキュメンタリーで最も重要な部分だった。

GFX100 IIの性能、奥行き、描写力は印象的

眞利子氏は、GFX100 IIの映像の印象について次のように述べた。

富士フイルムGFX100 IIのカメラの性能、奥行き、描写力は本当に印象的でした。GFX100 IIだからこそ盆栽をとてもうまく捉えることができ、撮影できたのでしょうね。撮影中、最初の画像を見たとき、実物に近いと感じました。違いはほとんどなかったと確信しました。

眞利子氏は、富士フイルムのカラーサイエンスに感銘を受けたという。富士フイルムが映画製作者に評判であることは、自然に忠実な緑の記録する力であり、実際、盆栽の葉は非常に深いグリーンだった。この結果は、彼をとても喜ばせた。

盆栽は眞利子氏の人生そのものである。盆栽はそれぞれ手入れ方法が異なり、それぞれに合った手入れと忍耐を必要とする。これは、実生活における人間関係のあり方と類似する。アートは単なる芸術ではなく、アートにも人生がある。

盆栽は小さな苗木からスタートし、成熟した盆栽の形や個性を形成するためには、優しいケアが必要です。小さな盆栽は、盆栽をどのように育てるかを選択するチャンスを与えてくれます。これは私たちの人生にも当てはまります。

アイデアはインスタグラム投稿用の構想からスタート

江上万絢氏は、コンテンポラリー・バレエダンサー。盆栽とダンスを組み合わせるというアイデアは、もともと彼女のアイデアだった。ロンドンに1年間留学し、日本の文化や職人技を守ることの大切さを身近に感じるようになった。

盆栽そのものは世界的によく知られているが、彼女にとって盆栽はそれ以上の意味を持つようになった。盆栽は生きているが、繊細で複雑な芸術でもある。それを感じつつ、仕事を通しての知人だったエリオル監督に相談することになる。

エリオル監督と江上万絢氏

元々盆栽を世界へ広めたいというアイデアは当初、インスタグラムの投稿用にシンプルに撮影する構想だった。しかし、エリオル監督は、別のクリエイティブなアイデアを提案した。

江上氏のダンスと盆栽の組み合わせだ。監督は、そのアイデアをさらに広げたいと思った。眞利子氏とすぐに話し合ったという。しかし当然の如く簡単なことではなかった。

その後、エリオル監督は、江上氏のアイデアをドキュメンタリーという形で収めることにした。彼女は、ドキュメンタリーという手法でアート作品を制作することが、眞利子氏の盆栽を伝えるに最適な方法だと考えたのだ。

「最初の映像を見て、ただただとても感動しました」と、GFX100 IIで撮影された映像を見た第一印象について語った。中判センサーを持ち広い色域を持つため、森の中でかなり広い範囲を撮影することができた。これらのショットは、カラーグレーディング前の最初のファイルから、非常に深く、エモーショナル的で、色彩豊かで感動したという。

森の中での彼女の舞踏シーンの撮影は、困難を極めた。また険しい森に機材を持ち込むための移動手段に手を焼き、自然の中にいるヒルや虫に妨害された。そのため、時間は制約され、何度もカットやリテイクをすることは許されなかった。あるテイクを十分だと判断したら、即時に次のシーンに移る。

江上氏はまた、このプロジェクトのスタッフがモダンダンスだけでなく、盆栽や日本文化にも興味を持つ外国人であったことにも喜びを示した。

後編は、この「生きし芸術」の制作過程について、をエリオル監督とジョン・ドニカ撮影監督のインタビューをお届けする。GFX100 IIとPremistaを使用した制作工程について、より深い洞察を得ることができるだろう。