IBC 2026のNIPROSブースを訪れて、最初に目当てにしていたのは「Vega-R」だった。REDカメラ向けに設計された4K SDI対応のSMPTE光伝送アダプターで、今回のIBC 2026で世界初披露された新製品である。

しかし、ブースで話を聞きながら展示を見ていくと、Vega-Rだけでなく、シネマカメラ向けのPolaris、Orion、Orion Pro、Vega、PTZカメラ向けのSIRIUS PTZシリーズ、さらにビューファインダーまで、複数の製品が同じ方向を向いていることが分かってきた。

共通しているのは、映像だけでなく、電源、制御、リターン、タリー、インターカムなど、現場で必要になる信号や機能を光伝送システムにまとめ、さまざまなカメラをライブ制作の中へ取り込んでいくという考え方である。

REDからシネマカメラへ。Vega-RとOrionが広げるシネライブ

今回のIBC 2026で世界初披露されたVega-Rは、REDカメラを念頭に設計されたコンパクトな光伝送アダプターである。12G-SDIによる4K映像伝送に対応し、SMPTE光ファイバーを介してREDシネマカメラをライブ制作システムへ統合することを狙った製品だ。

IBC 2026で世界初披露されたRED向け光伝送アダプター「Vega-R」。REDシネマカメラをライブ制作システムへ接続するための展示である
REDカメラに装着されたNIPROSの光伝送システム「Vega-R」。映像信号や制御系の端子を集約し、シネマカメラをライブ制作に組み込む構成を示していた

興味深かったのは、Vega-Rが「RED専用」というより、REDで必要となる機能やコネクターを盛り込んだモデルとして位置付けられている点である。担当者によれば、他のカメラで使用できないわけではなく、カメラごとに求められる端子や制御方法に合わせたVegaの展開も可能だという。

近年はREDをはじめとするシネマカメラをライブ制作で使用するケースが増えている。しかし、カメラから映像を出せることと、放送・ライブ制作のシステムカメラとして運用できることは同じではない。実際の現場では、映像だけでなくリターン、タリー、インターカム、同期、カメラやレンズの制御、電源まで考える必要がある。Vega-Rが狙っているのは、まさにその部分である。

Vega-Rの周辺には、シネライブ向け光伝送アダプターとしてPolaris、Orion Pro、Vegaも展示されていた。いずれもシネマカメラをライブ制作へ組み込むための製品だが、必要な信号数やカメラ制御、電源供給の規模によって構成が異なる。

NIPROSブースに並んだシネライブ向け光伝送アダプター。用途や必要な信号数に応じて、Polaris、Orion Pro、Vegaを選べる構成となる

Orion Proは、12G-SDIを複数系統扱い、リターンやプロンプター運用、カメラ/レンズ制御、1GbEなどに対応する上位構成である。Orionはコンパクトな4Kシネライブ向け光伝送システムとして、Vegaはより軽量な構成として展開される。

資料と実機を見ると、12ピンのレンズ端子、RS-232C/422、ソニー8ピン、LANC、1GbEなど、異なるカメラシステムで使われるインターフェースが並んでいる。単なる映像伝送装置ではなく、カメラやレンズの制御系まで含めてライブ制作システムへ取り込むことを意識した設計である。

特にOrion Proでは、24V系のカメラへの電源供給とアクセサリー用DC出力を組み合わせた運用を想定している。ARRI ALEXA 35やソニーVENICE 2などのシネマカメラでは、カメラ本体だけでなくワイヤレスフォーカス、モニター、レンズ関連機器など多数のアクセサリーを組み合わせるため、映像伝送と同じくらい電源設計が重要になる。

さらに担当者によれば、Orion ProではARRI Hi-5やWCU-4、cmotionなどのレンズコントロール系を、よりシンプルな構成で組み込むことも想定しているという。

以前のOrionには「シネマカメラを放送システムへ持ち込むための光伝送装置」という印象を持っていた。しかし今回の展示を見ると、シネライブ制作の要求に応じて、ラインアップそのものがより細分化されてきたことが分かる。

SIRIUS PTZは3モデルへ。PTZもシステムカメラの一部に

もう一つ驚いたのが「SIRIUS PTZ」シリーズである。ブースで説明を受けている途中、「SIRIUSだけで3種類あるんですか?」と思わず聞き返してしまった。

ラインアップは「SIRIUS PTZ」「SIRIUS PTZ Pro」「SIRIUS PTZ Pro MAX」の3モデル。単に上位モデルほど高性能という分け方ではなく、PTZをどこまで本格的なライブ制作システムへ組み込むかによって、必要な機能を選べる構成になっている。

PTZカメラ下部に装着されたSIRIUS PTZ。PTZカメラを光伝送システムへ組み込み、映像や制御をまとめて扱うためのアダプターである
SIRIUS PTZの接続部。光ファイバー、ネットワーク、リターン、リファレンスなど、ライブ制作で必要になる信号をまとめて扱う
SIRIUS PTZ Pro MAXの展示。PTZカメラの映像、電源、制御、リターンを光ファイバーで扱う運用を想定している
SIRIUS PTZ Proの展示。PTZを既存の放送・ライブ制作設備へ接続するための構成が示されていた

最上位のSIRIUS PTZ Pro MAXは、12G-SDIの複数入力/リターン、2系統の1GbE、PoE++による給電に対応する。NIPROSの資料では、Pro MAXを「2-Camera Multi-Signal Throwdown Platform」と表現している。つまり、単に1台のPTZカメラを光ファイバーで延長するための装置ではなく、2台のカメラと複数の信号を現場側でまとめて扱うためのプラットフォームという位置付けだ。

SIRIUS PTZ Proは機能を整理しながら、90W PoE++、SDIリターン、タイムコード、リファレンス/同期、インターカム、タリー、リモート制御など、本格的なライブ運用に必要となる主要機能を備える。一方、SIRIUS PTZはよりシンプルな構成とし、用途に応じて必要な機能を選択できる。

現地ではソニーFR7をはじめ、パナソニックやキヤノンのPTZカメラでも検証しているとの説明があった。さらにPro MAXでは、PTZカメラと別のカメラを同じシステムで扱う構成も想定しており、現地ではキヤノンEOS C400を組み合わせた運用例も紹介された。

PTZの光伝送そのものは珍しいものではない。しかしNIPROSが目指しているのは、単に映像とネットワークを遠くまで延長することではないように見えた。PTZを既存の放送・ライブ制作設備へ持ち込み、通常のシステムカメラに近い感覚で扱えるようにする。そのための光伝送システムなのである。

ビューファインダーと「No Latency / No Conversion」

さらにブースでは、NIPROSのビューファインダーも紹介されていた。シネマカメラをライブ制作に持ち込む場合、映像を送るだけでなく、オペレーターが従来の放送用カメラに近い感覚で操作できる環境を整えることも重要になる。

NIPROSのビューファインダー展示。SDI/HDMI入力やNIPROS独自のVF接続を通じて、シネマカメラを放送的な操作環境へ近づける

ビューファインダーやリターン、タリー、レンズ制御まで含めて考えると、NIPROSが目指しているのは、カメラ単体の周辺機器ではなく、カメラをライブ制作システムの一部として扱うための環境づくりであることが見えてくる。

ビューファインダーを組み込んだカメラ運用例。シネマカメラを放送用カメラに近い操作感で扱うための構成が示されていた
ブース内の資料では、ビューファインダーやOrionシリーズなど、NIPROSの光伝送関連ラインアップを紹介していた

ここまで製品を見て、改めて担当者に「NIPROSの光伝送のアドバンテージはどこにあるのか」と聞いてみた。IBCの会場ではさまざまなメーカーが光ファイバーを使ったカメラ伝送システムを展示しており、光伝送そのものはNIPROSだけの技術ではないからだ。

Orion/Vegaの資料で強く打ち出されていたのが、「No Latency / No Conversion」という言葉である。NIPROSは、それぞれの信号を独立したチャンネルとして扱い、可能な限り元の信号形式を維持したまま伝送する考え方を掲げる。12G-SDIだけでなく、リファレンス、タイムコード、LANC、タリー、シリアル通信など、撮影現場に存在するさまざまな信号を扱う。

担当者が特徴として挙げたのが、12ピン接続によるレンズ制御や、Clear-Comのベルトパックを直接接続できるインターカムへの対応である。またRS-232CとRS-422についても、接続する機器に応じて扱える仕組みを備え、外部の変換器を減らせるという。

さらに興味深かったのが、電源供給時のハンドシェイクである。担当者によれば、親機と子機の接続状態を確認してから電力を供給する仕組みを採用しており、この方式について日本や米国などで特許を保有しているという。「例えばケーブルを水の中に落としてしまった場合でも、子機と接続されていなければ高い電圧を流さない」と説明する。

IP化が進む現在、すべてをIPへ置き換える方向に進んでいるようにも見える。しかし実際の制作現場にはSDIも、インターカムも、タリーも、リファレンスも、シリアル制御も、そして電源も残っている。NIPROSの光伝送は、それらを無理に一つの規格へ変換するのではなく、現場で使われている信号をまとめて遠くへ運ぶことに重点を置いている。

NIPROSというブランドと、変わり始めた光伝送の役割

今回もう一つ印象に残ったのが「NIPROS」というブランドそのものだった。担当者によれば、同社は地域によってNIPROSとPROTECHを使い分けてきた。日本国内ではPROTECH、海外ではNIPROSブランドを展開してきたが、近年はNIPROSブランドをさらに前面に出す方向にあるという。

長年PROTECHを見てきた人には、NIPROSが新しいブランドのように映るかもしれない。しかし、その製品には日本ビデオシステムがPROTECHで培ってきた光伝送技術が受け継がれている。

取材の最後に、光伝送システムの現在の状況について聞いてみた。担当者によれば、生産台数は前年比でさらに増える見込みだという。

シネマカメラによるライブ制作、PTZによる省人化、4K化、IP化。カメラの選択肢が増え、制作スタイルが複雑になるほど、それらを既存の制作システムへどう接続するかという課題が浮かび上がる。

カメラが多様化するほど、伝送装置には「そのカメラをシステムカメラ化する」役割が求められる。Vega-RはREDをライブ制作へ持ち込み、Orion/Vegaはシネマカメラをシネライブ環境へ統合し、SIRIUS PTZはPTZを放送・ライブ制作システムへ組み込む。対象となるカメラは違っても、根底にある考え方は共通している。

NIPROSブースを後にする頃には、光伝送という領域そのものの広がりが見えてきた。カメラが進化すれば、その背後にある伝送システムも変わる。NIPROSの展示は、光伝送が単に「映像を送る装置」ではなく、種類の異なるカメラを一つの制作システムに組み込むためのインフラへと変わりつつあることを示していた。