IBCの平和精機工業 / Libecブース(以下、Libecブース)で、展示されていた1本の三脚を手に取った。見た目だけなら、業務用ビデオ三脚としてそれほど変わった印象はない。しかし、折りたたまれた状態から床に置き、中央のリングを操作すると、閉じていた3本の脚が一気に展開された。

最初に見た時、「もう開いたのか」と思った。通常の三脚であれば、脚を広げ、ロックを解除し、高さを合わせるといういくつかの動作が入る。ところが今回展示されていた「Q30B / Q50B」は、その展開動作そのものを減らすことを狙った三脚だった。

中心にあるのが、Libecが新たに開発した特許出願中の「Quick Deploy®(クイックデプロイ)システム」である。ENGやRun & Gunスタイル、ワンマンオペレーションなど、素早いセットアップが求められる現場を意識して開発された製品だ。

Q30B / Q50Bに採用された特許出願中の「Quick Deploy®」システム。素早い展開によって撮影開始までの操作を減らす
収納状態のQ30B / Q50B。キャリングハンドルを備え、収納状態からQuick Deploy®によって素早く展開できる

リング操作で3本の脚を一気に展開

Quick Deploy®の操作は分かりやすい。キャリングハンドルを持った状態で、スプレッダー中央に設けられた「Deploy Ring(デプロイ・リング)」を操作する。リングを上下させることで、スプレッダーの開閉と上段脚のロック解除を同時に行える構造だ。

実際にブースで動きを見せてもらった。スタッフがキャリングハンドルを持って三脚を運び、そのまま床に置いてDeploy Ringを操作すると、閉じていた3本の脚が一連の動作で開き、すぐに三脚を立てた状態へ移行する。

1本ずつ脚のロックを解除して展開していくのではなく、「運ぶ→置く→開く」という動きがほぼ連続している。取材では収納と展開を何度か繰り返してもらったが、実際の動きを見ることでQuick Deploy®の狙いがよく分かった。

Quick Deploy®のスプレッダー部。中央のDeploy Ringを操作することで、スプレッダーの開閉と上段脚のロック解除を連動させる
Deploy Ringを操作する様子。リングを上下させることで、スプレッダーの開閉と上段脚のロック解除を同時に行う

Quick Deploy®が目指しているのは、シンプルに「三脚を開く」という基本動作そのものの短縮だ。ENGやスタッフの少ないワンマン撮影、撮影ポイントを次々と移動するRun & Gunでは、セットアップ時の操作を減らせることが大きな意味を持つ。

一方、すべての高さ調整をQuick Deploy®だけで行うわけではない。上段にQuick Deploy®機構を採用し、下段は従来型のスクリューロック式となる。必要な撮影高さに合わせて下段をあらかじめ調整しておけば、移動後はQuick Deploy®を使って素早く展開できる。

高さ調整の自由度を残しながら、頻繁に行う展開と収納を速くするという考え方だ。操作には「少し癖がある」と説明があったが、実演を見ると、この構造を採用した狙いが見えてきた。

約3kgで耐荷重45kg。75mmのQ30Bと100mmのQ50B

ラインナップは、75mmボール仕様の「Q30B」と100mmボール仕様の「Q50B」の2種類。いずれもアルミニウム製の3段三脚で、最大搭載重量は45kgだ。

左が100mmボール仕様のQ50B、右が75mmボール仕様のQ30B。最大搭載重量はいずれも45kg

Q30Bは重量2.9kg、高さ72~169.5cm、75mmボールを採用する。Q50Bは重量3kg、高さ72.5~170cm、100mmボール仕様となる。約3kgの重量ながら、両モデルとも45kgまでの機材を搭載できる。

取材時にも「3kgで45kg乗る」と説明していた。実際に持ち運びながら使用する製品だけに、この重量と耐荷重のバランスもQ30B / Q50Bの特徴の一つだ。

販売形態はヘッドとのセットではなく脚単体となる。他社製ビデオヘッドとの組み合わせも可能で、LibecではQ30Bに「NH40」、Q50Bに「LX10 Head」を組み合わせられる。

標準価格はQ30Bが税込95,700円、Q50Bが税込132,000円。フットパッドとミッドスプレッダーを標準装備する。また、三脚基部には1/4インチ、3/8インチのアクセサリーポートを各2か所備え、周辺機器を取り付けられる。

取材中、「こういう構造を実現するまで何年くらいかかったのか」と聞いてみた。スタッフは開発期間について「1年くらい」と説明した。

Libecによると、開発段階では約1年間にわたってプロフェッショナルによるフィールドテストも実施した。米国アリゾナの砂漠地帯でも長時間運用し、破損しやすい部分の強化や、砂がロック機構へ影響しにくい防塵設計を取り入れている。

Quick Deploy®は展開速度に目が行きやすい機構だが、屋外で繰り返し使用する業務用三脚として、耐久性や防塵性まで考慮して設計されている点も見逃せない。

取材では、この機構を今後ほかの製品へ展開する可能性についても聞いた。Q30B / Q50Bの反応を見ながら発展させる可能性があるという話も出た。現時点では2モデルから始まったQuick Deploy®が、今後どのように展開していくのかも気になるところだ。

ENGやワンマン撮影で効く「撮り始めるまでの時間」の短縮

三脚の新製品を見る時は、耐荷重や高さ、重量、ロック方式といった仕様を確認することが多い。しかしQ30B / Q50Bを実際に展開する様子を見ると、この製品で見るべきポイントは少し違うように感じた。

三脚を移動する。置く。展開する。カメラを構える。この一連の流れの中から、どれだけ操作を減らせるか。Quick Deploy®が狙っているのは、単に三脚を速く開くことではなく、「撮り始めるまでの時間」を短くすることなのだろう。

ENGでは、目の前で起きている出来事に合わせて撮影場所を移動することも多い。Run & Gunスタイルでも、移動するたびに三脚を収納し、撮影場所で再び展開する。その回数が増えるほど、セットアップ時の操作を減らせる効果が大きくなる。

電子制御を使った仕組みではなく、リングと機械構造によって、三脚を開くという昔からある作業を改めて見直した製品である。最初に展開を見た時に「もう開いたのか」と感じた理由も、一連の動きを見ていくことで明確になった。

Libecは、これまでもクイックロック機構を採用した三脚を展開してきた。Quick Deploy®はそこからさらに、収納状態から撮影状態へ移る工程そのものを短縮するという発想に踏み込んでいる。

機材を持って移動し、撮影ポイントに着いたらすぐに三脚を展開する。Q30B / Q50Bは、そんな撮影スタイルを明確に意識した製品だ。IBCの会場で実際の動きを見たことで、「速く展開できる三脚」というスペックだけでは分かりにくい狙いが見えてきた。Quick Deploy®がENGやワンマンオペレーションの現場でどのように使われていくのか、実際の運用にも注目したい。