IBC 2026のソニーブースを歩いていて印象に残ったのは、バーチャルプロダクションの見せ方が、「カメラ」「Crystal LED」「トラッキング」といった個別製品の紹介から、制作工程全体をつなぐワークフローへ移っていたことだ。
会場ではBroadcast Studio、Cinematic Live、Immersive Production Boothといった複数のエリアを使い、OCELLUSによるカメラトラッキング、Virtual Production Tool Set、ソニー製カメラ、Crystal LED、XYNによる空間キャプチャ、SRD(Spatial Reality Display)を組み合わせていた。
プリプロダクションで3D背景を用意し、オンセットで実写とCGを重ね、ポストプロダクションや表示・確認までつなげる。今回のソニーブースは、バーチャルプロダクションを単体技術ではなく、制作現場で運用するための一連の環境として見せる構成だった。
XYNから始まる3Dアセット制作とプリプロダクション
Immersive Production Boothで入口の役割を担っていたのが、XYNを使った空間キャプチャである。
ブースでは、XYN Spatial Scan Navi、XYN Spatial Scan、XYN Spatial Renderer Pluginを組み合わせたワークフローが紹介されていた。XYN Spatial Scan Naviは、ミラーレス一眼カメラによる空間コンテンツの撮影を支援するスマートフォンアプリケーションである。
撮影した現実空間は、クラウドアプリケーションのXYN Spatial Scanで高品質な3D CGアセットへ変換する。そのデータをプリビジュアライゼーションやバーチャルプロダクションへつなぎ、オンセットではXYN Spatial Renderer Pluginなどを使ってリアルタイムレンダリングに展開する流れである。
興味深かったのは、3D空間を作る工程と、それを映像制作へ使う工程が別々に見えなくなってきたことだ。撮影前に現実空間をキャプチャし、3Dアセットとして整理する。プリビジュアライゼーションで構図や演出を確認し、オンセットではCrystal LEDやリアルタイムレンダリングと組み合わせて撮影する。
さらに、その先にはSRDを使った表示・視聴もある。3Dアセット制作、撮影、表示を個別に並べるのではなく、一本の制作フローとして見せる。今回のImmersive Production Boothは、その考え方を理解しやすい展示だった。
OCELLUS V2.0でキャリブレーションを撮影現場に引き寄せる
オンセット側で重要な役割を担うのが、ソニーのカメラトラッキングシステム「OCELLUS」である。今回のIBCでは、ソフトウェア新バージョンのベータ版として「OCELLUS Firmware V2.0」が紹介されていた。2027年1月以降、Webサイトから無償ファームウェアアップデートとしてダウンロード可能になる予定だ。
大きなアップデートは、Auto Sensor Offset Calibration、レンズキャリブレーション、OpenTrackIOへの対応、タブレットによるWeb UI操作である。さらに、マップ容量の拡張、B4レンズVirtual Port対応、VP Tool Setとの連携機能も加わる。
ブースでは、チャートを使ってレンズの歪みをOCELLUS側でキャリブレーションする流れが示されていた。レンズキャリブレーションは、CG側の見え方を実レンズの歪みに合わせるための機能である。
V2.0では、6DoFのトラッキング情報にレンズデータとメタデータを加え、SMPTE OpenTrackIOを介して外部システムへ送る。従来のようにPC側で個別にレンズキャリブレーションを行う負担を抑え、実写カメラとCG空間を合わせやすくする考え方だ。
カメラVFXのデモでは、背景側に3Dモデルを置き、カメラの動きに合わせてバーチャルな背景が連動していた。ズーム操作の情報も送られるため、レンズ操作に合わせて背景側の見え方も変化する。画面上では、実際のカメラでバーチャルな空間を撮影しているような映像が作られていた。
もう一つのポイントが、Auto Sensor Offset Calibrationである。これまでは、カメラのイメージセンサー位置とOCELLUSのセンサーユニット位置の関係を手作業で測る必要があった。V2.0では、チャートを使ってこのセンサーオフセット調整を自動化する。
資料では、OCELLUSがセンサーユニットの位置を推定し、シネマカメラ位置の出力にセンサーとカメラ間のオフセットを加える流れが示されていた。複数の視点を使い、シネマカメラと同じ画角を共有しながら、安定したトラッキングを維持する考え方である。
バーチャルプロダクションでは、カメラの位置と向きだけでは実写とCGを正確に重ねられない。レンズの状態、歪み、センサーとトラッカーの位置関係まで含めて扱う必要がある。OCELLUS V2.0は、その準備工程を撮影システム側へ引き寄せるアップデートに見えた。
大型LEDやリアルタイムCGに比べると、キャリブレーションは目立ちにくい工程だ。しかし、現場で毎回必要になる作業であり、ここが短縮されれば撮影全体の運用は変わる。今回の展示では、バーチャルプロダクションを継続的に使うための実務的な改善が前面に出ていた。
Unreal Engine連携と放送・ライブ領域への広がり
OCELLUSとの連携を深めるものとして展示されていたのが、「Virtual Production Tool Set(VP Tool Set)」のUEプラグイン V4.0である。資料では、Unreal Engine 5.7/5.8版として2027年1月にWebサイトから無償ダウンロード可能になる予定と示されていた。
V4.0では、Unreal Engineのウィンドウ内からOCELLUSのトラッキング、Genlock、6DoF、レンズ情報などのステータスを確認できる。OCELLUSのWeb UIとUnreal Engineを行き来する作業を減らし、リアルタイムCG側から撮影システムの状態を把握しやすくする。
さらに、OCELLUSのステータスとUnreal EngineのTake Recorderを連携させ、録画の開始・停止を同期できる。VENICE、BURANO、FR7についてもカメラのセットアップ状態をUnreal Engine側から確認でき、カメラ、トラッキング、リアルタイムCGを近い距離で運用する方向へ進んでいる。
プリビジュアライゼーションで使用するVirtual Lensも拡張される。V4.0ではSIGMAの「FF High Speed Prime Line」が加わり、実際のカメラとレンズを想定した画角や構図を仮想空間上で確認できるようになる。
今回の展示全体を見ていくと、プリプロダクションでは仮想カメラとレンズで撮影を検討し、本番ではOCELLUSが実際のカメラ位置とレンズ情報を取得する。撮影前とオンセットが、同じカメラ情報やレンズ情報を軸につながっていく構図が見えてくる。
この流れは、映画やドラマ向けのバーチャルプロダクションだけに閉じたものではない。Broadcast Studioでは、OCELLUSをソニー製システムカメラと組み合わせ、OCELLUS V2.0のレンズキャリブレーションやOpenTrackIOを利用した展示が用意されていた。
また、V2.0ではB4 Lens Data Interface cableを使ったB4レンズVirtual Port対応も加わる。ソニー製システムカメラとのSDI接続に加え、B4レンズのVirtual PortコネクタからOCELLUSへ直接接続する方法が加わり、放送用システムカメラとB4レンズを使ったARやバーチャルプロダクションでも接続方法の選択肢が広がる。
Cinematic Liveでは、FR7とOpenTrackIOを組み合わせた展示も行われていた。さらにExtension Kit Miniを2台用いたライブ3D映像を隣接するImmersive Production Boothへ送り、SRDで表示・視聴する流れも示されていた。
ソニーブースで見えてきたのは、カメラ、レンズ、トラッキング、3Dアセット、Unreal Engine、Crystal LED、ディスプレイを、制作工程の中でどう接続していくかという視点である。
バーチャルプロダクションは、何ができるかを見せる段階から、現場でどう準備し、どう接続し、どう運用するかを詰める段階へ進んでいる。IBC 2026のソニーブースは、その変化を具体的に見せる展示だった。