映像表現としてのカメラワーク

前回までにカメラを動かす際の危険性や基礎知識を解説したが、これは決して常識的な優等生カメラマンになってほしいからではない。テレビ局への就職を狙っているなら別だが、表現者としてどんどん冒険や実験を積み重ねてほしいと思うし、その為には常識やセオリーを意図的に飛び越えなければいけない事もあるだろう。

ただ意図しない不快感を視聴者に与えない為の知識とテクニックは身につけておいてもらいたい。一番の「意図」を台無しにしない為にも!だ。私の場合、その「意図」というのを大きく二つに分けてカットごとにカメラの動きを考えるようにしている。それは「心情」と「説明」だ。この心情というのは主に視聴者、或は出演者に感情移入した視聴者の心情で、それをカメラマンとして代行するという意識を持つ事が大切だと考えている。

もう少し踏み込んだ言い方をすれば、作家として「こういう思いで見てほしい。」という「心情」を視聴者に送りつける手段だとも考えている。対する「説明」というのはあくまで情報の提供だ。この場合は単純に視聴者の「知りたい」に応えるのが目的で、ある意味報道的とも言えるかもしれない。ドラマを進行させる上ではこの両方が必要で、私の場合はそれをはっきり区別して、中途半端にならないように心がけている。

たとえば同じ画角でこちらを見つめている女優を撮るにしても、固定カメラでそれを撮ると女優の思いと表情のみがこちらに伝わり、視聴者に説明する事ができる。そんな時、視聴者の多くは冷静で傍観的にその情報を受け取るものだが、三脚からカメラを外し、少し動かしながら撮ると、とたんカメラは生きた目になり、視聴者はその女優の前に立たされたような主観的な感覚になる。さてその後、彼女の目に吸い寄せられるようにズームインするか、うろたえたように揺れながらフレームアウトさせるか・・・いやいや、それは「例えば」の話はできないだろう。いずれにしても何かを表現する為の生きた動きが必要になる。

ptPN0801.jpg 倉本夏希( http://ameblo.jp/shineway/ )

三脚を極める

ちょっと端的な例え話になってしまったが、何も「説明」は三脚で固定、「心情」はフリーハンドで、という意味ではないので誤解の無いように。もちろん「説明カット」にも動きは重要で、「心情カット」にも意図しない不安定感を避ける事は重要だ。ただ、プチ・シネ的にはクレーンだのレールだの事を大げさにするつもりはなく、もっと身近な物で多彩で安定したカメラワークを実現させたい。それにはまず「三脚を自由にどんどん動かす」事だろう。実際スチルの三脚とは違って、構造的にも「動かす」為に作られた三脚でもある。その構造をよく理解した上で積極的に動かしてほしい。

ptPN0802.JPG ptPN0804.JPG

結論を言うと三脚のハンドルを強い力でグリグリ動かしたりガッチリ支えたりなんて事はほぼ無い。実際は軽い力でナイーブな動きをさせる事が多い。その為にも雲台にあるマウントをスライドさせ、ネジを緩めた状態でハンドルから手を離しても静止できるようにバランスをとる事が基本だ。もちろんカメラによって重量バランスは異なるし、付けるレンズによっても変わってくる。

ptPN0805.JPG ptPN0806.JPG

動かす時に無駄に重すぎたり軽すぎたりしないように、また、傾けた状態でも軽く止められるように油圧をコントロールできる物も多い。

水平(パン)と垂直(チルト)に分けられた回転部。ここは「動かす三脚」の心臓部。まずは滑らかに動く物を選ぶ事が必要だが、野外ロケで砂を噛ませないように注意したり、グリースを十分塗っておくなど、日頃の手入れも重要だ。両方緩めた状態で縦、横、斜め、円を描く等、自由に動かせるよう、普段から慣れておきたい。そういう意味では三脚は自分の腕の様な物。良い物を自己所有する事をお勧めする。

ptPN0807.JPG ptPN0808.JPG

動かし始めと止める時のスムーズさはとても重要で回転部の調整や力の入れ具合、全てが影響する。動き始めのカクッっとしたショックはあまりかっこ良くないので、滑るように動き出すように調整する。また、目的のスタートポイントより手前から動かし始めるのも良い。私はいつもグリップに輪ゴムを用意しておいて、必要に応じてこれで動かす。コツを掴めば始動と静止がスムーズに行える。

二本の足を畳んで一脚のように使うとクレーンで撮ったような動きになる。足の固定と雲台の使い方にはコツと訓練が必要だろう。動きによっては二脚にする方が脚のねじれを抑えられ、よりぶれない動きが得られる。特にハイアングルの時には二脚をベルトで支えると一脚でやるより数段安定する。もっとダイナミックに動かしたければスチル用の一脚と自由雲台を使うのもいいが、かなりの慣れとテクニックが必要だ。そこまでするならフリーハンドの方が早そうだが厳密には動きの質が違う。さらにカットの途中で安定させる事もできる。

3renPT0809.jpg

このようにちょっと考えただけでも固定とフリーハンドの間には無数のバリエーションがある。普段からその技術を身につけ、結果を目に焼き付けておく事で、「説明カット」にも「心情カット」にも深みとパワーを与える事ができる。次回は「カメラを動かすという事」の最終回、いろんな物を使ったキワモノ技を紹介して終わろうと思う。お楽しみに!

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。