Vol.04 メタバースのあるべき姿を正しく提唱する、ヒュンダイの「メタモビリティ」[CES2022]

ヒュンダイが提案するメタバースとは?

CES2022の強力なキーワードのひとつがメタバースである。 このメタバースについて、自動車メーカー・ヒュンダイ(現代自動車、ヒョンデ)が先進的なプレゼンテーションを行った。 ここまでは日本ではあまり馴染みがないが、世界第5位の自動車メーカーであるヒュンダイモーターズは、2020年のCESではスマートモビリティーの提供を宣言した。 今年2022年は、モビリティーからロボティクスへの展開をしていくとして、2つの興味深いコンセプト提案を行っている。

そんな自動車メーカー、ヒュンダイのプレスカンファレンスはいきなりメタバースの話からスタートした。 同社トップのEui−sun Chung氏は、

メタバースは単にバーチャルワールドのことではありません。メタバースは物理世界(フィジカルワールド)と仮想世界(バーチャルワールド)を繋ぐ架け橋のようなものです。我々は情熱を持ってこれに挑んでいく。

と宣言をした。

Vol.04 メタバースのあるべき姿を正しく提唱する、ヒュンダイの「メタモビリティ」[CES2022]
ヒュンダイモーターズのEui−sun Chung氏は買収したボストン・ダイナミクス社の4足歩行ロボットとともに登場

これを具体化するためのコンセプトとして、「メタモビリティ(Metamobility)」という考えを提示した。 メタには「高次元の、超える」といった意味があり、移動を超えた移動、超移動とも言うべきものだろう。

メタモビリティ(Metamobility)とは?

Vol.04 メタバースのあるべき姿を正しく提唱する、ヒュンダイの「メタモビリティ」[CES2022]

メタモビリティーとは次のような概念である。

これまでのメタバースはバーチャル世界の中だけの話であり、そこに同じくバーチャルな分身としてのアバターを存在させる。 自分自身は現実世界に存在しているために、これらの間に物理的なつながりは存在していなかった。 しかし、これからは(物理的な)ロボットをメタバースに接続することによって、人間は現実世界とバーチャル世界の間を自由に往来することができるようになるというものだ。 すなわち、HMDによるVRによって、あたかも自分自身がそこにいるような没入体験をすることから更に一歩進んで、ロボットが人間の身体機能や身体感覚の拡張や延長を行うようになるという。

具体的な例として、未来のCESを例にした説明を行った。自宅からデジタルツインとしてメタバース上にあるCESの会場にアクセスする。 同時にラズベガスの会場にいるロボットを遠隔操作することで、たとえば展示物に触れるとその感覚も伝わるような、いわゆるタンジブルなインターフェースも実現される。

Vol.04 メタバースのあるべき姿を正しく提唱する、ヒュンダイの「メタモビリティ」[CES2022]
未来のCESへのメタモビリティーによる参加の概念

このロボットに該当するものは、クルマやドローンなどが含まれる。日本からドローンをラスベガスで飛行させて、その空撮映像をライブ配信させて自宅のテレビで見る、といったことも同様な事例であり、これらを実現するための大きな障壁は既に存在していない。 こういったものが、まさに現実世界とバーチャル世界を自由に行き来できるメタモビリティーの概念である。

さらに今回のプレゼンテーションでは、もうひとつ「New Mobility of Things」(ニューモビリティオブシングス、モノの新しい移動方式)という、移動に関する新たなコンセプトを提案した。

これは「Plug & Drive」(プラグアンドドライブ、PnD)という製品である。 これは一輪で構成されるキャスターのようなモジュールで、高度な制御機能、LiDARとカメラのセンサーが搭載されている。 PnDは、例えばオフィスのテーブルや椅子に取り付けて、レイアウト変更を自動で行ったり、人が座って移動できるようなポッドに取り付けることも可能だ。

Vol.04 メタバースのあるべき姿を正しく提唱する、ヒュンダイの「メタモビリティ」[CES2022]
高機能のキャスターとも言えるPnD
Vol.04 メタバースのあるべき姿を正しく提唱する、ヒュンダイの「メタモビリティ」[CES2022]
PnDを装着した個人向けの移動ポッド

このようにニューモビリティオブシングズとは、自分で移動できない、デジタルビット化してインターネットで伝送できないものの移動を可能にすることである。 これは現実社会では圧倒的多数を占めている。 この考え方はSFの世界のワープが実現できるまでの、重要なテクノロジーとコンセプトと言えよう。

ヒュンダイのこうしたコンセプト提案は、リアルとバーチャルの融合させることで、人びとの暮らしを豊かにするためのものだ。 その際に一見すると無関係に見えるモビリティー、すなわち移動に着目し、移動しなくもいい移動を提供するモビリティーカンパニーを目指すということなのだ。 EV化とは異なり視点であり、更にその先を見据えているように感じた。

プレゼンテーションの中で使用された、メタモビリティーのイメージビデオ