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ソニープレスカンファレンスから見えてくること

CES 2025におけるソニーのプレスカンファレンスは、昨年発表された米国NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)の公式テクノロジーパートナーの紹介と、いよいよ発売開始になるソニー・ホンダモビリティの「AFEELA」の紹介から始まった。

NFLの取り組みはグループ会社ホークアイの審判支援技術や、大成功を収めたNFLの試合をほぼリアルタイムにトイストーリーズの世界で再現した2023年の取り組みを拡張する発表が中心であった。AFEELAはカリフォルニアからの販売開始であり、価格は1,500万円($89,900)〜である。

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ニュース性の強い情報が冒頭で紹介された後は、ソニーのクリエイター支援の紹介が続いた。かつて米国クリエイティブツールのプロダクトマネージャーも担っていたことがあるものとしてソニーのクリエイター向けのワークフローの作り方はとても興味関心がある。

カーアクションやエアバトルなどの臨場感を失わない「PXO AKIRA」

アカデミー賞やエミー賞受賞の作品を多く手がけるソニー傘下のVFXスタジオ「ピクセルモンド(Pixomondo)」は、車両撮影用の新システム「PXO AKIRA」を発表した。このシステムは、ロボットカメラクレーン、モーションプラットフォーム、LEDボリューム技術を組み合わせた「オールインワン」の撮影ソリューションである。

車、ボート、ヘリコプター、飛行機などを360°回転させ、リアルタイムでバーチャルスペースと連携し、リアルな動きを再現可能。カーアクションやエアバトルの臨場感を失うことなく再現できる。従来では実現困難だった映像の可能性が大きく広がり、クリエイターにとって新たな挑戦の舞台を提供するだろう。

高速で動き回る車両や航空機を、多視点で捉えることが可能になり、これまでにないスリリングな映像を生み出せるのはもちろんのこと、コマーシャル用として自動車メーカーや航空機メーカーが、製品プロモーションのために魅力を最大限引き出す映像を制作できるのではないかと発表を聴きながら考えた。

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メタバース制作の決定版? 3DCGコンテンツ制作ワークフローを簡便にする「XYN(ジン)」

本日発表があったが、3DCGコンテンツ制作者は現在、様々なソフトウェアを組み合わせて世界観を作っている。参入障壁も高い上で、クリエイターが本当に欲しいと思う世界を作り上げるにはまだまだツールの進化が追いついてないのではないか、という問題提起のもと、ソニーが発表した制作クリエイター向けのツールは「XYN(ジン)」という。ワークフローはとてもシンプルだ。素材の取り組みから配置、書き出しまでをサポートする。

XYNが提案するワークフローは非常にシンプルかつクリエイター目線に立っている。

リアルとデジタルの橋渡し

日常的なカメラで撮影した素材を、3DCG化してメタバース空間へ直接取り込むことが可能だ。これにより、物理空間のアイデアをそのままデジタルに展開できるシームレスなプロセスを実現している。

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コスト効率の高いモーション制作

ソニーの「mocopi」を活用することで、高額な専用スタジオや設備を必要とせず、安価で高精度なモーショントラッキングが可能である。個人や小規模チームでも高品質な動きのあるコンテンツを作り出せる可能性が高まる。

直感的な操作性

直感的なVRゴーグルのインターフェースを活用することで、オブジェクトの配置や編集を容易に行える。ブースではCES 2024でソニーとシーメンス共同開発したVRゴーグルを使い、撮影した素材の取込、配置を体験できた。

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もちろん、まだコンセプト発表段階で、デモも実際のソフトウェアとは変わる可能性もあるが、話を聞いていて良いと思ったのは以下の点だ。

ソニーがクリエイターにヒアリングをして、メタバース、3DCGゲームなどを作るクリエイターが本当に困っている点を解決しようとしているヒアリング姿勢、そして、クリエイターの既存のワークフローに必要に応じて活用してもらえるようにファイルフォーマットなども独自のものを用意するのではなくクリエイターが馴染みのファイルフォーマットに書き出しをできるように考えているという。

まだ開発段階なので詳細は教えてくれなかったが、想像するにこれからAdobeなど既存のクリエイティブツールとのワークフロー連携も行われてくることも想定できるのだろう。 3DCG素材を作る時には、写真を撮影するときからXYNソフトウェアアプリ経由で撮影をすることにより奥行きデータも持たせた状態で作業ができるようになりそうである。

ソニーのクリエイティブ・ワークフローは、技術とクリエイターのニーズを融合させ、これまでにない映像表現の可能性を切り開こうとしている。PXO AKIRAやXYNといった最新のツールは、リアルとバーチャルの境界を曖昧にし、クリエイターが抱える課題に応えるソリューションとなるだろう。

これらの取り組みは、単なる技術の進化にとどまらず、映像制作の未来を再定義し、より多くの人々が新しい表現に挑戦できる環境を提供するものだ。ソニー十時社長が繰り返し述べていた「クリエイティブ・エンターテインメント・ビジョン」が描く未来は、まさにクリエイターとテクノロジーがともに成長し、創造の幅を無限に広げていく世界そのものである。

WRITER PROFILE

西村真里子

西村真里子

株式会社HEART CATCH代表取締役。“分野を越境するプロデューサー”として自社、スタートアップ、企業、官公庁プロジェクトを生み出している。