Inter BEE 2024では、多くのIP伝送ソリューションが出展され、その中でNETGEARはネットワークハブの選択肢として注目を集めていた。映像・音響のIP伝送は、ビジネス向けのPC接続とは異なり、連続するデータの安定した伝送が求められる。この課題にいち早く取り組んできたのが、NETGEARの「ProAV」シリーズである。本記事では、NETGEARブースで展示された最新ソリューションについて、セクションごとに詳しく紹介する。
NETGEARのProAVシリーズ
NETGEARのProAVシリーズは、映像・音響のIP伝送に特化したネットワークスイッチである。今年の目玉は、放送業界でのIP伝送の標準規格であるSMPTE ST2110に対応した100G、25G、10GのProAVスイッチの連携である。これにより、高帯域幅が必要な映像データも安定して伝送できるようになった。
特に注目すべきは、時間同期の信頼性である。放送用のIP伝送では、正確なタイミングが欠かせない。NETGEARのProAVシリーズの中のM4350-16V4CとM4350-40X4Cは、PTP(Precision Time Protocol)のグランドマスター(GM)およびバウンダリークロック(BC)に対応しており、セイコーソリューションズ社製のようなグランドマスタークロックと接続してバウンダリークロックとして動作し、接続されたデバイスと時間同期をすることができる。
展示では、セイコーソリューションズ社製のシンクジェネレーター「TS-1550」を使って、バンダリークロックとしての2台のM4350を介したクロックの揺れが40ナノ秒以内であることをリアルタイムで計測・表示していた。通常の1台のM4350を介した際の揺れは10ナノ未満である。(注:会場ではM4350が1台の場合と2台の場合を切り替えて実演していた。)
NETGEAR ENGAGE
NETGEARが提供する無償の管理ソフトウェア「NETGEAR ENGAGE」は、ProAVシリーズをはじめとするネットワーク機器の管理を大幅に簡素化するツールである。初期設定、日常のネットワーク管理、トラブルシューティングまで対応し、映像制作現場や放送局における複雑なネットワーク運用の負担を劇的に軽減する。
過去にPRONEWSでは、使い方を紹介する記事も掲載しているので、気になる方は以下のボタンより、記事を見てほしい。
アップデート内容として、まずSMPTE ST2110に対応したプロファイル「Audio Video SMPTE」を搭載した点が挙げられる。これにより、SMPTE ST2110端末を接続するVLAN設定がワンタッチで行え、従来は複雑だったネットワーク設定が大幅に簡略化された。
さらに、従来はクラウド経由でしか設定できなかったアクセスポイントの管理が、ローカルのPCにインストールされたNETGEAR ENGAGEから直接行えるようになった。複数のアクセスポイントで共通のSSIDを使用し、アクセスポイント間でローミングできるなど、冗長性を高めたアクセスポイント管理や負荷分散が可能である。日本市場では、Wi-Fi 7対応アクセスポイントの発売準備も進めている。
NETGEAR ENGAGEの画面では、ネットワークの接続状況がアイコンでグラフィカルに表示されるため、ネットワークのトポロジー(接続形態)が直感的に理解できる。また、PTPの設定もユーザーフレンドリーな画面からわずかなパラメータを入力するだけで完了する。
放送局向けのIP伝送システム
NETGEARが提供するProAVソリューションと他社製品を交えた放送局向けのIP伝送システムを展示した。
Dante AV Ultraでの低遅延伝送
エーディテクノが提供する「Dante AV Ultra」対応のエンコーダ・デコーダは、オーディオとビデオの低遅延・高画質伝送を実現している。4K60pの映像を1Gbpsのネットワークで1フレーム未満の超低遅延で伝送可能であり、遅延を極力抑えたい現場において非常に有効なソリューションとなる。
実際の展示では、エンコーダとデコーダ間の遅延が1フレーム未満であることを実演していた。
SDIやHDMIをIP伝送で置き換えても遜色のない性能を発揮するため、放送局やライブイベントの現場での利用に適している。なじみ深いDante Controllerを使用して設定を行うことで、ネットワーク上のデバイスの映像ルーティングを簡単に構築できる点も特徴である。また、ユニキャストおよびマルチキャストの両方に対応しており、柔軟な運用が可能である。
もちろん、NETGEAR ENGAGEでは「Video with Dante audio」のプロファイルがあるので、これを選択するだけで基本的な設定が完了する。
IPMXによる非圧縮・圧縮映像のリアルタイム変換
IPMX (Internet Protocol Media Experience) は、ProAV業界のソリューションを統一し、効率的なワークフローを目指したAV over IPのオープン規格である。標準的なIPネットワーク上で4K60pの映像、音声、制御信号の伝送を可能にし、SMPTE ST 2110規格とAMWA NMOS規格を基盤としている。
IPMXのシステム紹介コーナーでは、NETGEARのProAVスイッチとMatrox社のIP to IPコンバーターを用い、非圧縮のSMPTE ST2110信号と1Gbpsの圧縮映像信号をリアルタイムで変換するデモが行われていた。
このシステムの特徴は、簡潔な機器構成にある。NETGEARのAVシリーズスイッチに各デバイスを接続するだけで運用可能であり、展示ではST2110から圧縮映像信号に変換されたカメラ信号が、デコーダで高品質に再現されていた。
広帯域が必要なST2110信号と、クラウド環境で求められる圧縮映像信号をリアルタイムでブリッジすることが可能であり、多様な現場ニーズに対応できる柔軟性を提供している。
「DM NVX」:ビジネスシーンでのAV over IP
Crestron社の「DM NVX」システムは、ビジネスシーンで、ビデオやオーディオに加え、USBや制御信号を統合し、一元的に操作・制御を可能にするAV over IPソリューションである。NETGEARのProAVスイッチとの連携システムが展示されていた。
このシステムは、専用エンコーダとデコーダを用いてPC画面や会議室のデバイスをネットワーク上で共有でき、信号の入出力に制約がなく、ユニキャストやマルチキャストにも対応している。また、GPIやDMXユニットと組み合わせることで、照明やカーテン、スクリーンの操作を一元管理することも可能である。
さらに、XLR端子やAES67、Danteなど、多様なオーディオ規格に対応し、規模や要件に応じた柔軟なシステム設計が可能である。
まとめ
今回の展示では、NETGEARのProAVスイッチが、SMPTE ST2110対応やPTPによる高精度な時間同期機能を備え、放送業界が求める安定性と信頼性にしっかり応えていることが示された。また「NETGEAR ENGAGE」は、VLAN設定のワンタッチ化やローカルでのアクセスポイント管理機能の追加が、現場での運用をさらにスムーズにした点が注目された。
これらの特徴は、IP化が加速する放送業界において、NETGEARが提供する柔軟かつ高品質なソリューションの価値を改めて実感させる内容だった。