アドビ システムズは1月29日、30日の両日、東京・台場のホテルグランパシフィック LE DAIBAでAdobe MAX Japan 2009を開催した。Adobe MAXは、Web分野のコミュニティや開発者向けに開催されているイベントで、アドビのメンバーやエンジニアとのネットワークを広げたり、最新技術や今後必要とされるスキルや知識のリサーチや、クリエイティビティの体験からインスピレーションを獲得する場として、毎年開催されているものだ。2日間で、2つの基調講演と63のセッション、12のハンズオンが設定されたほか、夜にスペシャルイベントも開催された。映像制作者にとっては、あまり馴染みのないイベントではあるが、Web分野のメーカー系有料カンファレンスイベントとしては最も大きいもので、2日間で数千人の来場があった。

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各セッションは1時間。総入れ替え制のため、待ち時間は展示会場を兼ねるフロアは身動きできないほどごったがえした。

各セッションは1時間。総入れ替え制のため、待ち時間は展示会場を兼ねるフロアは身動きできないほどごったがえした。

ブロードバンド環境の普及に伴って、ここ数年はリッチコンテンツに注目が集まってきたが、2008年はいよいよ映像分野にもその波が押し寄せてきた1年であった。2007年末に出されたFlash Player 9でH.264ビデオに対応してきてはいたが、2008年10月に公開された最新版のFlash Player 10では、ネットワークの状況変化に自動的に対応して異なるストリームへと途切れずに切り替えることが可能になった。3Dエフェクトのサポートや、テキストレイアウトの改善などにより、単なるWebコンテンツを越えたコンテンツ制作が可能になってきている。アドビは、MAX Japan 2009の開催に合わせ、Adobe AIRランタイムが発表から1年足らずでインストール数1億を達成したことと、Flash Player 10は発表後2カ月で全世界のPC55%以上にインストールされたことを発表。Flash Player 10のインストール数は、2009年第2四半期に80%を超えると予測していることを明らかにした。

より現実的な取り組みをイメージさせるセッション群

全体的な傾向として、プログラミングや技術解説など上級者向けのセッションよりも、中級者向けのセッションを中心にしていたことも、今年のMAX Japan 2009の特徴だろう。既存Webサイトをどう向上させるか。事例を多く盛り込みながら、より現実的な取り組みのイメージが出来るように配慮した内容が多かったように思う。FlashアニメーションやFlashビデオ、After Effects利用などのセッションもあったが、昨年までとは明らかに会場内の雰囲気が違った。昨年まで、Flashと言えば、アニメーション表現というイメージが強かったが、Flash Player 9でH.264ビデオが扱えることになったことで、コンテンツにビデオ映像を利用しようとする動きが顕著になってきているようだ。

2日目の「映像とプログラミング」のセッションを担当したWebデザイナーの中村勇吾氏は、「広告サイトやe-コマースサイトを作るという感覚ではなく、最近はアニメーションの拡張表現として取り組んだ方がうまくいく」と話し、ユニクロのCM「UTLOOP」「メリノウールキャンペーン」や、モリサワの「fontpark 2.0」の事例を報告していた。

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アカマイは、Flash Player 10でマルチ・ビットレート・ビデオ再生をするためのパラメータ設定について解説した。

アカマイは、Flash Player 10でマルチ・ビットレート・ビデオ再生をするためのパラメータ設定について解説した。

アカマイが担当した「HDエクスペリエンスのためのマルチ・ビットレート・ビデオ」のセッションは、マルチ・ビットレート配信が何故必要なのか、いつ切り替えるべきか、どのように移行するのかという3つの視点からマルチ・ビットレート配信の必要性を説いた。登壇したWill Lau氏は、「全てのクライアントでハイビジョン映像を見られるようにするのではなく、全てのクライアントでバッファを使わずに高品質な映像を楽しめるようにすることが大切だ」と話した。その上で、複数のビットレートのビデオストリームを切り替えて再生できるFlash Player 10用のプログラミングに必要なテクニックを解説した。

Web制作からデジタルサイネージ制作へ分野を踏み出せ

サブプライムに端を発した不況の波は、世界的規模の広がりを見せている。日本でも同様、企業活動が縮小傾向にあるのは否めない。広告出稿の見合わせが、テレビCMや紙媒体だけでなく、Web媒体にまで拡大しつつあることからも、経済の停滞感・減速感は深刻な状況にあるのは確かだ。しかし、そんな状況だからこそ、新しい技術に触れ、コンテンツに付加価値をつけようとするクリエイターやデベロッパーがMAX Japan会場に訪れ、今年も各セッションの内容に聞き入る姿が見印象的だった。参加したWebクリエイターやデベロッパーからは、貪欲に新しい技術を活用したいという思いが感じられた。

Flash Player 9の登場から1年余り。WebコンテンツでのH.264ハイビジョン映像の活用は始まったばかりだ。MAX Japan 2009を取材して、テレビのように4:3や16:9といった決まったアスペクト比を持たないWebコンテンツの延長線上には、デジタルサイネージ制作への可能性すら感じさせるものがあった。街頭の大型ディスプレイやスーパーのハンディサイズディスプレイまで、さまざまな大きさのパネルに合わせたサイネージの制作は、まだまだ特殊分野との印象がある。しかし、高品質なH.264映像やタイポグラフィが可能になった現在、Web制作は分野を大きく踏み出す可能性が出てきたようだ。

景気減速で、制作費の縮小にもつながりかねない状況にあるものの、見方によっては今がチャンスだ。これまでのように次から次へと新しい技術が投入されることも少なくなるわけで、ツールのバージョンアップに惑わされずに、じっくりとツールを使い込んで新しい表現に挑戦していく時間も増えるというものだ。クリエイター魂の見せ所がやってきている。

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