IMAGICA GROUPは、キヤノンと共同で、スペースバルーンをモンゴルの地上より成層圏(高度約25,000m)まで打ち上げ、高精細な8K 3D 360°VR映像を撮影する実証実験を実施。その様子を高解像度かつ鮮明なVR映像として収めた実写VRコンテンツ『SPACE JOURNEY TO THE EARTH』をInter BEE 2024のキヤノンブースで公開した。
『SPACE JOURNEY TO THE EARTH』は、VRゴーグルを装着して楽しめる約3分半ワンカットの高精細8K 3D 360°VR映像だ。今回のプロジェクトでは、視聴者は極寒のモンゴルの大地から朝日を浴びて空へ飛び立ち、モンゴル縦貫鉄道を下に見ながら真っ白な地平線を飛行する。成層圏から青く、丸い地球を見渡す風景はまさに絶景だ。
キヤノン製のカメラを搭載したスペースバルーンを成層圏まで打ち上げ、高精細なVR映像の撮影に成功。しかし、極寒の環境や気圧の変化など、実現までに幾多の困難を乗り越える必要があった。IMAGICA GROUPの事業開発部 事業推進グループ プロデューサー 谷本憲佑氏、キヤノンのイメージング事業本部 IMG第一事業部 平野孝之氏に映像制作の裏側について聞いた。
――今回、『SPACE JOURNEY TO THE EARTH』のプロジェクトを立ち上げられた意図や目的を教えてください。
谷本氏(IMAGICA GROUP): 当社は、宇宙旅行の感動を多くの人たちに体験していただくことを目的としたVR映像コンテンツ『SPACE JOURNEY TO THE EARTH』の実証実験プロジェクトを2022年に立ち上げました。過去に2回実証実験を行った中で上がってきた課題の1つに「映像品質」がありました。宇宙から地球を眺める疑似体験VR映像コンテンツとして、まだまだ進化の余地があると考えておりまして、今回のプロジェクトでは、この課題をクリアすることに注力しています。ご縁があってキヤノンさんに取り組みをご説明したところご賛同いただき、共同で実証実験を実施することになりました。キヤノン製の機材を使わせていただくことで、より高画質な360°の8K映像の撮影が可能となり、解像度かつ鮮明なVR映像コンテンツ制作ができると考えました。
――過去の実証実験は、一回目から8K 3D 360° VR映像をテーマにしていましたか?
谷本氏(IMAGICA GROUP): 1回目の実証実験からVR映像で撮影していますが、3Dは今回初めての試みです。1回目は、その当時、流通していた8K 360°VR映像が可能なカメラを使用して実施しました。
今回は「画質」の向上という課題をクリアするため、高精細・高画質8K 360° VR映像かつ3D撮影が可能なカメラを選定することにしました。そこで選定したのが、キヤノン製の高画質な8Kで動画撮影が可能な「EOS R5 C」や180°の3D映像が撮影可能な「RF5.2mm F2.8L DUAL FISHEYE」です。
平野氏(キヤノン): ヘッドマウントディスプレイで視聴するVR映像において、十分な没入感や感動を与えることができる映像にするためには、8Kやさらに16Kの解像度が必要となります。そこで今回のIMAGICA GROUPさんとの実証実験では、8K撮影が可能なカメラ(EOS R5 C)に180°の映像が撮影できる「RF5.2mm F2.8L DUAL FISHEYE」を装着したものを3台使用し、180°映像をスティッチングすることで、高画質な360°映像に編集しました。
――カメラ3台の撮影は、どのように組み合わせて撮影を行いましたか?
谷本氏(IMAGICA GROUP):カメラを3台搭載できる360°撮影用の軽量リグを使用しました。高精細・高画質の長時間記録という難題だけでなく、気圧や約-50°の温度変化、風の影響によるカメラの回転への対策など、様々な事前検証を積み重ねてカメラ治具・VR 撮影用特殊リグを開発しました。カメラの台数は増やせば増やすほど高精細な映像を実現できますが、重量制限の課題もありました。そこのバランスを考慮した結果、3台設置することにしました。
――3台の映像をシームレスに繋ぎ合わせるために、どのような処理を行いましたか?
谷本氏(IMAGICA GROUP): 3台のカメラで撮影した映像を繋ぎ合わせるために、弊社グループ独自の高度な編集技術が必要でした。今回公開した映像コンテンツでは揺れはありませんが、実際に撮影した映像素材では、強い偏西風の影響で打ち上げたスペースバルーンは大きく揺れてしまいました。その大きくゆれている状態の映像を、まずは安定した状態で視聴できるところから作業を開始しました。その後、映像のつなぎ目については、自動処理とマニュアル作業を柔軟に組み合わせ、細かな目視確認を重ねて、シームレスな映像に仕上げていきました。自動処理だけでは対応できない繊細な部分は、一コマずつ調整しています。私たちが長年培ってきたポストプロダクション技術と経験を活かし、映像の質を追求し、細部にわたるクオリティ管理を通じて視聴者に最高の疑似体験を提供できる映像に仕上げています。
――今回の映像制作で最も苦労したところや、その苦労をどのようにして解決をしたのかを教えてください。
平野氏(キヤノン): 成層圏の温度は-50°となり、カメラの動作保証範囲をはるかに超えた厳しい環境での撮影でした。今回は撮影中の確認や撮り直しができないため、事前に環境試験テストおよび温度対策を施したことで無事に撮影することができました。
谷本氏(IMAGICA GROUP):事前検証にて、実際に極限環境下での動作テストを繰り返し行ったところ、対策なしではカメラやバッテリーが止まってしまうトラブルがありました。そこで、キヤノンの技術の方に都度お話を聞き、カメラの設定変更やカメラ本体に直接テープを巻きつけて保温するなど、様々な対処を施したことで解決に至ることができました。
――最後に、『SPACE JOURNEY TO THE EARTH』は臨場感溢れるVR映像をテーマとしたものでしたが、今度、どのようなVR映像のコンテンツの登場が期待できそうですか?
谷本氏(IMAGICA GROUP):『SPACE JOURNEY TO THE EARTH』は宇宙を舞台にしましたが、スポーツ、文化・芸術、または音楽ライブなどの分野においても、VRは様々な形で活用していくことができると考えています。しかし、VR技術自体がまだ広く認知されていない現状では、企画や演出の発想も限られてしまいがちです。私たちは『SPACE JOURNEY TO THE EARTH』のような挑戦的な取り組みを通じ、VRの可能性を積極的に発信していくことで、これからも視聴者の心を動かすような映像制作を後押ししていきたいと考えています。
平野氏(キヤノン):VRのような特殊かつ新しい映像表現を広げていくためには、魅力的な映像コンテンツは必要不可欠です。
今回IMAGICA GROUPさんと一緒に共同実証実験をさせていただくことでIMAGICA GROUPさんのコンテンツ企画力と制作力により、VRだからこその映像体験を提供することができました。今後もVRの価値を広めていくパートナーとして、一緒に取り組んでいけたらと考えています。